2013年に東京・虎ノ門で誕生し、2016年に清澄白河に移転した「リトルトーキョー」。虎ノ門では日本仕事百貨とグリーンズが共同で運営して、もうひとつの肩書をつくる「市民制度」や、日替わりでゲストがバーテンダーを務める「しごとバー」などをはじめました。
今回は、虎ノ門に続き2度目のクラウドファンディングに挑戦しているリトルトーキョーの現在とこれからについて、日本仕事百貨のナカムラケンタさんに伺いました。
「日本仕事百貨」を運営する株式会社シゴトヒト代表取締役。1979年、東京都生まれ。不動産会社に入社し、商業施設などの企画運営に携わる。居心地のいい場所には「人」が欠かせないと気づき、退職後の2008年、”生きるように働く人の求人サイト”「東京仕事百貨」を立ち上げる。
リトルトーキョーを残し、続けていくために
虎ノ門のリトルトーキョーで、クラウドファンディングで支援してくれた方たちの名前を壁に書き込んだときの模様をおさめた動画。
虎ノ門リトルトーキョーは、寿司屋だった建物を改装し、日本仕事百貨とグリーンズのオフィスとカフェ・バー、イベントスペースを兼ねていました。
もともと、リトルトーキョーは「みんなでつくる」というコンセプトではじめました。今までの場所は、場所を提供する人と使う人に分かれていましたが、当時リトルトーキョーが画期的だったのは「市民」という形をつくって、参加者ではあるんだけれども当事者でもあったこと。
みんなでDIYでリノベーションしながらつくったり、クラウドファンディングを通してオーナーのような関わりになったり、意図していなかったけど振り返ってみたらそういう場所だったな、と思います。
残念ながら2年ほどで幕を閉じましたが、虎ノ門で会った人から結婚式に招待されたり、清澄白河のリトルトーキョーにも来てくれたり、虎ノ門で得たご縁は今も続いています。
その後、リトルトーキョーは清澄白河にある5階建てのビルに移転。1階は「ごはんや 今日」が週替りの定食を提供する食堂とバー、本屋があります。この本屋は虎ノ門時代に「市民制度」で本屋をはじめた松井祐輔さんが手がけています。
清澄白河では「市民制度」はなくなりましたが、「しごとバー」は引き続き2階のイベントスペースで毎晩開催されています。そして4、5階は日本仕事百貨のオフィスになっています。
前回の取材時に「大家になりたい」と話していたケンタさん。本人は忘れていたようですが、実際に2018年に建物を購入し、本当に大家になりました。
当初から大家さんに「いずれは建物を買ってもらえたら」と言われていたこともあり、2018年11月に所有権は移ったものの、売買代金の一部は猶予してもらっています。今年6月までに一千万円が必要で、500万円は自分たちで調達し、残りの500万円はクラウドファンディングで募ることにしました。
こうして2018年12月に、再度MotionGalleryでのクラウドファンディングがスタート。2019年3月12日現在、101人のコレクターから約180万円の支援金が集まっています。
物件の購入が難しい場合はほかの場所に移るという選択肢もあったはずですが、ケンタさんは「残す」ことを大切にしたかったようです。
よく行っていた築地市場がなくなったのはすごくショックだったんです。ほかにも東京は昔の風景がどんどんなくなっていて寂しいなと思います。
虎ノ門リトルトーキョーも、自分がお客さんとして通っていたら、なくなったときショックだったと思うんだよね。今も「しごとバー」には毎日30人ほど来てくれて、1階のバーには常連さんも集まっていて、これは残さないといけないな、と思っています。
求められているのはジャズ・バーのような場所
2、3階でおこなわれるイベントが終わると、参加者は1階のバーに移動して飲む人が多いのだそう。そこでバーの常連客と交流し、「化学反応が起きるのが一番おもしろいところ」とケンタさん。
バーは常連さんだけでいるのも確かに居心地がいいけど、ときどき新しい人がやって来るのも新鮮でおもしろいし、リトルトーキョーではそのいいとこ取りを考えています。
現代って、誰かとも関わりたいし、一人にもなりたいという願望を持つ人が多いと思っていて。シェアオフィスやシェアハウスも楽しいけど疲れるときもあって、バランスが大事。だからこそ、誰かと共有もできるし、一人にもなれる選択の自由があるといいと思っています。
バーはそういう場所なんだよね。一人で飲んでもいいし、一緒に誰かと過ごしてもいい。イメージにもっと近いのは、ジャズ・バーかな。一人で黙々と音楽を聞いてもいいし、セッションに参加することもできる。お客さんが当事者にもなれる。そういう場所がいま求められていると思います。
