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M&Aでは承継されない、地域の小さな商いをつなぐ。「ニホン継業バンク」が世に問う、継ぎたい日本とは。

地方のまちを歩くと、あることに気がつきます。

チェーン店はあるけれど、個人商店が目に見えて少なくなっていること。「角の布団屋さん、閉店セールだって」「まちの工場、シャッターが閉まったまま、開かないね」…など、昨日まであったまちの一部がある日突然なくなっている。そんな体験をしたことはありませんか?

いま、日本では地域の片隅で人知れずそっと消えていく産業・商い・ビジネス・お店が増えています。

その多くの原因は「後継者不足」。現在、後継者のいない事業は約250万社で、経営者の約6割が70歳以上となる2025年には中⼩企業の廃業が相次ぐと予測されています。つまり、あと5年以内に廃業が加速化し、近い将来、まちの機能が失われていく。すでに少子高齢化が進む地方では、その「終わりの始まり」がいたるところで顕在化しています。

黒字なのに継がれない生業

事業承継の手段として、大きく分けて3つがあります。

1つは、家業を子どもなどに継ぐ親族内承継。
2つ目は、社内承継。親族外の従業員に事業を譲ることです。
3つ目が、第三者承継。親族や従業員以外に会社や事業を売却するもので、事業譲渡、M&A(Mergers(合併) & Acquisitions(買収))などとも呼ばれます。

第三者承継は、会社や事業を売買するため、大企業の経営者や投資家が「短期間で大きく利益をあげる事業」を目利きして、投資や買収を行います。

仲介事業者は、売買手数料で利益を上げるため、大きい取引を優先します。そのため、売上規模が地方の小規模事業は積極的に仲介をされづらい状況にあります。この構図は地方の空き家に非常に似ています。

つまり、経済合理性が低く埋もれてしまうのです。

だからといって、地域の事業そのものは「儲かっていない」わけではありません。地域に必要とされながら、後継者に恵まれないという理由だけで廃業を余儀なくされてしまう事業がたくさんあります。

ビジネス単体としてみれば経済合理性があるけれど、会社の売買で多くの利益をあげようとする事業譲渡ビジネスにおける経済合理性のなかで「いらない」といわれたもの。地域に求められていて黒字なのに継ぎ手がいないばかりに自然廃業してしまうなんて悲しすぎます。

継ぎ手がいないことは恥ずかしくない

さらに、廃業が加速化する理由は、多くの小規模事業者は跡継ぎがいないことを恥ずかしいと思っていることです。

後継者候補はまず親族や従業員。親族であれば、子どもが帰ってきてくれない。身内から事業価値を認めてもらえていないこと。従業員であれば、経営者として育てられなかった。そして、事業を売りに出すとお金に困っていると思われるんじゃないか、と周りの目が気になります。それらが負い目になり、ときには経営者自身が「この商売は大変で儲からないから辞めた方がいい」と諦め、「そっと消えていく」ことを選びます。

しかし、前述の通り、日本の6割の中小企業が後継者不在。後継者がいないことは特別なことではないのです。

「だから、跡継ぎを探しましょう」と、小規模事業の承継問題に取り組むのが「ココホレジャパン」の「ニホン継業バンク」です。

「ココホレジャパン」代表の浅井克俊さんは、「ニホン継業バンク」を始めた理由をこう話します。

浅井さん 岡山に移住して暮らすなかで、後継者不足の深刻さに気付きました。東京への一極集中、少子化を背景に、地域に必要な、地域ならではの仕事がなくなっていく、このままだとチェーン店ばかりのコピペのまちになっちゃうんじゃないかと…。

でも地域の小規模事業は、高く売買されるわけでもないから仲介事業者にとっては「儲からない」仕事。ネットサービスを利用しようにも経営者が高齢なので利用ができないから、いまの事業譲渡の仕組みだと救えないと思いました。

浅井克俊さん(左)。タワーレコードの販促部長などを経て、2012年に岡山県に移住し、翌年に「ココホレジャパン」を設立。

「ままチョビ」の事業承継

浅井さんがそう強く思うのは、自分自身の事業の継ぎ手を探した経験から。2013年に東京から岡山に移住した浅井さん。岡山県瀬戸内市の地域おこし協力隊の活動のなかで、地域の魅力を広告する会社「ココホレジャパン」を起業します。

そこで生まれたのが、岡山名物の魚・ままかりをアンチョビ風にアレンジした「ままチョビ」です。その誕生秘話はグリーンズでも紹介しましたが、浅井さんが企画した「ままチョビ」は、2014年の8月から販売をスタート。未だJR岡山駅などで取り扱われるロングセラー商品として岡山で愛されています。

