新型コロナウイルスの影響により始まった、「ステイホーム」「おうち時間」を取り入れた新しい生活。外出を控えることで感染の拡大を防止できたかもしれませんが、営業縮小を命じられた飲食店が苦境に立たされているニュースを見て、私はやるせない気持ちになりました。
今回ご紹介するのは、アメリカ・ワシントンDCで始まった「Feed the Fridge」という取り組み。
パンデミックが発生した当時のワシントンDCでは、学校が休校になり、給食を食べられない子どもたちが急増。同時に、栄養価の高い食事をとれない人びとが増えたと言われています。そこで、両者の困りごとを解決するため、誰でも街中にある冷蔵庫から、食事を持って帰ることができる取り組みを始めたんです。
飲食店を経営する仲間を助けたい
Feed the Fridgeを始めたのは、自身もステーキレストラン「Medium Rare Restaurant」を経営する、Mark Bucher(以下、マークさん)。
感染拡大を受けてロックダウン(都市封鎖)となった際に、家を出ることができない高齢者へ、自身のレストランの食事を届けたいと考えたマークさん。そこで、地域の小さな飲食店の営業を継続させることと、食事の入手が困難な人を助けることが同時にできるのでは? と思いついたのだそう。
ワシントンDCの中心街に設置された冷蔵庫には、地元の飲食店でつくられた食事が置かれ、誰でも自由に取っていくことができます。
Feed the Fridgeが対象とするのは、子どもたちだけではなく、栄養バランスが偏りがちな一人暮らしの高齢者や、働き詰めで多忙な人たち。栄養のある食事が必要な人であれば、事前登録や身分証明をせずに無料で食事を受け取れるんです!
どのようにFeed the Fridgeが運営されているのかを紹介しましょう。
無料で提供される食事は、Feed the Fridgeを運営する非営利団体「We Care」が、飲食店から1食あたり6ドルで購入。この売り上げにより、飲食店は従業員の雇用を守りながら、今まで通り営業を続けることができます。
飲食店に支払うお金は、補助金や寄付によって集められているそう。助け合いの連鎖がFeed the Fridgeの活動を支えていることがわかります。
これまでに参加した飲食店に支払われた食事代、なんと、合計70万ドル(約7900万円)! 2021年8月時点で、レクリエーションセンターや学校などに22の冷蔵庫を設置し、7万食以上の食事を届けたのだというから驚きです。
実際の利用者からはこんな声も。
素晴らしいアイデアをありがとう。近所には外出できない高齢者の仲間ががたくさんいるので、この仕組みを使うことができて、とても助かっているよ。
当初は短期的な取り組みの予定でしたが、これからも活動を続けるそうで、2021年末までに50万食を届けることを目標にしています。
「food insecurity」から「meal security」へ
ワシントンDCに住む子どもたちの約7割が、家庭の事情により学校給食に食事を依存していると言います。しかし学校が休校になってしまい、栄養素の高い食事をとれない子どもたちが心配だったとマークさんは話します。
マークさん 以前から地域において「food insecurity=食糧不安」は深刻な課題でした。それがパンデミックを受けて、可視化できるようになったに過ぎないんです。
無人の冷蔵庫に食事を置いておいたら、必要以上に誰かが持っていってしまうのでは? と思う人もいるかもしれませんが、「誰でも持っていっていい」という前提があるからこそ、必要以上に管理する必要はないのだと思います。
苦境に立たされた飲食店仲間を救いたいという想いから、「飲食店の経営不安」と「食糧不安」の同時解決を目指す取り組みに。
マークさんのように、問題と問題を掛け算するという視点を持つと、おもしろいアイデアが生まれてくるかもしれません。
[via Feed the Fridge, Feed the Fridge Facebook, YouTube, foodtank, WUSA9.com, WASHINGTON BUSINESS JOURNAL]
(編集: スズキコウタ)