greenz.jpの連載「暮らしの変人」をともにつくりませんか→

greenz people ロゴ

“今の最善”をやってみればいい。ヴィーガンでない私が、Netflixドキュメンタリー『健康って何?』から考えたこと。

大学時代、ニワトリに初めて触れた私は、自分は口にする植物や動物の命によって生かされていることに気づき、ハッとさせられました。

同時に、今までそういった食べ物の奥にある命について、なぜ親や学校の先生などの大人は、より実践的に教えてくれなかったのだろう。そんな憤りのような感情を抱きました。

「『命は大切』なんて、口先だけで言う大人には絶対になりたくない」。

そう思った私は、お肉の源を知る機会をつくることで、食べ物や自分の命について考えるきっかけを生み出したいと思いました。その一歩として、平飼いでニワトリを育てている方に協力してもらい、国内外の養鶏や食糧事情を学んだり、実際に自分たちでニワトリを絞めて、食べるワークショップを開催することにしました。

そんな食べ物とその命に興味のある私が今回ご紹介するのは、Netflixオリジナルドキュメンタリー作品『WHAT THE HEALTH(健康って何?)』。

「ヴィーガンという生き方が人間や動物、地球環境にとって持続可能な最善策なのではないか?」という考えに至る過程が描かれているのですが、健康や食品に関する組織や企業を巡る事情を学ぶ機会にもなる作品です。

調べないと、知ることはできない

この映画の監督で、かつ主人公でもあるキップ・アンデルセン(Kip Andersen)は、環境保護団体や畜産業界などの組織にしぶとくアポイントを取り、インタビューをしに行き、自分の意見を述べて、隠されている事実を暴こうとします。

たとえば、米国糖尿病協会や乳がんの啓発をする団体などが、それらの病気をむしろ促進する可能性のある食品を扱う企業から活動資金を得ていることが次々と暴露されていく場面があり、私が特に印象的だったシーンのひとつです。

ある問題を解決しようと謳っている団体が、その問題を引き起こし利益を得ている企業から活動資金を得ている。その事実から、団体間の上下関係が垣間見え、人の思惑によって真実が隠されてしまうことがあるように感じました。

一生活者として自分や家族の身体によい食材を選ぼうとしても、そもそもその「よい食材」は誰かの都合によって選別・コントロールされたものかもしれません。テレビ番組やCM、SNSから自ずと入ってくる情報の多くは、情報を発信する側にとって都合がいいことが多いのではないかと検証するべきなのかもしれないとも思います。

客観的でかつ多面的な情報には、キップのように積極的に調べない限り、なかなかたどり着くことができない。そんな事実を突きつけられたように感じた私は、正直うんざりした気持ちになりました。

食べ物に限らず、「衣服を洗うときは、合成洗剤を使うのがふつう」「髪を洗うとき、シャンプーやリンスを使うのがふつう」。そんな、私たちの日常的にたくさんある「ふつう」という感覚も、もしかしたら企業の利益を大きくするために誘導されているのかもしれません。

監督で、主人公のキップ・アンデルセン [via thatvegancouple]

自分なりの解に至ることが大事

一方で、全てを知るのは不可能だし、私たちに与えられた時間は限られています。だから、その中で自分の納得のいく解にたどり着き、生活を送ることができたらいいんじゃないか。

そう思うのは、キップが自身の置かれている状況にただ愚痴を言うのではなく、自ら動いて自分なりの解に至っていることに対して、ある種の健全さを感じたからです。

冒頭でもお伝えした通り、キップはヴィーガンという生き方が人間や動物、地球環境にとって持続可能な最善策なのではないかという考えに至りました。そして、そういった生活を自分自身が送り、さらにその良さを広く伝えるために作品をつくったのではないでしょうか。

ヴィーガンは一つの生き方で、「生き方」を一気に変えることは簡単なことではありません。現時点ではヴィーガンでない私は、自分の活動を通して「一人で」ではなく、まわりの人と一緒にゆるやかな形で、それぞれの納得のいく食べ方、生き方にたどり着けたらいいなと考えています。

今の私の解は、お肉の源を知る機会をつくること。日常的に多くの人が口にしている動物の命に触れる機会が増えれば、自分たちが消費しているものの根本を見つめることができるようになるのではないかと考えています。

訪問した養鶏場の一コマ 筆者撮影

「私は手放しで大人を批判できる立場ではなくて、守られる対象でもない」。

大学2〜3年生の頃にふと気づいたことから、実際に自分も行動してみようと思えました。

かつての私は無意識に自分を棚に上げて、企業や同世代で活動する人を批判的な目で見て、自分で行動を起こすことから逃げていたように思います。しかし今では、自分は当事者ではないように振る舞いながら、誰かを批判したり評価することへの不信感のようなものを抱いています。

“今の最善”策をやってみる

人それぞれが問題意識を抱き、その瞬間にたどり着いている最善の策(解)があるはずです。もちろんそれらは多種多様だし、やがて間違いだったと感じることもあるかもしれません。

そんななか私は自分なりの“今の最善”を実践していく、自分ができることを小さくやってみるのが大事なのではないかと考えています。

『健康って何?』を観て今までの自分の経験を振り返ったことで、人によって見ている世界が異なるのだからたどり着く答えに違いがあるのは当然だと思い、少し自信が出てきました。

キップは確信を持ってヴィーガンという生き方を勧めていますが、その彼の最善をどう受け取るかは自由。腑に落ちるかもしれないし、納得できないかもしれない。ただ最善を見つけ、それをもとに動き続けて、時に省みてアップデートしていく。その探究の繰り返しで、暮らしを見つめていきたいです。

『健康って何?』
監督:キップ・アンデルセン、キーガン・クーン
配給:A.U.M. Films & Media
原題:「WHAT THE HEALTH」/2017年/アメリカ/英語/92分/カラー

[via WHAT THE HEALTH]

(編集: スズキコウタ)