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「まちのために何かしたい」人たちがつながり、一歩踏み出してほしい。“これからの奈良”をつくる「編集奈良」が、自己紹介を大事にする理由とは?

今回の舞台は奈良。
遠足や修学旅行で訪れた人も多いのではないでしょうか? 私もそのひとりです。

そんな古都・奈良で、“奈良をもっと楽しむ”を掲げ、「奈良のために何かをしたい」という人をつなぎ、サポートするプロジェクト「編集奈良」の活動が盛り上がりを見せています。

お話を伺ったのは、代表の高松明弘(たかまつ・あきひろ)さん。高松さんは、奈良市役所の職員でありながら、編集奈良の活動をしています。高松さんが編集奈良で仕掛ける“人をつなぐ”ための取り組みは、わかりやすく参加のハードルが低いものばかり。「まちのために何かしたい」と考えるみなさんの参考になるのではないでしょうか。

高松明弘(たかまつ・あきひろ)
編集奈良代表。奈良市生まれ。大阪府立大学卒業後、名古屋市の教育ベンチャー企業に就職。2013年にUターンし、西大和学園中学校・高等学校の数学教師を経て、奈良市役所職員に。現在は秘書広報課シティプロモーション係長。編集奈良は2018年2月から開始。

「奈良のために何かをしたい人」をつなぐプロジェクト

編集奈良は、「奈良で何かしたい」と考えている人たちをつなげるところから、情報発信までをサポートするプロジェクトです。奈良で何かしたい人であれば誰でも参加可能で、今では学生から大人までさまざまな人が参加し、Facebookグループのメンバーは約400人にまでのぼりました。

はじめに、主軸となる活動を紹介しましょう。

1. 奈良未来会議

2018年にはじまった“これからの奈良”をつくるプロジェクト。「奈良のために何かしたい」人が集まって議論と交流を重ねます。コロナ禍で休止中でしたが、現在、2023年春の開催に向けて準備中。

奈良未来会議のグループディスカッションの様子(画像提供:編集奈良)

2. 地域情報発信プロジェクト「発掘!奈良の365日 ならマガRADIO

奈良にゆかりのあるゲストとともに「奈良の魅力」を掘り下げる 、コミュニティラジオ局「ならどっとFM」のラジオ番組。2017年4月より開始し、毎月第3木曜日よる9時から生放送しています。

「主催者や代表者の代わりに、広報の役割をしていければ」という考えで、奈良で開催されるイベントや奈良発のプロジェクトを紹介したり、地域で活動するキーパーソンをゲストに招き、奈良の魅力を聞いたりしています。

月に一度編集会議があり、メンバーで企画を考えます。Twitter「ならマガニュース」では、奈良の地域情報を365日発信しています(画像提供:編集奈良)

3. プレゼンイベント「PechaKucha Night NARA」

奈良の地域活性化には「情報発信」と「人の交流」が必要だという思いで、2016年の春から開催しています。

奈良や各地域で有意義な活動をする人をゲストスピーカーに招き、20枚のスライドを1枚につき20秒、合計6分40秒で話し終える、“ペチャクチャ”独自のルールでプレゼンテーション。そこに集まる人の「交流」で奈良を元気にしていくために活動しています。

プレゼンテーションの様子(画像提供:編集奈良)

4. 奈良のイベントを”お手伝い”

主催活動とは別に、さまざまな奈良のイベントに「お手伝い」としてボランティアで参加。同時に、編集奈良のメンバー同士の交流を深めています。

奈良のお店やまち歩きを楽しむ行事「ならまち遊歩」で提灯をつけるお手伝い(画像提供:編集奈良)

教育だけでは解決できない課題があると感じた

編集奈良は、どんなきっかけで始まったのでしょうか。

代表の高松明弘さん

名古屋市の学習塾で先生をしながら動画編集や広報なども担当していた高松さんですが、30代目前の子育てを考えるタイミングで、故郷の奈良で暮らすことを決め、奈良屈指の進学校の教員に転職。数学を教えていました。その後再び転職し、現在は奈良市役所の職員を務めています。

