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地球からいただいたものは、きちんと返す。ペオ・エクベリさんに学ぶ「プラスチック問題」との向き合い方

海や川を訪れて心からくつろぎたい時に、水辺に集積する人工的な色や文字が目に入るとちょっとゲンナリしてしまいますね。

それがプラスチックごみであれば、なおさらかもしれません。「プラごみ」は拾わない限り、いつまでも「プラごみ」のまま自然界に居座り続ける*ものですから。
(*)土や海に還るタイプのプラスチックも開発されていますが、自然に還る条件は実はかなり限らています。また、それらを上手に循環させるための社会の仕組みも未整備なので解決はまだ先のことだと感じています。
 
また、砂浜で貝殻を集めたくても、海岸によっては貝殻よりも人工的なごみのほうがずっと多いので、結局ごみ拾いで終わる。それをポイ捨てする人や、分別やリサイクルができていない他国のせいにするのは簡単ですが、プラスチックに頼る暮らしをしている以上、わたしたちもこの責任から逃れられません。生産や流通の過程や、大雨や台風など、思わぬ形で川や海へ出てしまうプラスチックごみを止めきれていないのが実情だからです。

NPOの活動などに参加して数十年前から海洋汚染を問題視していた私も、なんだかんだいって、普段の生活はプラスチックまみれでした。そんな頃、ある人の自然なふるまいにハッとする機会がありました。
 
あれは7年前。インタビュー取材の仕事で、はじめてペオ・エクベリさんにお会いしました。お店に入りドリンクを注文しましたが、ペオさんのコップにだけストローがありません。「いつも断わるからここの店員さんは覚えてくれた」と言うのです。

この忘れられない出来事から、脱プラスチックがテーマのこの連載企画の初回は、ペオさんにご登場いただくことにしました。

ペオ・エクベリ(Peo Ekberg)
スウェーデン出身のサステナビリティ・プロデューサ。株式会社ワンプラネット・カフェを創業し、エコツアー企画や環境コンサルティングを行う。アフリカ・ザンビアのバナナ産地で収穫のたびに廃棄される茎に着目し、現地で繊維を取り出す工房を立ち上げて長期的な雇用を生み出した。その繊維を日本で製紙した「One Planet Paper (R)」は、紙として日本初のWFTO(世界フェアトレード機関)認証を取得。日本では名刺用紙やLUSHの紙袋などに使われている。ザンビアでの活動は、井戸やソーラーパネルの提供など広範囲に及び、いまやSDGsの17個のゴールすべてに対応している。

ペオさんは、1カ月にサッカーボール1個分しかごみを出さない暮らしぶりが話題となり、20年ほど前から日本でも活動している環境リーダーです。

環境に「優しい」ではなく「正しい」ことを

ペオさんがストローを断わっていた理由は、ずばり「ストローは地下由来だから」。そのあたりの信念について、もう一度、教えてください!

地球に暮らすルールの話ですね。スウェーデンの子どもたちは、まず義務教育で環境問題の解決方法には2種類あると教わります。

ひとつは、人間が考えた解決方法。たとえば人間は、国際会議で人と自然のバランスを議論して、サステナビリティの定義を決めました。その実現に必要なスケジュールとして生まれたのがSDGsです。

もうひとつは、自然界の解決方法。自然に備わった原理原則に逆らわず、「自然に還すことができる以上にとらない」ということす。このルールには科学的な裏付けがあります。「酸素は必要ない!」と言う人がいたらおかしいでしょう? 原理原則には議論の余地がないのです。環境に優しいかどうかではなく、環境にとって正しいかどうか、という話ですね。ここに迷いは生じません。

そして、この2つの解決方法は、一緒に進めていく必要があります。自然界の解決方法に学べば、プラスチックはリデュース(Reduce: 減らすこと)とリユース(Reuse: 使うなら繰り返すこと)。地上由来のエネルギーを使えばリサイクル(Recycle: 再資源化)もサステナブルかもしれませんがリサイクルはあくまで人間側の解決方法だから、リユースできないほどボロボロになった場合の最後の手段です。そして最後は4つ目の「R」のリターン(Return)。土に還さないといけませんね。

ペオさんは、できるだけ地下由来のポリエステルやナイロンの服を着ないそうで、この日も地上由来のオーガニックコットンのシャツとジーンズ姿でした。事務所にあるモノも、ほとんどが竹やガラスや陶器など地上の資源。

