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「豊かさ」を見つめながら、二拠点目を探す旅をしています。大自然のなかで「生きる力」が育まれる、熊本県南阿蘇へ。

みなさん、こんにちは。杉本綾弓(すぎもと・あゆみ)です。「ないなら、つくる」をコンセプトに、あったらいいなと思う働き方をつくる「株式会社meguri」という会社を経営している一児の母です。

この連載は、新型コロナウイルスを「自分の生き方を見直す機会」ととらえ、自らの生活拠点を探しながら九州を旅する企画です。東京出身、東京でビジネスをしてきたわたしが、九州各地のキーパーソンにその土地の魅力や地域との関わり方を伺いながら、「本当の豊かさとは何か」を見つめます。

前回の門司港に続いて訪れたのは熊本県の南阿蘇村。門司港のキーパーソン、菊池勇太さんの紹介でやってきました。南阿蘇村は雄大な阿蘇山を臨み、白川水源などの湧水群に恵まれた美しい田園風景が広がっています。訪れた7月終わりは田んぼの稲が青々とそよいでいました。

「農業したいの? ここはウェルカムよ!」と、とびっきりの笑顔で迎えてくれたのは大津愛梨(おおつ・えり)さん。夫の出身地である南阿蘇村で2003年に就農し、無農薬米の栽培やあか牛の放牧をする「O2Farm」を営んでいます。

ほかにも、農家による再生可能エネルギーの自給を目指し、バイオマスを中心とする地域エネルギー事業開発を行う里山エナジー株式会社を設立、女性農家の全国組織である「NPO法人田舎のヒロインズ」の理事長も務めるなど、農家の可能性を広げています。

大津愛梨さん O2Farmを営む4児の母です。

3ヶ月間、O2Farmで過ごした慶應義塾大学総合政策学部2年生の占部とも(うらべ・とも)さんも交え、お話をうかがいました。授業で愛梨さんのことを知ったともさんは、ちょうど友人がO2Farmにステイしていたこともあり、大学の授業をオンラインで受けつつ、O2Farmで農作業を手伝い始めました。東京で生まれ育ち、「メンタルが弱かった」と話すともさんですが、愛梨さんは「ここに来て顔つきが変わったよ」と太鼓判。彼女の目に南阿蘇はどう映り、自身がどう変化したのかもうかがいました。

(中央)大津愛梨さん、(右)占部ともさん

大自然のエネルギーの中で子育てする暮らしを選択

杉本 南阿蘇村の風景はものすごく美しいですね。愛梨さんは、どんないきさつで移住したんですか?

愛梨さん 大学で出会った夫が南阿蘇村の農家の跡取りだったんです。子どもはたくさんほしいと思っていたんですけど、それまでは東京に住んでいて、こんな都会では3人とか育てるのは無理だと思っていたんですよね。

それが南阿蘇村に来た時に「こんなところで子育てしたい!」と思ったんです。わたしのほうが移住に乗り気だったくらいで(笑)、住んだら「本当にいいとこじゃん」って思いました。山はここにまさるものはないし、九州各県や東京へのアクセスもいい。水源があるのも安心ですね。

杉本 たしかに、都会での子育てってすりへっちゃいますよね。わたしも新型コロナウイルスが流行する前に4歳の娘を連れて、夫の故郷である福岡に勢いで来ちゃいました。愛梨さんの、自分の人生を自分で決めていくスタイルは強く共感します!

個人的にも東京で暮らしながら、地球環境への危機意識が高まってきていて……。愛梨さんも再生可能エネルギーの自給に取り組まれていますが、移住する前から、南阿蘇ではもともと自然エネルギー事業が盛んだったのですか?

愛梨さん そう。これだけ自然に恵まれていると「使おう」ってなるよね。水も豊かだし、地熱もありますし。うちで使う電力は自給できています。

ファームに向かう途中で風力発電が見られました。

家の電力は太陽光パネルでまかなっているそう。

杉本 移住者という立場から見て、南阿蘇村はどうですか?

愛梨さん 南阿蘇村は空気がほんわかしていますね。昔から移住者に慣れていているからか、過度の干渉はなく、好きなことやらせてくれる気がしています。

杉本 愛梨さんは4人のお子さんを育てていらっしゃいますが、子育てに対する周りの反応はどうでしょう?

