子どものころ、放課後をどのように過ごしていましたか? 公園に友達と集まって日が暮れるまで遊んだり、ずっとおしゃべりをしたり、あるいは習い事に打ち込んだり…。過ごし方は十人十色、自由な時間だったのではないでしょうか。
しかし近年、安全面などの問題から子どもたちが自由に過ごせる環境や時間が減ってきています。そんな中「放課後NPOアフタースクール」は首都圏の小学校で全児童を対象としたアフタースクールを20校開校し、安全で豊かな放課後の居場所をつくり続けています。
アフタースクールではスポーツや音楽、料理、サイエンスなど様々なプログラムが毎日開催されているのが特徴。子どもたちは興味のあるプログラムに参加したり、参加せずに校庭で友達と遊んだりして自由に放課後を過ごします。また、小学校内で運営することにより、安全な居場所が確保され、防犯面のリスク軽減にもつながっています。
従来の放課後児童クラブと放課後子供教室、両方の要素を併せ持つアフタースクール。徐々に保護者や学校、地域、自治体、企業などから支持され、広がりを見せていますが、現在に至るまでには代表・平岩国泰さんの切なる思いと団体の10年間の軌跡がありました。
今、放課後の時間はどうあるべきなのでしょうか?
子どもたちにとってより良い放課後のあり方とは?
6月に行われた同団体の創立10周年記念フォーラムでの平岩さんや様々なステークホルダーの皆さんからのお話を通じて、その答えのヒントをお届けします。
5000人の市民先生、200社の企業とつくってきた放課後の価値
毎日プログラムが行なわれているアフタースクールで、なくてはならないのが「市民先生」と呼ばれる、様々な知恵や技術を伝えてくれる大人たち。のべ5000人の市民先生と、これまで500種類以上のプログラムを実施してきました。
自分が楽しいと思うことを伝えて、子どもたちにも楽しさを知ってもらいたい。教えたことだけではなく、そこから子どもたち自身が考えて広がっていくところにおもしろさを感じますね。(プログラミングの市民先生)
「子どもたちが目を輝かせて参加してくれることに、改めて(市民先生が)自分の仕事に対しての喜びに気付くような瞬間もあるのではないでしょうか。放課後は大人の方もいろんなことを発見していく場でもあるんじゃないかなと思います」と、同団体のアドバイザーである永井一史さん(株式会社HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長)も言います。大人も子どもも、共に成長する場−そんな側面も放課後にはあるようです。
同団体の理事で、キャリア支援を行う(株)morich代表の森本千賀子さんは「市民先生との関わりを通じて、子どもたちがいろんな大人の仕事をしている背中を見ることは、キャリアに触れる貴重な機会。就活より前に、こういった場があるのはアフタースクールの価値だと思います。」とキャリア形成の観点から語りました。子どものころから、様々な仕事やその素晴らしさを知ることはその後の人生にとってもきっとプラスになることでしょう。
アフタースクールに参加している子どもたちは現在、年間でのべ約20万人。プログラムを通じて子どもたちの心境にも変化が出ているといいます。
こちらは、毎年子どもたちにとっているアンケート結果です。「自分の得意なことがある」「自信がある」「チャレンジしたいことがある」といった質問に対して一般の小学生に比べてアフタースクールに通う子どもたちの答えの数値が高くなっており、子どもたちの自己肯定感の高さが伺えます。
平岩さん 毎日子どもたちと接していると、その中でいろんな子のいいところを発見できたり、少しずつ成長していく姿を見ることができたりします。これが我々の誇るべき最大の成果です。この数字をもっと100に近い数値にしていくべく、日々奮闘しています。
プログラムは、アフタースクール内で行なわれているものだけではありません。これまで約200社の企業と協働し、全国の小学校や学童・放課後こども教室などへもプログラムを届けています。企業の事業を生かしたオリジナルのプログラムや指導員向けの放課後勉強会、社員がアフタースクールで子どもたちと過ごすボランティアまでその形は様々。子どもたちにとっても新鮮な体験になっているそうです。
企業がビジネスで培ったものを子どもたちに触れてもらうということは、子どもたちの生きていく力を養うにあたって役立つ部分があると考えています。そういったところに企業がどんどん入って貢献するべきだと思っています。(パートナー企業担当者)
「企業の持つ資源や価値は、子どもたちの教育にとって本当に宝物のような存在」とキラキラした目で語る平岩さん。これからどのような協働が生まれていくのか楽しみですね。
放課後をピンチの時間ではなく“ゴールデンタイム”に
