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世界に体温を取り戻す革命は、1冊のスケッチブックから始まった。Googleを辞めた青年が「人の美しさを照らす、時をかける本」を生み出すまで

「どうしたら自分のいのちが満たされる生き方ができるんだろう」。そんな問いの答えを求めて、ノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのベンチャーや、「世界で最も働きがいのある企業」に選ばれた会社で働いてきた三好大助さん。その挑戦と葛藤の旅路の末にたどり着いたのは、「大切なひとの “ありのままの美しさ” を祝福する」という、とてもシンプルな答えでした。

そんな彼が2019年12月に始めたのが、「人の美しいところ」が書かれた本が世界を旅する『# The Beauty I see in You(邦題:あなたの美しいところ)』というプロジェクト。

自分の大切な人の 「美しいところ」 をページに書き込み、本人に手渡す。今度はその人が自分にとって大切な人の 「美しいところ」を書き、手渡していく…。そんな、何年もかけて手から手へと渡っていく聖火のような本を100冊つくろうと、今回、クラウドファンディングをスタートしました。

いったいなぜ、三好さんは「美しいところを伝えあう」プロジェクトをはじめたのか。その背景には、波乱万丈な30年の葛藤、そして彼がずっと深いところで抱えていた「痛み」と「願い」がありました。グリーンズ求人のプロジェクトマネージャーであり、生き方編集者である山中康司が話を聞きます。


『# The Beauty I see in You / あなたの美しいところ』 予告編 from # The Beauty I see in You on Vimeo.

三好大助(みよし・だいすけ)
1988年島根県生まれ。バングラデシュのNGO、Google などで、テクノロジーを通じた社会課題の解決に情熱を注ぐ。その経験から「この世界の在りようは、わたしたち一人ひとりの意識の在りようとつながっている」と気づき、内的世界の探究を開始。
その後ファシリテーターとして独立し、企業の組織開発や個人の内的変容の伴走を行う傍ら、現在は企画中のアートプロジェクトに全身全霊を注いでいる。

ありのままの自分なんて価値がない。そうずっと思ってきた。

山中 だいちゃん(三好さんの愛称)とは普段から仲良くしているけど、「# The Beauty I see in You / あなたの美しいところ」のことを知った時はくやしかった。だって、素敵すぎるもん。

三好さん うれしいなぁ(笑) ありがとう。

山中 『# The Beauty I see in You / あなたの美しいところ』っていうタイトルは、どこからきてるんだろう?

三好さん 13世紀のペルシャの詩人であるルーミーという人が、「The beauty you see in me is a reflection of you.」と書いているのね。意訳すると、「あなたが私に美しさを見出だせるなら、それはあなたが同じ美しさを持っているからだ」。すごくいい言葉だなと思って、その言葉をもとにタイトルを決めたのよ。

この本に大切なひとの 「美しいところ」 を書き、手渡す。

山中 このプロジェクトを始めようと思ったのはどうして?

三好さん 実はそもそもね、他でもない僕自身が「自分はありのままでは存在価値のない人間だ」って思っていたところから始まってて。だから自分のことはおろか、人を見ても「ありのままで価値があるし、美しいなあ」なんてなかなか感じれなかった(笑)

山中 だいちゃんって明るいイメージだったから、それは意外かもしれない。

三好さん いやそれがけっこう根深くてさ。僕、今31歳なんだけど、20代の頃は特に「自分の存在価値を証明しなきゃ」っていう焦りがやばかったのね。「そのままの自分だと存在価値なんてないし、世界から受け入れてもらえない」っていう恐れと焦燥感が凄まじかったの。

山中 僕もその感覚、分かるかもなあ。

三好さん だから「世界の大きな課題解決に貢献できたら、自分は価値のある人間になれるし、満たされるに違いない」って、ひたすら頑張ってきた。でも実際どんなに成果を出しても不安なんて消えたことはなかったし、むしろ不安は増す一方だった。

山中 なるほど。

三好さん でもあるキッカケを境に人生観が一変してね。ずっとないことにしてた自分の深いところにある 「痛み」と「願い」 に気づいて。「世界の課題解決なんてしなくても、自分はこんなささやかなことで満たされるんだ」って。それでこのプロジェクトを始めたんだよね。

