藤本遼による書籍「場づくりという冒険」好評販売中!

greenz people ロゴ

“塾とゲーム”に依存した時間を、子どもが自己決定できる“ゴールデンタイム”へ。学校を舞台に安全で豊かな放課後をつくる「放課後NPOアフタースクール」の現場を訪ねて。

放課後、子どもたちはどこでなにをしているんだろう?

私がこの問いを抱き始めたのは、1年ほど前。長女の公立小学校入学を控え、当たり前のように学童保育を申し込んだのですが、噂に聞いていたのは「学童待機」の問題。私の住む神奈川県茅ヶ崎市では、2019年度の学童保育(放課後児童クラブ、以下「学童」)の待機児童数が200人を超え、県内一の多さであることがニュースで報じられていました(※)。「もし落ちたらどうしよう……」と先の見えない不安を覚えたのです。

(※)茅ヶ崎市の統計によると、2019年5月時点の待機児童数は174人。その後、新型コロナウイルス感染症の拡大や民設学童の新設といった影響もあり、2020年4月時点では116人にまで減少したとのことです。

娘は運良く第一希望の学童に入所できましたが、やはり周囲からは希望が叶わなかったという声も聞こえてきました。仕事を持つ母親にとっては、まさに一大事。彼女らの行く末とともに私は、学童に行かない子どもたちの放課後が気になり始めました。

実は、子どもたちの放課後の居場所は、都心部を中心に社会問題となっているのです。

この問題にいち早く取り組み始めたのが、「放課後NPOアフタースクール(以下、アフタースクール)」。全国の公立・私立小学校の校舎を使って「市民先生」による多彩なプログラムを展開し、子どもたちの安全で豊かな放課後づくりを行うNPO法人です。「放課後はゴールデンタイム」をビジョンに掲げ、15年以上に渡り活動を積み重ねています。

アフタースクールのウェブサイトでは、「放課後はゴールデンタイム」というビジョンを掲げた特設ページを設け、さまざまなコンテンツを展開中。

2020年11月20日(世界子どもの日)、アフタースクールが主催したオンラインイベント「超アフタースクール」をきっかけに、私は2つの公立小学校のアフタースクールの現場を訪ねることにしました。それぞれの現場で見て、触れて、聴いて、感じた「放課後のいま」、そこに垣間見た希望を、みなさんと共有したいと思います。

データで見る「放課後のいま」

「超アフタースクール」は、コロナ渦で様変わりした社会の中で、改めて“放課後の居場所のあり方”を問い、参加者とともに考えるオンラインイベント。約240名の参加者が集いました。アフタースクールの現場を巡る前に、同イベントで紹介された各種データで、日本の放課後の現状について知ることから始めましょう。

「自宅で」「ひとりで」過ごす、日本の小学生の姿。

まず、小学生(1年生〜6年生)に放課後の過ごし方を聞いたところ、「自宅」がダントツで1位。2位は「習い事・スポーツクラブ」でした。さらに「一週間のうち放課後ひとりで過ごした日数」についての5カ国調査(日本、韓国、イギリス、フランス、ドイツ)では、日本の子どもたちは「ほとんどない」が45%で、5カ国中一番少ない結果に。逆に「3日以上」と答えた子どもの数は最も多く、他の国と比べて、「自宅で」「ひとりで」過ごすことが多い日本の小学生の姿が浮かび上がってきます。

「塾・習い事」と「ゲーム・映像」が2大コンテンツ

「習い事・スポーツクラブ」に関しては、都市部を中心に活況です。こちらの調査によると、小学生の約半数が3つ以上の習い事をしている様子。高学年になると、この中の「塾」の割合が増加する傾向にあります。

一方で、アフタースクールの代表・平岩国泰さんはイベントの中で「地方に行くと習い事や塾の数も少なく、ゲームや映像に依存している傾向が強い」と、指摘しました。最近は、低学年からYouTube等のインターネットメディアに触れる機会も増えており、この傾向は都市部でも同じです。

