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見ただけでヨガをやった気分になれる? 映画『聖なる呼吸』で知るヨガで「自然と一体になる」ことの本当のすごさ

自宅で長い時間を過ごさざるを得ないという方が、いま非常に多いと思います。その息抜きにということで、ここで映画の紹介をしているわけですが、映画ばかり見ているとそれはそれでまた閉塞感や運動不足を感じてしまいます。

私はなるべく人のいなそうなところに歩いていってぼんやりしたりして過ごしていますが、今回の「UPLINK Cloud」の60本(以上)のラインナップの中に、息抜きにもなりそうな映画があったので紹介したいと思います。

それはヨガ初心者の映画監督ヤン・シュミット=ガレが、現代ヨガの創始者と言われるクリシュナマチャリアの故郷の村を皮切りに彼の足跡を訪ねる旅に出るロードムービー『聖なる呼吸 ヨガのルーツに出会う旅』です。

私はヨガはまったくやったこと無いのですが、この映画を見て挑戦したくなりましたし、ちょっとヨガをやったくらいの気分になりました。そしてヨガがテーマなだけに自分の体と心を見つめ直すよう促される映画でもありました。


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クリシュナマチャリアとパタビジョイスとアイアンガー

いきなり呪文のような見出しで申し訳ありませんが、この映画を見ながらなかなか名前が覚えられなかった3人の重要人物です。この3人の名前だけぜひ覚えておいてください。

さて、ヨガを始めたことでヨガの起源に興味を持ったガレ監督は現代ヨガの創始者クリシュナマチャリアのことを知る人たちに話を聞くことで、彼がどのように現代ヨガをつくったのか、そしてそこには5000年前から存在するというヨガの精神がどう反映されているのかを調べようと考えます。

最初に訪ねたのは、クリシュナマチャリアの一番弟子というパタビジョイス。彼は現在ヨガの最大流派のひとつになっているアシュタンガヨガの始祖です。監督はここで彼から直々に指導を受け、この旅の間に2つのアーサナ(ヨガのポーズ)を習得することを決意します。

パタビジョイスの指導を受ける監督

次に登場するのはクリシュナマチャリアの義弟にあたるB.K.S.アイアンガー。彼は別の流派アイアンガーヨガの始祖です。最大の違いはアシュタンガヨガが異なるアーサナを連続してやるのに対して、アイアンガーヨガではひとつのアーサナを長時間維持すること。

この段階では「へー、そんな違いがあるんだ」と思うだけですが、この違いが実はヨガの本質に関わるものだということが後々わかってきます。

アイアンガーは、師匠であるクリシュナマチャリアが1930年代にヨガを始めた当時、ヨガが世間に受け入れられていなかったことなどを語ります。5000年の伝統があるヨガですが、現代のヨガは文字通りクリシュナマチャリアから始まったのです。

監督は彼やクリシュナマチャリアの子どもたち(とはいってもそれなりに高齢ですが)に話を聞き、ヨガの起源へと思いを馳せます。

クリシュナマチャリアの娘の一人

映画の前半はヨガの起源や歴史についての話が多く、クリシュナマチャリアが藩王の庇護を受けて王の前で弟子たちにヨガを披露させたり、道場をつくって王族のコミュニティの男子にヨガの指導をしていた事実が再現映像とともに語られます。再現映像とは別にアーカイブ映像もあるのですが、そのどちらも身体のコントロールの仕方が凄まじく、ヨガの凄さをここで感じます。

それはそれとして、この史実で語られるのがアシュタンヨガの起源です。クリシュナマチャリアは王族に教える際に身体の鍛錬として現代のアシュタンヨガのようなアーサナを連続してやるスタイルを取り入れます。

アイアンガーは(本人曰く)クリシュナマチャリアに冷遇されて「ヨガに向いてない」と言われ、無理な練習で怪我をするなどしていたそうで、それで独立してから自分の体と向き合ってアイアンガーヨガのスタイルに行き着きます。

それで異なるやり方に見えるヨガの流派が両立するようになったのです。

ヨガとは自分の体との対話である

このアイアンガーが独自の方法に行き着いたことが、実はヨガにおいて重要です。監督が話を聞いたヨガ界の重要人物たちの言うことは、みな同じではありません。みんな「ヨガとはなにか」を語っても、それが違っているのです。

ヨガをやったことのない私が言うのもなんですが、それはヨガの本質が「人それぞれ違っている」ことにあるからではないでしょうか。

違っている話をまとめてみると、共通しているのはヨガにおいて重要なのはアーサナと集中力であるということです。そして、アーサナを一つ一つ習得していった先には心と体の一致があるということ。