山中 そこに至るまでのストーリーを、今日はぜひじっくり聴かせてよ。

ノーベル平和賞の会社でも、世界一働きたい会社でも、満たされなかったもの

三好さん さっきも言ったように「世界の課題解決に貢献できたら、自分の価値も認められるし満たされるはずだ」ってずっと思ってて。ちょうど1988年生まれの僕ら世代が学生の頃って社会起業家ブームがあってさ、僕も「ソーシャルビジネスがこそが希望だ!」と思ったんだよね。「このコンセプトなら、社会もよくすることができるし、自分も満たされるはずだ!」って。それで休学してバングラデシュに行って、グラミン銀行で働き始めたのよ。

ムハマド・ユヌスさんと三好さん

山中 グラミン銀行といえば、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスさんが立ち上げた銀行だよね。

三好さん そう。貧しい人々に対して無担保で小額の融資を行う「マイクロクレジット」という方法で注目を浴びていたんだけど、実際に2010年にバングラデシュに行ってみたらびっくりした。グラミン銀行へのバッシングがすごかったの。

山中 それはどうして?

三好さん 僕が働き始めた当時、「マイクロクレジット」っていう手法をいろいろなNGOが採用し始めて、マイクロクレジットバブルみたいになってたのね。NGOも資金提供者に対して数字で成果を見せて支援を継続してもらいたいから、こぞって村の人たちにお金を貸し始めてた。その結果、貧しい人々のなかに多重債務に陥る人が増えちゃって。ついには自殺者が出ちゃったことで、社会問題化してたの。

山中 あぁ、そうだったんだ。

三好さん それが僕にとっては衝撃でさ。しかもグラミン銀行社内ではそういう煽りと市場競争のプレッシャーもあったのか、精神的に病んで休む人が出てくる事態になっていて。ソーシャルビジネスに関われば美しい体験ができるはずだし、いずれ自分が社会起業家になれば社会も良くできると思ってた。

だけど、ノーベル平和賞を取るくらい優れた仕組みだって認められた「マイクロクレジット」でも、新たな問題を引き起こしている現場を生で見ちゃってさ。「ソーシャルビジネスの優れた仕組みだけあっても、それを運用する側の在り方が変わらないと世界は変わらないのかも…」とひしひしと感じたんだよね。

山中 その経験を経て、今度はGoogleで働き始めたんだよね。

三好さん そう。社会をより良くするビジネスモデルが確立されていて、なおかつ組織の在り方にも真剣に取り組んでいる会社なら、本当の意味で世界を変えている手応えを掴めると思ったし、自分自身の存在価値も認めることができるんじゃないかって思って。

Google時代のチームメンバーと

山中 Googleはどうだった?

三好さん めちゃめちゃいい会社だったよ。たくさんのことを経験させてもらって、今でも感謝してるし大好きな会社。でもそんな環境でも、満たされてるって感じは続かなくて、むしろ「もっと自分の価値を高めないとマズイ」って不安が止まらなかった。

山中 そうだったんだ。

三好さん 僕はまだ軽度だったんだけど、社内ではちょっとずつメンタルの調子を崩して休んでいく人も増えていた時期でさ。お給料はたくさんもらえるし、福利厚生も充実してるし、ヨガとかマインドフルネスみたいな心についての研修もあるわけ。

Googleって当時は、世界で一番働きたい会社に選ばれてた組織でもあった。それほどまでに組織制度は客観的にも優れているのに、それでも自分含めメンタルの調子を崩すってことが社内で起こっていて。

山中 なるほど。やっぱりどれだけ良い職場環境でも、そういうことは起こるんだね。

三好さん で、やっぱりそういう時ってお客さんとの間でも何か起き始めたりするじゃない?このあたりの時期から、プロダクトや組織制度がどれだけ客観的に優れていても、アウトプットを決めることには、見えない何か別の力学が働いてるんじゃないか。その答えは、一人ひとりの内面にあるんじゃないか。そう感じ始めたんだよね。

山中 おもしろい。バングラデシュでは課題解決の方法は優れていたけど、組織の在り方に疑問を抱いていた。そしてGoogleでは、課題解決の方法も組織制度も両方優れてるはずなのに、だいちゃんとしては残念な体験が残ったんだね。そしてカギは一人ひとりの内側にあるのでは、と。

