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おもしろがることで障がい者の「やりたい!」を叶えたい。「月と風と」がつくり出す“余計なこと”とは?

コロナ禍で、自分をとりまくものに“不要不急”がいかに多いかと感じた人は少なくないと思います。また逆に、私たちの生活は不要不急なこと・ものによって彩られているとも気付きました。

今回お話を伺った、障がい者生活活動支援施設「NPO法人月と風と(以下、月と風と)」の代表・清田仁之さんは「うちは不要不急のカタマリだ」と笑います。

必要不可欠ではないけれど、あってもいい。
あると楽しい、嬉しい。

一般的な福祉施設の概念を覆すユニークな取り組みで注目を集める「月と風と」は、そんな“不要不急=余計なこと”をやりたくて清田さんがつくった団体です。

障がい者と接する中で“おもしろがれる余白”を大事にしているという清田さん。枠にとらわれない発想の根源に迫ります。

清田仁之(きよた・まさゆき)
心身障がい者の生活活動支援施設・NPO法人「月と風と」代表。熊本県出身。関西学院大学卒業。紳士服販売、福祉施設での勤務を歴て2006年11月に兵庫県尼崎市でヘルパー派遣を行う「月と風と」を設立。福祉の概念にとらわれないユニークな活動を次々展開し、障がい者と健常者の垣根をおもしろたのしく壊し続けている。2019年4月には古着を扱うチャリティショップ「ふくる」をオープン。お笑いと阪神タイガースをこよなく愛している。

“余計なこと”をしたい。じゃないとおもしろくない。

清田さんが最初に就職した神戸の福祉施設は「全寮制の学校のすごく強い野球部みたいなところ」だったそう。障がい者が日々仕事をしながら暮らす入所施設で、清田さんは作業指導員という立場でした。

指導員はあくまで指導員であり、入居者と個人的に仲良くなることは良しとされない環境に息苦しさを感じるようになったという清田さん。勉強のために別の福祉施設で副業アルバイトを始め、神戸の施設の入居者よりもはるかに重い障がいを持つ人がテーマパークへのお出かけを楽しんでいるのを見て、「障がい者が楽しめるかどうかは、障がいの程度ではなく周りに支える人がいるかどうかだ」と理解したそうです。

その後、バイト先の施設に正職員として転職。前職よりは自由に活動できたものの、福祉の制度上の問題により、清田さんはまた息苦しさを感じはじめました。

お風呂に週3回入る人は週5回入りたくなるし、週5回入ったら今度は毎日入りたくなる。そしたら次は「銭湯行きたい」「温泉行きたい」、となる。「じゃあ行こうか」ってなったら、そこで「そういうことしてもお金にならない」という制度上の制約がかかるんです。みんなそんな時間の余裕もないですし。

そうなると、徐々に楽しくなくなってきてしまって。

清田さんは当時からずっと、利用者との関係性を大事にしています。

ちょうどその頃、ある施設利用者の葬儀で100人以上が参列する光景を目にした清田さんは、「障がいが重い人だったのに、こんなに知り合いがいたのか」と驚いたそう。それ以前に経験した障がい者の葬儀は身寄りのない人のもので、施設職員だけで火葬場へ行き、施設で行った年1回の旅行の写真だけを棺桶に入れる、という寂しいものだったからです。

ぼくなら、死んだ時は100人にいろいろ語ってもらいたいなと。でもそれは、ヘルパーとして求められることだけをやっていたのでは語れないんですよ。「温泉行ったね」「旅行行ったね」という思い出も語れたほうがいい。

だから、福祉という制度の中だけではない、“余計なこと”をしたほうがおもしろい、そういうことをしたいなって思ってたんです。

清田さんはその後さっそく、思いを行動に移しました。同業の仲間を集めて、ヘアカット&ファッションショーを開催したのです。

美容師さんに声をかけ、バリアフリーファッションのデザイナーから服を借り、モデルは知的障がいや精神障がいを持つ人だけでなく、障がいのない人もごちゃまぜの20人で、「障がい者がモデル」という説明はなし。「私服で登場したい」、「自分で自分の着る服に絵を描きたい」など、障がい者のモデルからのさまざまな要望を叶えた結果、普段は笑顔をつくるのが苦手な人がとてもうれしそうにしていたそうです。

障がいを持ってる人は周りの目を気にして美容室を嫌がる人が多いけれど、「行ったらいいやん」という思いから生まれたイベントです。お金にはならないんですけど、関わってる人がみんなめっちゃ楽しんでて。ショーの最後に、障がいのある人もない人もモデル全員がステージに並んで、みんなが「いいやん!」って拍手して笑ってて。「こういう社会にしたらいいんちゃうかな」って思ったんですよ。

仕事とは別の、個人の企画としてやりきったこのショーで、清田さんは大きな手応えを感じました。しかし、こんな“余計なこと”を組織の中で実行するには限界があり、独立することを決めたのです。

「月と風と」10周年の年にもファッションショー! みんなキマってますね!