左から「ままチョビ」(ままかりのアンチョビ)、「ままニャカウダ」(ままかりをつかったバーニャカウダ)、「まままマスキングテープ」

浅井さん 「ままチョビ」は見知らぬ土地に移住してきた僕らが、自分たちのプレゼンテーションもかねてつくったものでした。地域におもしろいと思ってもらって、僕ら以外の地域の誰かに、地域の仕事としてつくり続けてほしいなという思いではじめました。

「ままチョビ」は地域に必要だと思ってはじめた地域への提案だったと言います。

浅井さん やってみて、それなりに話題になりましたが、いざ従業員や地域おこし協力隊に事業を継いでもらおうとしましたがだめでした。じゃあ、第三者の継ぎ手を見つけようと思ったけれど見つける術がありません。

なぜなら「ままチョビ」の事業を500万円で売ろうと思いましたが、そうすると仲介手数料は数十万です。仲介側からすれば経済合理性のない(儲からない)事業ということになります。

継ぎ手がいなければ、「ままチョビ」は売れているのに岡山から消えてなくなってしまう。浅井さんは苦心の末、継ぎ手を見つけ「ままチョビ」は2020年4月に、地元岡山の会社「株式会社オールブルー」へ事業譲渡が決まりました。そのときの苦労が、小が小を継ぐ事業承継の社会問題を解決したいという思いへつながっていきます。

クラウドファンディングの7割が地元民だった「豊劇」

地域にとって、事業承継は会社や事業を引き継がれることだけではない。その思いを一層強くしたのは、兵庫県豊岡市にある「豊岡劇場(以下、豊劇)」の事業承継事例です。(グリーンズの記事はこちら)。事業承継を果たした5年目のいま、お話を伺いに行きました。

現在の豊岡劇場。昔の面影を残したまま、いまもまちの機能の一部として愛されている。

「豊劇」は1927年(昭和2年)に但馬地方唯一の映画館としてオープンしましたが、2012年に閉館。「豊劇」の閉館は、デジタル映写機の導入への資金不足そして配信など様々な要因から客足が遠のいていたこと、さらにオーナーの「後継者不在」が大きな要因でした。

しかし、さまざまな奇跡がつながって、地元にUターンした不動産屋の子息だった石橋秀彦さんが再び「豊劇」の扉を開きます。

石橋さんらはクラウドファンディングで新しい「豊劇」のための資金を集めますが、そのうちの7割が地元の人だったとか。地元に愛されていながら一度はクローズを余儀なくされた「豊劇」を継いだ理由を石橋さんはこう言います。

「豊劇」の石橋さん(左)と運営などにたずさわるキーマン伊木翔(右)さん。

石橋さん まず僕がここを引き継ごうと思ったのは単純に「映画館のないまちに住みたくない」からです。しかし滅びていかなければならない運命になるものであるならば、閉めたほうがいい。映画館がなくても仕方ないとも思いました。けれど、僕のなかにくすぶるものがありました。

石橋さんは、地元・豊岡市で「豊劇」で映画を親しみ、映画監督を目指した過去がありました。北アイルランド、イングランド、東京などを経て、地元へ戻り、家業の不動産屋を継ぎ、地元を見回したとき、自分のアイデンティティを育んだ「豊劇」がなくなることは、故郷を失うことに近い喪失感があったのです。

石橋さん そこで僕が不動産として豊劇を買います。2014年に豊岡劇場の土地と建物を買わせていただきました。もちろん映画館として残す前提で。どう残すか資金はどれくらいかかるのか、継ぐためには買わないとできない。そして存続していくためにはビジネスモデルをきちんと描かなければと思いました。つぶれることにも理由があるから、その理由を洗い出して解決していけば、僕らでもできる、と考えました。

事業承継においては、元々のものに敬意を払いながら継続可能なものにしていくことを考えます。継いだ事業者は、キャッシュフローの問題と自分たちが思う場をつくっていくことを並行して考えることが必要です。

元の事業を尊重しつつ、それを尊重しすぎると以前のビジネスモデルしか踏襲できない。それでは新たな事業者が事業承継した意味がない。そして持続可能なものになりません。

石橋さん それがいまできているかと言われれば怪しいんですけどね(笑) 5年間くらい赤字を垂れ流してもやっていけるくらいの体力がなければ継続は難しかった。うちは不動産業もあったのでなんとかやりくりしていけました。

伊木さん 僕は映画をあまり見ない人間でした。どちらかといえばイベントを企画する側の人間でしたから。映画をここで見る価値を知っていただき、さらに映画以外の価値もここで見出してもらう。そうすれば、ここに欠けていたことができるんじゃないかと思いました。