三好さん あくまで僕の見方としてはね。この辺から「なぜ自分がどれだけ成果を出しても満たされないのか」という問いの答えと、ビジネスとしても「世界の課題解決と組織で働く人たちの幸福の両立はどうしてこんなに難しいのか」という疑問の答えが、根本的にはつながってる気がし始めたんだよね。ここからちょっとずつ人の意識とか心理構造に興味を持っていった。

「悪くはないけど、満たされ切れない人生」をつくっていたものの正体

サンフランシスコ時代の仲間たちと

三好さん とはいえ「価値証明しないとやばい!」「世界の課題を解決できる男にならなければ!」っていう気持ちは全く消えてなかったのね(笑) そこで、Googleを辞めた後にサンフランシスコに場所を移してスタートアップで頑張ってたんだけど、人生を揺るがす大事件が起きちゃってさ。

山中 なんだっけ、これ前に聞いてめちゃくちゃ驚いた気がするな。

三好さん 実は仕事に没頭するあまりカレンダーの確認ミスをして、なんとビザの許可されてる日数を4日オーバーしちゃってたの。

山中 そうだった!やばいじゃん(笑)!

三好さん これはもう不法滞在というれっきとした犯罪ですから。向こうに家もあったのに、急遽アメリカに2〜3年入れなくなっちゃったの。

山中 …すごい体験だ。

三好さん 人生強制終了のお知らせが届いたみたいなショックでさ。「もうこれから自分の存在価値を高めることできないじゃん、どうしよう…」って、本当に人生どん底の絶望だった。でも帰りの飛行機の中ね、めちゃくちゃ悲しくて泣いてるんだけど、なぜか安心してホッとしてる自分もいることに気づいたのよ。

山中 ほぉ〜。

三好さん 「なんで自分は安心してるんだ?」ということにも驚きつつ、人生振り返るいい機会だなって思って、いろんな人に相談しはじめた。そこで出逢ったのが「メンタルモデル」という考え方だったんだよね。

山中 だいちゃんが今フリーランスとして、企業の組織改革にも使ってるアプローチの一つだよね。

三好さん そうそう。今や仕事仲間でもある由佐美加子さんっていう人が、当時から探求していたアプローチで。簡単に言うと、人間って過去に味わった「痛み」を二度と味わうことのないよう、無自覚な行動パターンを繰り返して生きてると。このパターンを生み出すことになった「痛み」に気づくことがカギだって言うのね。初めて聴いた時「これだ!」って思った。

山中 なるほど。だいちゃんはどんな「痛み」だったの?

三好さん 僕の場合は4歳くらいの時から、悪さをしたお仕置きで、両親から実家の真っ暗な地下室に閉じ込められるってことをされてたのね。僕としては、めちゃめちゃ心が痛かったの。「ありのままで愛されてて、つながってる」と思ってた両親から、切り離されて真っ暗で冷たい地下室に閉じ込められてさ。「開けてよ〜!!!」って叫びながらドアをドンドンドンって叩いても、全く無視で放置されてた。

山中 それは想像してみても、心が痛いだろうなと思う。

三好さん そういう「痛み」が起きた時に、幼い子どもってその痛みの感情を受け止めるキャパシティがないんだよね。だから「この『痛い体験』は、自分が◯◯だから起きたんだ」って “痛みの理由付け” をするの。

山中 理由づけ?

三好さん そう。そうやってでっち上げた「自分が◯◯だからなんだ」っていう思考のドラマに浸ることで、身体に起きてる痛みの感情を紛らわせることができる。そうやって「痛み」の理由付けのために採用した言葉を「メンタルモデル」と呼んでるの。僕の場合だったら、「この世界に僕はいてもいなくてもいい存在なんだ」っていうメンタルモデルができてたんだ!と気づいたんだよね。

山中 あぁ、なるほど。「僕はいてもいなくてもいい存在なんだ。だからこうやって切り離されて閉じ込められるんだ」と理由をつけることで、自分を納得させるのか。

三好さん そうだね。まさか自分がそんなことを思い込んでるとは想像してなかったし、凄まじい衝撃だった。でもそれに気づいた時、自然と泣けてくる感じでさ。「ああずっと自分は、この世界にいてもいなくてもいいヤツだって、深いところで思ってたんだな」って。

