greenz.jpは、取材し書くだけでなく、自らもさまざま活動をされている個性豊かなライターがそろうメディアです。それゆえ、ご自身の経験を生かした豊かな切り口や、取材先に寄り添うていねいな取材方法に評価いただく機会があります。(感謝!)
読者の方の中には、この人の記事のファン、このライターに興味がある、という方も多いのではないでしょうか?
グリーンズ第2編集部=greenz challengers community(以下、GCC)では、魅力的な記事はどのように書かかれているのだろうと、ライターたちの取材手法や取材の際に大切にしていることなど記事執筆の舞台裏に迫るべく、インタビューをさせていただくことにしました。
今回は、数々の土地を訪れ、その魅力を鮮やかに紹介されている“旅の達人”、西村祐子(にしむら・ゆうこ)さん。「隙あらばどこかに行くタイプ」だという西村さんは、47都道府県制覇はもちろん、海外も含め各地を旅していて、日本の個性豊かなゲストハウスを紹介するメディア「ゲストハウスプレス」の編集長もされています。
訪れた土地にぐっと入り込んでその魅力に迫り、さらに読み手が旅気分も味わえる臨場感あふれる記事はどのように実現しているのか。“暮らすように旅をする”記事執筆の秘訣や想いをうかがいます!
(※)こちらの旅の目的地を紹介するプレイリストでも、西村さんからのアドバイスを凝縮して紹介させていただきました!
西村祐子(にしむら・ゆうこ)
日本の個性豊かで素敵なゲストハウスを紹介するメディア・ゲストハウスプレス編集長。6年間の取材実績を書籍『ゲストハウスプレス あたらしい旅のかたちをつくる人たち』として編著出版も行う。旅人ワンダラーユウコとして自身の経験をベースにした旅やよりよく暮らしのヒントをブログでも発信中。
気分や天候によって選べるように
たくさん選択肢がある状態にして現地に行く
GCC 観光名所をめぐる旅行は行きやすいですが、西村さんのレポートのような、現地の方と交流したり、暮らしに溶け込むような旅にとても魅力を感じます。そういう旅をしてみたいときにどうしたらうまくいくのか、まずは、行く前の下調べや旅の組み立て方のコツがあったら教えてください!
西村さん 私は旅前の下調べをする派です。ハプニングを楽しむためにまったく調べないという方もいると思いますが、私は下調べが趣味のレベルで好きなので、好んでしますね。
よくやるのは、Googleマップを利用した下調べです。訪れる場所や人を起点に、Googleマップ上の気になる場所に星マークをつけていくんです。
たとえば、取材が終わったあとに「ちょっとカフェや公園でのんびりしたいな」といった自分の行動の王道パターンが決まっているので、そういう場所をチェックする。宿は予約して現地入りしますが、それ以外で行けそうな、自分のピンとくるところに関しては、絶対に全部は行けないだろうというくらいチェックしておきます。
GCC なるほど。そういう情報は検索して調べることが多いですか?
西村さん そうですね。クチコミを読んだり、ネットの情報を駆使して調べることが多いです。たくさんチェックしておくんですが、現地で行けるところは限られているので、主目的のところに行った後、そのときに一番ピンときたところを選びます。歩いて行けるとか、電車で行きやすいとか、「今日は気分がいいから景色のいいところに行きたいな」とか。気分や天候によって選べるように、たくさん選択肢がある状態にしておきます。
GCC 自分の「行きたいところマップ」をつくっておくのは、すぐにでもマネできそうです! 事前にいいポイントを見極められるかどうか、感度が大切になってきそうですね。
西村さん 自分の好みは、やればやるほどわかってくると思います。最初はやみくもかもしれないし、行ってみて「あれ?」ということもあるかもしれない。たくさんの選択肢の中で、自分と合いそうかというのは、場数を踏むとわかってきます。
最近はインスタなどで調べていく人も多いと思いますが、一番いいのは自分の感性に合う人がおすすめしているところに行く。そこをメインに組み立ててみると、あまり外れない気がします。
そうやって現地に行くと、わりと満足度が高いので、私はこの方法が定着しています。スケジュール組み立てのコツとしては、ざっくりと、いっぱい詰めずに「余白」を残しておく。計画はあるけど何パターンもある、という状態にしておくことですね。
「余白」をつくっておいて、ハプニングも楽しむ
GCC いざ旅に出てから心がけていることはありますか?