「行動が読めないこと」が”おもしろさ”につながる

「一緒にやる人が出したアイデアを一発目から否定しない」
「お金にはならないけど心が潤うことをする」
「少ない人数で運営し、外部のいろんな人とつながって一緒にやる」

清田さんはこの3つをルールに定め、2006年11月に兵庫県尼崎市で「月と風と」を設立しました。

太陽の力を借りて夜道を優しく照らす「月」は、障がいを持つ人と関わるなかで感じる優しい気持ちのようであり、その優しさは音楽のように「風」にのって伝わる、という意味が込められた名前。「たくさんの人たちと共に」という思いから、最後に「と」を添えました。

「月と風と」ではメイン事業のヘルパー派遣だけでなく、他の施設では見られないようなおもしろい取り組みをたくさん行っています。

障がい者と一緒に銭湯へ行ったり、よそのお風呂を借りたりする「おふろプロジェクト」や、障がいのある人とない人が出会い、一緒になって趣味を楽しむカルチャー教室「軽茶堂(かるちゃどう)」、参加者全員を全肯定で褒め合うアートイベント「ツキイチ現代美術館」など、ユニークなものばかり。

お風呂に入って気持ちいいのはみんな同じ。「このいい表情をみんなに見てもらいたいな」という思いから、銭湯に行くことに。

軽茶堂で開催されている恒例の書道。「なんで?」と思うものばかりですが、これがイイんです。

ツキイチ現代美術館の一コマ。元劇団員だった清田さん、トガッてますね。ここでは、一切の批判・批評は禁止です。

僕、関西の何が好きって、「おもろかったらOK」っていうとこで(笑) ダウンタウンの松本人志さんが大好きなんですけど、彼が「なんでもかんでもおもしろく見てしまう脳になってる」と話していて。「そうか、なんでもおもしろく見たらいいんやな」と気づいたんです。

障がいを持ってる人たちの行動って、こっちの想像を軽く越えてしまう。その連続が魅力だと思っていて、これをみんなに伝えたい。「みんな発想が違ってておもしろいな」って、一緒にいる人が“おもしろがる”ことが大事ですね。

これ、誰だと思います? とある障がい者が描いた「嵐」のメンバーなんです。「コレはニノに決まってるやんと言われるとニノにしか見えなくなる」と清田さん。

「福祉」と「おもしろがる」という、対極にありそうな要素を組み合わせてしまう清田さん。ホームページなどでの発信も、いい意味で肩の力が抜けています。

「月と風と」のHPから。スタッフみんなで謎のポーズ。もちろん“狙って”ます。

「月と風と」のパンフレット。どれもやさしい雰囲気ですてきなデザインです。

福祉だからこそ「いいことしてる」「頑張ってる」じゃなく、おもしろいところを出したほうがいいと思います。また、福祉や障がい者に関わる人を増やしたいので、「誰にでもできることがあるよ」とできるだけハードルを低く打ち出すことを意識してます。

そんな清田さんが実行委員長をつとめる「ミーツ・ザ・福祉」は、障がいのある人もない人も一緒になって楽しめるイベント。尼崎市の「市民福祉のつどい事業」を2017年より受託し、年に1度行っている大規模なもので、ブース出展やパフォーマンス、ワークショップなど多彩なコンテンツがいっぱいです。

2018年のミーツ・ザ・福祉の様子。尼崎市内の野球場を借りて開催しました。みんないい顔!

元芸人の経験を持つ市役所職員の協力を得て、お笑い好きな清田さんの無茶振り(?)によって実現したのが、障がい者も出演する漫才や新喜劇! ステージ上で障がい者がスベっても「ウケへんな」の一言で大爆笑をさらってしまうなど、愛あふれる掛け合いが繰り広げられました。

元芸人としてはどうしてもこだわりたかったセンターマイク。車椅子の相方とは高さが合わず…。それすらも笑いに。

こうした取り組みから生まれた変化は「障がい者たちがやりたいことを口にするようになった」こと。

障がいを持ってる人って、いろんなことを諦めてるんですよ、それも強固に。こちらが「そうでもないんちゃう」と思うことまで諦めすぎてて、ニーズとしてすら出てこない。でも、批判されずに自分のことを語れる場ができたことで、「ダメ元で言ってみてもいいかな」と、ちょっとずつニーズが見えてくるようになった。それが次の展開につながるんです。

漫才やりたい、お化け屋敷でゾンビやりたい、大好きなグループの曲で踊りたい、ひっそりと趣味でやっていたオカリナを披露したい…。

固い氷が溶けて水が流れるように、さまざまな願望が少しずつ溶かされ叶っていくことで、たくさんの笑顔と感動がもたらされました。

次なる展開の「ふくる」も、そんな“溶かされた願望”から始まったものでした。

障がい者スタッフとボランティアが運営する「ふくる」

2019年4月、「コープこうべ尼崎近松店」の一画に、「月と風と」が運営する古着のチャリティショップ「ふくる」がオープンしました。

この日の「ふくる」はデニムフェア。店頭ディスプレイもボランティアさんをはじめ、いろいろな人の協力でつくられているんです。

チャリティショップとは、まだ使える物品を寄付で集め、ボランティアなどの協力を得て販売し、利益をさまざまな非営利活動に活用するお店のこと。「ふくる」で販売する服も、すべて寄付で集まったものです。