山中 そのメンタルモデルが、無自覚な行動パターンっていうのにつながるのかな。

三好さん そう。「いてもいなくてもいい存在」のままだと切り離されて地下室に入れられちゃうから、「いてもいい存在」「いることを許してもらえる存在」になろうと頑張る。ここがまさに「無自覚な行動パターン」っていうやつ。僕だったら、存在するだけの価値があるって認めてもらおうとして、期待に応えて頑張るってことを必死にやってた。

山中 でも、「痛み」は消えなかったんだよね。

三好さん うん。どれだけ成果を出したとしても「自分はいてもいいのだろうか?」っていう不安はなくならなかった。そして上司とかから認められない度に「ああ、やっぱり自分はいてもいなくてもいいんだ」って思ってしまう感じ。

三好さん だからどれだけ活動の場所をバングラデシュやサンフランシスコに移したとしても、どれだけ世界の課題解決能力を上げたとしても、僕の場合「やっぱり自分はいなくていいんだ」っていう結論から逃れられないループを、自分でつくってたってわけ。

それに、僕がグラミン銀行やGoogleで目の当たりにしてきた光景も、大きな意味では同じような何かしらのループ構造があったのかなって。「目に見える仕組みやソリューション」をどれだけ洗練させたとしても、社内外で問題が起きて不本意な体験をすることは、結局その仕組みやソリューションを動かす一人ひとりのメンタルモデルが影響してたのかなって。

山中 なるほどなぁ。

避けてきた「痛み」の奥にあったもの

三好さん じゃあ何をすればいいのかって、答えはめっちゃシンプルで。「その気づいた『痛み』を消そうとするんじゃなくて、『痛み』を味わったらいいよ」って由佐さんは言うわけよ。

山中 「痛み」を味わう?

三好さん そう。「痛み」を避けようとするからそもそもこのループは続いてく。逆に言うと「ああ自分はこれが痛かったんだね」って「痛み」を味わって、その奥にある「願い」に触れられると、このループは違うパターンに自然に組み変わってく。

山中 だいちゃんの場合は、どんな風に「痛み」を味わってたの?

三好さん 僕の場合は、とにかくこの地下室の件について、母親とめちゃくちゃ対話した。親を責めるわけではなくて、当時の自分がどんなことを感じてたかを味わいながら話して、それをただただ聴いてもらってた。そんな対話をゆっくりと半年くらいかけてやってたのよ。

山中 それはかなり深い時間だね。

三好さん そうすると、母親も自分のことを話すようになってさ。どれだけ地下に連れていく自分に苦しみがあったか。そしてどれだけ僕のことを愛してくれてたか。そういう母親の生の感情に触れると、そこではじめて概念じゃなくて体感として「ああ、自分はありのままでちゃんと愛されてたんだ」「自分はそのままで十分に価値があって、美しいって言えるのかも」って感じられたんだよね。

山中 まさにプロジェクトのタイトルにもある「美しさ」だね。

三好さん そうなんだよ。自分もそう、目の前の母親もそう。そして「誰もがそこに存在してるだけで十分に価値があるし、美しい」って感覚が、不思議なことに湧き起こってきたんだよね。

山中 あぁ〜、なるほど…。「誰もがそこに存在してるだけで十分に価値があるし、美しくあっていい」っていう感覚が、「『痛み』の奥にある『願い』」だったんだね。

「こんなスケッチブックひとつでよかったんだ。」

三好さん そんな感覚が自分の中に生まれると、もう存在価値の証明に興味がなくなっちゃってさ(笑) まさに自然とこれまでのパターンが止まって。と同時に「ああ、自分って結局『あなたはこんなに美しいいのちなんですよ』って目の前の人に伝えたいだけなんだな」って気づいたのよ。

山中 「願い」が自分の中で明確になっていったんだね。

三好さん そう。だから自分が救われるキッカケにもなったこの「メンタルモデル」っていうアプローチを、人や組織にも提供する仕事を始めたんだけど。もっとストレートに表現しようと思って、「愛の爆弾テロ作戦」っていうのを勝手にやり始めた。

山中 「愛の爆弾テロ」。なかなかインパクトあるな(笑)

三好さん って言ってもめっちゃ簡単でさ。スケッチブックを買って、自分が大切だなって思う人の美しいところを何ページも書いて、その人に突然手渡す(笑) 完全に思いつきだったんだけど、それを何人かにやり始めてたら、まず手渡す前の時点で書きながら何故か泣けてきたの。

