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ゼロイチ「だけじゃない起業」が課題解決の近道になる。秋田で起業家を生み出し続ける「ドチャベン」が、2021年に目指す地域社会の未来とは。

秋田県で2015年から開催されている「ドチャベン」。土着のベンチャーを育てようと始まったプログラムも7年目を迎え、9月15日に開校式となるイベントがオンラインで開催されました。

「秋田で事業をすること」に興味があれば誰でも参加でき、ピッチイベント(成果発表会)には賞金も出るという秋田県の本気が感じられるこのプログラム。いまの秋田の特性をいかした起業を促すため、毎年テーマが設けられ、それが「野生的起業」とか「教育シェア宣言」とエッジの効いたものなのですが、今年は「だけじゃない起業」となりました。

いわゆる「ゼロ→イチ」のイメージしやすい起業「だけじゃない起業」、例えば企業内起業や事業承継型起業という選択肢を示すことで、秋田でより新しい事業が生まれやすくしようというプログラムです。

そんな今年のプログラムのスタートを飾る開校式には、プログラムのモデレーターを務めるハバタク株式会社の丑田俊輔(うしだ・しゅんすけ)さん、株式会社和える代表取締役の矢島里佳(やじま・りか)さん、株式会社See Visions/株式会社スパイラル・エー代表取締役の東海林諭宣(しょうじ・あきひろ)さん、株式会社Local Power代表取締役の寺田耕也(てらだ・こうや)さんが登壇。いったい「だけじゃない起業」とは何なのか、「だけじゃない起業」によって秋田で何ができるのかについて話が展開されました。

これまでもgreenz.jpではドチャベンから生まれるユニークな起業を追ってきました。起業したい人のやりたいを叶えながら秋田を元気にしていくドチャベンは、今年どう進化するのか。今年の開校式をレポートしながら、秋田に関係ある人はもちろん、関係ない人でも、ドチャベンに参加することで一体何を実現できるのか、そして秋田に何がもたらされるのか考えていきたいと思います。

「だけじゃない起業」って何?

2014年に秋田県の五城目に移住し、自身も秋田県内で様々な事業を立ち上げてきたハバタク代表の丑田さん。greenz.jpでもたびたび取り上げてきましたが、ドチャベンには2015年の立ち上げから関わっています。なぜ今年「だけじゃない起業」というテーマを掲げることにしたのでしょうか。

丑田さん 僕自身も秋田に7年暮らして、いろいろなカタチの起業を見てきて、その中で、イメージしやすい「ゼロイチ」の起業以外の、「だけじゃない起業」の可能性を感じるようになりました。

特に、いま地域で成長している起業家たちの中には、地域が楽しくなるような事業をどんどん育てていきたいけれど、自分たちだけでは限界がある。だから、一緒に対等な立場で新しい事業をつくっていく仲間がほしいと考えている方たちが本当に多いと感じています。

彼らは、新しい事業をつくりたいという意欲のある人を社員として受け入れて、社内起業家みたいなカタチで一緒に事業をつくっていくことも考えています。これが、だけじゃない起業のひとつのカタチです。

ハバタクの丑田俊輔さん

丑田さん また、後継者がいない地域の企業からは、今までやってきたことを時代に合わせて継いでいってほしいという話も聞かれるので、事業承継型起業という選択肢もありえます。

この2つは「だけじゃない起業」のわかりやすい例ですが、起業家精神を持って地域に向き合うと、ゼロイチ以外の起業のあり方がまだまだ発明されていくんじゃないかと思っています。

今回のドチャベンはゼロイチだけじゃない起業に興味ある方々と学び合いながら、秋田から新しい起業のカタチが生まれるようなプログラムにしたいと思っています。

秋田でさまざまな事業に関わる中でゼロイチではない事業立ち上げのカタチと必要性を認識するようになり、そのカタチをつくり上げていくために「だけじゃない起業」というテーマを掲げることにしたということのようですが、これだけだとなぜいま「だけじゃない起業」なのか、もうひとつはっきりしません。そのあたりを、今回登壇していただいたパネラーの話から考えていきます。

SATOYAMA(里山)がひらく「だけじゃない起業」

矢島里佳さんは、学生時代に「和える」を起業し、「伝統と現代の何かを和えることで日本の伝統が未来に元気な状態でつながっていく、私たちの心の豊かさを実現していく」事業を展開しています。東京と京都に拠点を持っていますが、今回新たに秋田で「aeru satoyama」事業を展開。秋田県五城目町の里山を「テーマパーク」にしようとしているのです。いったいどういうことなのでしょうか。

