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あなたが使う電気は、どこでどんな風につくられている? 『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』を観て、エネルギーの源に思いを馳せる

エネルギー価格の高騰や猛暑による電力不足など、エネルギー問題に注目が集まっています。

気候変動を防ぐために脱炭素を急ぐ必要もあり、浮上しているのが原発の再稼働。そんな今こそ観たいのが、ドキュメンタリー映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』です。

タイトルからは反原発の映画という印象が強いかもしれません。けれども、宣伝費などをクラウドファンディングで集め、制作に取り組んだ小原浩靖(おばら・ひろやす)監督は、原発の危険性を訴えるだけでなく、福島でのソーラーシェアリングを丁寧に取り上げて、再生可能エネルギーの可能性を示しています。

原発の再稼働を進めてよいのか、どんなエネルギーを使用すればいいのか。簡単に答えの出ない問いに対し、この映画は明瞭な光を照らし出します。

畑の上のソーラーパネルは太陽と希望の光で輝いている

この映画で描かれるのは、原発差止訴訟に関わる元裁判官と弁護士、そして福島で原発事故の被害に遭った農家の方たち。ソーラーシェアリングによってエネルギーを生み出しながら、一度はあきらめた農業に取り組む人たちの姿です。

原発は廃炉にすべきという意見には、どのようにエネルギーをまかなうのかという疑問がついてまわります。私たちの生活はエネルギーなしに成り立たないことは明らかですが、ひとたび原発事故が起きれば取り返しがつかないことも私たちは既に知っています。この映画では、原発をとめる必然性と同時に、再生可能エネルギーの可能性の両方が描かれます。

太陽光をはじめとする再生可能エネルギーは確実に進歩し、少しずつ普及する一方で、日本では懐疑的な人が少なくない印象です。そんな人たちも、福島の畑の作物の上に設置されたソーラーパネルや、ソーラーシェアリングに取り組む農家の人たちを目にすれば、再生可能エネルギーに対するイメージが変わるかもしれません。

ソーラーパネルが広がる水田。シャインマスカットなど果樹とのソーラーシェアリングも

ソーラーシェアリングは農作物を育てながら、作物の上に設置したソーラーパネルによって発電します。国土が狭く山が多い日本で、環境を破壊することなく太陽光発電を広く展開できる可能性を秘めた発電方法でもあります。

放射能汚染によって一度は農業をあきらめざるをえなかった福島の農家の人たちにとって、農業ができることはもちろん、原発に代わってエネルギーを生み出せることは特別な意味を持つことでしょう。

農業に加え、売電による収入も見込める働き方によって新たな雇用が生まれ、これから福島での生活を選ぶ人たちを招くようになるかもしれません。

映画には、原発事故によって福島を離れざるをえなかった若者が、再び故郷に戻り農業に従事する姿が描かれますが、それは希望以外の何ものでもないと感じました。太陽の光のように明るく、希望に満ちた福島の農家の人たちの表情には、「原発をとめるため」だけでなく、未来に向かって進むための前向きな意欲があふれていました。

地震大国の日本で原発を稼働する危険性。想定外の地震でなくとも、安全はまもられない

翻って日本の原発は、福島第一原発での事故後にすべて止められましたが、2015年の川内原子力発電所1、2号機から、徐々に再稼働は進められています。その一方で、さらなる再稼働が話題となるまで、原発について考えることも思い出されることも減少し続けていました。

原発差止訴訟は、311の事故以前から全国各地で起こされてきています。たくさんの人が原発反対の声をあげてきたのです。この映画では、2014年に関西電力大飯原発に対し運転停止命令を下した樋口英明(ひぐち・ひであき)・福井地裁元裁判長の姿を追います。彼は定年退官を機に、日本のすべての原発に共通する危険性を社会に説く活動を始めました。

各地で講演を行い、原発の危険性を訴える樋口元裁判長

原発差止訴訟では、原発に反対する原告側が勝つこともあれば、負けることもあります。なぜ異なる判決が出るのでしょうか。それは、原発裁判は非常に難解で、被告である電力会社の技術者たちから出される大量の資料を、原発の専門家でない裁判官が理解し、判決をくだすことが困難を極めるからだといいます。

けれども、樋口さんが運転停止命令を出すに至った考えはとても明解です。原発が地震に耐えられない構造であることが、映画内ではデータや数字を用いてわかりやすく論理的に説明されます。河合弘之(かわい・ひろゆき)弁護士は、この“樋口理論”を用いて全国で原発差止訴訟を戦っています。

近年に発生した地震の大きさ(地震の加速度を表す単位、ガルで示したもの)と原発の耐震性を比較した図。耐震性が足りないことが明らか

元裁判官の樋口さんは、信念に従って原発の危険性をまっすぐに訴え、原発の危険性を丁寧に粘り強く説き続けます。

河合弁護士は過去に社会の注目を集めた大きな裁判を経験したこともあり、大企業である電力会社を相手に臆することなく堂々と渡り合う丹力をあちこちでにじませます。タイプが異なる二人の法律のプロフェッショナルが、それぞれのやり方や立場で、原発をとめることに向き合う姿はスリリングでさえあります。

原発差止訴訟の存在は知っていても、常に裁判の行方を気にかけることは容易くありません。映画を通して、地元で原発を動かしてほしくないという地域の人々や、福島第一原発の事故を忘れてはいけないと声をあげる人々、そして元裁判官や弁護士などの顔を見ることで、次に裁判のニュースを耳にしたとき、ほんの少しでも受け止め方が変わるかもしれません。それだけでも、この映画を観る価値は十二分にあるでしょう。

どんなエネルギーを使い、どんな未来を目指すのか。選択肢は私たち一人ひとりの手の中にある

人類が現在のような豊かで便利な生活を追い求める限り、大量のエネルギーが必要であり続けることは間違いのない事実です。そして、福島第一原発の事故で安全神話が崩れたことも、日本列島に再び地震が来ることも間違いありません。そのうえで私たちはどんな選択をすればいいのでしょうか。

愛媛県の瀬戸内海に面した伊方原発の運転差止裁判の原告者たち

幸いなことに日本では、スイッチを入れれば必ず電気が使えることが当たり前になっています。けれどもその電気は、どこかで何らかの原料と方法でもって発電されているわけです。そんな事実に思いを馳せ、どんなエネルギーを使いたいと思うのか。電力自由化の現在、その選択は決して難しくありません。

野菜の産地を見るように、お菓子の原材料を確認するように、自分が使う電気について考えてみる。
原発をとめようと声をあげている人も、ソーラーシェアリングで発電している人も、私たち一人ひとりと無関係ではないのです。

『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』は、エネルギーの選択が、自分を含めたすべての人の暮らしと自分たちの未来につながっていることを考えるきっかけになることでしょう。

– INFORMATION –

『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』

登場人物
樋口英明、近藤恵、河合弘之、飯田哲也、大内督、落合恵子(クレヨンハウス)

監督・脚本:小原浩靖『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』
音楽:吉野裕司(Music studio Ram)
企画:河合弘之 飯田哲也 小原浩靖
製作:河合弘之『日本と原発』『日本と再生』小原浩靖
主題歌「素速き戦士」歌:白崎映美(上々颱風・東北6県ろ~るショー!!)
製作・配給・宣伝:Kプロジェクト (株)ENTER the DEE

2022年9月10日(土)より東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開

公式サイト
https://saibancho-movie.com

予告篇
https://youtu.be/AlLlePkIcdE

2022年/日本映画/92分/カラー/ビスタ/5.1ch/DCP/(c)Kプロジェクト