選んだ人:スズキコウタ
greenz.jp副編集長。1985年生まれ。
greenz.jpの記事企画・マネージメントの責任者をつとめる一方、ライターインターンの育成や作文力〜編集力を鍛えるゼミクラス「作文の教室」「メディアの教室」などを展開。「作文の教室」は地方開催、オンライン開催も数多く実施。2020年、greenz.jp第2編集部として「greenz challengers community」を結成。
今、旅に出れないじゃないですか。僕が最後に海外に行ったのは2018年の初夏、なので3年も外に出ていないことになる‥‥かつて外国に住んでいた時期もある僕が、日本にこんな居続けるのは、なかなかなんですよ。気を紛らわせるために「地球の歩き方」とか「LONELY PLANET」を読んでいた時期もあったけれど、そこに出ているのは情報でね、「行ってみたい」「食べてみたい」はあるけれど、自分がアップデートされる感覚はないわけです。
そんな中で出会ったのが『兼高かおる世界の旅』という昔のテレビ番組で、「TBSチャンネル」の再放送で見れるんだけれど、これは僕もまだ生まれてない頃にパンナムという航空会社がスポンサーになって放送されたもので、その出演者が兼高かおるさん。すごく美しい方だったんだけれど。30年ぐらい放送された番組なんですよ。
兼高さんのレポートは、何が美味しいとか、何がお洒落とかだけじゃなくて、そこに住んでいる人の暮らしを尊重している。
人の思いに寄り添っている。
発信者が知りたいことを掴みに行くのでなく、その相手の暮らしを自ら赴いて全身で感じて、その中で可視化されたことをレポートする。
だから、つくり手にも視聴者にも学びがすごく大きいのね。
その取材旅行のレポートは、機会があればTBSチャンネルで見るとして、この本では兼高さんがどうやって仕事をし、学びと経験を蓄えていったかをいっぱい話してくれている。僕として特に印象的なのは、「つながりで、ここまでできるか!」なんですね。
兼高さんは、旅のコーディネートとか撮影とか全部自分でやっていた。でも、旅先で出会う人と向き合い、それによって生まれる縁の糸をつむぐことにすごく丁寧だったことが伺えます。
そのガッツと緻密であたたかい活動が、ジョン・F・ケネディやサルバドール・ダリへの取材実現につながる。ふたりともいまや、歴史上の偉人ですよね‥‥! でも、ケネディとダリが取材できたからといって、テレビ番組においても、この本においても、大きく特別扱いする様子がないのが、兼高さんの人柄をあらわしているように思います。スクープを掴みに行くことが、彼女の目的ではなかったのでしょうから。
自分の目で何を見て、どう伝えていこうかと考え、そのプロセスを繰り返すことがどう血肉化していくだろう。僕は最近「作文の教室」や「GCC(第二編集部)」で、そんな思考訓練を「観察」と名付けて、受講生にプッシュしているけれど、その観点でもインプットがあるね、兼高さんには。
海外へのワクワク感と学びを両方得れるから、ぜひ。
(編集: 櫻井杜音)