人生の中でふと立ち止まりたくなったり、少し社会と距離をとりたくなったりすることは多くの方が経験すると思います。
しかし、実際に少し社会から離れた時間がある方のなかには、周りの目が気になって戻りにくくなる方や、どうやって一歩を踏み出せばいいかわからなくなる方も少なくありません。「履歴書の空白」を抱えていると、そんな「空白」が心の重荷になってしまうことがあるのです。
そういった気持ちを抱えている方にとって少しでも力になればと、12月11日(水)に都内で開催されたのが、「#履歴書の空白について話そう。サポステ生会議」。
イベントには、ゲストとしてモデルやタレントとして活動をしている最上もがさん、「地域若者サポートステーション」、通称サポステのスタッフである山田純輝さん、遠藤啓太さん、サポステの卒業生を多く受け入れているスキャンマン株式会社の梅澤圭佑さんが登壇しました。モデレーターは、社会の広告社の山田英治さんです。
この記事では、そのイベントの内容を少しお届けします。「履歴書の空白」がある方から届いたリアルな質問に、ゲストのみなさんはどう答えたのでしょう。また、「履歴書の空白」がある方を支える「サポステ」とは?
※イベントの模様は以下のニコニコ生放送のページから視聴することができます。
就職等への第一歩となるサポステ
厚生労働省が民間団体等に委託している若者就労支援施設「地域若者サポートステーション」、通称サポステ。その存在を知らなかった方も多いのではないでしょうか。
サポステは、働くことに悩みを抱えている15歳~39歳までの若者に対して、キャリアコンサルタントなどによる専門的な相談や、コミュニケーション訓練、協力企業への就労体験など、就労に向けた支援を行っています。
現在は全国に177ヶ所あり、平成30年度には約50万件の利用件数、約16,000人の新規登録者があったそう。さらに支援を受けた方のうち、約10,000人が就職や公的職業訓練へ進んでいるなど、「履歴書の空白」がある方にとって「就職などへの第一歩」となっているのです。
実はアイドルになる前にひきこもり経験があったという最上もがさんは、働きたいけど働けなかった時に相談できるところはなく、サポステの存在も最近になって知ったのだと言います。
最上さん サポステがどんな活動をしているのかも知らなかったんです。仕事を紹介してくれるハローワークのような場所かなと思っていましたが、その前の段階で働きたいけど何から始めたらいいのかわからない人をサポートする場所なんだと知って、なるほどと思いました。
ぼく自身、アイドルとして働く前にネックだったのがコミュニケーションでした。人と話すときに下を見てしまって、なかなか人に言いたいことが言えなくて。でも、サポステだったら人と話すことのリハビリもやってくれていると聞いて、その当時、サポステを知っていればよかったなって。
実際にどんな支援がしているのか、サポステのスタッフである山田さん、遠藤さんが教えてくれました。
山田さん 主にサポステでは、働くことに踏み出したい若者に対して3つの支援をしています。
まずは、一対一でお話をじっくりと聞かせてもらうこと。一対一と言うと身構えるかもしれないですが、普段の話とか好きなことを聞かせてもらって、だんだん人と話すことが好きになってもらうことを大切にしています。
2つ目は、集団で働くための知識やスキルを学んでもらう場を提供すること。パソコンのスキル習得をしてもらえる講座もあり、選択肢を広げるためにも受講をおすすめしています。
3つ目に、職場を体験してもらうこと。やりたいと思う仕事でも、実際にやってみないと自分に合っているのかわからないですよね。体験せずに入社して合わないと感じてしまうより、まず1週間ほどの体験をしてもらうことで、その仕事との相性がわかると思っています。
遠藤さん 働くことをサポートしますよと言っても、よくわからない場所に行くのは不安ですよね。サポステに行って相談したら、すぐに働かされるんじゃないかと思ってしまう人もいると思います。でも、そんなことはありません。
ためしにサポステに来てみて、好きじゃないと思ったら他の場所に行けばいいですし、良さそうだなと思ったら何度も来てくれればいいなと思っています。
最上さん ”自分は働きたいから働く”とすんなり就職をできる方とは違い、就職するまでになにをしたらいいのかわからないという方や、コミュニケーションに苦手意識がある方にとって、サポステは寄りそってくれる存在になりそうですね。
