greenz people限定『生きる、を耕す本』が完成!今入会すると「いかしあうデザインカード」もプレゼント!→

greenz people ロゴ

福島県は本気で「地域の担い手」をサポートする。課題先進地・福島のこれからを思い描く、地域の担い手サポーターズと地域おこし協力隊

東日本大震災から10年の節目、みなさんも被災地の今が気になっていることと思います。地震、津波に加え原発事故の被害も受けた福島県でも着々と復興が進んでいますが、それを推し進める大きな力になった「復興支援員」のことをご存知でしょうか?

復興支援員は、被災自治体からの委託を受けて、被災者の見守りやケア、地域おこし活動などを行う人員のことで、被災地域内外から広く募集されます。復興専門の地域おこし協力隊員のように、東日本大震災の被災地ではこの復興支援員制度が今も使われています。

そして福島県では、この復興支援員制度を活用して、復興支援員と地域おこし協力隊員をまとめてサポートする「復興支援専門員」という人員が配置されています。

簡単に言うと、福島県には地域おこし協力隊などをサポートする専門のスタッフがいるということです。より多くの人々に認知してもらうべく、福島県では復興支援専門員を「地域の担い手サポーターズ」と呼んでいます。

地域の担い手サポーターズのみなさん

この地域の担い手サポーターズについて、福島県の地域おこし協力隊担当職員の山田雅文さん、復興支援専門員の瀧口直樹さん、地域おこし協力隊員の八須友磨さん、地域おこし協力隊OGの大原陽子さんに話を聞きました。

地域の担い手サポーターズとは

地域の担い手サポーターズ(復興支援専門員)とは、一体どのような役割を果たす人たちなのでしょうか。

山田さん 復興支援専門員の活動は、各自治体の復興支援員及び地域おこし協力隊の募集活動支援と、着任した隊員のみなさんの活動をサポートすることです。

復興支援員は現在70〜80人いて、ほとんどが県外に避難された方々の支援で、一部、帰還が始まった地域で住民と地域おこしに携わっていますが、そのサポートを行っています。

復興が進んだ現在は避難地域の地方創生に自治体が取り組む機運が高まってきました。そこで、復興支援専門員が地域おこし協力隊もサポートできるようにし、「地域の担い手サポーターズ」と呼ぶことになりました。

山田さん

山田さん 復興が進んでいる本県では復興と地域振興は密接に関係しています。

例えば、浪江町の地域おこし協力隊の中には、別の自治体に避難した大堀相馬焼の窯元で修行をして伝統技術を伝承しようとしている隊員もいます。その活動は地域振興でもあり、復興でもあるのです。

未曾有の大災害を経験した福島県ならではの地域振興の難しさが、この地域の担い手サポーターズを生んだということなのかもしれません。そして、彼らがいることで、福島県は地域おこし協力隊になろうという人々にとって魅力的なフィールドになっているとも言います。

隊員が地域にすんなり入っていけるかどうかは、地域おこし協力隊を活用する上で大きな課題のひとつなのだそう。福島県ではどのようなサポートをしているのでしょうか。

山田さん 地域おこし協力隊員をサポートする専門のスタッフがいることで、研修を始めとするフォローが充実していることは間違いありません。

福島県では県内すべての協力隊に網羅的な研修を行い、心構えからどういう形で地域に馴染んでいったらいいのか、さらには3年後を見据えた起業のやり方まで学ぶことができます。また、第三者的な立場なので、役場の人にも地域の人にも打ち明けられないような悩みでも相談できるという利点もあります。

実際に、地域の担い手サポーターズの一人として活動する瀧口直樹さんはこう話します。

瀧口さん 地域で活動する協力隊のみなさんへは、初任者研修に始まり地域協力活動に役立つ研修を行っています。また、協力隊を受け入れる自治体職員のみなさんには、協力隊の制度理解に関する研修、受入態勢づくりや活動支援に焦点を当てた研修などを行っています。地域に入る側とその人材を受ける側の双方へのサポートを行うことが重要です。

地域おこし協力隊の研修会の様子

福島で地域おこし協力隊になるということ

では、実際に、隊員の人たちはどう感じているのでしょうか。金山町の地域おこし協力隊員である八須友磨さんと、昨年度まで二本松市で協力隊員だった大原陽子さんに話を聞きました。

写真左が八須さん、右側が大原さん

お二人はどうして地域おこし協力隊になり、どんな活動をしているのでしょうか。

八須さん 昔から旅が好きで、旅をしながらいろいろな物語をつくって書くような物書きになりたかったんです。それで4年前に仕事をやめて、東北とアラスカを旅したんですが、その最初に出会ったのが、いま師事している金山町の狩猟の師匠でした。

その時は、福島から青森まで歩いて、その後アラスカのユーコン川を5ヶ月かけて下りました。そのアラスカの旅で「自分の人生って薄っぺらいな、ちゃんと根を張って生きて、もっと人生の深みに触れないといけないな」と思ったんです。それで金山町が頭に出てきて、そこしかないと移住しました。