高松さん 奈良に戻ってきたタイミングで地域の勉強会のグループに入り、奈良の地域を研究する時期がありました。そこで、当時の奈良は県外就業率が高く、若者がみんな外のまちに出ていくのが課題だと知りました。

教師として、若い人たちに奈良をもっとよくしてもらおうという思いで教えていたのですが、この地域がよくなっていくためには教育だけでは解決が難しい課題もある。地域にとって重要な役割を持つ市役所で働くのがいいと思ったんです。

勉強会の仲間を中心に、奈良の情報をインプットするだけでなく、自分たちが主体となって情報発信やアクションを起こしていくことが大事だという思いがメンバー間で強まり、「編集奈良」としての活動を2018年にスタート。コアメンバー6名を中心に、まちの人たちの協力を得てさまざまな取り組みを始めました。

つながりをきっかけに、何かが生まれる

編集奈良の活動の中で特に注目したいのが、「奈良で何かしたい」人をつなぐイベント「奈良未来会議」や「PechaKucha Night NARA」の開催です。人と人をつなぎ何かを起こすために、高松さんはどんなプロセスを心がけているのでしょう。

例えば、2018年2月に奈良市・興福寺会館で開かれた1回目の「奈良未来会議」。

高松さん まずは奈良で何かしたい人たちが関わり合いをもつことを大事にしたいと考えました。

編集奈良の思いや活動内容をお伝えした上で、奈良で活躍する方たちの話を聞いたあと、6名1組の10グループぐらいに分かれ、それぞれが将来やっていきたいことなどを話し合いました。このとき、いきなり本題に入るのではなく、自己紹介やそれぞれの活動、感じている課題を共有することからはじめました。

1回目の奈良未来会議。まずは高松さん自ら、編集奈良の活動について説明(画像提供:編集奈良)

奈良で活躍する3名のトークセッション。当日は70名以上が参加(画像提供:編集奈良)

グループディスカッションは、興味関心や仕事を参考に相性が良さそうな人たちが同じグループになるよう、事前にセッティング(画像提供:編集奈良)

全てのイベントで、参加者同士がより話しやすくなるような雰囲気づくりを意識している高松さん。参加者のアイデアの欠片が、イベントをきっかけにカタチになることもあるといいます。

例えば、子育てしやすい社会の実現を目指して活動されている「Alright Baby」というプロジェクトは、PechaKucha Night NARAでの出会いがきっかけで生まれた取り組みです。

Alright Babyのステッカー。このプロジェクトは、「ならマガRADIO」でも紹介し、番組内で岩城さんに話してもらったそうです(画像提供:編集奈良)

高松さん PechaKucha Night NARAで登壇した、奈良でベビーマッサージ教室「KOJIKA no Ouchi」をされている>岩城はるみさんが、自身の体験から考えたアイデアをきっかけに、その場で知り合った奈良のデザイナー・三原賢治さんといっしょに「赤ちゃんが泣いていても大丈夫だよ!」と周囲の人が意思を示すステッカーやキーホルダーをつくりました。

そこから子育てしやすい社会の実現を目指し、学ぶ機会の提供やメディアでの提言を通じて、たくさんの方の価値観を見直すきっかけをつくられています。私も勉強させてもらっています。

PechaKucha Night NARAでプレゼンする岩城さん。岩城さんは「ALRIGHT BABY FES」と題して、子育てしやすい社会について考えるイベントも開催しています(画像提供:編集奈良)

編集奈良もこのプロジェクトに賛同。子育て層だけでなく、非当事者が「赤ちゃんが泣いていても大丈夫だよ」という意思表示をすることからスタートして、子育てしやすい社会の実現に向けて輪が大きくなっています。

「奈良からはじまったプロジェクトが各地に広がっていくのはうれしいですね」と、確かな手応えを感じている高松さん。来春からは、コロナ禍で中止していた奈良未来会議も再開予定。どんなことが生まれるのか、期待が高まります。

