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利益を株主でなく、社会と未来に還元する。売上10兆円規模のグローバル企業が示すユニークなしくみとは?

新型コロナウイルスは、従来の社会や経済システムが抱えていた課題を浮き彫りにする一つのきっかけになりました。

世界経済フォーラムでは、次回のダボス会議のテーマを「グレート・リセット」と発表。今までのしくみを環境や社会格差に配慮した持続可能な資本主義へ転換していくために、金融システム、働き方・生き方、国際関係などあらゆる面でのリセットが必要だと提唱しています。

コロナ後の世界で私たちはどんな社会をめざしていけばよいのか。今回この記事で着目したのは、資本主義の主なプレイヤーである「会社」です。最近は環境に配慮したものづくりや働き方など、SDGsの視点で事業を行う企業も増えていますが、利益をあげることと社会貢献は必ずしも同じベクトルで語られてきませんでした。

そんな中で「本業でしっかり利益をあげて成長し、得た利益の多くを株主である財団に提供して、財団が社会に還元していく」という独自のユニークな循環のしくみをつくっている企業があります。

ドイツの自動車部品メーカー、ボッシュ。掃除機や冷蔵庫などの家電製品も製造していますが、主力事業は自動車の自動運転化や電動化、ネットワーク化などを実現するための最新鋭のソリューションや自動車部品の開発・製造です。

自動車部品市場では世界シェアトップ、全60カ国以上に従業員が約40万人。グループ総売上高は約9.5兆円(777億ユーロ、2019年度)と、とてつもなく巨大なグローバル企業です。にも関わらず、非上場。毎年利益の2〜7%を「ロバート・ボッシュ財団」を通して、ヘルスケアや教育、国際協力などの分野に支出しています。

会社で得たお金をどう分配するか? そもそも何のために企業は利益を生むのか? その根底に、創業者の理念が脈々と受け継がれている企業なのです。

日本法人であるボッシュ株式会社の渋谷本社1階はカフェとなっており、創業からの歴史にまつわる製品が展示されている

大株主が議決権をもたない、ボッシュならではの企業統治

一般的に「会社」とは株主やステークホルダーの利益をあげることを目的に活動する組織体です。得たお金は株主、経営者、従業員、取引先などにまわり、社会に還元されていく。

株を多く保有する大株主ほど株主総会での議決権をもち、発言権があります。
ところが最近は投機目的の個人投資家や、年金運用などの機関投資家も多く、経営者は長期的な視野での選択がしにくかったり、直接利益に結びつかないことにはお金を投じにくいといった状況があります。

ボッシュも会社であり、株主がいます。ただし株の92%を保有するのが「ロバート・ボッシュ財団」という独立した組織。この財団が大株主であるにも関わらず議決権をもっていないのが特徴です。利益を享受する側が、経営には口を出せないしくみになっているのです。

では、経営の監査的な役割はどこが果たしているかというと、「ロバート・ボッシュ工業信託合資会社」という別の組織が93%の議決権をもち、長期的視野にもとづいて会社の経営を監督しています。

ロバート・ボッシュGmbHの出資比率と議決権『ボッシュ・グループ概要2020』より

「コーポレートガバナンス」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。経営者がきちんと株主の利益を上げるための経営をしているかどうかを統治するためのしくみです。

不祥事を起こさないよう経営の透明性を高める意味合いもありますが、もとを正せば、判断が食い違いがちな株主と経営者の意思をそろえて経営していくためのものです。

ただしボッシュでは、この前提がそもそも他社と違っていて、株主の利益を最大化するためではなく、長期的に社会貢献できる経営をしていくための判断を行っています。

「ロバート・ボッシュ工業信託合資会社」には、現役の経営陣やボッシュ家の代表者などが含まれますが、ポイントは、この組織が株を保有していないこと。彼らの経営判断が、彼ら自身の利益とは結びついていないのです。

ロバート・ボッシュの企業統治と社会還元の仕組み(売上高や株式比率などは2019年の決算情報をもとにしています)

得られたお金はどう使われているか?

なぜ、そうした体制を築いたのか。すべては創業者ロバート・ボッシュ(Robert Bosch)氏の理念によるものでした。

ボッシュ氏は15歳から機密機械工の見習いを始め、身一つでボッシュを起こし、今のようなグローバル企業に育て上げた人物です。車のエンジンに点火する「マグネトー式点火装置」の発明によって、ボッシュの名は一躍世界で知られるようになりました。

渋谷の「café 1886 at Bosch」に飾られている「マグネトー式点火装置」

ところが会社を大きくする過程でボッシュ氏自身、二度の戦争とそれに伴う数々の理不尽を体験し、戦争の根底には教育や国際問題があることを肌で感じてきたといいます。

労働問題に早くから取り組み、一日の労働時間を8時間に短縮したり、見習工の教育を熱心に進めるなど社内改革に取り組む一方で、大学などの教育機関や国際関係に多くの資金を提供し、新たな病院を建設するなど広く社会に莫大なお金を寄付してきました。

このボッシュ氏が望んだのが、自身の死後も医療や国際協力の面で社会貢献を続けていくこと。そのために財団を設立するよう遺言に残しました。

「会社は独立性を保てるように引き続き、収益をあげて将来の保証にあてなければならない。…だが収益の一部はこれまでと同様に公共の福祉にあてなければらない」(『ロバート・ボッシュ伝記』P.330より)

創業者ロバート・ボッシュ氏

このロバート・ボッシュ氏の思想が後世にも受け継がれ、今も実践され続けているのです。2019年、ボッシュ・グループの総売上高は777億ユーロ(約9.5兆円)。EBIT(支払金利前税引前利益)は29億ユーロ(約3542億円)で、この7.4%の2.16億ユーロ(263.5億円)がロバート・ボッシュ財団に株主配当として入っています。