実際に渡したスケッチブック

山中 その人の美しいところを書きながら。

三好さん そう。「僕は実はこの人のこういうところを愛してたんだ」って自分でも無自覚だった相手への想いに気がつくと、ジーンとこみあげるものがあってさ。しかも、それを渡された相手が「ありがとう…」って想像以上に喜んでくれたり、涙を流してくれたりして。中には「自分も大切な人に書いてみたい」って言い出す人も現れて。

山中 思わぬ連鎖が起こったんだね。

三好さん それでハッと気付いたの。僕はそれこそ10年近く、自分が満たされるには存在価値の証明が必要だし、そのためにも社会課題を解決するカッコいいビジネスと組織をつくらなきゃって、それは必死にエネルギーを注いできた。

山中 うん。

三好さん でもさ、僕のいのちが満たされるためには、そんな小難しい仕組みや美しいソリューションを発明する必要なんてなかったんだよね。そして僕のいのちが満たされた瞬間、ささやかだけど僕の隣の大切な人も満たされていた。

「なんだよ、こんなスケッチブックひとつでよかったんじゃないか…」って。ノーベル賞も獲れやしないし、何億円も稼げるわけじゃない。たった何百円かで買えるスケッチブック1冊で、こんなにも満たされて、目の前の人も満たされる。これで十分じゃないかって、頭じゃなく身体で理解することができたんだよね。

一人ひとりが、自分の世界に体温を取り戻していくということ。

山中 そんな個人的にやっていたスケッチブックの活動を、世界中の人たちと一緒にできたらというのが『# The Beauty I see in You / あなたの美しいところ』のプロジェクトなんだね。

三好さん そう。もしかしたら僕と同じような体験が起こる人が他にもいるかもしれないっていう好奇心から。それに「自分ありのままの美しさ」を祝福してもらえる体験は、親しい間柄でも何年かに一度でもあったらいい方じゃない?僕たちは美しさを感じ取っていても、それを伝えないことの方が多いから。

山中 たしかにそうだよね。長年連れ添った夫婦や親友でも、逆に照れがあったりするかも。

実際に書き込まれた「美しいところ」の例

三好さん このプロジェクトをキッカケに、「私はこの人のこういうところを愛おしく想ってたんだ」って気づく機会をつくれたらと思うし、「自分はこんなにも想ってもらえてたんだ」ってありのままの自分を肯定できる瞬間を届けられたらって思うんだよね。

山中 そうやって聖火リレーのように「美しいところ」を受け渡していく本を100冊つくってみようっていうのが、このプロジェクトだと。

三好さん そう。このプロジェクトによってささやかでも、美しいところを伝え合う文化をこの世界につくっていけたら、この世界に体温を取り戻すことにもつながるんじゃないかって思っててさ。

山中 この世界に体温を取り戻す。

三好さん グラミン銀行やGoogleでも感じたけど、数字目標や仕組みのために効率を上げようとすると、どうしても人はその機能を果たすための歯車になってしまうし、その人である必然性って減っちゃう。替えが効くっていう状態をつくるのが会社や社会にとっては安心だし、逆に一人に依存するような仕組みは再現性がないからダメだと言われる。

山中 うんうん。

三好さん でもそれが行き過ぎると、その人の固有性は発揮されにくくなるし、その場からは体温が失われていく。コンビニとかでも目の前に店員はいるけど、余計なことはせず、ロボットがやっても変わらない作業が求められてるわけで。そこにその人の体温って感じづらい場になることが多いよね。

つまり、目の前に人はいるけど、その人特有の存在感は感じにくくて、代わりに不在感が場を埋めるって構造が、世界の特に都市部では覆ってるように感じる。

山中 しかもその流れはAIが普及していくと、ますます拍車がかかるよね。

三好さん そう。だから人のイキイキとした存在感に触れる機会は減るし、自分自身もありのままの存在感を発揮する必然性は、2020年以降ますます減っていっちゃうと思ってるんだよね。人との熱を帯びたつながりを感じられない寂しさと、何より自分の存在感を自分で感じづらい寂しさ、両方あるよなって。