地域イベントの“お手伝い”から踏み出す一歩も

編集奈良では、主催イベントだけでなく、さまざまな地域のイベントやプロジェクトの情報発信をした上で、そこへ応援に行くことにも力を入れています。それはなぜでしょう。

高松さん 編集奈良のFacebookグループで「いっしょに行きませんか?」と呼びかけ、商店街が主催する「春日表参道 SUN DAYS PARK」や 「なら燈花会」などに編集奈良の数人でボランティアとして参加しています。そうすると、編集奈良のメンバー同士が顔見知りになれるし、ひとりでは不安という方も安心して参加できます。

古都奈良の夜をやさしいろうそくの灯りで彩る、奈良の夏の風物詩「なら燈花会」のお手伝い(画像提供:編集奈良)

コロナ禍では参加メンバー同士の交流を深めるのは難しく、オンラインでの交流会を何度か開催してきたそうです。単なる“お手伝い”ではなく、関わった人たちそれぞれがつながるような仕掛けを意識して取り入れるのが、編集奈良の素晴らしいところ。

高松さん  自己紹介するだけでもイベントになります。普段どういうことをしているのか、共通の趣味が見つかるだけで垣根なく話しやすくなり、次に会う楽しみが増えますね。

JR奈良駅から東へ向かう三条通の歩道に芝生を広げ、思い思いにくつろげる空間をつくる三条通ショッピングモール主催の社会実験「春日表参道 SUN DAYS PARK」のお手伝い。作業内容は様々ですが、自己紹介から始まり、集合写真を撮って解散するのが恒例のスケジュール。全体像をしっかり把握してもらうことを大事にしているそうです(画像提供:編集奈良)

人数が多くなるとチームビルディングが荒くなってしまうので、前回の参加者と初めての参加者でペアになってもらうなど、自分以外のクルーと1対1で話せる関係づくりを心がけ、自分たちで考えて動いたり、情報共有したりできる機会をつくっているそうです。

イベントのお手伝いを通じて編集奈良のメンバー同士がつながることで、「視野が広がった」「多様な生き方を知れた」と感じている人も多いとか。

「SUN DAYS PARKはクルー(ボランティアスタッフのこと)のみなさんの力が大きい」と高松さんはいいます。「LINEグループは70名を超えて、設営、動画作成、仲間募集など、コロナ禍のまちのために何かできないか集まった人たちのエネルギーが笑顔あふれる景色をつくってくださっています」(画像提供:編集奈良)

このように高松さんが奈良のまちで活動する姿は、市役所内部にも影響を与えているといいます。「行政と民間を行き来しながら関係をつないでいくことがスムーズになりました」と高松さん。最近では市役所職員のみなさんが地域へと出ていくことも増え、「SUN DAYS PARK」に関わる職員がPechaKucha Nightに登壇し、「地域に出て活動し始めたことで公務員人生が変わりました」と話していたそう。

PechaKucha Night NARAに登壇した奈良市職員の植村さん(画像提供:編集奈良)

地域に目を向ける職員が増えていくことで、市役所内ではしだいに、部署をまたぎ公民連携をしていくことも活発に。現在は、公園や公共空間の利活用を市役所と地域の人たちが一緒に考えていくプロジェクトが進んでいます。

高松さん 「いつか誰かが奈良を良くしてくれたらいいのに」ではなく、今、自分たちがやるかやらないかに尽きると思っています。だから、「まず誰かに話してみる」「調べてみる」など、そういう第一歩を踏み出すことが大事だと思うんです。その考えは、市役所の仕事と編集奈良の活動の共通点だと思いますね。

2万2,000人の大学生は、奈良のポテンシャル

奈良を面白くするエンジンになりつつある編集奈良ですが、高松さんは今後、今まで以上に奈良の「若者」への働きかけを強めていきたいと考えています。

高松さん 編集奈良を続けていくことだけで地域が良くなるわけではありません。私が教員から公務員に転職したきっかけでもある「地域雇用の拡大」という目標は、まだ達成できていません。たくさんの若者が「働きたい」と思える企業と出会えるように、地元の企業とのコミュニケーションなどをさらに深めて、企業の取り組みを応援するような関わりができないだろうかと考えています。

