横浜の中心部にもほど近い、西区・日ノ出町。気持ちのいい風が吹き抜ける小高い山の坂を登ると、住宅街の中にぴょこんとかわいい主張を見せる建物、「CASACO(カサコ)」が建っています。
ここは「多国籍な方が共同生活をし、地域の方々と一緒にコミュニティスペースとして盛り上がっている場所」だそうですが、確かに、エントランスの石畳テラスといい、ガラス戸に描かれたフリースタイルな描き込みといい、中に入る前から楽しそうな空気が漂っています。
一体CASACOとはどんな場所なのか。その真相を探るべく、スタッフの玉腰 純(たまこしじゅん)さんを訪ねました。
入り口を入ると、広いダイニングと横につながるリビングが出迎えてくれました。お邪魔した時はちょうど、数名の方々がテーブルを囲みながらも、各自の手元では自分の作業をしていて、どこかのお茶の間にお邪魔したような感覚を覚えます。
早速ですが、「CASACO」は、どんな場所なのでしょうか?
玉腰さん 「CASACO」は留学生のホームステイと、コミュニティスペースを兼ねたところです。元々は2軒長屋だった古い民家をつなげるようにしてリフォームして、2階は留学生が最大6名まで滞在する居住スペース、1階は留学生だけでなくご近所の方々も一緒に交流できるスペースにしています。
「CASACO」とは、「ココの家」という意味のスペイン語のフレーズから付けた名称だそうです。では「ココ」が何かというと、運営母体であるNPO法人Connection of the Childrenの通称が「CoC(ココ)」、ということでした。
CoCの代表・加藤功甫(かとうこうすけ)さんは海外を旅しながら様々な人に助けてもらった経験や感謝を日本で循環させるべく、国際交流と教育事業を軸としたNPOをスタートしました。その「感謝の循環」が玉腰さんの思いとも重なり、「CASACO」がオープンする頃から、そして現在では、一番長く勤務されているスタッフでもあります。
ぼく自身は隣の家に住み、外部委託スタッフとして働いています。誰かの健康管理に貢献したいという思いで、個人で整体師の仕事も続けていますし、今年からは同じ駅にある別のコミュニティスペース「Tinys Yokohama Hinodecho」でも仕事をしているので、「CASACO」のスタッフでもあるけど、近隣の参加者でもある感じですね。
海外で受けた感謝を、留学生たちへの循環にして
「CASACO」となる長屋のリフォームが始まった頃から関わり始めたという玉腰さん。そこにいたるまでどんな経緯があったのでしょうか?
大学2年生になる頃、純粋な好奇心でパラグアイの学校建設プロジェクトに関われるゼミに入ったんです。もとから国際協力に関心があったわけではなく当初は「パラグアイって、どんな国なんだろう?」という気持ちからでした。実際にパラグアイの現地に入って、ニーズ調査などフィールドワークに取り組みました。
パラグアイからの帰国後、ゼミの教授がトンガ王国の健康促進プロジェクトに繋いでくれたので、大学4年生時に休学し「青年海外協力隊」としてトンガ王国で7ヶ月活動しました。
そして、トンガ王国からの帰国後、ゼミの先輩がCoCの活動を紹介してくれたんです。ちょうど、「CASACO」をつくるために、元の古い民家をリフォームし始めた頃だったので、インターンとして一緒に壁を壊したりするところから参加しました。
好奇心をもって目の前のことに一生懸命に取り組むことで、次の機会につながっていった玉腰さん。特に海外での経験が、今の活動の原点になっているそうです。
日本に帰ってきて思い出すことは、パラグアイですっごくお腹が空いた時に食べ物をくれた人とか、トンガで困ってるときに親切に助けてくれた人とか、そういうことだったんです。自分が彼らを助けるつもりが、助けられることもたくさんあって。世界でつながった人にいただいたものを、日本に来ている留学生を通してお返しするのもいいな、と思うようになりました。
海外での経験や、感じたことを自分らしく現実的な形で、外国籍の方に「お返し」したい、と思っている自分の本心にも気づいたところで、タイミングよく「CASACO」に関わりができ、住まいも隣家のため、「CASACO」に関わる時間が増えていきました。いつの間にか「自分にとってかけがえのない場所になっている」と気づいた玉腰さんは、趣味の動画編集スキルを活かし、みんながリフォーム作業をする様子を撮影。その動画をグランドオープンのときに公開するなど、自身の強みやスキルを活かしながらコミュニティの一員になっていきます。
4分ほどにまとめられた動画を見ていると、リフォーム前の古く痛んだ壁や床が取り除かれ、関係者や子どもたちがプロと一緒に壁を塗ったり、テラスにタイルを積んだりしている様子が見て取れます。こんなにも多くの人が関わって誕生した場所であれば、今もそれぞれその人なりの「CASACO愛」をもって関わっていることが目に浮かぶようです。
1階はご近所を”巻き込んだ”コミュニティ化
玉腰さんは現在、「CASACO」滞在中の留学生とお出掛けイベントを企画したり、近隣の方が1階で開催するイベントのサポート、SNS運営、週1回の食事担当など、幅広く「CASACO」の毎日に関わったりしているそうですが、お話を聞いているといろんな疑問が浮かんできます。
近隣の方はどんな経緯で「CASACO」に関われるのか?
留学生ってどんな方々がどんな暮らしをしてるんでしょう?