「塾・習い事」と「ゲーム・映像」は、いまの日本の子どもたちの放課後の2大コンテンツと言えそうです。

学童の需要が急高騰

子どもたちの放課後が「塾・習い事」「ゲーム・映像」に依存するようになった原因のひとつは、女性の社会進出による共働き家庭の増加です。共働き、またはひとり親家庭を対象とした学童の利用者は、この20年で約3倍、施設数も2.5倍ほどに増加しています。

この結果として起きているのが、冒頭で触れた学童における待機児童の増加。一般的に「待機児童」と言うと保育園の待機児童を思い浮かべる方も多いと思いますが、実は2019年、学童の待機児童数が保育園を上回りました。2020年は学童の待機児童数がやや減少したことから、ふたたび逆転しましたが、対策が追いつかない状況であることに変わりはありません。

小学校入学とともに仕事と家庭の両立が困難になることを“小1の壁”、学童を利用できなくなる4年生から子どもの居場所がなくなることを”小4の壁”と呼びます。この壁が、上記のデータで見た「自宅でゲームや映像コンテンツを見る」という子どもたちの放課後の姿へとつながっているのです。

国が推進する放課後施策のカギは「学校活用」と「地域連携」

そんな背景を受けて、文部科学省と厚生労働省は2018年9月に「新・放課後子ども総合プラン」を策定。「放課後児童クラブ(学童)において、2023年までに約30万人分の受け皿を整備する」ことを目標に掲げています。

同プランでは、放課後子どもクラブ(共働き世帯の子どもを対象とした学童保育、厚生労働省管轄)と、放課後子ども教室(全世帯を対象とした放課後の居場所、文部科学省管轄)の一体型を推奨。小学校の校舎を活用し、1万ヶ所以上の実施を目標に掲げています。

また、文部科学省では「地域学校協同活動」を推奨。次世代を担う子どもたちを、地域と学校が連携して育てていくことを重視しています。これらの政策によって、子どもたちの放課後はどのように変化していくのでしょうか。

放課後の最大の価値は「自由」である

学校を活用して、地域と連携する。アフタースクールの取り組みは、現在の国の施策を先取りしたものと言えます。代表・平岩さんは、「超アフタースクール」で放課後の価値についてこう語りました。

平岩さん 小学校で過ごす時間が年間1,200時間であるのに対し、低学年の放課後は年間1,600時間もある。学校も放課後もどちらも大事ですが、放課後についてとりわけ私は、「自由」が大事だと思っています。やるべきことから放たれて、やりたいこと・やることを自分で決めていけるところに本質的な価値がある。

昭和から平成にかけて、制約が多くて大人が手を出してあげないといけない放課後の世界になってしまいましたけど、それをまた子どもたちの手に、徐々に取り戻していきたいと思っています。

放課後を子どもたちの手に取り戻すために。アフタースクールでは、全国の小学校を舞台に、放課後の時間をプロデュースしています。遊びに浸れる場を用意し、さまざまなプログラムを提供したら……子どもたちの放課後に活気が生まれる様子が想像できます。

一方で私の中には、ひとつの問いが浮かびました。大人が子どもの過ごし方に介入するその手法は、一見「自由」と矛盾しているようにも思えます。

子どもは自由な時間を与えるだけで、のびのびと遊べるのでは?
大人がつくる、子どもたちの「自由」とは?