また、サポステの3つ目の支援として紹介されていた職場体験を通じて、その企業に就職をする人もいるのだとか。実際にサポートステーションから卒業をした人を多く採用しているスキャンマン株式会社の梅澤さんは、サポステ卒業生の就職後の様子についてこう話します。
梅澤さん 当たり前ですが、長く働いてもらえるかどうかは人によります。すんなり続く人もいるし、どうしても難しくなってしまう人もいます。
でも、人によって人生のペースは違うと思うので、難しい時期があったら少し休んでもらって、また良くなったら戻ってきてもらえれば良いと思っています。履歴書に空白があっても働ける企業はあるということを、信じてもらえるとうれしいです。
4人の話を通して、サポステは支援企業と連携しながら、履歴書の空白がある方へのサポートをさまざまな側面から行なっていることがわかってきました。
まずは小さなステップから踏めばいい
イベントの後半は、来場者やニコニコ生放送の視聴者からの質問タイム。多様な背景を持った方からの質問に、ゲストのみなさんが答えていきました。
中でも多かったのは、「長い引きこもり生活から一歩踏み出す勇気がない私はどうしたらいいか」「鬱で働けず、どんどん将来が不安になる」など、履歴書の空白期にいる人からの質問でした。
まず答えてくれたのは最上さん。一歩踏み出す勇気が出ないことについて、こう語ります。
最上さん 自分に自信をつけることって、本当に難しいことですよね。他人から”もっと自信を持ちなよ”って言われると、「そんな簡単に自信なんてつけられないよ!」って思いませんか?(笑)
だからこそ、ぼくはたくさん場数を踏んで、少しでもできるようになったことを覚えておくようにしています。毎晩寝るときに、できなかった自分は横に置いておいて、できた自分を想像して寝るようにしているんです。
それでも、たまに悪い自分ばかり想像してしまうときもあると思います。そういう時には、周りの人に”大丈夫だよ”って声をかけてもらえるといいなって思います。そんな声をかけてもらえる存在をつくるのは大切ですね。
また、サポステの山田さんや遠藤さんは将来の不安があるという質問について、「まずは小さなステップから踏めばいい」と語ります。
山田さん 将来のことについて不安になるのは仕方のないことだし、不安になるなと言うのは無理な話ですよね。
将来という大きな視点で先を見ようとすると不安になるので、そうした不安があるという相談があったら、まずは何からだったらできるのかを一緒に考えるようにしています。
遠藤さん ”やりたいことはなにか”と考えると難しいこともあると思います。そういうときは、”これならやってもいいかな”っていうくらいのことまでハードルを下げてみると、出てくると思うんです。最上さんも言うように、まずは小さなステップから踏んでみることは、将来への不安を軽くするためにもすごく大切だと思いますね。
寄りそってくれる身近な第三者の存在
履歴書の空白期を過ごす人の中には、身の回りの人に心の内を話すのが難しい人もいると思います。
最上さんも、その一人でした。
最上さん 誰かに話せばいいと言われても、家族や友達と話すのって意外と難しいと思うんですよね。そもそも恥ずかしかったり、家族とは仲が良くないから話したくないという人もいると思う。
僕も家族には話しづらかったんですが、ネットゲームの世界では気軽に相談ができました。彼らは全然知らない人だからこそ、相談することができたり、アドバイスをもらったりしていました。
周りに相談できる人がいない人にとって、ぼくにとってのネットゲームの仲間のように、身近な第三者がいてくれて、寄り添ってくれることは、心の安らぎになるだろうなと思います。
将来を考えて不安になってしまうのなら、まずは今日、今この瞬間に自分がやってもいいと思うことからはじめてみる。それがどんな小さなことでも、次へのステップになると思います。
心の内を、少しずつでも誰かに話す。
できなかったことでなく、できたことを思い出すようにしてみる。
サポステのことについて、ちょっと調べてみる。
そんな小さな一歩でいいんです。その一歩を勇気を持って踏み出したら、最上さんやサポステの山田さん、遠藤さんのように、寄りそってくれる人がいる。そんな優しい希望を感じたイベントでした。
(撮影:hinano kimoto)
– INFORMATION –
最上もがさんや山田さん、遠藤さんが出演している動画も公開されています。
サポステについて興味を持った方は、ぜひご覧ください。