「しごとバー」も、誰もがイベントに参加でき、ゲストにもなれる、敷居の低いイベントです。イベントに参加せず1階のバーでただ飲むだけでもOK。そうした関わり具合を選べるところが、リトルトーキョーの魅力のひとつのようです。
日本仕事百貨スタッフの今井夕華さんによると、参加者のなかにはイベントで知り合い、一緒に旅行に行くほど仲良しになった人たちもいるのだとか。
今井さん 会社に入ると友達ってなかなかできないけど、ここでは似た価値観の人たちが集まっていて、「人生の交差点」のようになっています。たとえばイベントがきっかけで参加者が移住するかもしれないし、良くも悪くも、ちょっとしたきっかけで人生が変わってしまう場所なんです。
そのせいか、「ここを残したい」という思いがスタッフよりも強い人もいるそうです。
今井さん クラウドファンディング初日に開いたイベントでは、よく来てくれている方が「ここの活動に興味があるから支援したい」とおっしゃってくれて。「せっかくならここに来ている人とリターンを共有したい」と、1万円のシャンパンを購入してくれたんです。そしたら、もう2人もシャンパンを入れてくれて、その場に40人くらいいたみんなでシャンパンを飲んでいいスタートを切れました。
クラウドファンディングのリターンには、ケンタさんと2泊3日で新島に行くツアーや、「日本仕事百貨」編集長の中川晃輔さんの取材に同行できるなど、ユニークなリターンも。ほかにも、「しごとバー」のゲスト出演やイベントディレクターに就任できる権利もあり、支援後もリトルトーキョーの運営に関わることができそうです。
楽しい瞬間がたくさん起きる場所に
昨年、日本仕事百貨を運営する「シゴトヒト」は設立から10年目を迎え、中川晃輔さんが編集長になり、ケンタさんも初の著書『生きるように働く』を出版しました。一区切りつき、今年は「どんどん新しいことに挑戦していきたい」と意気込みます。
リトルトーキョーは挑戦するのにぴったりな場所です。こういう気軽にチャレンジできる場所ってあまりないですよね。僕自身も、自由に使える場がほしいとずっと思っていました。だから、ここで何かをしたいというよりは、自由に気軽に使える場所を提供したいという思いが強いです。
人生の幸せというのは、すごく楽しい!という瞬間だと思っていて。最高に楽しい瞬間が多ければ多いほど人生は豊かになる。リトルトーキョーも、そういう瞬間がたくさん起きるような場所にしていきたいです。西村佳哲さんはそれを「いま生きているという経験」と表現していましたね。
それはケンタさんの著書『生きるように働く』の出版記念イベントでともに登壇したときのこと。西村さんは、イベントのなかでこんな話をしたそうです。
西村さん 神話学者のジョーゼフ・キャンベルさんという人がいます。キャンベルさんは『神話の力』という本の中で、こういうことを言っています。
「人々はよく、われわれみんなが探し求めているのは生きることの意味だ、と言いますね。でも、本当に求めているのはそれではないでしょう。人間がほんとうに求めているのは〈いま生きているという経験〉だと、私は思います」
これを最初読んだとき、泣いてしまったんだよね。本当にそうだなって。
(ミシマ社の「みんなのミシマガジン」より抜粋。)
僕にとっては「経験」というより「瞬間」。なんていうのかな、「人生のオーガズム」というか、「人生の絶頂」が一番しっくりくる表現かな。それを経験できるか。
この前も行きつけのバーに一人で行って、常連さんたちとくだらない話しかしていないんだけど、みんなで大笑いして。それが本当に楽しいんですよ。生きているって実感がするのかな。
生きていると働く意味とか生きる意味を求めたりするけど、それは過去や未来に向いていて、頭で論理的に考えずにいまこの瞬間を楽しみたい。ずっと生きる意味を模索し続けて終わる人生よりは、ぼくは今をちゃんと楽しむ人生でありたいです。
リトルトーキョーはそうした楽しい時間が起きやすいから残していきたいし、続けていきたいです。
確かにリトルトーキョーのイベントに参加すると、初対面同士だった人たちが気づけばみんな笑って話している姿をよく目にします。それはバーがあることやスタッフの関わり方など、全部ひっくるめてそうした空気が生まれやすい場になっているからだと思います。
まだ訪れたことのない方は、ぜひ一度のぞいてみてはいかがでしょうか?そして、また行きたい、今後も存続してほしい、という方は、クラウドファンディングのページものぞいてみてくださいね。もちろん、バーでシャンパンを入れていただくのもよさそうです!
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