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水の世界もバリアフリーに! 誰もがともに楽しく水に親しむ「共泳」 を目指すNPO法人プール・ボランティアの活動とは?

あなたは、障がいを持つ人がプールで泳ぐのを見たことがありますか? 

2000年に公共性の高い建築物に対し高齢者や身体障がい者が利用しやすい施設整備を求めた「旧ハートビル法」、また2006年に「バリアフリー新法」が制定され、公共のプールでは車椅子用のスロープなどの設置が進んではいるものの、その設備が利用されていないことも多いのが現状です。

「障がい者は専用のプールへどうぞ」。

そういった風潮があった今から20年前、「NPO法人プール・ボランティア(以下、プール・ボランティア)」は活動を開始しました。「どんな人も平等に、市民プールで楽しく泳げるように!」と障がい者などに水の楽しさを伝え、水泳指導を行うほか、リハビリテーションのための水泳補助器具の開発や障がい者対応研修など、大阪を中心にその活動を広げています。

今回お話をうかがったのは、プール・ボランティアの理事長・岡崎寛さんと事務局長・織田智子さん

ちょっとおカタい雰囲気のプレゼンテーション場面でも、水泳帽とジャージのユニフォームを着て大阪らしい?「漫才スタイル」で事業の紹介を行うなど、お二人の底抜けの明るさと気遣いはまわりを一気に明るくする力があります。実はそこには、「障がい者やボランティアのイメージを変えたい」という強い思いが込められていました。

「夫婦ではありません。」と笑わせながらも息ぴったりのお二人

岡崎寛(おかざき・ひろし)

認定NPO法人プール・ボランティア 理事長
学生時代は競泳選手。1999年、大阪の民間会社に勤めていた際、障がい者の方がプールに来られてもハード・ソフト両面で利用しにくいということが気になり、退職後に何か水に関係するボランティア活動をしたい、と特定非営利活動促進法の施行後間もなくNPO法人格を取得し活動を開始。
織田智子(おだ・ともこ)
認定NPO法人プール・ボランティア 事務局長
学生時代は飛込競技選手。1999年、岡崎理事長に賛同して一緒にプール・ボランティアを立ち上げた。

立ち上げたきっかけは、プールに通う障がい者との出会い

もともと、大阪のプールの管理会社で働いていた岡崎さん。補助用の大きな浮き輪を持って毎日プールへやってくる、障がいを持つ人との出会いが、この活動をはじめる大きなきっかけになりました。

岡崎さん その人がプールで浮き輪を膨らませて、またしぼませて持って帰られるんですわ。で、また次の日にやってきて同じことをする。

「それならここに置いておいたら?」とプールで預かると、「平等じゃない」というクレームがあって。でも彼らは言葉の問題などもあって、きちんと反論できない。だったら僕らが団体をつくってその声を代弁しよう、と思ったんです。

理事長の岡崎寛さん

すべての区に温水プール施設があり、プール環境が日本で一番整っていると言われる大阪市では、障がい者専用の更衣室や車いすを設置するなど、バリアフリー化も進んでいます。

ところが、プール・ボランティア設立当時はほとんど利用されていないような状況で、「障がい者は府内3ヶ所の障がい者専用プールにしか行きづらい雰囲気があるように感じられた」「人の理解が進んでいなかった」と岡崎さんは振り返ります。

岡崎さん 「見せたくない、見せてはいけない」という意識がどこかにある。「障がい者を取り巻く雰囲気をもうちょっと明るく、美しく、かっこよくできひんか?」というのが根底にあります。

元競泳選手で水の世界に長年親しんできた岡崎さん。リハビリを含め水泳や水を活用しての運動は理学的・心理学的・社会学的にも大変に良い効果があるとされているにもかかわらず、陸上でのボランティアは存在しても水中でのボランティアはほとんどいないことに気がつきました。

また、プールに来る障がい者には、ブカブカのパンツや穴の空いた水着など、服装を気をかけていない人が多かったそう。障がい者と一般の利用者の心の距離を近づけるためには、身だしなみを整えることも必要と感じた岡崎さんたちは、笑顔でプールを楽しむ水泳指導ボランティアのしくみを整えるとともに、かっこいい水着やスイムキャップの無償貸与も始めました。