愛梨さん 近所の人たちみんなで子育てしている感じです。登下校を見守ってくれるおばさんがいたり。あ、そうそう、わたし自身、子どもが小さいころは、ほかの赤ちゃんのおむつを替えることはもちろんですが、授乳することもありました。「どうせお乳出るし、ほかの子にもあげるか」みたいな。あとで助産院で聞いたら、ふつうのことじゃないらしいらしいですね(笑)

杉本 それはすごい!

ともさん 南阿蘇に来て印象的だったのは、おとながよその子にも「ダメ」と叱ることでした。これって都会ではあまりないですよね。私自身も、農具を出しっぱなしにして近所の人に怒られたこともありました(笑) 一方で、心配してくれたり助けてくれたりもするんです。「女子大生、キャンプをします」とテントを張って2週間過ごしたときは、地域の人が野菜をくれたり、雨が降ったときは心配して覗きに来てくれたりしました。

愛梨さん そうそう。過干渉ではないけど、見守ってくれるよね。

大自然とおとなに見守られながら、たくましく成長する

愛梨さん 南阿蘇の子どもたちは四季を通じて五感を磨いています。ある日、柿をとってきた息子が「この柿は今日から食べられるよ」と言ってきたんです。昨日じゃなくて今日らしい。「なんでわかるの?」と聞くと、「お母さん、なんでわからないの?」と逆に不思議そうに聞き返されました。かないませんね。五感を研ぎ澄ませるのはおとなになってからではなかなかできないので、プライスレスだと思っています。

杉本 南阿蘇の子どもたちは、大自然の中で人間が「生きもの」として知っておくべきことを学んでいるんですね。

うちの娘も3月に東京から福岡に移ったんですが、すぐに目に見えて変化がありました。以前は虫がきらいだったのに、今ではつかまえて「かわいい」って。そのとき、「東京で時間に追われながら働いて、娘の何を見てたんだろう……」と思いました。

ともちゃんが、南阿蘇村に来て変わったところはありますか?

愛梨さん ともは変わったよ! 最初は「迷える少女」って感じだったのに、頼もしくなって顔つきも変わった。

ともさん そうですかね。

杉本 テキパキ自分から動いていて、傍から見ていても信頼感がありますよね。自分ではどう感じていますか?

ともさん うーん、ここに来る前はメンタルが弱くて、自分に自信がもてなくて。でも南阿蘇で農業をやってみて、「種を植えたら育って実がなる」ということを身をもって知れるのは、とても自己肯定感の上がる経験だなって。今19歳なんですけど、はじめて気づきました。

愛梨さん そうだよね。大学の授業でも農業をやるべきだと思う!

ともさん あとはキャンプで2週間過ごして「必要なものは案外少ない」ということにも気づきました。お肉を腐らせちゃったのを反省して、近所のおばあちゃんに教えてもらいながら味噌漬けや塩麹づけにチャレンジしてなんとか生き延びて、「非常事態になっても大丈夫!」と思えるようになりました。

杉本 サバイバル力だ。

キャンプをはって、浸水したこともあったそうですが、近所の人が笑いながら助けてくれたのだとか。

愛梨さん そういえば、うちの子たちが小学生だったころの話なんだけど、留守番をお願いしていたら、かまどをつくって火をおこして、冷蔵庫のものを網に乗せて焼いてたことがあったの(笑)

杉本 小学生で? すごい!

愛梨さん この強さが際立ったのは2016年春の熊本地震のときで、子どもたちは「また、かまどをつくればいいか」「テントで寝ればいいか」みたいな感じだったの。

ともさん 本当にみんなたくましいし、あるもので工夫して楽しんでいる。そういう姿を見ると、くよくよ悩んでいるのがバカらしくなって、「とりあえずトマト食べて、川で遊ぼ」みたいな気持ちになるんです。朝型の生活になったのもメンタルに影響しているかもしれません。

杉本 なるほど。自然のなかで自分で工夫して生きている、という実感もそうですが、周りのおとなが子どもたちのやることを信じて見守ってくれているのも、「たくましくなる」要因なのでしょうね。

愛梨さん ここでは、小さい頃からそうなんです。「森のようちえん おてんとさん」というサイッコーなところがあるんだけど、何をするか、どこで遊ぶかも子どもたちで決めて、おとなはそれを見守っています。自分の頭で考えて工夫する、ということを大事にしているんです。

森のようちえん おてんとさんに通う子どもたちの様子。

ともさん 森のようちえんでは、けんかもおとなが「やめなさい」と仲裁するのではなく、子どもたちが話し合えるようにサポートしていました。そんなふうに「自分で考える」「自分で決める」ことがあたりまえの環境で育っているからか、愛梨さんの末っ子りさちゃんは5歳ですが、自分で身の回りのことはやるし、料理してると「なにかやろっか? トマト切るね」と手伝ってくれます。