八須さん ただ、最初から協力隊になろうと思っていたわけではなくて、スキー場でバイトしながら師匠に ついて山に行ったりしていました。その後、町の協力隊募集に希望する内容が掲載されたので、協力隊になりました。協力隊の活動も猟がメインで、猟期になるとクマとかシカとかイノシシの狩りをします。

大原さん 私はずっと料理を仕事にしてきて、東京でオーガニックフレンチのお店をやっていました。

その中で震災があって、もともと添加物などに関心があったので、原発事故の被害を受けた福島の復興は大変だろうと思っていました。何度かボランティアにも行く中で、これまで培ってきた料理のスキルで、福島の人たちに貢献できるのではないかと思って、移住を決めました。

移住先を探す中で、二本松市は有機農業をやっている人が多いし、移住者も多かったので失敗して帰っても大丈夫だろう。そんなくらいの気持ちで行くことにしました。そのときにちょうど地域おこし協力隊の募集があって、道の駅で協力隊として働くことになりました。

大原さん 協力隊としての仕事は、道の駅の商品開発だとか、レストランの運営を手伝うとか、後は料理教室をしたり、忙しいときはレジ打ちもしました。最後の方はジェラートの販売責任者になりました。やりたいことを言うことができたので、食関係の仕事ができたのは良かったです。

協力隊が終わって、飲食業をやるか食品加工業をやるか迷ったのですが、飲食業をやるにはお金もかかるし、食品加工をしてマルシェなんかで売るほうがいいかなと思って。こっちに来てから結婚した夫の家に使ってない蔵があったので、そこをいま加工場に改装しているところです。

ニホンミツバチの養蜂をする大原さん

おふたりとも直接復興に携わっているわけではありませんが、このような地域活性化活動に携わる人員を協力隊として招き入れることができるまでに復興が進んだことの証とも言えるのかもしれません。

実際、放射能汚染の影響は少なくなってきていて、八須さんが狩る野生動物からも基準値を超える放射性物質は検出されていないとのこと。大原さんが扱う農作物も、もちろんそうです。

このようにして、福島県に次々と地域おこし協力隊が入り活動を始めたことで、横のつながりもでき始めているといいます。

八須さん イベントに行って出会うとか、生活している間に出会ったりとか。ものは生み出してないですけど、一緒に遊んだりして、暮らしは豊かになってますね。幅が広がるっていうか。

大原さん わたしは研修で出会ったりしますし、お互い協力隊だと普通に仲良くなって連絡を取り合ったりします。

この横のつながりづくりは、地域の担い手サポーターズが意図してやっていることの一つだそう。

瀧口さん 先程話した研修に加えて、横のつながりづくりにも力を入れています。隊員同士が交流できる場をつくることが、活動の工夫に役立つこともあります。例えば、地域PR商品のコラボレーションなどのアイデアや商品も生まれています。なによりも、仲間との出会いは福島での暮らしや活動が豊かになります。

大原さん 今改築してる蔵も、実は大玉村の協力隊の方が設計をやってることが偶然わかって、話をしたらすぐにやってもらえることになりました。

地域の未来への思い

地域おこし協力隊は、その任期が終わったあとも大切です。大原さんはすでに任期を終えて新しいことを始めていますが、この先どのようなことを計画しているのでしょうか。

大原さん まずは、若いお母さんたちに添加物に対して正しい知識を持ってもらうことですね。添加物がない生活は無理でも、どんな物を選んだらいいのか知ってほしいです。

最近、地元の若い人たちに味噌づくりを教え始めました。味噌づくりは東京でずっと教えていて、それを話したら、習いたいというので。やるとなったら、40人も集まったので、来年からは本格的にやろうかと計画中です。加工場にする予定の蔵が2階建てなので、2階で味噌づくりをしつつ、保存食や添加物のない料理を教えていけたらと思っています。

さくらんぼジャム

大原さん あとは、さくらんぼでジャムをつくっていて、それを特産品としてもう少し頑張って売り出そうというのは考えています。さくらんぼもそうですが、二本松市の特産の農作物を六次化商品として売り出せるように考えていきたいですね。

大原さんは地域の人たちがもっと地域に根ざした生活を送れるようにしながら同時に魅力を外に発信しようとしているようです。移住者によって地域社会がより良くなるというのは、地域おこしの理想形という気がします。

八須さんは、協力隊の任期後には何をする予定なのでしょうか。

八須さん 今は本当に小さな集落に住んでいるのですが、そこで耕作放棄地を使わせてもらって田んぼと畑を始めました。自然に寄り添ったこの暮らしが好きで、協力隊が終わったら農家民宿を始めようと思っています。

私のところに遊びに来てくれる人もいて、既に移住を決めた人もいます。こうやって移住者が増えていって、人の少ない集落にも新しいコミュニティができていったらいいなと思っています。

これからどんどん都市から地方に、特に若者が目を向けるようになると思うので、そういう人が金山町に目を向けてくれるようにしていきたいですね。若い人が移住してくると、元からいたお年寄りも元気になって集落全体が明るくなるので、そういう変化がどんどん起こってくれば、町全体も明るくなって、地域おこしにつながると思っています。