ペオさんお気に入りのタンブラー(マイボトル)も地上由来。鉛なしのガラス製で、ふたは竹でできていました。

スウェーデンは、SDGs国際ランキングで3年連続1位(2016-2018年)の環境先進国。22歳まで祖国で暮らしたペオさんによると、学校教育でも家庭教育でも企業の社員研修でも、「できるだけ地下ではなくて地上のものに切り替えましょう」と教わるそうです。

自然界の原理原則を重視する教育は、「SDGsに取り組むのは、企業の社会的責任(CSR)ではなく、企業の世界的責任!」と言い切れるペオさんのような経営者を輩出しています。そういえば、サステナブルな取り組みが目立つIKEAやH&Mもスウェーデン企業です。

減プラスチックに直接関わるのは「地下 or 地上」のルールです。

地上には自然があって、人間がいて、CO2やごみが出ます。でも落葉は栄養になり、CO2は木に吸収され、地上のものはすべて循環しているのです。

ところが人間は、地上に所属しない地下のものを持ってきて、プラスチックや燃料・電力をつくっています。それは余分なCO2やごみとなり、環境問題の原因になります。

©One Planet Café Ltd.

環境循環によると、地球に暮らす人間が従うべき原理原則(ルール)は3つ。

1. 科学的な知見に基づき、自然に還すことができる以上にとらない
2. 地下より地上のものをつかう
3. 生物多様性を守る

「この3つを同時に守れば、エコの鍵がそろったことになります。ビンゴ! 解決です!」と嬉しそうなペオさん。シンプルで魅力的な考え方です。

特に、ルール3についてペオさんが言い添えた、「豊かな生態系はすべて(地球上の経済や社会全体)のエンジンです」という言葉の重みに、心を打たれました。

気候変動や生息地の減少や乱獲で崖っぷちに立たされた野生生物に追い打ちをかけるのが、世界中に散乱したプラスチックごみです。絡みついて息の根を止めたり、有害物質で健康を阻害したり、胃にたまって餓死させたり。これは紛れもなく、ここ100年以内の、私たちを含む数世代の人間の仕業なのです。

目標は高く。コツは「アウトサイドイン」!

ペオさんの論理はシンプルで明確。この連載企画についても、的確なアドバイスをいただきました。

連載の企画書に、「自分に身近なところから、できるところから」とありましたね。それは「インサイドアウト」の考え方です。

世界が今なぜ動いているのか。それはインサイドアウトから「アウトサイドイン」に変わったからです。外の目から見た気候変動やプラスチックや海の問題を大きく捉える考え方です。

そう。全く逆です。「できるところから」ではなくて、「できないところからはじめよう!」という発想なのです。

プラスチックを減らすなら、100%を目指しましょう! ゼロです。洋服から化粧品から全てです。そのビジョンが、世界を変えるのです。

ペオさんの事務所は木やガラスばかりで、PC周りとリモコンぐらいしかプラスチックが見えません。名刺入れは竹製。竹は、CO2を吸収しながら短期間ですくすく育つ非常に再生可能な地上の資源です。

目指すところが100%であれば、レジ袋やストローを断わるのは、非常に小さなことでしょう? これがアウトサイドインの効果です。もしインサイドアウトだったら、レジ袋を断わりたいけど言いにくいなぁ……って。なんだかとてもハードルが高くなるでしょう。

図星です。この取材前の私は、マイバッグを持参してると言うタイミングを逃し、素早い店員さんに圧倒されてレジ袋をもらってしまうことが結構ありました。

SDGsアイコンをデザインしたスウェーデン製のSDGsカード。17のゴールに設定された169のターゲットを、扇のように広げて一覧できます。

小さなモノから大きなモノまで。「暮らし丸ごと」を見直す

マンションの一室にある株式会社ワンプラネット・カフェの事務局は、環境ラベル認定の木材に囲まれた、気持ちの良い空間です。

2010年に約100種類の環境配慮を盛り込んで内装をリフォームしました。生活の至るところで脱プラスチックを実行しています。スウェーデンでは「プラダイエット」という言い方もします。小さな行動も大事ですけれど、ぜひ大きな買い物でもプラスチックを減らしましょう。

窓枠は木、窓レールのプラは竹に変更、ランプシェードは木や竹など。

脱衣所やトイレは、おがくずと古新聞の壁紙。よく湿気を吸うので、カビたことがないそう。ワンプラネット・カフェを一緒に経営する公私ともにパートナーの聡子さんの化粧品は、中身に石油系の材料を含まず、パッケージのプラ部分も紙に置き換えているオーガニックコスメ。