私はこの問いを携えて、アフタースクールが手がける小学校の放課後を巡ることにしました。そこにはどんな「自由」が存在するのでしょうか。

制約の中でより自由になれる環境を、子どもと大人が一緒につくる。
〜台東区立谷中小学校放課後子供教室〜

12月初旬、午後2時。“谷根千エリア”と呼ばれる昔ながらの街並みの中に、瓦屋根が印象的な谷中小学校の校舎が見えてきました。2階に見える校庭からは、子どもたちの元気な声も聞こえてきます。

校門をくぐり、スタッフの方に案内していただいた「ランチルーム」では、「谷中小学校放課後子供教室」の準備がはじまっていました。

特別な給食やお弁当を食べるときに使われるランチルーム。通常は何も置かれていないオープンなスペースですが、放課後になるとその姿は一変します。

机と椅子を端へ寄せた広々とした空間に、棚やホワイトボードを並べて……。どうやら教室を“放課後仕様”に模様替えしているようです。

私を出迎えてくださったのは、谷中小学校放課後子供教室の責任者である渡部岳さん

渡部さんによると、台東区では共働き家庭の増加に伴い学童の待機児童が発生。23区内で面積が最も小さいため、公園や児童館など安全な遊び場が限られている状況だそう。放課後の子どもたちの居場所づくりとして台東区が「放課後子供教室」に取り組む事業者を募集した際にアフタースクールが手を挙げ、2020年4月に谷中小学校放課後子供教室が立ち上がりました。

申込みと審査が必要な学童と違い、台東区の放課後子供教室は、登録さえすればその小学校の児童は誰でも利用可能。利用料は無料(区が負担)で、利用者は年間の保険料800円のみを負担します。

授業終了後から16時45分まで毎日開校しており、長期休暇中は終日利用できるため、共働きでもパートタイムや時短といった働き方であれば、ここだけで居場所として事足りる家庭も少なくないそう。また、一般的に学童は低学年が優先されますが、放課後子供教室は定員がなく、全学年が利用できます。このため、放課後子供教室の開始後は、区の児童館や学童にも余裕が生まれたそうです。

午後3時、チャイムの音とともに、子どもたちが準備の整った放課後子供教室にやってきました。受付で名札をもらいランドセルを置くと、一目散に自分のお気に入りの場所へ。読書コーナーでお気に入りのマンガを取り出す子、編み物を始める子、ボードゲームを取り出す子……。「今日はこれをやりたい!」と決めていた子どもたちの行動は早く、没頭するのもあっという間です。

一方で会議室では、プログラミング教室が始まりました。ひとり一台のタブレットを手に、市民先生の問いかけに意気揚々と応え、ゲームをベースとしたプログラミングの学習が進んでいきます。

小学校低学年から学べるプログラミング教室は、話題のゲーム「Minecraft」を題材に展開。子どもたちもぐいぐい惹き込まれていました。「学童は生活の場としての安心感がありますが、こちらはすごくアクティブに、自由に遊べる。最近では、こちらの遊びにハマって学童から通って来る子も増えてきました」と渡部さん。

渡部さんによると、谷中小学校放課後子供教室には、1年生から4年生を中心に毎日平均60人ほどの子どもたちが来室し、それぞれの帰宅時間まで自由遊びやプログラムを楽しんでいるのだとか。中には学童と併用して、週に何度かこちらを選んで通って来る子もいるそうです。

工作、手芸、本、ボードゲーム、タブレット……。「遊び」を生み出すさまざまなものを用意するだけではなく、子どもの引き出しを増やすために、月1回はスタッフが講師となって工作やものづくり、手芸などを楽しむ「ラボウィーク」を実施。プログラミングや書道といった定期プログラムのほか、単発のプログラムも行っているそうです。

渡部さん ある程度プログラムやネタを持ち込むと、そのうち大人に言われなくても子どもの中に引き出しが生まれ始めて、そこで心惹かれる何かがあると、すごく自信を持って他のものにもチャレンジするようになるんです。

ラボウィークのこの日は、スタッフの導きで編み物に取り組む子どもたちの姿がありました。スタッフの手元を見つめる子どもたちの目は真剣そのものです。

渡部さんは、ある日突然プログラミングにハマった小学校2年生の男の子のエピソードを聞かせてくれました。

渡部さん いつでも遊べるようにしてあるもののなかに、ソニーが開発した「KOOV(クーブ)」というロボット・プログラミング学習キットがあります。その子はあるときから毎日やり始めて、完全に頭がクーブになっちゃって(笑) 寝るときまでずっと、プログラミングを考えているらしいんです。