マタギとして山に入る八須さん

猟師の修行をしていたはずが、田んぼや畑を始めて農家民宿までやろうとしているのもすごいですが、すでに移住者を増やしているというのはさらにすごいですね。福島の山奥の集落が若者であふれていく。なんてワクワクすることなんでしょう。

そんなワクワクする未来なら、どこの地域でも実現したいはずですが、なぜ八須さんにはそれが可能なのでしょうか。

八須さん 一番は自分自身が楽しむことですね。いやだいやだ苦しい苦しいって暮らしてたら負のオーラみたいなのが出ちゃって、来る人もこんなとこに暮らしたくないなって思っちゃうじゃないですか。多分それが一番です。そして、そうするためには、自分が心の底から面白いと思えることをやる、それだけです。

地方には閉鎖的な所も多く、空き家を借りようとしても借りることができないという話はよく聞きますが、八須さんはたまたま今の集落で生活を始めることができました。自分の楽しみを探すことを諦めなかったこと、それが秘訣だったのかもしれないと思いました。

お二人には色々な意見を伺うことができました

地域に定着してもらえるように

県や地域の担い手サポーターズとしても、大原さんや八須さんのように協力隊員が任期後も地域に定着してくれるようにする施策に今後は力を入れていく予定だそう。そのときに、課題となるのはどのようなことなのでしょうか。

山田さん これまでは協力隊制度を活用し始める自治体が急速に増えたことで、初心者である自治体側をサポートして募集活動の支援や研修を行うのが主な仕事になっていました。

しかし、今は、今いる協力隊員がどうしたら生き生き活動してくれるのか、そして任期を終えたあとも地域に定住してくれるのかという面の支援も強化しています。

ですので、OBやOGのみなさんと協力して、今いる隊員へのサポートを拡充していきたいと思っています。

八須さんも大原さんも、地域に馴染む面で地域の担い手サポーターズがいるのは良かったと言っていたので、そこにOB・OGが加われば隊員が活躍し定着する可能性はさらに上がるのではないでしょうか。

大原さん 私は頼まれて東京のPRイベントに行ったことがあるんですが、このときに相談に来ていたご夫婦が実際に後任になったんです。いいことも悪いことも含めて話をしたのがよかったんだと思います。

地域と人には相性があるものなので、定着のためにも地域の担い手サポーターズやOB・OGのような第三者的立場の人がいることは重要だと感じました。

活動報告交流会の様子

最後に山田さんに、福島をフィールドとして地域おこし協力隊や復興支援員になることの魅力を聞いてみました。

山田さん 福島県自体が広くてフィールドが多様だというのがまずあります。と同時に、本県の被災地域は国内有数の課題先進地域の一つだといわれています。

ですので、これからの日本が直面する課題に取り組もうという意欲のある方、豊かな自然の中で自身のキャリアを地域振興に生かしたい方など、福島県はさまざまな方の想いにかなう場所だと思います。

東日本大震災をきっかけに、様々なチャレンジしたい人や地域おこしに携わりたい人がたくさん被災地に来てくれました。そういう方々が良き先輩になって悩みを聞いたりする風土が福島県には備わっています。

特に未曾有の災害を経ていろいろなものに立ち向かってきた先人たちは、おせっかい焼きの方が多く、ささえてくれる人が多いので、新たな課題に取り組む場所としては理想的なんじゃないでしょうか。

地域おこしということを真剣に考えるならば、課題先進地に飛び込んで大きなことにチャレンジしたほうがいい。そういう視点はなかったので考えさせられました。

考えてみれば八須さんも高齢の住民の割合が非常に高い、いわゆる「限界集落」の再生という非常に難しい課題に取り組み、大原さんも被災地の食という前例のない課題に取り組んでいます。福島で地域おこしをするということは、そういう先行事例のない課題にぶつかっていくことであり、だからこそサポートが重要なのです。

そんな難しいことにチャレンジしたいという人は多くないとは思いますが、そうでない人にとっても福島は「水も空気も食べ物も美味しくて、一度味わったら戻れない」(八須さん)のだそう。

瀧口さんも地域の担い手サポーターの立場から「実際に福島に来て、現地の温度を感じた上で地域おこし協力隊になることを検討してほしいです。現地を案内するツアーなども実施しているので、少しでも興味がある人は参加してみてはいかがでしょうか」といっていました。

まずは観光気分でもいいので福島を訪れ、そこで復興支援専門員の話を聞くことから始めるのがいいのではないでしょうか。面白い場所や人を紹介してもらえるに違いありませんから。

– INFORMATION –

ふくしまで働く – 地域の担い手 – – 地域おこし協力隊・復興支援員 募集・情報サイト

https://f-ninaite.jp

(インタビューカット撮影: 中村幸稚)
(撮影協力:Roots猪苗代
(写真提供: 地域の担い手サポーターズ)

[sponsored by 一般社団法人ふくしま連携復興センター、福島県]