愛梨さん 何歳からでも遅いことはないけれど、生きていくための知恵や工夫と、親以外も自分のことを見てくれているという感覚は、人間にとって大事ですよね。自分の子どもたちに対して、そういう人としての「基礎工事部分」を南阿蘇村でできたことは幸せでした。ここができたら大丈夫、あとはどこに行ってもいいと思っています。

自分で感じ、自分の頭で考える子どもを増やしたい

愛梨さん これからは「地震が起こったときにかまどをつくる」みたいな「生きる力」が大事だと思うんですが、今は社会で求められることと義務教育で教えることとのギャップが大きすぎる気がします。

とはいえ、教育の現状を批判していてもしかたがないし、自分にできることをしようと。そこで力を入れているのが、農家の子どもを対象にした「リトルファーマーズ養成塾」です。

つくって農協に売ればいい時代は終わり。小さくても『考える』農家を育てたいと思って、この活動を始めました。知り合いがやっていた「子ども哲学」を取り入れて、自然の中でめいいっぱい体を動かせる時間と、座ってしっかり考える時間を組み合わせてやってみたら、子ども哲学がおもしろすぎて!

杉本 どんなことを話すんですか?

愛梨さん 「生きるとは」「お金とは」「家族とは」といったテーマで対話をするのですが、最初はキョトンとしていた子どもたちも、だんだんと活発に発言するようになっていくんです。

南阿蘇は大自然の中にあって太陽が照って水が流れて……、じっくり考える哲学に向いているんですよね。うちの子も、叱られた時に泣きながらじっと夕日を眺めて、気持ちを落ち着けて帰ってきたり(笑)

新型コロナウイルス流行以降、「自分で考える」ことが大切だ、とますます実感しています。教育のあり方が問われていますよね。

杉本 農を通した学びは、自分の頭で考え、手を動かし、見守って、最終的には自分の命につながる。身体性がともなう学びですね。わたしもこれからは「農」に力を入れていきたいなと思います。愛梨さんがこれから取り組んでいきたいことはありますか?

愛梨さん 自分自身はここの暮らしに満足しています。生きるのに必要な水はたくさん湧き出ているし、お米自分たちでつくっているうえで、菜園でとれたものやご近所さんからいただいた農産物でつくった加工品なんかを、まわりに「どうぞどうぞ」とおすそわけができている。ただ、次の世代のために残していけるとしたら、子どもたちの教育を含めた南阿蘇村での取り組みをまとまったかたちにすることで、農からの学びを次世代につなげていきたいと思います。

杉本 楽しみです!

(対談ここまで)

「大切なことは自然が教えてくれる。だから、周りの人たちは信じて手助けをするだけ。生きものというものは本来、自生する力を持っている」そんなメッセージを南阿蘇で受け取りました。今回、南阿蘇のエリアをすべて回ることはできなかったので、そのような在り方は愛梨さんとご近所さんだけなのか、南阿蘇全体がそうなのかは正直まだわかりません。

でも、出会う人や、共に過ごす人で自分の世界は決まると私は思っています。環境が人をつくるならば、南阿蘇にはそういう風土があるのでしょう。ここで自分の娘を育みあえたらどんなに幸せなのだろうかと感じる場所でした。
次の旅は、大分・佐伯(さいき)編です! どうぞお楽しみに。

(Text・写真: 渡邊めぐみ)

– INFORMATION –

ローカルスタンドバーwataridori@福岡・小倉 期間限定オープンのお知らせ!

この旅を通し、それぞれの土地ならではの生活の魅力に強く惹かれるなかで感じたのは、「多拠点」という生き方をもっと身近にしたい!ということ。ひょんなご縁もつながり、《多拠点な生き方な人たちための、ワクワクをうみだす場》をコンセプトに、期間限定のスタンドバーを開くことになりました。

場所は北九州の小倉、いまも賑わう旦過市場のすぐそば。すでに多拠点な生き方をしている方も、興味があるという方も、お店をきっかけに繋がり、「こんな暮らし方、働き方があるのか!」「自分の新しい一面を表現してみよう!」「地方でビジネスをうみだそう!」とワクワクの輪が広がればうれしいです。

お店についてのインフォメーションはこちらにアップしています。ぜひチェックしてみてください!

この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、こちらをご覧ください。