クラウドファンディングの際はコミュニティスペースなどをつくるなどまちに開かれた映画館を目指していたが、現在は映画を楽しむための施設にシフトチェンジ。飲食店なども併設し、まちの人たちにとって居心地のよい場所になっていた。

「豊劇」は、いま流行りのおしゃれで味のあるミニシアターだと思い込んでいましたが、味のあるマイナー作品とディズニーなどメジャー作品を織り交ぜて、子どもからお年寄りまで映画を楽しめるラインナップが揃う、まちに愛される映画館でした。

お客さんのために上映する映画を選んでいるのが大前提ですが、「まちのためになるつもり」で継いだ気持ちはない、とふたりはきっぱり言います。結果がまちのためになったということであるし、同時に一商売であると。

石橋さん 僕は映画館のあるまちに住みたいという気持ちは強いし、地方に住むという選択肢によって都会と同じようにできないという否定を自分に課しているわけです。自分が喜べることを成していく。それが事業であることが大事であると思います。その結果が、まちのためになったかどうかは、まちが考えればいいなと思います。

「まちのため」であるならば行政が主導で行うべきで、日本では、映画館が文化施設ではなく、興行商売という認識です。いま、新型コロナウイルスの問題でも、全国の映画館は助成が受けられず危機に陥っていることからも推測されます。

しかし、石橋さんは「映画館がないまちに住みたくない」という個人的理由から身銭を切って、事業を引き継いだ結果、このまちを映画館のあるまちにし続けている。石橋さんがやらなければこのまちは映画館を失っていました。

伊木さん 僕は、まちにとってここが必要だと思っているし、市民のみなさんも必要だと思ってもらえていると思います。けれど、ないといけないかと言われるとそこまでじゃない。あったらうれしいけれど、マストじゃない。だから、ビジネスのなかで継続していかなければ。美しさばかり求めても続きません。

事業承継されるということは、なんらかの価値がそこにあって、それを最大限尊重することが大事。しかしいまの経済観念のなかで続けていくことが苦しいのは事実です。だからこそ、何を承継したのかを考えていくことが大切です。

石橋さん 僕は前オーナーの意思を継いだと思っています。ここまでやってくれたことが奇跡なので。その思いは強いです。それを渡してくれたからこそいま僕らが続けていけて、でも僕らに手渡された以上は僕らのやりかたでやっていくことが大事。

伊木さん 僕も同じです。積み上げてきた歴史を使わせてもらっているという意識です。いま、90年ちょっとやっています。高い歴史が積み上げられてきたなかに、僕らがちょっと5年ほど積んだだけなんです。

いま「豊劇」は新型コロナウイルスの影響で苦しい運営が続いています。「またどうなっていくかわからない」とおふたりはいいます。しかし、どんな業種・業態であれ、苦難はこれからいくらでもあるふりかかるでしょう。事業は、儲かるから継ぐ人もいるでしょうし、やりたいからやる人もいる。どちらにしても、継続可能な形を模索しなければ、やっていけないことは、ひしひしと感じました。

それが、大変で、とっても楽しいことも。

「ニホン継業バンク」で“継ぎたいニホン”を探す

「豊劇」は「豊劇」と映画と地域を愛する人たちの手によって薄皮一枚で未来につながりました。それは本当に幸せで稀有な例だったとも言えます。誰にも知られることなく、ひっそりと消え、なくなってしまったあと、「継げばよかった」「なくなってほしくない」と後悔しても失ったものは簡単には戻りません。

そうなる前に「継ぐひと」と「継ぎたいひと」をつなげるには。そのひとつの解として、ココホレジャパンがはじめたのが「ニホン継業バンク」です。

継ぎたいニホンが見つかる「ニホン継業バンク

「ニホン継業バンク」とは、地方の承継に取り組む市町村または、市町村ともに地域の事業承継を促進する団体が運営する承継プラットフォームです。なぜ、市町村単位のプラットフォームなのでしょうか。

浅井さん 小が小を継ぐ事業承継を成立させるプラットフォームは3つの課題を解決しなければいけません。

まず、仲介手数料で維持しない仕組みが必要です。仲介手数料を得ることが目的になると、高く会社を売買することに注力することになり、地域の小規模な事業者は埋もれてしまう。また、後継者の求人や弟子・インターンなど、事業譲渡以外の選択肢に取り組めません。

2つ目は、オフライン対応を充実させることが必要です。地方の高齢の事業者も利用できる仕組みはオンラインだけでは解決できません。

そして、後継者がいないことは恥ずかしいことではないということを啓発していくことが大事で、事業譲渡以外の引き継ぎ方法も模索します。

それらを可能にするのは市町村単位で地域資源活用する考えかたであり、事業承継における「空き家バンク」というとわかりやすいかもしれません。そして「ニホン継業バンク」は正確にはマッチングサイトではありません。承継プラットフォームを提供するサブスクリプション・サービスです。