先日行われたソニー主催のコンテストへの参加も自分で決めて、10日くらいかけて作品をつくって出しました。その過程で作品を動画で撮ることも覚えて、動画編集も始めたんですよね。そこでまた彼の中に「動画編集」っていう引き出しが生まれて。もうそこまで行くと、僕らのやることは見守ることだけです。

この日もクーブに没頭する子どもの姿が。「ロボットで円を描く」と、何度もトライ&エラーを繰り返しながら、最後にはコンパスのような動きを実現! スタッフはただそばにいて、彼のやりたいことにそっと寄り添っていました。

自ら自分の引き出しを増やしていけるようになった子どもに対しては、大人側の接し方も変えているそうです。

渡部さん 4年生にもなるといろいろな経験をしてきているので、選択肢を求めるというよりは、「友達と一緒に」とか、「より自由に」自分たちで決めたりつくったりすることを求めている感じがあります。

だから僕らも大人と接するように、「君たちがここでやりたいことは何?」って問いかけて、どんどん彼らに手渡しているんです。大事にしているのは、「えらぶ・きめる・つくる」の3つ。折に触れて子どもたちにその話をします。

そんなやりとりの中から始まったのが「谷中っ子会社」。場所の設営や手指の消毒など、スタッフの手伝いをしたがる子どもたちの様子を見ていた渡辺さんが、「より面白がって続けていくために」と、ちょっとした仕掛けを提案しました。

渡部さん 「ポイントカードつくる?」って聞いたら、「やりたい!」って言い出して。気づいたら人数も増えていたので、もっとわかりやすくチームにしよう、と提案したら「会社がいい」と。そこから社長、副社長が決まって、あれこれ揉めながらも人事部ができて、組織図もできて。毎週のように車座になって話し合いを続けています。

この日も和室で「谷中っ子会社」の会議が開かれていました。取材日の2週間後に開催予定だったイベントについて、キャッチコピーから企画まで、あれこれ真剣に議論を交わす子どもたち。副社長の4年生は、「ただ遊んでるよりこっちのほうが楽しい」とにっこり。同じ学年のメンバーとともにみんなの意見を取りまとめていました。

子どもたち自らの意志で始めた会社の運営。渡部さんは、その先の責任も自分たちで担うよう促し続けています。

渡部さん たまに「ガクさん(渡部さんの愛称)が決めて」って言ってくることもありますが、子どもたちはこれまで大人がいる前提のコミュニティで育ってきているので、極力ここではそれを外していきたい。だから「大人は伴走する役割だから、決められることは自分で決めてね。できないことは助けるから」って伝えています。

渡部さんのお話を聞いているうちに、「大人がつくる子どもの自由」のヒントがだんだん見えてきました。

渡部さん 「自由」といったら「大人は手を出さないこと」と思っている人もいるかもしれませんが、「さあ遊べー!」ってただ丸投げしても、最初は上手くいかないことが多いんですよね。

もちろん上手い子もいるし、個別では遊べるかもしれないし、森の中だったらいくらでも遊べるのかもしれません。でも、ここのようにいろいろな制約がある環境の中では、やっぱり選択肢も限られてきます。その選択肢を、より楽しいものや、子どもがより主体的にやりたいと思えるようなものに、僕ら大人は変えていくことができる。

そうしていろいろな経験をしたベースがあった上で、今度は彼らの中にあるものをどう引き出すか。それがこの場所でどういきるか、いかされるか。それを大人から与えるのではなく、一緒につくっていくというのが大事なのかな、と思います。