矢島さん 里山に注目したのは、里山が日本の伝統産業や地場産業を下支えしていて、里山を育んでいくことこそが、伝統を次世代につなげていくことにつながるからです。

自然界こその、日本の伝統そのもの。それなのに、里山は補助金に頼らないと育み切れないのが常識になってきています。補助金がなくてもしっかり回っていく里山づくりができないか、現代においても持続可能な里山を生み出す実証実験を「和える」でできればという思いから事業を始めました。2015年ごろに五城目と関わり始めて、今年から本格的に事業としてスタートさせました。

和えるの矢島里佳さん

丑田さん このaeru satoyama事業に「だけじゃない起業」といえる要素はありますか?

矢島さん ひとつは、和える側の社員として地域の方との関係を育みながら事業を育てていくメンバーを募集しているのですが、これがまさに社内起業家みたいな働き方をイメージしています。現地で、自分の頭で考えて適切な判断をし、「和える」らしいやり方でプロジェクトを導いていく。自分が経営者という感覚の、自立した人材を探しています。

これが「だけじゃない起業」だといえるのは、やり方が都会とは違う地域ならではのやり方が必要だからです。

都会だと、ビジネス的にどうやったらうまくいくかで進みがちだと思いますが、地域では、まずは人間として地域の人たちと互いに尊重し合う関係になれるかが大切。一緒にご飯を食べたり、神社や山に遊びに連れて行ってもらったりしながら感覚値を共有する。ほしい未来に向かって実際にどうやって進めていこうか話をして、それから具体化に向けて進むというステップが必要です。

その仕事と自分の生きるを和えて考えるやり方が、だけじゃない起業だと思います。

丑田さん 地域を一緒につくっていくような関係性を築いていくってめっちゃタフですよね。それでいてお金ときちんと向き合うこともやらなきゃいけないし。でも、秋田で暮らしているとお金以外の豊かさを五感で感じることが多くて、お金以外の経済圏を自分の暮らしに含めていく感覚が育まれていく。そういう生き方ができる人だといいですよね。

矢島さん 私自身、19歳から全国の職人さんを訪ね歩いて、お金じゃない部分の豊かさにたくさん触れてきました。それで感じたのは、最後は楽しくないと人は寄ってこないということ。一緒に楽しもうという感覚が伝わると、地域の人たちもワクワクしてくださり、気がつくと前に進んでいるのです。だから「aeru satoyama」は里山をテーマパークにしようという発想になったのです。

丑田さん aeru satoyamaの事業は射程が長くて、今後きっと、楽しさを起点にいろいろな事業が生まれていく気がしますね。

矢島さん aeru satoyamaは和えるの事業の中で最も長期のプランで、私が在任中に完結することはないと思っています。たとえば未来の市場で価値が出るであろう植生を考えることや、ランドスケープデザインを取り入れて、それを育んでいくといった視点が必要。里山経営は、特に経営者としても腕が試されます。

丑田さん お話を聞いていて、山のプロの方たちも70代・80代になってきて、それも含めて次の世代に伝えていくギリギリのタイミングが今なのかなと思いました。

矢島さん そうですね。先人の知恵や経験には、私だけでは思いつかないことがたくさんあり、それらを学ぶことからがaeru satoyama事業は始まっています。だから、対話こそこの事業を育む重要なポイントになると思いますし、特に人と人の関係が大事だなと感じています。

aeru satoyamaは、里山という受け継がれてきたものを事業化する「だけじゃない起業」であり、それを社内起業家的な人材によって展開していこうというまた別の「だけじゃない起業」のカタチを取っています。矢島さんはさらに、その事業を成立させることで、日本の伝統産業を下支えする里山を育み、そこから事業継承型の起業が生まれていく未来も見ているのではないかと話を聞きながら思いました。

秋田というフィールドではaeru satoyamaがターゲットとなりますが、広く「だけじゃない起業」を捉えると、伝統産業を継いでいく「和える」にはさまざまな「だけじゃない起業」の種があるといえそうです。

aeru satoyama

事業ではなく、課題を見つけることからはじまる「だけじゃない起業」

東海林諭宣さんは秋田県出身で2005年にUターンし、2006年に店舗デザインなどを手掛ける事務所「See Visions」を創業。その後デザインだけでなく飲食店の運営などにも乗り出し、秋田市の亀の町エリアのエリアリノベーションを手掛けました。このエリアリノベーションの背景には東海林さんのある思いがあったといいます。