トイレは床もふたも、環境ラベル認定の建材でリフォーム。本体は10リットル→4リットルの節水型に変更。タオルハンガーや消臭剤のケースまで、プラスチックをやめてバナナ材や竹に。

トイレの鏡の枠も竹。

多くの建材は日本のものですよ。東京タワーの目の前の、日本のこんなに都心であっても、地上の素材ばかりのリフォームが可能なのです。

「あなたにはできる!」日本が変われば、世界が変わる

この包装は過剰だなぁと思っても、なし崩し的に受け入れてしまうことはありませんか? 私はあります。いちいち言うのも面倒で、早く国が規制してくれないかなぁ、なんて、他力本願なことを考えてしまう。ペオさんにそう正直に伝えてみました。

そういう時は、きっぱり断わるべきでしょうね。断わらないと、環境破壊側の人になりますから。解決の側に立つか、問題の側に立つか。どちらかです。その中間はありません。

注文した途端に「包装は要らない」と伝えることを習慣付けると、それは、お店の人にもプラスになります。マイボトルを持って行ったのに、コーヒーを紙コップに入れてから移し替えるような無意味なことをされたら、あなたは教育者にならないといけません。店長さんを呼んで、「ごみを出したくないので」と伝えたらどうでしょうか。

このタンブラーは新品なのにコーヒーの香り。珈琲カスからつくられています。

なにゆえペオさんは、こうも屈託なく、自己の信念に忠実に行動できるのか。その根本には、学ぶべき人生哲学がある気がして、お聞きしてみました。

スウェーデンの小中学生は、先生から「あなたは一人でも社会を変えることができるよ」と、ずっと言われ続けるのですね。

日本は勉強するのも、それを記事などでレポートするのも、世界一上手です。でも、それで疲れてしまって、何も行動しない……。なぜ? とぼくも長いこと考えていて、やはり根本的な原因は学校教育にあるのでは? と思うようになりました。暗記が多いからでしょうか、自分の力を信じない傾向がありますよね、残念ながら。

環境循環型社会へのシフトは、世界各地で進んでいます。(右から)数カ月で生え変わるサトウキビからできたスウェーデンのレジ袋、ザンビアの紙ストロー、セイシェル諸島の竹ストロー、2008年からレジ袋禁止のルワンダの紙袋。いずれもカフェやホテルや店舗で当たり前に手に入るそうです。下はバナナペーパーでできたボールペン。

気候変動の若きヒロイン、グレタ・トゥーンベリさんも、義務教育でサステナブルを学び、子どもの頃から自己効力感を養える北欧の育ちです。ペオさんの信念の根っこを見た思い。でも、すぐにペオさんは、こうフォローしてくれました。

しかしこれまで日本でコンサルタント業をしてきて、たったひとりから会社全体を変えた実例を、ぼくは何度も見ています。必ずできますよ。自分の力を信じてください!

どんな社会にも、「2:6:2の法則」ってあるでしょう。足を引っ張る人が必ず約2割はいる。でも、そこを説得するのにエネルギーを費やすなら、前向きな2割と楽しく効果的に進めましょうよ。実際に世の中が変わってくれば、気にはなっているけれど何をすればいいか分からない6割を動かすこともできます。Let’s Move On!!

脱プラのバナナペーパーのハンガー(大人用、子ども用、ネクタイ用)。

この前向きな明るさが、脱プラスチックの推進力。確かに日本にも次世代のために全力で頑張っている人たちがたくさんいます。

スウェーデンでは教育や福祉の無償化が進んでいます。そのため、税金が高くても国民が「前払いだから」と割り切っているそうです。最後に、ペオさんが、そんな祖国を出て日本で活動している理由を伺いました。

スウェーデンの人口は、たった1000万人ですし、他の課題はあるとはいえ、サステナビリティについては既に動いています。

日本の人口は10倍以上でしょう。それに今、日本は世界から注目されていますよね。すごく可能性を感じる。ぼくは、日本が変われば世界が変わると信じているのです。

使い捨てプラスチックが街から消え、海に蓄積したプラスチック問題の解決が見えてくる未来は、このままでは実現しないでしょう。ペオさん流に考えれば、何も待つ必要はないのです。この惑星のルールに従って今日から早速、自分の意志で、脱プラスチック生活をはじめませんか?

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こちらの記事は「greenz people(グリーンズ会員)」のみなさんからいただいた寄付をもとに制作しています。2013年に始まった「greenz people」という仕組み。現在では全国の「ほしい未来のつくり手」が集まるコミュニティに育っています!グリーンズもみなさんの活動をサポートしますよ。気になる方はこちらをご覧ください > https://people.greenz.jp/