今後の展望について聞くと、「子どもの暮らしは学校で完結しているわけではなく、放課後は地域・家庭・学校の間に存在できる時間なので、もっといろいろな大人に関わってほしい。 “子どもが場をつくり、大人が一緒にやる”という取り組みを、学校の中だけではなく地域コミュニティ全体に広げていきたい」と語ってくださいました。

台東区は地方や郊外と比べ、自然や広場の少ない東京のまちの中にあり、子どもたちが放課後の時間を過ごす居場所の選択肢が限られている環境です。

でもこの日、私の目に鮮明に焼き付いたのは、いまある環境のなかで、いかに子どもたちと豊かな時間を過ごすことができるか、と挑むアフタースクールのスタッフのみなさんの姿。そしてそれに導かれるように、全力でいまこのときを駆け抜けている子どもたちの姿。

“ここには、子どもと大人がともにつくる「自由」が存在している。”

そんな確かな余韻とともに、谷中小学校をあとにしました。

子どもと大人の対等な関係から生まれる、“勝手”とは違う“自由”
〜千葉市立稲浜小学校「稲浜小アフタースクール」〜

谷中小学校の取材から1週間後。冬休みまであと10日ほどに迫ったある日の午後、千葉市の住宅地にある千葉市立稲浜小学校を訪ねました。

教室とは異なる、アフタースクール専用の入口で上履きに履き替えると、本やブロック、工作の材料等が所狭しと並べられた教室の中へ。私を笑顔で出迎えてくださったのは、「稲浜小アフタースクール」責任者の松盛雅香さんです。

松盛さんによると、アフタースクール開校前、稲浜小学校の学区には学童が存在せず、子どもたちは隣の学区の学童まで通っていたのだとか。放課後の居場所に対する保護者のニーズも高まるなかで、千葉市は国が推奨する、学童と放課後子供教室の一体型を「アフタースクール」として推進することを決定。稲浜小学校をそのモデル校として事業者を公募し、2017年4月、「稲浜小アフタースクール」が開校しました。

生活と体験活動、その両方のニーズを満たす一体型として運営されている千葉市のアフタースクールには、昼間利用(17時まで、月額〜3,500円)と夜間利用(19時まで、月額〜8,500円)があり、どちらも申込みが必要です。現在、稲浜小では昼間利用が約50人、夜間は20人弱で、全校のおよそ3分の1から半分近い生徒が何らかのかたちで登録しているとのこと。放課後の居場所の潜在的なニーズがあったことが伺えます。

松盛さんによると、稲浜小アフタースクール開校前、学童に行かない子どもたちは校庭や学校の隣にある公園で、大人の目が届かない状態で遊んでいたとのこと。

松盛さん 隣に大きな公園もありますし、校庭も自然豊かで恵まれているのですが、そこに「安心」がついてきていなかったのが親御さんにとってのネックだったと思います。

全学年1クラスしかないこともあって地域コミュニティは豊かで、助け合いの心や横のつながりはすごく濃い印象ですが、いまは友達の家で遊ぶことに抵抗のある親御さんも多いようで、やはり居場所ニーズはひしひしと感じます。

取材の日、学校では午後に保護者と先生の面談があったため、子どもたちは少し早帰り。午後1時のチャイムの音とともに、一番乗りの男の子が息せき切って教室に現れました。その後も続々と子どもたちの姿が。

検温を済ませると、子どもたちはすぐにランドセルから勉強道具を取り出し、我先にと宿題に取り組み始めました。まずは30分、「学習の時間」が定められているのです。

それぞれのペースで宿題を済ませると、そこからは自由時間。コミックや図鑑に読みふける子どもたちの横では、ブロックの組み立てに取りかかる子の姿も。教室はあっという間に遊びに浸る子どもたちの姿でいっぱいになりました。

一方で教室の後ろでは、黒板に貼られた表にマグネットを載せる男の子の姿が。声をかけると、彼は「子どもスタッフ」であることがわかりました。アルコール消毒、検温、おやつの準備など、子どもたちの「お手伝いしたい」という声から始まった仕組みで、有志で自主的に活動をしているのだとか。