放課後NPOアフタースクールは2004年、平岩さんにお子さんが生まれたことを契機に物語が始まります。当時、世間では子どもの連れ去り事件など心を痛める事件が頻発していました。子どもをめぐる事件の多くが放課後(15〜18時)の時間帯に起こっていることに気づいた平岩さん。
そこで、アメリカの学校で行なわれていた、地域を巻き込みながら教育活動を行う「アフタースクール」をモデルに、日本での活動を開始しました。
最初のアフタースクールは週に1回、地域の公民館でスタート。始めは参加人数が少なかったのですが、徐々にその評判が口コミで広がっていき2011年から小学校でのアフタースクールが開校しました。現在では、自分たちで開校した20校のアフタースクールのほか、千葉市や兵庫県南あわじ市内の小学校の放課後支援も行っています。
平岩さん 放課後は、子どもたちが社会とか企業とどんどん出会ってもらう時間として価値ある時間です。しかしながら、放課後は安全面の問題や「小一の壁」という風にどちらかというとピンチの時間として語られることが多い。でもそうではなくて放課後を“チャンスの時間”として捉え直し、もう一度放課後の価値転換をしていかなきゃいけません。そこから全てが始まると考えています。
変化の時代に生きる子どもたちへ
最後に、現代の子どもたちへのメッセージを同団体のアドバイザリーボードである安渕聖司さん(アクサ生命保険株式会社 代表取締役社長兼CEO)、永井一史さん(株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長)、理事である森本千賀子さん(株式会社morich 代表取締役)、当日司会を務めていらした水野真裕美さん(TBSアナウンサー)よりいただきました。
安渕さん 小学生のみなさんには、やはり自分のやりたいことをやってほしいですね。やりたいことやなりたい人をはっきりイメージしてそれを大人にもどんどん伝えていきましょう。そうすると周りの大人やアフタースクールがサポートしてくれるでしょう。自分で決めて自分で(人生の)方向を選んでいく、そういう人になってください。そうすればきっと素晴らしい大人になれます。
永井さん 今の子どもたちは、人生100年時代、AI時代、これからの職業の5〜6割が今はない職業になってしまうといったように、とてもドラスティックな(急激な変化の)環境の中にあると思います。その中でやはり、自分の好きなものを見つけるというのがとても大事なんじゃないかと思います。
でも、自分の好きなものっていきなり見つけられるわけではありません。いろんなものに挑戦していてその自分の成長とともに好きになっていくことで深掘りし、結果がついてくる。たぶんほとんどの仕事ってそういうことなんじゃないかなと思います。そのきっかけとして放課後NPOアフタースクールは大きな機会を与えてくれる場所なんじゃないかと思います。
森本さん 今は「個」の時代と言われていて、終身雇用が崩れたり、フリーランスの方々が増えてきたりしています。しかし、私はやはり組織力がものすごく重要だと考えています。人と人の掛け算である組織ってものとても大きなエネルギーになる。
私自身、小学生時代の財産は何よりもお友達との関係だと思っていて、人間関係を育む原点でした。人と交わることで生まれるケミストリーや価値を小学生時代に体感して、友達を大事にする気持ちを持ちながら成長していってほしいです。
水野さん 小学生ぐらいの子どもたちには、人の気持ちを想像できるお子さんになってほしいですね。
みんな違って当たり前なので、社会には違う人種の人もいますしいろんな境遇の人たちがいます。自分の境遇で経験していなかったことはなかなか理解が難しいかもしれないけれど、「隣にいる友達はどんな気持ちかな」「こういうことがあったこの子はどういう思いなんだろう」と、想像できる子になってくれたらとても嬉しいです。
10年間、子どもたちを中心に据えた安全・安心で豊かな放課後をつくりつづけてきた放課後NPOアフタースクール。フォーラムは、放課後について改めて様々な角度から考える機会となった1日でした。
会の中で、子どもたちがこれからどんな未来になってほしいかを発表する場面があったのですが、「家族と自分の時間を大切にできる。世界中の人が好きなことにチャレンジできる」「外国人の友達がいるから、外国人に対する差別や偏見をなくしてほしい」など、聞いている大人も考えさせられるような内容を発表していた子どもたち。子どもたちなりに日々の生活の中で社会を見て感じ、考えているのだなと感心しました。
放課後が、子どもたちにとってそんな社会とのつながりを持てる場になっていってもらえたらと思います。放課後NPOアフタースクールの今後の活動に期待を込めるとともに、全国にも価値ある放課後が広がっていくことを願っています。