ではそのお金はどんな風に使われているのか。コーポレート・コミュニケーション部の大場直樹さんが教えてくれました。

大場直樹さん

大場さん ロバート・ボッシュ財団は「ヘルスケア」「教育」「市民社会」「国際理解および協力」そして「科学」の5つの分野で活動しています。助成金の6割は、財団のホームページでも公開されているさまざまなプロジェクトに充てられ、残りの4割は、ロバート・ボッシュ病院など、財団の抱える7つの機関と3つの財団に使われています。

中には日本が関わるプロジェクトもあるのだそう。

大場さん たとえばGGF(Global Governance Futures)と言うプロジェクトでは、日本語でいうと「グローバルガバナンスの未来 – ロバート・ボッシュ財団の多国間対話」といった意味ですが、日本を含む9カ国からNGO、学界、民間の若い専門家を集めて、グローバルな課題解決の方法を考える18か月のプログラムを行っています。

参加者はグループ間で議論したり、ホスト国の専門家や政策立案者と会うなどして、かなり具体的な政策提案を含むレポートまで作成します。

GGF以外にも、アフリカの科学者にフォーカスした国際的な科学研究コミュニティづくりのフォーラムを行ったり、ドイツとフランスの親交を深めるために文学や演劇、人文科学、社会科学などの分野で資金調達のプログラムをつくるなど、国際交流や、グローバルな視点での社会課題の解決に向けた取り組みが多いことがわかります。

「GGF」の様子。写真: GPPI / Matthias Erfurt

創業者の理念はどう浸透しているか

今も続くこのロバート・ボッシュの理念は、日本の仕事の現場ではどんな風に生きているのでしょうか。人事部門長の新井信行さんはこう話していました。

新井さん もともと私が勤めていた日本企業をボッシュが買収したのが、ボッシュを知った始まりです。最初は外資系なので、もっと合理的で厳しい会社かと危惧していましたが、いい意味で日本企業らしい働き手に優しい会社でした。

新井信行さん

従業員が健康であってこそと有給休暇の取得も会社が促進し、取得率はほぼ100%。残業も、2019年実績で月平均12時間程度。離職率は1%台。

新井さん 創業者の理念を日々意識しているわけではないですが、自然と企業風土として行き渡っているのかなと思います。上下の立場を越えて従業員同士の関係もとてもフラットです。

信頼を損なうくらいならお金を失った方がいいという創業者の言葉もあるように、コンプライアンスに関してはかなりセンシティブです。非上場でも、一般的な会社よりその面は厳しいように思います。

加えて、毎年かなりの金額が研究開発費に投じられます。日本でも新人を100人採用する場合、65〜70人は開発者。それだけ研究開発に力を入れていることの表れです。

グローバル企業だからできること

さらにグローバル企業であることが真価を発揮したのが、東日本大震災の時でした。震災が起きてすぐ、ボッシュは工場のある埼玉県東松山市のご縁で、宮城県東松島市に約4億円相当の寄贈を行います。当時、コーポレート・コミュニケーション部にてCSR活動を担当した佐伯妙子さんは振り返ります。

佐伯さん ドイツ本社から、震災直後にコンテナハウスを用いた住宅を提供しようという声があがりました。仮設住居は行政の方で準備されることがわかったので、じゃあ次に必要とされている施設をと、市役所仮庁舎、消防関連施設、市民センター、保育園、学童施設などに使えるコンテナハウス300個と車両を提供しました。

また、ハードだけでなく、保育園の子どもを対象にしたクリスマスイベントや、ドイツのブンデスリーガVfB Stuttgartと東京横浜ドイツ学園協力によるサッカー教室、市民センターでのシュトゥットガルト室内管弦楽団コンサートなど、地元の方々のご協力を賜り、ドイツ人の同僚たちと一緒に企画し実現しました。

さらに社員によるボランティアチームを組み、日本法人の社長も、海外から参加した社員も参加し土砂の掻き出しなどのボランティアに訪れます。その後も継続的に地元のマラソン大会に有志社員が参加し、東松島市の宿泊施設やお店を利用し、ビーチクリーン活動などを行っています。

経営的にはしっかり利益をあげ、稼いだ分を社会に再投資する。ボッシュには会社と社会の間で富と人材をめぐらせる「奉仕循環型社会」とも言える考え方があります。

新井さん 創業者の言葉にもあるんですが、社会が人を育て、その人が企業に入ってビジネスをして利益をあげる。その利益でまた企業が人を育て、利益を社会に貢献して社会が再び人を育て…とまわっていく循環を目指しています。

ボッシュと渋谷区は、協働して地域社会の諸課題を解決する事を目的とした「シブヤ・ソーシャル・アクションパートナー協定」を2017年5月に外資系企業としては初めて締結。

私がgreenz.jpで展開している連載『ローカルから始める、新しい経済の話』では、地域密着型のローカル企業の方が「新しい経済」の担い手になりやすいのでは? を仮説としてきました。

ところが今回ボッシュの取材を通して、この規模のグローバル企業だからこそできる社会貢献があることを改めて知りました。もちろん大企業のすべてがそうではありませんが、会社の規模にかかわらず、企業が誰のために、何のために利益をあげるのかを問い直すところへきているのかもしれません。

富が一部のお金持ちに集中するグローバル社会の中で、ボッシュは長年に渡って利益を社会に再分配してきました。この独自の会社運営のしくみは、これからの企業のあり方を考える上で、大きなヒントになるのではないでしょうか。

(写真:寺島由里佳、イラスト:idG株式会社

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