「なんでやりたいの?」という問いに、「うーん、やりたかったから……」と、子どもスタッフの久間君(4年生)。毎週行われる「子どもスタッフ会議」での話し合いの結果、特に大人は指示せず、やりたいときにやりたい子がスタッフとして働く現在のかたちに落ち着いたそう。組織図をつくって運営している谷中っ子会社との違いに、それぞれの子どもたちの意志と個性を感じます。

午後2時になると、隣の教室で「ブラインドチャレンジ」というオンラインプログラムが始まりました。

参天製薬とコラボレーションで行われたプログラム「ブラインドチャレンジ」。アイマスクをしてブロックを組み立てたり点字ブロックの上を歩いてみたり、視覚障害者の世界を体感する内容で、子どもたちも「怖い!」「意外といける!」と、意欲的に取り組んでいました。

この日は企業とのコラボレーション企画でしたが、稲浜小アフタースクールでは、このようなプログラムがほぼ毎日行われているとのこと。書道、プログラミング、ダンス等の定期プログラム(有料)には地域で活躍する先生が講師となり、質の高さで人気を集めているそう。一方でスタッフが提供する無料プログラム(材料費が必要な場合もあり)も頻繁に開催。工作や鬼ごっこのほか、子どものリクエストからプログラムをつくることもあるとのことです。

松盛さん 工作でも、スタッフが題材だけ用意してそこから想像してつくってもらうようなプログラムにしていますが、人気がありますね。本を読んだり外遊びに行ったりする子たちもいて、プログラムと自由遊びは横並びにあるイメージです。子どもたちは「今日はなにしようかな」という感覚で来て、気分によって選んで過ごしています。

ほぼ毎日行われるプログラムがカレンダーで一覧になって貼られています。保護者の方もその様子を感じ取ることができるよう、終了後は写真を貼っているのだとか。

子どもたちの遊びも一段落してきた頃、「外遊びに行く人ー?」と呼びかけるスタッフの声が。「はい、はーい!」と次々に手が上がり、子どもたちはスタッフの導きで校庭へと飛び出して行きました。黒板を見ると、3時間の自由時間の中で、30分の外遊び時間が3回設定されていました。すぐ横にはレゴブロックやプラレールで遊べる時間も明記されています。

こうした詳細な時間設定や遊び方のルール決めは、どのように行われているのでしょうか。もう少し自由があってもいいのでは?

松盛さん 自由にするのと勝手にするのは違うので、そのあたりのルール決めはある程度大人がしているんです。

子どもたちは縛られると「自由がない」なんて言いますが、いつも「いまあなたがやりたいことは、周りの人にとっても気持ちいいもの?」「自分がやりたいだけの勝手なことじゃない?そこは勘違いしないでね」って問いかけています。

大人が全部決めるのではなく、「じゃあどうしたいと思う?」って子どもたちに問いかけていく場面はすごく多いですね。

現在のルールは、子どもに問いかけて一緒に考えた結果だと松盛さんは話します。たとえば以前、レゴブロックの中の人形だけを自分の箱に溜め込んでいた子がいたときは、「次に使いたい子はどう思うだろう?」と問いかけたそう。するとその子は「戻すと探すのが大変だから」と言い、スタッフも共感。話し合いの末、人形や武器など種類ごとに分けて片付けることにしたのだとか。

また、外遊びを30分で区切るというルールも、子どもたちの様子を見て現在のかたちに落ち着いたそう。

松盛さん 1時間以上になると鬼ごっこなどの遊びに集中できなくなり、石や小枝を投げるようなトラブルのもとになる行動が増えていきます。そうなると子どもにとっては怒られているだけですし、外遊びをする意味がなくなってしまいますよね。

