グリーンズ出版第二弾「場づくりという冒険」販売中!

greenz people ロゴ

狭さも強みにできる。高架下ワンフロア、87平米の「にじのき保育園」が目指す、みんなで子どもを見守る、オープンな場所づくり。

「小規模保育園」って実際、どんなところかご存知ですか?

その名の通り、0-3歳未満児を対象に、定員6〜19人の保育を行う小さな保育園のことです。2015年に国の認可保育園として位置付けられるようになったこともあり、その数は都市部を中心に年々増加。少人数ゆえきめ細やかな保育ができるというメリットがある一方で、マンションやワンフロアのスペースを利用した園が多く、活動が限られるなどの課題もあります。

そんななか、「狭さ」というハードルを軽やかに乗り越え、地域に飛び出してユニークな保育を行っている小規模保育園に出会いました。株式会社にじいろキャンバスが運営している「にじのき保育園」。東京メトロ東西線・行徳駅の高架下にある、敷地面積わずか87平米の小さな保育園です。

メトロの高架下にある「おうちのような保育園」

裸足で歩き回れるように、床にはさくらの無垢材を。棚や机、椅子もそれぞれテクスチャーの異なる木材を使用

行徳の駅を降りて徒歩2分。保育園のドアを開けると、そこには明るく、温かな木の空間が広がっています。落ち着いた木色に映えるのは、良質で色鮮やかなおもちゃ、そして絵本たち。「美術館」と称された園児の作品展示スペースには、のびのびとしたアートワークが飾られています。

子どもたちがアートを楽しむ姿が伝わる「美術館」

驚いたのは、高架下とは思えないほどに静かなこと。訊くと、天井に振動や騒音を吸収するイタリア製の特殊パネルを日本で初めて採用したのだそう。

さらに驚いたのが、天井から降ろされるロールカーテンを使って、食事、遊び、昼寝などの活動に合わせてスペースを作り変えていること。さっきまで子どもたちが遊んでいた机が保育士さんの事務スペースになったり、棚を動かして広いお昼寝部屋をつくったり…緻密なデザインと機能性で、空間を最大限に使った活動を可能にしているのです。

カーテンでスペースを区切っている様子。
一人ひとりの発達や興味を大切にし、遊びに集中できるよう、空間を仕切る「コーナー保育」を採用

そこで今回お話をお伺いしたのは、「にじのき木保育園」を運営する、株式会社にじいろキャンバスの代表取締役 小林祐輔さん。学生時代から仲間たちと保育園設立に向けて資金を貯め、10年の保育士経験を経て保育園の経営者になったという、熱き教育者です。

僕らの保育理念は「笑顔のために」。この「笑顔」というのは、子どもたちが常に笑顔であり続けるという意味ではなく、大人になった時にみんなに助けてもらいながら笑顔で自立できるようにという想いを込めています。

そのために何を大切にしているかというと、安心な空間、本物に触れる体験によって心を動かすこと、そして、共に過ごし、共に育つことです。限られたスペースですが、園内でできないことは地域に出てやったらいいと思うし、「保育園が街に出て行く」が僕らのモットー。だからこそ、地域の方々との交流は密にしていますし、活動を温かく見守っていただいています。

「愛情・共感・興味・意欲・葛藤・達成・思いやり」という7色の肥料が、こどもたちの「安心・心動(心が動く)・共育(共に育つ)」を大きく育てるから「にじのき」


にじのき保育園は異年齢保育。保育士も愛称で呼び、地域の大人とも積極的に関わります

見栄え度ゼロ。本物の世界を理解するための「観察」

にじのき保育園には、子どもたちが「観察する」ためのスペースが用意されています。私が訪れた時に観察中だったのは、「咲いている花」、「枯れている花」、そして「水のない花瓶にさしてある葉っぱ」…これは一体どういうことでしょう?