おもな活動は障がい者・リハビリ希望者へのマンツーマン水泳指導

「誰もが水に親しめる社会になってほしい」、また「水泳やプールが好きな元選手や愛好家にその技術を使った”泳ぐ社会貢献”をする機会を与えたい」とスタートしたのが、プール・ボランティアの主な活動である、ボランティア指導者による障がい者への水泳支援事業とプール・リハビリ事業です。

子どもから大人まで障がい者ひとりひとりの個性に合わせた水泳指導や、「泳ぐリハビリ」として、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のアドバイスをもとに脳卒中などによる手足のマヒを改善するための水中運動のプログラムを作成し、リハビリテーションを行っています。

浮具や保温性の高い水着を使って安全に水に親しみながら水中世界を楽しみます。カッコイイ水着やスイムキャップを無償貸与し、身だしなみのかっこよさも追求しています

プール・ボランティアの水泳・リハビリ指導では、一定の決まりとポリシーを設けています。そのひとつが、障がい者専用施設でなく、一般市民プールを利用すること。設立当初から岡崎さんが抱くのは「どんな人でも分け隔てなく」という思い。万が一プール内でトラブルがあったとしても、それがお互いを理解し合う第一歩だと考えています。

子どもたちもボランティアも素敵な笑顔!安全を第一に考え、子どもの性格や障がい、体格にあわせてボランティアとの組み合わせを考えています。

また、保護者はプールには入らず、マンツーマン以上の体制で行うこともポリシーのひとつ。普段から接している保護者や学校の教師ではない、ボランティアと一緒にプールに入ることで「障がい者(児)自身のコミュニケーション力がついてきた」という声が多いそう。また、保護者にとっては少しの間、子どもと離れてのんびり過ごせることもできます。

補助器具も使い、ときには複数人で一人に対応することも

さらに注目すべきは、ボランティアとはいえ、これらの活動は利用者がお金を支払うしくみということ。月会費16,000円(2019年6月現在)に加え、保険料やボランティアの交通費一部負担金などもかかります。こうしたしくみによって、事務局と利用者の間で対等でフランクな関係を作りだすことができ、また運営資金にもなるため、活動が長きにわたり継続できています。

専用のスイムキャップでかっこよく、楽しく!

こうした障がい者への水泳指導活動を行っている団体は、日本ではプール・ボランティアだけ。20年以上にわたり、年間のべ4000人の利用者をのべ4000人のボランティアがマンツーマンで指導してきた取り組みは高く評価され、2019年4月には、スポーツ健康産業団体連合会および日本スポーツツーリズム推進機構が主催する「スポーツ振興賞」の大賞を受賞しました。

外見でわかりづらい障がい者こそ、高いスキルの援助が必要

お二人の明るい雰囲気とお話ぶりからはあまりうかがえないのですが、活動内容にはたくさんの困難があることも予想できます。実際にはどんな難しさがあるのでしょうか?

岡崎さん まだまだ活動の内容が理解されにくいですね。地方のプールに行くと、「障がい者のプール利用率が低い」という理由で、障がい者用の更衣室が倉庫使いされているなど、受け入れる体制が整っていないこともあります。

また障がい者についてよく知らない人が陥りやすい誤解や思い込みも課題だそう。

織田さん 実は、身体障がい者の人はパッと見てわかりやすいから、一般のプール客も入水を手伝うなど、気にかけやすいんです。でも、特に知的障がいを持つ人は、すぐにわからないことが多い。彼らの場合は、プールに入ってあまりにも嬉しくて大きな声を出したり、排尿のコントロールが困難だったりするので、複数人の補助が必要な場合もあります。本人も言葉が不自由で直接お礼を伝えられないし、水しぶきをかけてしまっても謝ることもできません。

織田さんがプール・ボランティアの活動をしようと思ったきっかけは、プールに、交通事故で頚椎損傷した人が歩行訓練のためひとりで訪れた姿を見たことだったそう。

セルフコントロールが困難な知的障がい者が利用する際は、他のプール利用者にできるだけ配慮し、楽しい場をつくるために、時には複数人のボランティアで盾になりながら臨むなど、教える側にもスキルや相性が必要とされます。

そのため、ボランティアを集め、育成することも重要な業務のひとつ。ボランティア希望者は事務局と面談し、活動内容などを確認した後に指導をスタート。学生時代に水泳選手だった人もいますが、たとえ泳げなくても、陸上での補助をするなど、できることはたくさんあるのだそう。