西村さん 行った場所が「外れ」でもがっかりしないというのも大事ですね。そういうところも“がっかり名所”として楽しみます。ハプニングやダメだったことにがっかりする暇は旅にはない、というか。それもネタだと思って、例えば取材だったらそこから広がっていくこともあったりするので。
GCC がっかり名所! いい呼び方ですね(笑)
西村さん 旅において、なんでも楽しむ姿勢というのはすごく大事だと思っていて。予定通りに行かないことやハプニングがあったときに、笑って過ごせるかどうか。
晴れを想定して下調べしていた場所が、どしゃぶりの雨で役に立たない、ということもある。そういうときに、地元の方に「こういうときはどこへ行ったらいいですか」と聞いてみると、地元の人が楽しんでいる場所がひょっこり出てきたりするんです。
自分では選ばない地味なイメージの「地域の“なんたら館”みたいなところがあるよ」と教えてもらって、行ってみたら意外とよかった、ということもよくあります。
1つダメと思っても、そのダメをいかに楽しく挽回するかというところが旅のゲームみたいなおもしろさかもしれないですね。
あとは、スケジュールがぎっちり詰まった取材旅行だと、自分の旅感は薄れてしまうので、なるべく日程には余裕を持たせるようにしています。可能であれば取材の前日入りしておく、予定が終わってもすぐの電車で帰らない、とかでしょうか。
「せっかく来たのにもったいない」と思ってしまうのもあるんですけど、「余白」は大事。その土地で過ごす時間が増えるほど、その場所を深く知ることになると思うんですよね。思いがけない出来事や小さいネタが増えていく。
GCC 事前に材料はたくさん集めておきつつ、現地で臨機応変に組み立てて「余白」を残しているから、西村さんの記事を読むと一緒に旅気分が味わえるのかなと思いました!
宿の人がおすすめしてくれる飲み屋があれば、基本行きます(笑)
GCC 旅を深めるためには、やはりそこで暮らす方との交流が肝なのではと思いますが、地元の人と交流するときの秘訣はありますか? いざ自分がやるとなると、なかなか難しそうだなと思ってしまいます。
西村さん 私もそんなに頻繁に話しかけるほうじゃないんですよ。人見知りとはいわないですけど、結構ビビりながら話しかけたりもするんです。
GCC そうなんですね。お話していて、気さくに誰とでもすぐに打ち解けられそうな印象なので、意外です(笑)
西村さん 最初に話しかけるまでに時間を要しますね。話してしまえば打ち解けられるんですけどね(笑)
どういうときに話しかけやすいかと考えると、結局、人ってきっかけがあると話しやすいですよね。たとえば、お店で何かを買うとき。真剣に選ぶときは質問もするし、それがたとえ安いスナック菓子だったとしても、話しかける隙やチャンスが生まれるので、そういうときにちょっとお声かけをしてみる。入りやすいところから聞く、というのはコツかなと思います。
西村さん 二戸市の取材のときに、たまたま感じのいい、地方にありがちな渋い小さな売店を見つけたんです。
最初は取材対象ではなかったんですが、「あそこ気になるね」と、急遽みんなで行ってみることにしました。そしたら、手づくりの飴を売っていて、その隣に(関連性はないけど生活必需品の)キッチンハイターも売っているような、昔ながらのコンビニ的な売店で。
いきなり都会からぞろぞろ人が訪れて、最初はお店の方もびっくりしていらっしゃったんですけど、飴について質問したり、「ブルーベリー味なんてしゃれてるね」なんて話しているうちに、質問大会みたいなかたちでいつのまにか取材が始まって。
で、「じゃあさよなら」ではなくて、やっぱりそこは何か買わないと。地元経済にも貢献していないし、買うと喜ばれるので、謝礼の意味も込めて購入します。
GCC 地元の経済活動に貢献するというのもポイントですね。
西村さん そうですね。旅先で地域の人にお話を聞いてみたいなと思ったときは、きちんと礼儀は尽くして、できるだけ地域経済に貢献した上でお声がけするとお互い気持ちがいいですよね。相手も人間ですから、わざわざ旅行者に親切にする義理はないと思うので。
地元の人と接するとき、特に取材活動では、「来てくれてよかった」と思ってもらえるような行動をするように心がけています。
GCC そういう細やかな気遣いがあるからこそ、気持ちのよい交流が生まれるんですね。他にはどんなポイントがありますか?