「だったら30分ずつに区切ろう」とか、細かいルールは現場の様子を見て提案し続けています。そうやって整えていくと、結果的に子どもたちにとっても楽しい場所になります。喧嘩の多い場所に行きたい子はいないですし、それは大人も一緒ですよね。

30分思い切り校庭を駆け回り、教室に戻って来た子どもたちの顔は、遊びきった充実感に満ちているように感じました。

子どもたちの様子を見て問いかけ、声を聞き、また様子を見て、ルールを見直し続ける。それはとても手間のかかるプロセスのように感じますが、それが子どもたちの自由を気持ちよく実現することにつながるのだと松盛さんは続けます。

松盛さん 子どもと大人は、ギブアンドテイクの対等な関係でありたいと思うんです。そうすると、子どもたちの中に「自分のつくる場なんだ」という意識が高まります。

放課後って、大人がお膳立てするより、子どもたちが自分で決めて自分で過ごせているのが一番いいと思うんです。でも最初からはできないので、プログラムや自由遊びの中で、大人がきっかけをつくってあげる。それをこれまで3年間積み上げてきて、いまは本当に子どもたちが自分で遊ぶのを大人が見ているという感じになりましたね。

もともと教員だった松盛さん。「いまが断然楽しい」と、放課後ならではの仕事を満喫しているようです。

子どもたちの声を聴くだけではなく、放課後をともに過ごす人として、自由でありながらともに気持ちよく過ごせる方法を探ってみる。子どもを決してお客様扱いせず「ともに生きる人」として接する松盛さんのあり方は、実に心地よく感じられました。学校の授業を担う先生とは違う、放課後ならではの大人のあり方と言えるかもしれません。

子どもの自由を保障する大人のあり方に触れて

時間的、空間的制約の中で、子どもたちによりよい選択肢を差し出し、子どもの「やりたい」に伴走して一緒に放課後の時間をつくりだしていく、谷中小学校放課後子供教室。そして、子どもと大人の対等な関係性をベースとした対話から、「勝手」ではないみんなが気持ちよく過ごせる「自由」を実現する、稲浜小アフタースクール。

遊具やプログラムの魅力もさることながら、両現場で私が最も強く感じたのは、子どもに寄り添う大人たちの、子どものことを信じる力です。自分で決められる、何が良くて何が悪いか考えられる、決めたことをやり切ることができる。そう信じ切る大人のあり方が、子どもたちの自由を導き出しているように感じられたのです。子どもの自由を保障するのは、やはりとなりにいる大人のあり方なんだと、思わずにはいられません。

オンラインプログラム中、子どもに寄り添い、同じ目線で楽しむ松盛さんの姿が印象的でした。

小学生の親である私としては、「子どもにはこんな大人と一緒に放課後を過ごしてほしいな」なんて想いも湧き起こってきますが、「うらやましい」という気持ちだけでは社会は変わっていきません。このような取り組みを、社会課題の根本的な解決策として広めていくためにはどうしたらいいのでしょうか。

次回はアフタースクール代表・平岩国泰さんへのインタビューを通して、さらに「放課後の自由」を深掘りしていきたいと思います。15年以上に渡る活動を経て感じ取ったもの、そしていま見据えている放課後の未来について、じっくりお話を聞きます。公開は明日。どうぞお楽しみに。

(写真: 荒川慎一)

– INFORMATION –

2/26(金)開催 放課後を子どもたちのゴールデンタイムにしよう!私たちが地域でできること

放課後NPOアフタースクールとグリーンズが手を取り、平岩国泰さん、小野寺愛さんのおふたりをゲストに迎えたオンラインイベントを開催致します。それぞれの活動概要、子どもたちの様子、地域連携の話等々、実践者ならではの声を聞くのはもちろん、トークセッションでは、かねてから親交のあるおふたりに、これからの放課後づくりの展望についておおいに語り合っていただきます。「放課後×地域」というテーマに関心のある方、気軽にご参加ください◎

イベント詳細はこちら

[sponsored by 放課後NPOアフタースクール]