「ニホン継業バンク」では、市町村(または、市町村と協働して地域の承継に取り組む団体)が年間使⽤料を負担することで、市町村ごとの継業バンクを初期費⽤なしで開設することができます。都度の更新費も不要で情報を元にプロの編集者が記事作成、HP更新を行うほか、地域を啓発するためのガイドラインやチラシの提供、各地域の継業バンクとの交流による情報共有なども行います。

後継ぎを募集したい事業者は、市町村を通して同サービスに申し込み、「ニホン継業バンク」の編集者が市町村経由でヒアリングした情報から対象の事業の魅⼒やストーリー、地域での必要性などを伝える記事を掲載。応募・問い合わせは窓⼝となる市町村を経由することで、インターネットを利⽤しない⼈でも無料で利⽤することができます。

現在、β版がローンチしており、5つの市町村がサービスを利用しています。そのうちのひとつ、岡山県瀬戸内市はこんな想いを秘めて「ニホン継業バンク」に参加しています。

瀬戸内市の移住推進員として活動する菊地友和さん。

菊地さん 僕は瀬戸内市で移住を推進する活動をしています。事業承継は、移住者にとって、移住するための選択肢になると考えます。いま、都市部から地方へ移住を考える人々は、地域に働ける場所があるかどうか、とても気にします。

また、地域の生業を継いでくれるために移住する人を、地元住民はあたたかく迎えてくれるといいます。

菊地さん 3.11以降に起きた移住ブームでは、地方にカフェやゲストハウスなどをつくりたいと若者が大勢やってきました。もちろんそれはそれで活性化につながりましたが、昔からここに住んでいる人たちは、もしかしたら自分たちの故郷を否定されたような気持ちになった人もいたかもしれません。事業承継は、元からある地域の生業を継ぐためによそから人がやってくるわけですから、地元の人はそれはうれしいですよね。

岡山県瀬戸内市継業バンク」には、マンゴー農家(瀬戸内市)、「石川県七尾市継業バンク」には、秘湯の一軒宿(石川県七尾市)など、そのまちに必要な生業を募集しています。

岡山県美作市継業バンク」では、地域おこし協力隊制度をつかって後継ぎを募集しています。事業譲渡だけでなく、将来的に事業を継いでもらう後継ぎの求人や、伝統文化や芸能などを継ぐ“弟子”の募集など、事業譲渡以外の多様な継ぎ方で地域の担い手を募集できるのも「ニホン継業バンク」の特徴です。

岡山県美作市の源流の遊漁施設を担う「地域おこし協力隊」求む。

ここに掲載されている事業は、市町村単位で「残したい」と願う事業承継。それは、経済合理性では測れない、ずっと残していきたい日本そのものかもしれません。

地域で生きる選択肢のひとつとして、地域の生業を継いで暮らしていくこと。それも、経済合理性優先した社会とは違う価値観で「自分の暮らし」のなかで考えていくことです。

浅井さん 行政が継業バンクを持つことで、埋もれてしまっている地域の小さな事業承継に光をあてる可能性があるんじゃないかと思います。行政の人たちも民間企業の継業は他人事ではありません。地域の生業がなくなって一番困るのは地域住民であり行政です。まちの人たちがみんなで向き合わないと根本的な解決はしない問題です。

地方の埋もれた資源を掘り起こし、お金だけじゃない価値観を見出していく。このサービスは、つなぐことだけが目的ではなく、地域の永続的なエコシステムをつくること。

何十年、その土地でやってきたということは地域にとって必要な生業だから続いています。その生業自体を経済合理性のもと「価格」にするとそれほど大きなお金を生むわけではありません。しかし、事業者の人生にとってはすごく意味のある、そこでしかできないこと。地域に必要とされる地域の生態系の一部。そして、ニホンのどこかの誰かがずっと探していた仕事かもしれないのです。

新型コロナウイルスの猛威により、地域の生業はさらに苦しい局面が続いています。高齢の事業者は耐えきれず「もうやめてしまおう」と思い余るかもしれません。しかしその事業は私たちにとって、豊かに生きるために必要なワンピースだと信じます。

世の中を、もっと継ぎやすい、継がれやすい、譲りやすい世の中にしていきたい。それが新時代のいかしあうつながりかたのひとつだと思うからです。

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こちらの記事は「greenz people(グリーンズ会員)」のみなさんからいただいた寄付をもとに制作しています。2013年に始まった「greenz people」という仕組み。現在では全国の「ほしい未来のつくり手」が集まるコミュニティに育っています!グリーンズもみなさんの活動をサポートしますよ。気になる方はこちらをご覧ください > https://people.greenz.jp/