「ふくる」のしくみ

神戸にある古着のチャリティショップ「フリーヘルプ」の代表と知り合い、チャリティショップの存在を知ったという清田さん。「アメリカでは車椅子の人が接客していた」という話も耳にし、気になっていたそう。

「ふくる」のきっかけは、「月と風と」の利用者で、車椅子で生活しながら障がい者作業施設で働く車椅子の藤原舜(ふじはら・しゅん)さんから「100時間働いて月給が2,000円しかない」と打ち明けられたことでした。清田さんは驚き、アメリカのチャリティショップでは車椅子の人でも活躍していることを伝えると、ファッション好きの彼は興味を示すだけでなく、「海外旅行に行ったことがない」、「行きたいけれど諦めている」と話したそうです。

そこで清田さんはクラウドファンディングを活用し、チャリティショップの実現を目指すことに。「障がい者がきちんと給料をもらって働くお店をつくりたい」 「そのために発祥の地であるロンドンに行きたい!」 海外旅行の夢も詰め込んだこのプロジェクトは約40万円を獲得し、晴れて藤原さんは生まれてはじめて海外へ。

渡英時の一コマ。チャリティショップ「Cancer research」にて。やっぱりロンドンはチャリティショップもおしゃれ!

左下が藤原さん。ふくる店頭にて

「ふくる」店頭には藤原さんがモデルのポスターも。かっこいい!

「ふくる」は毎日、時給で働く障がい者スタッフとボランティアとで運営しています。しかも、ボランティアの都合で営業日時を決めるという斬新な方法で。これは、オープン前から積み重ねた対話によって実現した、お店を持続するための工夫です。

オープンまでの準備期間を長くとり、障がいがある人もない人もたくさん巻き込んで、月に1回集まって店舗デザインやお店の名前もみんなで考えました。「私こんなアイデア出したのよね」とか「このデザインは私の意見が反映されてるのよ」とか、「ふくる」をみんなのものにし、愛着を持ってもらえたら長く続けられるんじゃないかなって。

現在「ふくる」に関わるボランティアは約15名。参加する条件は「服が好き」ということだけ。清田さんは、「嫌になったらいつでもやめていい」と伝えているそうです。

「おもしろくないと思ったらいつでもやめていい、やめる理由も言わなくていい。あんまり来られなくて申し訳ないとか思わなくていい、来たいときだけ来てもらえればいい」と最初に伝えます。

障がいを持ってる人も急に来られなくなったりする。重い障がいや精神障がいを持っている人は、行けない日が続くと申し訳なく思って、ますます行けない、ということがあるので、「いつでも来ていいよ」って言ったほうがいい。障がいを持っている人だけじゃなく、全員にそう伝えてます。

服を寄付するときは、尼崎市内のコープを始めとする数カ所に設置されたこの回収ボックスに入れます。このダンボールも寄付してもらったものだそう。素敵!

障がい者スタッフは、最初はボランティアとして関わり、慣れてきたらアルバイト、そして店長候補…と段階を踏みながらお店を任せられていきます。車椅子でお客さんと会話したり、接客したり、おすすめのコーディネートを考えたり…。「あまりにも一生懸命コーディネートを考えるから、お客さんも買わないわけにはいかない」と、清田さんは笑います。

尼崎をチャリティのまちにしたい!「#尼崎をロンドンに」

次なる清田さんの野望は「#尼崎をロンドンに」。SNSでハッシュタグを拡散し、尼崎のまちにチャリティを流行らせたいと考えています。その意図とは?

「#尼崎をロンドンに」が貼られた「ふくる」のInstagram。尼崎市長が挑戦したスタイリングは、“これぞ尼崎”なド派手さ!

こういうシュッとしたものもあります。

尼崎で、もっと助け合いとおもしろがり合いが増えたらええなって思います。イギリス全体でチャリティショップって16,000軒くらいあるらしいんですけど、日本の某大手コンビニと同じくらい。自分が着ない服があったときにコンビニに行く感覚でチャリティショップへ持って行く、それくらい尼崎でチャリティが流行ったらいいなと思い、SNSで「#尼崎をロンドンに」を広めているんです。「ふくる」がその第一歩ですね。

「障がいを持ってる人と関わっていると、“ちゃんとしてなくていい”という瞬間がたくさんあってそれがいい」と清田さん。でも、障がいの有無にかかわらず、「“ちゃんとしてる人”ってどんな人?」とも思います。“ちゃんとしてない”から“隙”ができ、それこそが“余白”であり、そこを人はおもしろがれるんじゃないかな…。

清田さんから何度も出てきた「おもしろがる」という言葉は、ともすれば怒られかねないのでは? と思いながらも、取材中もずっと笑いが絶えない清田さんからは、不思議と「この人が笑うのならOK」という空気があふれ出ていました。