See Visions/スパイラル・エーの東海林諭宣さん

東海林さん 僕が思う楽しいまちは、小規模で個性的なお店がたくさんあるまち。秋田は人口減少の先進地域ですが、自分が住んでいる秋田がもっと楽しいまちになったらいいな、僕にもできることがあるんじゃないか、そう思ったんです。

そこで、小路で見つけた空き店舗をリノベーションして自分たちで運営することにしました。それで2013年にオープンしたのが「酒場カメバル」です。暗かった小路に明かりがともり、若い方が集まってくれました。

酒場カメバル

東海林さん まちづくりで重要なのはエリアを活性化させること。なので、カメバルを始める時点で3店舗はつくろうと考えていました。翌年、カメバルの向かいにもう1店舗、さらに2015年には3店舗目としてコーヒースタンドとデリ、オフィスが入る複合ビル「ヤマキウビル」をオープンしました。

2019年にはヤマキウビルの敷地内にある倉庫をリノベーションして、16のテナントが入る複合施設(ヤマキウ南倉庫)をつくりました。

楽しいまちをつくりたいという目的のために、小さな店から始めてエリア全体の熱量を上げる取り組みを実現した東海林さんですが、これが事業づくりのポイントだといいます。

東海林さん 事業づくりのポイントは課題解決を目的にすること。事業はその手段です。目的さえはっきりしていれば、そこに到達するための手段としての事業はいくつ起こしてもいいんです。

たとえば、僕が次にやろうとしているのは、缶詰工場。秋田県は加工食品の出荷額が他県に比べて少ないので、それを解決するような事業がつくれないかと考えたのが始まりです。

その次は、旅館の再生です。地域の人が自分たちのまちの風景として大切に思っている建物を残したくて、いまの時代にあった使い方として旅館を再生させることを考えています。

亀の町への人の流れはできてきたので、次は秋田のまちで何かを始めようという方々を増やすために「亀の町アップトゥーユー」という飲食店のスタートアップの試みを応援する事業も始めました。

亀の町アップトゥーユー

つまり、東海林さんは課題解決という目的のための手段として、社内起業のようなカタチで次々と事業を起こし、目的に向かって進んできたのです。丑田さんも東海林さんのこの姿勢から「だけじゃない起業」のインスピレーションを得たといいます。

丑田さん 実は「だけじゃない起業」のインスピレーションになったのが、東海林さんが秋田県の政策審議委員会で出した、新しく会社をつくる人だけじゃなくていいという提案でした。このあたりの意図を聞かせてもらえますか?

東海林さん 僕は社内でいろんな事業を展開していく中で、事業は課題解決という目的に到達するための手段だから、必ずしも法人成りを目指す必要はない、中小企業の中で給料が担保された状態で始めたほうがいいならそうすればいいと考えていました。でも、秋田県の政策は起業創業一辺倒だったので、企業に事業を持ち込んで社内ベンチャーとして展開していく方法もあり得るのではないかと提案しました。

それが、ひいては秋田県の中小企業を強くするし、中小企業の多角化が秋田県に広がることにつながるんじゃないかと思ったんです。

東海林さんの考えは、秋田で事業を起こしていくためには、ゼロイチの起業を促すだけじゃなく、社内起業のようなカタチを取ったほうがスムーズに行くこともあるのではないかという提案で、これが「だけじゃない起業」というテーマにつながったようです。

そして次に話を聞く寺田さんも、次々と事業を起こしていくプレイヤーとして秋田で活躍しています。

地方でやる「だけじゃない起業」の強み

寺田さんは東京都出身で、秋田に移住後、衆院議員秘書をへて、2013年にローカル・パワーを創業したというキャリアの持ち主です。ローカル・パワーが開発した除菌消臭水のiPOSHは、全国で販売される商品に。寺田さんはその後も意欲的に様々な事業を立ち上げています。寺田さんがあえて秋田でやっていることを見ていくと、「だけじゃない起業」の可能性が見えてきます。

Local Powerの寺田耕也さん

寺田さん 私がつくりたいのは、地方の資源を使って製品やサービスをつくり、国内外のマーケットに発信する地方発のビジネス工場です。

秋田には、ビジネス資源がたくさんあって、iPOSHも県内に次亜塩素酸の生成器の基本特許を持つ会社があり、そこで研究開発をサポートいただいています。

最近では、コロナで閉じ込められて運動したいけどする場所が意外とないなと思って、シェア体育館を発想したら、秋田には体育館の床材の全国トップクラスのメーカーがあり、そこに提供してもらって倉庫を体育館に改装して事業化できました。こんなふうに全国トップクラスのスペシャリストが秋田県にはたくさんいて、だから秋田は実は事業を起こしやすいんです。