率直に色々おうかがいしていたところ、急にこんなおいしそうなものが出てきました。
こちらは、中米の国・ベリーズの名物料理で「フライジャック」と呼ばれるお料理。つくってくれたのは、学業と並行してCoCの活動に参加しているおふたりでした。
「CASACO」では定期的に、世界の朝ごはんをみんなで食べよう、というイベントを開催していて、もう100回以上も色んな国のメニューを取り上げてきました。今度それをまとめて本にしようという企画があって、本が大好きな綾香ちゃんと貴子ちゃんがそれぞれ「編集長」「副編集長」になって試作などを手伝ってくれています。
他にも1階で毎月開催している和菓子の体験会があって、これは近所の女性が講師としてCASACOと共催してくれています。はじまりは「和菓子をつくれるようになりたい」と言った留学生へのレクチャーだったんですけど、彼女が帰国した今もみんなが気軽に参加できる体験会として続いてるんです。
それと、乳幼児を連れたご近所のおかあさんたちが集う会とか、あと、ここで食堂を定期開催する保育士の女性もいます。
はじめは他のイベントのいち参加者だった彼女が、徐々にご飯をつくる手伝いをしてくれて、そのうち月1回、みんなが来られる食堂として開催するようになって、さらに彼女は最近、「Tinys Yokohama Hinodecho」など別の場所でも食堂イベントをするようになりました。
「CASACO」に遊びに来ていた人がここで、自分の良いところを活かすきっかけを見つけて、自分はこれができるかもしれない、と少しずつ人生を変化させていく姿を見られることはすごく嬉しいですね。
近隣の方々との距離を縮めるために、「CASACO」設立時のメンバーは初めからどんどん行動しました。街のキーパーソンの懐に飛び込み、活動を知ってもらうために思いを語り、リフォーム作業に誘います。また、定期的に町内の情報をA4サイズにまとめて印刷し、定期的に近隣に配布するという地道な「地域新聞」をスタートさせました。
A4紙1枚に書き込んだお手製の「東ケ丘新聞」は現在、両面三つ折りのボリュームに進化しました。「せっかく配るならCASACOのことも知ってもらおう」と、留学生の紹介や当月開催するイベントカレンダーも掲載。今ではご近所の方々に、旬の超ローカル情報を届ける紙媒体として支持されています。
もちろんまだまだ「CASACO」に来たことのない方もたくさんご近所にいるので、気軽に参加してくれるきっかけのひとつにしてもらいたくて続けています。とはいえ、「来て来て」と言うだけではなく、ぼくたちも積極的に他のコミュニティと関わりと広げていきたい、と考えています。
横浜はソーシャルアクティビティが盛んだからこそ、「ぼくらが進んで他の団体やコミュニティに顔を出し、いろんなプレイヤーたちをつないでいきたい」と話す玉腰さんはとても頼もしい表情をされていました。
個人的には、「CASACO」が誰かにとっての「居場所」になるといいな、と思ってるんです。居場所を求めている人はいるはずだし、ぼく自身も前職に在職中、がんばりすぎて心が疲れてしまい休職した経験があります。だから気持ちが弱くなっている時は「CASACO」で迎えてあげたい、という気持ちがあるんです。
ただ何事も「無理はしない」とメンバーと話しています。「CASACO」の存在感を伝える活動も大切ですが、ここはあくまで留学生の暮らしの場、彼らの生活が第一優先です。
「CASACO」が楽しいコミュニティの場になっていることは理解できましたが、実際、語学学習中の留学生にとって、コミュニティの存在とはどんな意味があるのでしょうか。他ではなく「CASACO」を選ぶ理由を聞いてみました。
留学生が「CASACO」を選ぶ理由とは
フランスから留学中のジェレミーさんは、なんと「CASACO」のリピーター住人さん。「すごく暮らしやすい」と話してくれました。住み込みの管理人さんや、他の留学生など、大学生から20代の同世代と知り合い仲良くなれること、それも、「少し変わってる人が多いのが面白い(笑)」と教えてくれました。
ジェレミーさんが通う語学学校は都内にあるそうですが、いつも人がたくさんいる都市部よりも、普段のんびりと地域の方々と過ごしたりできるペースが合っているんだとか。「横浜が好き」と言われるのは、地元好きで有名な横浜市民にとって最高に嬉しい言葉ですね。
ここでは毎日一緒に晩ご飯を食べます。管理人さんやぼくらスタッフで交代で食事をつくり、特別な用事がない限りは留学生も帰宅してるので、基本的に毎日一緒に食べるんです。
他愛のない会話なんかをしながら日々の食事を一緒にしてると、だんだん本当に家族みたいになるんですよね。留学を終えて帰国しても彼らの国に遊びに行ったり、また旅行として日本に遊びに来る人もたくさんいます。ぼく自身も友だちができるペースが早くて旅行が追いつかない、行きたい街が世界中にどんどん増えてます。
かかわる人それぞれが、その人なりの立場で関係性を築いている場所、「CASACO」。インタビューを終えたあとも脳内に引きずるほど印象的だったのは、「いつの間にか、かけがえのない場所になっていた」という玉腰さんの言葉でした。
大切なことは決して、知り合ってからの期間ではなく、一緒に過ごしながら育まれる関係性。その影響力がいつの間にか、誰かの人生を少しずつ幸せに導くことを「CASACO」は教えてくれました。
「CASACO」のイベントは、ご近所在住ではない方の参加も大歓迎されているそうです。気になった方はぜひ、「CASACO」のウェブサイトやFacebook、インスタグラムをチェックされてみてください。
(撮影:Takuya Ogino)
– INFORMATION –
今回の記事は、人生100歳時代の生き方を豊かなものにするための最初の一歩目を応援する神奈川県と一緒にお届けしました。
神奈川県とPeatixが開設した特設ページ「好きかも!を見つけよう」には様々な生き方、そして参加できるコミュニティ・イベントが紹介されていますのでこちらも是非ご覧ください。