日本の幼児教育の現場では「咲いている花を展示する」「綺麗なお花を描く」という場面が多いですが、僕らはタネから育ち、咲いて枯れてるまですべてが「花」として、その花の一生の過程を理解できるような教育が大切だと考えます。枯れることはいわゆる「きれい」ではないけれど、それが本物の自然だからです。

魚だって、「魚」という総称ではなく、「金魚」「鯛」などそれぞれに名前があることを幼児期から伝えたい。だって僕たち大人が、一人ひとり名前があるのに「人間」と一括りにして呼びますか?それと同じです。子どもだからといって簡略化しない。小さな積み重ねですが、それがあるのとないのでは、子どもたちが大きくなった時の世界の捉え方が全く違うと感じています。

こうした取り組みは、イタリアのレッジョ・エミリアやデンマークの乳幼児教育の視察をはじめ、国内外の保育研究と、現場での試行錯誤を通じて生まれてきたもの。「大人が準備した保育で満足するのではなく、子どもたちとの対話から生まれるものを第一に捉えたい」と小林さんは語ります。

「食べること」は「生きること」の基本だから。

本物に対するこだわりは、食育にも表れています。園内の調理室で、朝おやつのヨーグルトを手作りし、千葉産や旬の食材を使用した食事を提供。それも、和食は特注の益子焼の和食器に、洋食はロイヤルコペンハーゲンに彩りよく盛り付けられます。

ご飯は右、汁物は左。配膳も大切な教育のひとつ。保育士も一緒のテーブルでいただきます

子どもが陶器の食器を割らないのかとよく尋ねられますが、実際、全然割りませんよ。重さのある陶器だと、持っていることをちゃんと意識できるから、軽いプラスチック食器のように遊ばないんです。それに大人が丁寧に扱うから、それを子どもが真似るということもありますね。

特注の湯呑みは飲みやすいように飲み口を少し広く。アレルギーの子ども用に微妙な色違いも。ディティールに愛情を感じます

確かに、「にじのき保育園」のランチタイムはとても穏やか。食事に集中できる環境があるからこそ、「食べること」を楽しむことができるのです。小さなことから本物を知ることの大切さを伝えている、保育園の姿勢がよくわかるひとときでした。

成長も課題も、すべて「ワンフロア」のおかげ

開園から3年、今では街でも評判の保育園となった「にじのき保育園」。今後の課題などはあるのでしょうか?

振り返ってみると、良かったことも課題もすべて「小さなワンフロアだったこと」につきます。これがベストとは言い切れないけれど、現状のなかでできることはすべてやってきたという自負がある。それに、ここでできるなら大きな場所でやるのは簡単。難しいのは削ぎ落とすことですから。

保育の現場は人材が一番大切です。それはもちろんなのですが、人は思った以上に環境に左右される存在です。だからこそ、開園前から保育環境を徹底的に整えてきました。3年目を迎え、子どもたちの姿を見てその選択は正しかったのだと確信を持つようになりました。今、都市部では限られたスペースで保育をやらなければいけないところがたくさんあります。そこで僕らのノウハウが活かせるはずですし、どんどん伝えていきたいと思っています。

「教育」って要するに「人間」の話ですよね。だったら、教育者じゃなくても、会社員でも建築家でも、老若男女関係なく、誰もが語り合うことができるはず。だから、にじのき保育園は外の人を歓迎するし、「対話」を大切にしています。僕らの「対話」のルールは、本音であること。シンプルが一番ですから。これからも対話を通じて、共に学び共に育つ、新しい乳幼児教育のスタンダードを追求していきたいと思っています。

限られた園内でありながら、緻密な環境デザインと本物を追求する活動で、広い園庭を持つ保育園にも負けない輝きを放つ「にじのき保育園」。地域に開かれた保育園らしく、「いつでも見学を受け付けていますよ」とのこと。都市部での保育活動に様々な問題が投げかけられている昨今だからこそ、その可能性を感じることができるこの場所は、子どもに関わる仕事をしている人だけでなく、未来を考えるすべての人にたくさんのヒントを与えてくれるはずです。

– INFORMATION –

株式会社にじいろキャンバス

https://nijiirocanvas216.pro/

にじのき保育園

https://nijinoki.ed.jp/
https://www.facebook.com/nijinokihoikuen216/

(Text: 川田祥世)

川田祥世(かわだ・さちよ)

川田祥世(かわだ・さちよ)

日米を拠点に活動するライター・翻訳者。興味のある分野は教育、アート、福祉、環境、エシカルな暮らしなど。モットーは「小さな幸せをていねいに伝える」こと。1児の母。日々、子どもたちの豊かな未来につながるトピックを追いかけている。
note: https://note.com/sachiyokawada

この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、こちらをご覧ください。