寺田さん 秋田に限らず地方には活用されていない資源がたくさんあるし、人との距離が近いから専門家が近くにいて、しかもコストが安い。地方紙もすぐ取り上げてくれて認知もされるし、行政や大学も応援してくれる。だから地方は事業を起こしやすいんだと思います。

いま1年に4、5個ずつサービスを立ち上げようと思ってやっていますが、自分だけでやるのではなく、いろいろな人と連携しながら事業をつくっていくビジネス工場にしていきたいんです。

そうやってどんどん地方から事業をつくっていくために、最近イントレプレナー(企業内起業家)制度を始めました。なにかやりたい事業があるときに、資金は会社が出して2年間は給料を保障して新規事業に取り組んでもらいます。3年目からは利益を出すのが条件で、それをクリアしてさらに一定レベルまでスケールしたら独立してもらうカタチです。社内だけでなく、外部の人でもやりたい人がいればやってもらいたいと思っています。

寺田さんの発想は、秋田には事業を始めやすい環境があるのだから、それを使って新しいことを始める人を増やそうというもの。そのためにはゼロイチの起業を促すよりも、企業内起業のほうが近道だと、自分の経験からも感じたということなのでしょう。

シェア体育館「みんなの体育館やばせ」

課題解決の第一歩としての「だけじゃない起業」

3人の話を聞いて思ったのは、共通の意識として「地域の資源を活用すること」と「課題解決に取り組むこと」、「自分ごととして楽しむこと」を持っているということです。

今の秋田における課題を自分ごととして発見し、ほしい未来のためにその課題を解決する手段として事業を考える。ドチャベンは参加者をその方向に誘おうとしているようです。

なぜそうするかといえば、秋田でそれが必要とされていると同時に、そのほうが地域では挑戦を始めやすいと秋田の起業家たちが身を持って感じているからなのです。そして、そのためには、社内ベンチャーや事業承継というカタチを取ることがあたりまえになったらという思いから「だけじゃない起業」を発想したのでしょう。

さらに言えば、地方は都会よりも課題を発見しやすく、それを解決するための事業もスピード感を持って起こすことができる。だから、このような課題解決型の起業をしたい人は地方に目を向けたほうがいい、というメッセージも込められているのではないでしょうか。

そう考えると、今回のプログラムは、秋田と関わっていこうと考えている人だけでなく、何らかの大きな課題を解決する目的がある人の第一歩としても意味があるように思えます。課題が何であれ、秋田で「だけじゃない起業」をすることは、その解決に到達する手段の一つになりうるのです。

事業を起こすことで課題を解決したいと考えている方はぜひドチャベンに参加して、その第一歩を踏み出してください。

[sponsored by 秋田県 / ドチャベン2021]

– INFORMATION –

オンラインセミナーに、起業家によるオンラインゼミ!
ゼロイチ“だけじゃない”地域起業塾

「ゼロイチ“だけじゃない”地域起業塾」は、ゼロイチの起業から“だけじゃない”起業まで、多様なスタイルを支援する起業家育成プログラムです。プログラムは全6ヶ月間、舞台は秋田。9月のオリエンテーションを皮切りに、地域に根ざした土着な起業家達によるオンラインセミナー(10-11月, 全4回)、秋田へのフィールドワーク(11-12月, 2泊3日)、ゼミ形式プログラム(月1回程度)、2月には集大成としてのピッチイベント(賞金あり)の機会を提供していきます。

【今後のプログラム】
▼オンラインセミナー:だけじゃないセッション#4「循環型社会×食」
日時:2021/10/20(水)19:00-20:30
ゲストは大山貴子さん(株式会社fog代表取締役)。
循環型社会の実現を目指すデザインファームfogの大山貴子さん。東京都台東区にレストラン、ショップ、ラボの機能を備えた拠点「élab(えらぼ)」をスタートし、循環する社会の実現を自ら実証中。地域の資源を活用した循環型の社会や事業の生み出し方、その実践知を伺います。

▼フィールドワーク(2021年11月〜12月、2泊3日)
秋田県内を旅する2泊3日のプログラムを開催します。
※新型コロナウイルスの影響を鑑みオンライン開催予定です

▼ゼミ形式プログラム(2021年11月〜2022年2月、月1回程度)
地域の成長企業による伴走型プログラムです。
月一回程度のオンラインゼミを行い、起業アイデアのブラッシュアップや、社内起業の可能性を探っていきます。

▼ピッチイベント(2022年2月)
プログラム参加者の成果発表会(賞金あり)です。

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