私なりに解釈すると、アーサナを習得するには自分の体に集中する必要があり、それが心の鍛錬にもなるから、最終的には心と体が一致した状態を得られるのではないでしょうか(ぜんぜん違っていたらごめんなさい)。

そうならば、その原則を踏み外さなければやり方は自由で、むしろ自分の体に集中して自分にあったやり方を探すことこそが、ヨガをやる上で重要なのではないかと思うのです。

アイアンガーは体が固くて師匠の言うとおりのことができなかったために自分なりの方法を編み出しました。そして、それは彼と同じような悩みを抱える人たちの助けになっています。自分の体を徹底的に見つめたからこそわかる方法論が彼にはあり、だから映画の終盤で見られる彼の指導は非常に的確です。体をどう動かせば筋肉を使わずにアーサナを維持できるのか、バランスをうまくとれるのかが見てるだけで体得できそうなくらいです。

アイアンガーの指導を受ける監督

それはパタビジョイスも実は同じで、彼の場合は呼吸を中心に体を捉えているように見えます。どう呼吸をすればアーサナが取れるのか、その方法を細かく指導するのです。

これを見て、本当にヨガって自分の体をコントロールできるようになる手段なのだと実感できて、実際にやってみたくなりましたし、見ただけでできるようになったかのような錯覚にも陥りました。ヨガってすごいなと。

たどり着くのはヨガの起源ではなく自然との「いかしあうつながり」

ここまでは主に体の話ですが、映画の終盤では心あるいは精神についても言及されます。クリシュナマチャリアもそもそも哲学者で心を探求する中で出会ったのがヨガでした。

映画で語られる断片的な情報を総合すると、ヨガはインドでは宗教と結びついていて昔は日本で言う修験道のような宗教的な鍛錬方法として使われているようです。クリシュナ教の神の一人がアーサナを取っている絵があり、「これがヨガの起源?」と言及される場面もあります。ヨガはインド人が当たり前に感じる神の存在に誰もが気づける方法だというような言葉も出てきます。

この映画で、あまり心や神の探求について触れられないのは、それがある程度ヨガを習得した先にあることだからだと映画を見ながら思いました。初心者である監督はそこまでまだ至っていないのです。アーサナを一つ一つ習得していけば少しずつ見えてくるもの、それが神と言われるものなのではないでしょうか。

そしてその神と言われるものは、自然あるいは森羅万象そのものなのではないかという予感がします。この映画は見ていてすごく気持ちがいいのですが、それは映画の舞台が常に外だったり室内でもオープンエアの空間だったりして常に自然を近くに感じられるから。そしてそこから思うのは、ヨガもそうやって自然を感じながらやるもので、アーサナを取るときどこかで自然と一体になる感覚があるのではないかということです。

自分の体を見つめた結果、それが心を見つめることにつながり、さらに自然という外部ともつながっていく。言い換えれば自分の内に森羅万象とのつながりを発見することになる。それがヨガであるなら、ヨガとは自分の体が自然の中で生かされていることを感じるものなのではないでしょうか。

にわか知識ですが、アーサナの中には動物や植物を真似たものもあり、それは自然の一部になることを目指すものとも聞きます。

そもそも人間も自然の一部ですが私たちは普段あまりそのことを意識しません。それを改めて意識すると何が起きるのか。それは簡単に言えば自然とともに生きるようになること、自然に生かされ自然を生かす一要素になることではないでしょうか。

その自然に含まれるのはいわゆる天然自然の植物や動物だけでなく、周囲の人間も含まれます。自然という大きな集合の一部としていかしあうことを意識する、ヨガを突き詰めてアーサナを習得したらそんなことが起きる予感がしました。

本当にヨガって素晴らしいものだなと思います。結局この映画はヨガの起源にたどり着くことはできませんでしたが、起源なんてものはヨガの本質とは関係ないものだということがわかったので、それでいいのです。

監督が映画の序盤にもう一つの目的として2つのアーサナを習得することをあげたのは、じつは理にかなっていたのです。アーサナを突き詰めていけばヨガの本質は見える、ヨガにおいて大事なのは起源よりもアーサナであるとすでに見抜いていたのかもしれません。

– INFORMATION –

『聖なる呼吸 ヨガのルーツに出会う旅』


2011年/ドイツ=インド/105分

監督:ヤン・シュミット=ガレ

撮影:ディートハルト・プレンゲル

出演:K.パタビジョイス、B.K.S.アイアンガー、T.クリシュナマチャリアの子供たち

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