この記事を読んでいる誰もが、戦争を望んではいないでしょう。けれどもそれが、安全保障やテロとの戦いと言われたら…? 少し心が揺れる人がいるかもしれません。
そんな人も、戦争の裏側にある真実を暴くドキュメンタリー映画『シャドー・ディール 武器ビジネスの闇(原題: Shadow World)』を見れば、自分の知らないところで起きている醜悪な現実に触れ、戦争反対の声に力がこもるはずです。
『シャドー・ディール 武器ビジネスの闇』は、アンドルー・ファインスタイン(Andrew Feinstein)が書いた 『武器ビジネス:マネーと戦争の「最前線」』を原作に、アーティストでもある映画監督ヨハン・グリモンプレ(Johan Grimonprez)が制作しました。
映画には、告発者、検察官、軍事産業関係者などが次々に登場し、自分だけが知りうる事実を口にします。その証言の数々が、現代の戦争の裏にある武器ビジネスの闇で何が起きているかを私たちに告げてくれます。
レーガンやサッチャーといった80年代の政治家から、オバマ大統領、そしてイラクなど中東の国々の政治家や要人たちは、政治や民主主義に対して私たちが抱いている期待を裏切る形で登場します。敵の恐怖を煽り、軍事増強の必要性を高らかに訴える裏側に何があったのか、この映画を通して闇の深さを初めて知ることになるでしょう。
政治家の会見シーンでは、事実を暴こうとする記者やジャーナリストたちが鋭い質問を投げつけます。昨今の日本の政治家(特に総理大臣)の会見のように、原稿を読むだけの回答や既に決定している質問だけを繰り出すのとは違う緊張感あふれる空気に、民主主義の正しい在り方を見た気がしました。それでも、ふてぶてしいほどに質問をいなしてしまうのが、映画に登場する当時の政治家だったりもするのです。
武器ビジネスの主役である武器商人は、闇をつかさどるイメージとは裏腹に、落ち着き払った調子で、表に出ることのない自身の手柄とも言える経験を語ります。後ろめたさは感じられず、ただビジネスの成果を報告するかのようです。ここから大量の人が亡くなる戦争が生まれるのかと思うと背中が、ひやっと冷たくなりました。
武器ビジネスに関わる人たち、その裏側を追求してきた人たち、あるいは政治家や役人の映像を目にするときに忘れてならないのは、武器を売り買いし、開戦の鍵を握っている政治家も武器商人の誰もが、その武器の犠牲になることはないということです。
映画では、著しく性能が高くなった武器がどのような結果をもたらすか、目をそむけたくなるような衝撃的な映像が戦争の悲惨さを突きつけてきます。その映像と武器ビジネスの闇に潜む真実に、戦争に反対する気持ちをより強く感じるとともに、巨大な闇のからくりの前に無力感を感じました。
証言を彩る映像と音楽。静かに心に問いかけてくる映画に対し、私たちは何をすべきか。
人間の欲望が渦巻く証言と映像に彩られた映画ではありますが、単なる記録に終わらず、観る人の想像や感情を揺さぶる仕掛けを忘れてはいません。印象的なのは、第一次世界大戦中のクリスマスに、ドイツ軍とイギリス軍が前線で休戦し、両軍の兵士たちが交流したという「クリスマス休戦」の映像です。
彼らはまたすぐに戦闘に戻ることになるのですが、塹壕から飛び出し、笑顔で抱き合うさまは感動的です。
けれども、それは本当の敵など存在しないといったメッセージを訴えるだけの意味以上のものがあるのかもしれません。当時はまだ目の前の敵を実際に殺すような戦い方をしており、現代のように自分の身の安全は保障されたうえで敵にミサイルを落とすようなことはありません。現代のハイテク兵器による戦闘と比較すると牧歌的とも言える戦争は、寓話的にさえ見えました。
どんな形であれ戦争はあるべきではないのですが、社会や科学の発達とともに戦争までも発達した現代を思い起させるシーンでもあるのではないでしょうか。
また、生々しい人間臭い証言の合間には、『マイ・ウェイ』をはじめとするポップミュージックが流れます。ここから、何も知らず平和を享受している私たちの能天気さを感じるか、大きなものに流されていく大衆の恐さを感じるか。いろいろな想像を掻き立てられる演出になっていたように思います。
決して派手な映像で楽しませたり、刺激を与えたりするタイプの映画ではありませんが、まるで想像しなかった現実の重さが、映画を観終えて落ち着いて考えたときに、心にじわじわと浸透してくるようでした。そこから考えを深めてくれるような、そんな力がこの映画にはあります。
戦争反対と声をあげることはもちろん大切ですが、これだけ複雑になった現代社会では目の前にある情報に条件反射のように声をあげるだけではすまなくなっています。
自身の情報リテラシーを高め、幅広い情報を入手することが求められるでしょう。自分や身近な人が穏やかに幸せに暮らしていればいいのではなく、社会で起きていることに対してアンテナを掲げることが大切です。この映画を観ることもそのひとつになるでしょう。
– INFORMATION –
1/30(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー!
監督:ヨハン・グリモンプレ(『ダイアル ヒ・ス・ト・リー』(1997))
原作:アンドルー・ファインスタイン著 『武器ビジネス:マネーと戦争の「最前線」』
脚本:ヨハン・グリモンプレ、アンドルー・ファインスタイン
配給:ユナイテッドピープル
90分/ 2016年/アメリカ,ベルギー,デンマーク
©Shadow World Productions, LLC
https://unitedpeople.jp/shadow/
【緊急開催!】映画『シャドー・ディール 武器ビジネスの闇』特別先行オンライン上映会(1.29(金)
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01e6vv11g02iq.html