ボランティアは年齢層の幅も広く、みなさん仲良し。今までにボランティアメンバーの中から12組(!)が結婚したのだとか。

もっと使いやすくて安価な水泳補助道具がほしい! ないのなら、つくろう。

さまざまな困難に直面してきた結果、ボランティアや利用者から「こんな水着があったら!」「こんな道具があったら!」という声が。そこで、プール・ボランティアでは、「障がい者も健常者と同じようにプールを楽しめる環境を」というコンセプトを掲げ、障がい者用水泳用品の企画開発を始めました。

まず取り掛かったのは、プール用の車いす。海外で開発されたものは高価な割に使いづらかったため、「日本で開発・生産をできないか?」と、オリジナルの車いすをつくってくれるメーカーを探し、日本人の体格に合い、水中での操作がしやすいものを共同開発しました。

水はけよくメンテナンスしやすい車いすをメーカーと共同開発


ほかにも、着替えやすく保温性があり、いろいろと工夫した水着や、体を浮かせる身体障がい者用浮き具「うきうきくん」も開発。

「うきうきくん」を利用して水中散歩をする様子。実地テストを何度も繰り返し、水中で浮き過ぎず、水はけがよく持ち運びもしやすいものができ上がりました。

メーカーや工場も手間賃程度で協力。1本1万円以下の低価格が実現しました

さらに、「ヘルプマーク」が描かれた水泳帽も制作し、無償で配布しています。ヘルプマークとは、外見からはわからない障がいや病気を持つ人などが周囲に援助や配慮を必要としていることを知らせるマーク。「こんなキャップを待っていた!」と聴覚障がい者などから喜びの声がたくさん届いたそう。

柔らかくて、かぶりやすい素材でつくったヘルプマーク水泳帽。ボランティアがいない場合でも、周囲に援助や配慮を必要としていることを知らせることができます。(お申込みはプール・ボランティアWebサイトから)

「水の世界もバリアフリーに!」を日本全国どこででも当たり前にしたい

最近では、自治体や民間のプールに対しプール環境の改善を提案するプール・オンブズマン事業や、全国のプール指定管理者や企業向けにプール環境づくりの知識や技術を伝える無料の障がい者対応研修を行うなど、これまで培ってきたノウハウや技術を活かしているお二人。

着実に実績をあげ信頼を得てきたプール・ボランティアの活動について、これからの目標をお聞きしました。

岡崎さん 現在はほぼ大阪だけでの活動なので、「水の世界もバリアフリーに!」を日本全国に広げたいですね。プールの館長さんや施設管理者のトップの人に知識がないと変わらないのに、自分が健康やから、障がい者や病気の人への対応の仕方がわからないことが多いんです。

常に笑いと明るさを武器に、暗くなりがちな社会課題に向き合います

まだまだ障がい者スポーツへの理解が低いとはいえ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定をきっかけに、「少しずつ人々の意識が変わってきていると感じます」と織田さん。東京では、障がいのある人が利用しやすいタクシーも増えています。

利用者の中には、「パラリンピックに行きたい」と言う子どももいるそうですが、「パラリンピック出場を狙うには、もっと裾野が広くないといけない」と感じています。

織田さん 市民に理解が浸透して、たとえば、市民の寄付でパラリンピック選手育成のサポートができればいいんですが。うちのような団体がもっと知られるようになったら、もしかしたら社会が変わってくるかもしれない。そうなればいいなと思っています。

若い世代の保護者は積極的にPR用の写真撮影にも協力。雰囲気も良くなりました。

大阪マラソンでは、チャリティランナーのみなさんがペンギンのコスプレでマラソン!ユニークな手法で活動のPRを行っています。

この活動を始めるまでは「障がい者のことを気にしたこともなかった」というお二人。自らがプールという現場で目にした問題を見逃さず、地道に課題と向き合ってきた活動が20年でここまで大きく広がったことに、感動を覚えます。

プールで泳ぐ水の世界に関わりながら社会貢献ができるプール・ボランティア。岡崎さんや織田さんは、ご自身の好きな世界で困りごとを発見し、改善する行動を始めることからこの活動がスタートしました。

あなたも、身の回りにある趣味や活動の中から、小さな違和感を見逃さず行動してみてはいかがでしょうか。きっとそれが大きな一歩につながるはずです。

企業のロゴが入った協賛スイムキャップはプール・ボランティア活動への安心感や信頼にもつながっています