\新着求人/地域の生業、伝統、文化を未来につなぎたいひと、この指とまれ!@ココホレジャパン

greenz people ロゴ

大人と子どもが、ともに「学びのサイクル」を回していくことが大事。探究型学習の塾「a.school」が、設立6年目のいま見えている景色とは

時代が大きく変化していくなかで、これからの社会で活躍できる人材を育てるため、教育改革がはじまっています。

2020年度からは小学校で新しい学習指導要領が実施され、大学入試センター試験は記述式問題などが導入される「大学入学共通テスト」に変わります。ただ覚えたことを回答するだけでは通用せず、自分で考え、表現し、伝えていく力が必要になってくるのです。

そうした子どもたちの「考える力」を育む、学び方のひとつとして「探究型学習」に注目が集まっています。探究型学習とは、主体的な取り組みを通して、自ら学びを深めていく学習のこと。たとえばある課題に対して、情報を集め、分析し、解決方法をプレゼンテーションするなど、社会に通用する力を養います。

今回登場いただく「a.school(エイスクール)」は、以前こちらの記事でも紹介しましたが、2013年から探究型学習に取り組んできた塾です。立ち上げから5年経ったいま、商いに挑戦する人々を応援する「Square」とともに、「a.school」代表の岩田拓真さんに改めて探究型学習の鍵を伺いました。

岩田拓真(いわた・たくま)
1985年京都生まれ。京都大学卒業、東京大学大学院 工学系研究科修了。経営コンサルティング会社で勤務する傍ら、小学生から社会人までさまざまな層を対象とした教育プログラムの企画・運営に携わる。その後起業し、夢中に遊び、夢中に学び、夢中に生きる人を育てる学習塾「a.school」を創業。

子どもが面白いと思うことを探究していく

取材風景。文京区にある本郷校は、無垢材の床が気持ちのいい空間が広がる。

まずは「a.school」についてご紹介を。
2013年、「0から1を切り拓く人に。」を合言葉に、東京都文京区で創塾。現在は全部で百数十名ほどの小・中・高校生が学んでいます。

いわゆる学習塾では先生が前に立って講義をするスタイルが一般的ですが、「a.school」ではワークショップ形式の双方向型で授業をおこなっています。ディスカッションや発表をしたり、ときには作品づくりを通して表現したりすることも。

科目は、小学生向けは身の回りの物事や仕事の世界と算数をつなげて学ぶ「おしごと算数」コースと、未来をつくる様々な仕事に挑戦しながら科目横断型の学びを進める「なりきりラボ」コースのふたつ。

中学・高校生向けは、実社会に飛び出して長期プロジェクトに挑戦する「探究ラボ」コースがあります(英語や数学を探究的に学ぶコースもありますが、現在コース再編中です)。

「おしごと算数」ではロゴデザイナーの仕事を体験!

「なりきりラボ」ではプログラマーの勉強を。

授業をするうえで大事にしているのは「子どもが面白いと思って、自ら探究していくこと」だと岩田さんは言います。

まずは子どもたちが面白いと思うような種を撒きます。そして、観察する。子どもたちはどこに夢中になっていて、なぜ夢中になっているのかを観察して読み解いていくことが大事です。その生徒の特性や興味関心が読めると、次のパスが出しやすくなるんです。「次にこれを紹介したらハマるんだろうな」という確度が高まっていく。その繰り返しです。

今日、学校でも探究型学習が重要視されてきていますが、学校での探究と「a.school」の探究はすこし異なる部分があるようです。

一番大きな違いは、個人にフォーカスしているかどうか。学校だとどうしても1クラスの人数が多いので、みんなでやるとなると共通のテーマにしなくてはいけません。そのため、「地域の課題」などテーマが限られてしまいます。それでは生徒一人ひとりの興味を探究することはできません。