山中 それが、体温がない世界っていうことだね。

三好さん うん。このプロジェクトでそれを解決できるだなんて思ってはいないけど。招待状みたいな感覚なんだよね。「僕の場合は、大切な人と『美しいところ』を伝え合うっていうたったそれだけで、自分の世界に体温が戻る小さな革命が起きました。あなたもどうですか?」って。

山中 なるほど。自分の世界に小さな革命を起こす招待状なんだね。

三好さん そう。そのための聖火を回してみませんかって。そしてこの本には、その聖火で照らされた世界中のたくさんの人たちの美しいところが書き込まれてる。自分の大切なひとへと次々渡されていった結果として今自分の手元にあるってことは、ここに書かれてる人たちみんなと自分は、ひとつらなりにつながってるということになる。

山中 確かに。ロマンがあるね。

三好さん 地域や国を越えるかもしれないし、文化や宗教も越えるかもしれない。この聖火が何年かけてどんな旅をするか分からないけど。実は見えない糸でつながっていた何十人の存在感に触れられることは、ひょっとすると自分の体温をより温めてくれることになるかもしれないよね。

世界中の1万人の美しさが照らし出す、人間の希望。

山中 最後に、これからこのプロジェクトをどんな風に進めていくのかぜひ教えてよ。

三好さん 昨年はテストとしてこの本を5冊、デンマークとかアメリカとかフランスとかで回したんだけど、今回は合計100冊を日本含めていろんな国や地域で回したいと思ってる。

山中 回った本は最後にどうするの?

三好さん 1冊あたり100人分が聖火リレーできる厚さでつくってるんだけど、100人分のリレーが終わったら、最後に事務局の僕のところに返してもらおうと思ってるんだよね。100冊つくるから、最大で世界中の1万人分の人の「美しいところ」が集まる可能性がある。

山中 それはすごい数だね。とっても多様な内容になりそう。

三好さん そうそう。たぶん書かれてる言語だっていろんな種類になるだろうしね。そしてその書き込まれた内容を集めて、アートギャラリーとかで壁一面に「美しいところ」を展示した「あなたの美しいところ展」をいろんな国で開催したい。

山中 それは壮観だろうなぁ。

三好さん 今人間に対して「不在感」を感じる一方で、逆に「この人たちはこういうもんでしょ」っていうレッテルもすごく社会に溢れてると思ってる。本当にその人のありのままの存在感に触れるのって難しくなってると思うんだよね。だから例えば、自分の国と仲が悪い国のひとの「美しいところ」が書いてあったりすると、その国の人たちに対するレッテルを越えた存在感に触れられる機会になると思ってて。

ネイティブアメリカンの長老にも実際に手渡しされている

山中 それは本当の意味での相互理解につながりそうだな。

三好さん そうそう。ささやかな機会ではあるけどね。でもこの最大1万人の「美しいところ」に触れられる展示空間が実現すれば、「人間の多様なありのままの美しさ」に触れられて、ひいては自分たち人間に対する理解と希望みたいなものが育まれるんじゃないかなって思ったり。

山中 いいねいいね。

三好さん まあとにかく、面白そうだからそこを目指して、共感してくれる人たちと一緒にやってみよう! くらいなノリだよ。何より自分が「ああ今日もどこかであの本たちが旅をして、愛を伝えてるのかな」って想いを馳せるだけで僕は幸せだから(笑)

それに究極この本じゃなくてもいい。スケッチブックや手紙を買ってきて、大切な人に美しいところを伝える人が少しでも増えるとうれしい。そうやって美しいところを伝えあうっていうムーブメントが必要な人に広がっていって、誰かの世界に体温が戻ってくる体験が生まれたら、僕にとってこれ以上の歓びはないよ。

(撮影: 保延みさき)

– INFORMATION –

三好大助さんは、ひとの美しさを照らす、時をかける本を世界に届けるために
2019/12/3〜2020/1/23の期間でクラウドファンディングに挑戦中です。
三好さんの取り組みに共感した方は、ぜひチェックしてみてくださいね!

クラウドファンディングのページはこちら

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こちらの記事は「greenz people(グリーンズ会員)」のみなさんからいただいた寄付をもとに制作しています。2013年に始まった「greenz people」という仕組み。現在では全国の「ほしい未来のつくり手」が集まるコミュニティに育っています!グリーンズもみなさんの活動をサポートしますよ。気になる方はこちらをご覧ください > https://people.greenz.jp/