本物のアル・ゴアは、居眠りさせてくれませんでした。
私は先日、ノーベル平和賞受賞者である米国の元副大統領、アル・ゴア氏が立ち上げた「クライメート・リアリティ・プロジェクト」の東京トレーニングに参加しました。
アル・ゴア氏といえば、地球温暖化の危機を訴えるドキュメンタリー映画『不都合な真実』を思い浮かべる方もいるかと思います。実は私、『不都合な真実』、そして『不都合な真実2』ともに、映画の途中で居眠りをしてしまった不届き者です。
そんな私が、どうしてクライメート・リアリティ・プロジェクトのトレーニングに参加したのか。そして、そこで何を学んだのかをお伝えしようと思います。
エゴイストからエコロジストへ。地球温暖化から気候変動へ。
今でこそgreenz.jpで記事を書かせてもらったり、広告会社でSDGsの仕事をしていたりする私ですが、元々は、地球環境はおろか、社会のことには全く関心がありませんでした。
面白ければそれでいいと言わんばかりに自分勝手に遊びまくる若者だったのです。
それが、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)のショックから社会問題に急に目が向くように。星川淳さんや北山耕平さんの影響もあってエゴイストからエコロジストに急転向。ライフスタイルも人づきあいも変わっていきました。
環境活動家としてのアル・ゴア氏を知ったのは、エコロジストとして正義の炎を燃やしていた2006年頃です。『不都合な真実』で居眠りをしてしまったのは、きっと、環境活動で動き回っていて寝不足だったからでしょう(汗)
その後、私はコピーライターとしての技術を生かし、プロボノで地球温暖化を止める法律づくりをめざす「MAKE the RULEキャンペーン」のクリエイティブを務めることになります。(このキャンペーン、2008年にgreenz.jpの記事にもなっていますね!)
当時は気候変動よりも、「地球温暖化」という表現が一般的でした。メディアでも盛んに地球温暖化に対する啓発がなされていましたが、「北極のシロクマがかわいそう」、「オセアニアにある島国、ツバルが沈む」といったアピールが目立ち、どこか遠い問題という受け止められ方をしていました。
そして2011年に東日本大震災が起きると、環境に関する最重要イシューは一気に原発に。「地球温暖化説は原発推進のためのウソなのでは」と考える反原発の人たちも出てきたこともあり、日本で地球温暖化の危機を訴える声は小さくなっていきました。
さらに安保法制や特定秘密保護法、共謀罪など、日本の民主主義を脅かすような動きがあったことから、社会的な関心の中で政治が占める割合も高まり、地球温暖化はますますマイナーな課題に。
日本ではすっかり影が薄くなりがちだった地球温暖化問題ですが、海外では「気候変動」として、特にその影響を免れない若者たちを中心にアクションが活発になっていました。
2015年、気候変動についてのルールが大きく前進することになる「パリ協定」を前に、世界的なデモが行われました。日本でもそれに呼応するかたちで「Climate Action Now!」というキャンペーンが展開され、このときも私はクリエイティブでお手伝いさせていただきました。しかし、残念ながら「MAKE the RULEキャンペーン」ほどの盛り上がりもなく、海外と比べて実にさびしいムーブメントに終わってしまった感があります。
2017年に公開されたアル・ゴア氏のパリ協定までの奮闘を描いた『不都合な真実2』も、日本では『不都合な真実』の頃にあったような注目を集めることなく、ひっそりと公開が終わってしまった印象があります。ちなみに「2」で居眠りをしてしまったのは、きっと国会議事堂のデモに通っていたりして疲れがたまっていたからでしょう(汗)
そんな流れが少し変わってきたのは、SDGs(持続可能な開発目標)が企業に浸透しはじめ、 ESG投資が注目をされるようになってきた昨年ごろからでしょうか。企業が注目しだすと、日本でもにわかに気候変動が社会における重要課題として捉えられるようになりました。例年のように襲ってくる酷暑や、大型化する台風による被害も、その流れに拍車をかけています。
東京トレーニング1日目:生ゴアの衝撃
そもそもの前フリが長くなってすみません。ようやく2019年に戻ってきました。アル・ゴア氏によるクライメート・リアリティ・プロジェクトの東京トレーニングです。