特にポテンシャルを感じているのは、奈良県内の大学に通う約2万2,000人の学生です。奈良の企業と学生との接点をつくり、「奈良で働きたい」「奈良に優秀な人材がいる」と思ってもらえれば、奈良に住み続ける学生や、奈良で事業をしたいと考える企業が増えるかもしれないと期待を募らせます。

高松さん 企業さんと編集奈良の学生メンバーが一緒になって何かプロジェクトを進めるとか、若いメンバーが副業的な形の関わりをしてもいいかもしれない。いろんな場面で「こんな魅力的な企業が奈良にはあるんだ」と感じてもらいたいです。

編集奈良のメンバーには学生も多く、学生版の「PechaKucha Night」を開催したり、地域の飲食店とコラボして若者に響くメニューを開発したりと、すでに学生が中心となって取り組むプロジェクトもあります。

地域の飲食店とコラボして若者向けメニューを考えたプロジェクト。広報が本業である高松さんがプレスリリースのつくり方を学生たちに教え、テレビに取り上げてもらったこともあるそう(画像提供:編集奈良)

放送開始当初は高松さんが担当していた「ならマガRADIO」の運営も、現在は若手メンバーにバトンタッチ(画像提供:編集奈良)

その中には、編集奈良での経験を進路選択にいかすメンバーも。「ならマガRADIO」の運営に携わっていた一人の学生メンバーは、「もっと奈良のことを学び伝えたい」と、奈良市役所に就職し、現在職員として働いています。大企業に就職を決めた学生メンバーのお母さんから「勇気を出して編集奈良に参加したことですごく良い経験ができた」と高松さんにお礼の手紙と特産品が届いたこともあるそう。

高松さん 一歩踏み出さずに勝手に人生が動き出すことはありません。「どうやったら実現できるだろうか」と考えながら、日々の過ごし方を見直していくのはすごく大事だと思うんですね。

地域活動に興味のある奈良の学生さんが、編集奈良にどんどん飛び込んでいけば、自己実現にもつながっていくーー。高松さんは「編集奈良は人と人、人とまちをつなぐ関係案内所のようなものでありたい」とも語ってくれました。

「奈良の学生つながるDAY」集合写真(画像提供:編集奈良)

まちを熱くする人たちをつなぎ、応援し合える関係をつくるために

編集奈良の活動からは、高松さんが「奈良のために何かしたい」人たちをつなぎ、一歩踏み出すために様々な工夫を取り入れていることがうかがえました。

意図的に自己紹介を利用する手法で参加者を盛り上げたり、地域イベントのお手伝いにも人をつなぐ意味があったり。編集奈良のような活動をしたいと考えている人たちには学ぶところが多いのではないでしょうか。

今回の取材を通じ、高松さんのこんなやり方が特に興味深く、みなさんの参考になるのではないかと感じました。

・イベント参加者の顔と名前をその場で覚える。
イベント主催者の中には、ボランティアの人たちを“お手伝いさん”としかとらえず、それぞれがつながる仕掛けをしていないことが多いのが現状です。高松さんは“つながるデザイン”を意識して取り入れているところがすごい。

・集合写真に名前を書き込んでLINEで共有。名前を呼び合って参加者同士が親しくなる状況をつくる。
高松さんはぜんぜん違う世代の人同士が知り合う機会やプロセスを大事にしています。こうした混合チームを広げることが「まちのファンをつくる」ことにつながると私は考えています。

・ひとりに100個質問できるようにして、自分より相手に話してもらう時間をつくる。
高松さんは、参加した人が自発的に話す機会づくりを心がけています。まちを熱くする人の言葉はチームを熱くしていきます。高松さんはちょっと火をつけるだけ。

私も市民ライター育成講座などでワークショップをする際、最初に「あなたの地元のソウルフードは何ですか?」などのテーマをもうけた自己紹介の時間を取り入れると、会場が一気に盛り上がることを実感しています。そんな風に、高松さんの心がけていることは、意外とみなさんにも取り入れやすいのではないでしょうか。

「自分のまちのために何かしたい」と感じている方はぜひ、高松さんのやり方からヒントを見つけてみてください。

(編集:村崎恭子、スズキコウタ)
(取材時撮影:狩野哲也)