西村さん 私は仕事柄ゲストハウスの取材をすることが多いので、たとえば宿のオーナーやスタッフなど、その土地のことをよく知っている人の話は必ず聞きます。
宿の人がおすすめしてくれる飲み屋があれば、たとえGoogleマップのクチコミ評価があまりよくなくても行ってみることにしています。勇気を出して行って「ゲストハウスの〇〇さんから教えてもらって来ました」と伝えると「あらー」みたいな感じで、場が和んだりしすることも多いんですよ。
自分が絶対に行かないようなところに足を運ぶのはすごくチャレンジだけれど、楽しい。
自分の思考から外れた場所に行くと、予期しないおもしろいことが起こりやすい。
ドキドキしながらいくことも含めて、その方が思い出に残ると思います。
取材だけで終わりたくない。偶然性みたいなものは
どこかに入ると良いなとはいつも思っています
GCC 西村さんの記事や「ゲストハウスプレス」を読んでいて、この臨場感は何が生んでいるんだろうなと思っていました。ゲストハウスのスタッフや現地で出会った人との関係性なのか、編集・文章のスキルなのか。おそらく両方だと思うんですが、これを私たちがマネするには何から始めればいいでしょう?
西村さん ありがとうございます。取材に至るまでにも時間をかけていることは関係しているかもしれません。1度旅人として行ってから、再度取材に訪れることは多いですし、その時間が記事に深みとして出ているとしたらうれしいですね。
結局、相手や土地に対してどれだけきちんと時間を使ったかがキーポイントでしょうか。現地の人とお話する、ご飯を食べる。その行動のひとつひとつにテキトーな選択はないと思っていて。もちろんたまにはコンビニで買ったお弁当を食べることもあるんですけど、それですら、車の中で食べるよりもできるだけふさわしい場所を探す、というように。
旅先では、自分にとって何が「心地いいか」ということを、1つ1つ追求していますね。自分の“心地いい”空間、“心地いい”時間への貪欲さというのはあると思います。
旅に行く前から調査するし、旅中もアンテナを張って、ここは良さそうと思うところに行く。そうすると大抵いい人に出会えて、いい思いができて、いい場所だからまた来ます、という流れになる。そうなったら最高です。
GCC 密度の濃い時間を過ごすことで、暮らす人が見えてきて、その土地への解像度が高くなってくる、それが西村さんの記事につながっているんですね。
さっそく旅に出かけたい気分になってきました! 最後に、旅先を選ぶときのアドバイスがあったら教えてください。
西村さん どういう視点かによっても変わりますが、たとえば「自然農」「工芸品」など、自分に興味のあるテーマから旅先を選んでいったり、信頼できる人や場所をベースに旅を組み立てると、きっと楽しくなると思います。
あとは、魅力的な宿やカフェができている場所はおもしろい情報が集まっています。新しい風を入れようと頑張っている方がいらっしゃると思うので、そういう意味で、greenz.jpの記事はすごく参考になると思いますよ!
GCC ありがとうございました!
西村さんのお話をうかがってみて、旅先での出来事や出会いに対し、常に真剣に、そして“貪欲”に向き合っている姿勢がとても印象的でした。その姿勢は、旅先で迎えてくれる側への究極のリスペクトのようにも思います。西村さんの記事に流れる温かさの理由も、そこにあるような気がしました。
「どんどん外に出かけよう」とはまだいきませんが、改めて、知らない土地に旅に出かけたくなりました。感覚を研ぎ澄まして、ふだんと違う環境に身を置くことで、自分自身の心地よいあり方についても発見がありそうです。
(Text: 片岡麻衣子)
(編集: スズキコウタ)