私が広告会社で立ち上げたSDGsプランニング・チーム「POZI」のパートナーである枝廣淳子さんからの案内で、東京でのトレーニングが行われると知った私は、このチャンスを逃すまいとすぐに参加の申し込みをしました。地球温暖化が騒がれていた時代から気候変動に取り組んできた自分の中にくすぶっていた種火が再び燃えるような思いに駆られたからです。正直、”生ゴア”を拝みたいというミーハー心もありました。
幸運にもトレーニングに参加できることになった私は、10月2日、やや緊張しながら会場に。受付ではまずパスを受け取り、パスに記入された数字のテーブルにつきました。同じテーブルのお仲間となったのは、企業に勤める人、コンサルタント、教育関係の方々。トレーニングが終わってもコラボレーションできそうなグループ分けになっているようでした。
午前10時、いよいよトレーニングがスタート。司会はニュースキャスターの国谷裕子さんです。東京トレーニングには定員800名のところ、全国から約1500名の応募があったとのこと! 参加が叶わなかった人がたくさんいると思うと、気が引き締まります。
参加者の年齢は18歳から87歳まで。平均年齢は38歳。これから社会を動かす責任を担うことになる年代の人を厚めに選ばれたことがうかがえます。
初日のテーマは「知識を身につける」。まずパリ協定、そしてSDGsをベースにした気候変動をめぐる世界の潮流、金融業界が後押しする企業のサステナブル対応、そしてエネルギーシフトまで。幅広い分野にまたがる話題を、それぞれの第一人者がパネルディスカッション形式で語るという非常に濃い内容でした。
国連や先日行われた気候サミットでも、人間の活動が地球温暖化、そしてその結果としての気候変動を招いているということは、科学の立場からはほぼ疑いのない事実となっています。気候変動は生命をおびやかす危機的な段階に迫っており、地球温暖化を抑える努力はもちろん、その影響をいかに緩和するか、そして適応すべきかを考えないと状況です。
また、長期的な視点で見ても明らかな経済的リスクとなっていることから、金融、そしてビジネスをサステナブルなかたちに変えることが迫られています。しかし、化石燃料の大量消費によって成長してきた現代文明、そして巨大産業をすぐに変えるには大きな困難が伴います。
その最たるものが石炭火力発電。ひとっとびにゼロにすることはできませんが、省エネを進めながら石炭火力をフェードアウトさせつつ再エネを増やしていくという流れをつくっていくことが現実的です。そのためには、需要側が再エネを選択する意思を示すこと、そして石炭火力発電所の立地予定地の人たちだけでなく、多くの国民が自分たち自身の問題として声をあげることが大切になってきます。
この初日には、アル・ゴア氏による魂のプレゼンも。その長さ、実に2時間半。プレゼンでまず見せられるのは、人類が初めて目にした宇宙に浮かぶ地球の写真。太陽からの絶妙な距離とごく薄い大気の層により、多様な生物が生きられる温度と湿度に保たれ、豊かな水をたたえる地球。奇跡のような環境に私たちが生かされていることを実感せずにいられません。
地球温暖化のメカニズムからリスク、気候変動によって世界で引き起こされている悲劇、そしていま私たちに残されている希望…。長丁場に及ぶにもかかわらず最後までMAXの熱量で訴える姿に圧倒されました。もちろん、寝落ちはしませんでしたとも。果たして自分はアル・ゴア氏が伝えたいと思っていることをどこまで人に伝えることができるのだろうかと、心もとない気持ちにもさせられてしまいましたが…。
お勉強が終わった夜には、懇親会が開かれました。あいにく私は仕事でほんの少ししかその場にいられなかったのですが、あちこちで笑顔と真剣さが入り混じったコミュニケーションの輪が広がっていました。
東京トレーニング2日目:TalkからWalk。WalkからAction。
さて、10月3日。2日目のプログラムが小松直行さんの司会で始まりました。テーマは「知識を行動に変える」です。
気候変動に対してビジョンを掲げるだけでなく、具体的に行動し始めている企業や、それを後押しする政府や行政の姿勢、そして地方やNGOの活動をインプットしました。
気候変動に対して今求められているのは「TalkからWalk。WalkからAction」。温暖化を引き起こしたのがビジネスであるなら、根本的に解決できるのもビジネスです。その変化の鍵を握る金融も、大きくシフトしはじめています。
