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二千年の時を超え、“みち”は続く。古代と現代がつながる神話の土地で、地域に根ざし暮らす人々を映し出す映画『みちのみちのり』

宮崎県のほぼ真ん中に位置する西都(さいと)市。日本最古の歴史書とされる『古事記』と『日本書紀』(記紀)に出てくる神話伝承の場所が数多く残されるこの地に、この映画の舞台となる「記紀の道」があります。

「記紀の道」は神話ゆかりの場所をつなぐ全長およそ4kmの散歩道。かつてこの一帯の区画整理が検討された際、多くの遺跡が発見され、“開発”ではなく“保存”を重視する事業へと転換することに。以来、ルートの設定から道の整備まで、住民が主体的にかかわりながら、20年に及ぶ時間をかけ、少しずつみちづくりが進められてきました。

“みちづくり”というと土木工事といった印象がありますが、映画『みちのみちのり』で描かれるのは、“みち”と関わりながら暮らす人たちの何気ない日常。スクリーンから五感いっぱいに感じる豊かな自然の風景と、古代と現代のつながりの中で、地域に根差し、それぞれが役割を見出しながら暮らす人々の営みに、幸福のヒントをもらえるドキュメンタリーです。

何も起こらない日常が愛おしい

映画は、あるご夫婦の朝の風景から始まります。澄んだ空に差す朝の光、鳥や蝉の声、夫婦の朝ごはんの会話。観る側は、静かに招き入れられ、まるでその場に居合わせたような感覚で、物語に引き込まれていきます。

一心(かずむね)さん・三佐子さんのご夫婦は、「記紀の道」の中ほどに位置する“逢初川(あいそめがわ)”の源流の清掃を日課としています。二千年前、天照大神の孫にあたるニニギノミコトが、コノハナサクヤヒメを見初め、結婚を申し入れた場所とされている“逢初川”。一心さんはホタル(幼虫)のエサとなるカワニナが好きなキャベツを川に置いて、ホタルを育てようと奮闘していて、それを見守り、「毎日が日曜日」と笑う三佐子さんの表情もとても楽しそう。

登場する人たちは、それぞれの形でみちづくりに携わっていて、その表情からは幸福感が伝わってきます。

「楽しいからやる」と道沿いで季節の花を育てるボランティア活動をする女性。

三皇子を産んだ産屋とされる無戸室(うつむろ)跡の近くで古代米の植え付けをする人たちと、それを大きな声で応援する散歩途中の園児たち。

二千年前の地層から種が発見された古代ハスを育て、魅力を伝える男性。

300基以上の古墳からなる西都原(さいとばる)古墳群でガイドを務める女性と、熱心に耳を傾ける地元の子どもたちとの元気なやり取り。

紡がれるのは、こういった日常の風景。
説明は省かれ、特別な出来事は何も起こりません。
だけど、誰かを想い、地域を愛し、小さな喜びを見出していく日々の積み重ねがとても愛おしく、日常に起こるすべてが特別なのだと気づかされます。

そして、おだやかな日常の中で、ふいに訪れる神事の場面。コノハナサクヤヒメを祭神とする都萬(つま)神社で行われている「七夕更衣祭」と、その前日の禊の様子です。

褌姿で山道を歩き、海岸に向かう男性たち。厳かな雰囲気の中、海の中で祈りを捧げ、心身を清めます。「更衣祭」当日には、婚礼衣装をまとったコノハナサクヤヒメの御神像がお目見えし、婚礼の議を基にした神事が執り行われる様子を目撃します。

いにしえから行われてきた儀式は、日常とは異質な存在感を放っていて、神事が日常だった古代とつながる場所であること、日常と非日常が同居していることを際立たせ、物語を結びへと導いていきます。

“みち”に託されたもの

それぞれの土地には、積み重ねてきた人々の営みがあり、暮らす人の想いや思い出があります。「記紀の道」の二千年という時間に思いを馳せるとき、わたしはその大きさに圧倒されると同時に、流れに身をゆだねる安心感にも包まれました。

足るを知り、幸福感の中で「生きる」を全うする。“みち”を愛し、“みち”を育んできた人たちの姿から、生きることへの肯定を受け取ることができます。肩の力を抜いて、五感を研ぎ澄ませて、おだやかな時間に身をゆだねる幸福感を、劇場で味わってみてはいかがでしょうか。

– INFORMATION –

ドキュメンタリー映画『みちのみちのり』

監督:古木 洋平 プロデューサー:清武 清 
企画:小笠原 浩幸/伊東 修司/崎谷 浩一郎/西山 健一
制作協力:西都市/妻北地域づくり協議会/歴史を活かしたまちづくり推進委員会/西都市地域おこし協力隊
2022年/日本/70分/カラー/16:9/DCP
©2023 映画「みちのみちのり」製作委員会
https://www.michinori-movie.com/

7月14日までポレポレ東中野にて上映中