この日、私がいちばん印象に残ったのは、会場の受講者からの質問にアル・ゴア氏と科学者が答えるプログラムでした。
この質疑応答でいちばん多くの時間を割いて話されたのは原発について。原発は発電時にはほぼCO2を排出しませんが、そこにはまだ解決されていない大きな問題があります。まず、大きすぎる事故のリスク。そして廃棄物の処理について答えが出ていないこと。核拡散の危険や関わる多くの人が放射能にさらされるという人権上の問題もあります。
東日本大震災の際に大きな原発事故があったことで安全対策上のコストも増大していて、再エネの効率がどんどん上がっている今は、CO2削減の方法として原発は現実的な選択ではなくなってきています。
そして、いわゆる「成長の限界」についても触れられました。地球の資源や生態系には限りがあるので、物質的な成長から離れる必要があります。経済と切り離して、健康、福祉、幸福度など、人間にとって本当に大事な成長に重きをおく文明への転換が求められています。
講義を聞くだけでなく、ワークショップもありました。コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンの方からストーリー・テリングのコツを学んだり、すでにトレーニングを受けてなんどもプレゼンテーションを経験しているクライメート・リアリティ・リーダーの方の話を聞いたりしたあと、自分のストーリーを考え、行動計画をまとめたり。そのあと、企業、非営利、行政といったセクターにわかれ、参加者同士で話し合いをしました。
この分科会で、いちばん大きなフロアを当てがわれていたのが企業セクター。アメリカでのトレーニングの話を聞いていた参加者の方によると、アメリカではもっと非営利セクターの人の参加が多かったそうです。
パネルディスカッションでも企業や行政からのパネリストが目立ったのは、日本におけるセクター間のバランスを考えてのことだったのでしょう。そのあたりのバランス感覚から、「クライメート・リアリティ・プロジェクト」が気候変動に対する啓蒙というだけではなく、具体的な行動のための活動であることがうかがえます。
すべてのプログラムが終わると、修了証とバッジが授与されます。実にヘヴィーな二日間が終わったという安心感と、学んだことを人に伝えるという宿題の重みに思わず、ジーンと…。トレーニングは終わったけれども、クライメート・リアリティ・リーダーとしての日々が始まったぞ、という感じです。
クライメート・リアリティ・実習生、マル・ゴア誕生(笑)
パネルディスカッションで、気候ネットワーク/CAN-Japanの平田仁子さんはこう言っていました。「日本のメディアは気候変動による災害が起きたとき、その被害を伝えるばかりで、原因を伝えることはしない」と。少しでも原因を知る機会があれば、少しでも多くの人が解決に向けて行動するようになるかもしれない。
私自身は東京に住み、広告会社に勤めている以上、気候変動を止める活動をしている上で矛盾を抱えている部分があります。アル・ゴアのような情熱も説得力も、覚悟もありません。でも、だからこそ、同じように矛盾を抱えていたり、迷っていたりする人といっしょに変わっていくような活動ができればと思っています。クライメート・リアリティ・リーダーというのはおこがましいので、クライメート・リアリティ・実習生くらいの気持ちで。
その最初の一歩は、11月21日。全世界で気候変動についてのプレゼンを行うアクション、「24 Hours of Reality」が行われる日。その日に、私が運営メンバーとして携わっているイベント「SOW!政治」で、気候変動の今と日本の環境政策をテーマにお話しします。
SOW!政治は、2015年に安保法制をめぐって政治が熱くなっていたときに、「ソーセージをつまみながら政治の話をするソー政治」なんてどう? というダジャレを口走ったところから始まった、日本一ユルい政治イベントです。
そのSOW!政治でアル・ゴア氏仕込みの気候変動に関するプレゼンをしたいと運営メンバーに話したところ、同じく運営メンバーでgreenz.jpライターでもある飛田恵美子さんから「丸さんだから、”マル・ゴア”ってことで」と、下らなくてナイスなニックネームをいただきました。
SOW!政治ならではのくだけたノリで気候変動についてみなさんとお話しできればと思っています。ぜひご参加ください!
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