だから役割分担でいいと思っています。全部を学校に求めすぎないで、学校の外にも学びの場やコミュニティがあることが大事なのだと思います。

壁には子どもたちが自由に探求したテーマの発表も。

大人が夢中になっている姿を子どもに見せる

子どもの頃に探究型学習を体験したことのある大人は、多くはありません。そのため、いざ子どもを通わせるとなると、授業内容に戸惑う大人も多いそうです。そんなとき、岩田さんは「親も一緒に楽しむこと」を勧めています。

うちに通っている生徒の中には、すごく伸びる子とそうでない子がやっぱりいます。伸びる子の特徴はふたつあって、ひとつは自分で調べたり学んだりすることが好きなタイプ。普段の学校ではできないけど、ここに来れば自由に考えたり発表したりできる。そういう子は機会さえあれば、水を得た魚のように伸びていくんです。

もうひとつは、子どもだけではなく親御さんも楽しむタイプ。たとえば子どもがうちの塾で学んだことを家で話したときに、お父さんやお母さんが「それ面白いね」って話を聞いてあげて一緒に楽しんでくれる、ということです。

さらには、親御さん自らそのテーマの本を買って読んだり、気づいたときには親御さんのほうが詳しくなっていたり。そういう家庭の子どもはすごく伸びていきます。子どもの好奇心をきっかけに大人が楽しくなって、さらに子どもも楽しくなっていく。そんなサイクルが回ることが大切なんだと思います

逆にあまり伸びない子どもは、どんな特徴があるのでしょうか。

「a.school」は、ご家庭からすると習いごとと捉えられることもあるので、子どもに対して「ちゃんと宿題やってるの?」という関わり方をする親御さんもいます。そうすると子どもは「ちゃんとやらなきゃいけない」という姿勢になってしまう。自由に楽しんだり、面白いと思うことを突き詰めれたりすればいいのに、「ちゃんとやらないと」というモードになってしまうと、あまり伸びません。

よりよい探究型学習のためには、大人も子どもと一緒に楽しむことや、大人が家庭の雰囲気をつくることが大きな鍵となっているようです。

どうしても親は管理者っぽくなってしまいがちです。マネージャー化しているというか。テストの結果を見て「達成率が何%」と判断するみたいな。そうじゃなくて、一緒に歩んでいく必要があります。

そして、大人の背中を見せる、ということも大切です。子どもと違うテーマでもいいから、お父さんやお母さんが何かに夢中になっている姿を見せると、「好きなことを探究していいんだ」という気持ちが子どもに刷り込まれていきます。

そうは言っても、大人になってから探求のスイッチを押すのはなかなか難しいもの…。そういう場合は、何からはじめたらいいのでしょうか?

まず、親という役割から離れてみることが大事です。お父さん・お母さんという殻を外して、一人の人間として面白いと思うことを体験する。自分は何が好きなのか、何をじっくりやってみたいか、個人として問いかけて、熱中してみる。そのうちに親であることを忘れてた…くらいがいいです。

また、学校の先生も同じように、いかに自分自身が面白がれるか、学びながら楽しめるかが大事だと言います。

教科書ってそんなに大きく内容が変わらないので、毎年同じ授業をしていても面白くならない。でも、先生がその教科書の中に面白さを見い出して授業をすれば、その姿勢は生徒に伝わるはずです。

探究型学習を世の中に広げていくためには、子どもが自由に探究して学べる場をつくることは大事なんですけど、それに加えて親御さんも先生も僕らも自ら楽しむ気持ちがないと、形骸化していくだろうなと思います。

どの地域でも、探究型学習に触れるきっかけをつくる

「a.school」ではこれまでの5年間で、どんなプログラムにすれば子どもたちにうまく火をつけられるのか、どんな授業が「いい授業」なのか、運営方法なども含めて様々な試行錯誤を重ねてきたそう。そして6年目を迎えたいま、「ある程度、『a.school』の探究型学習はかたちになってきたので、これからは全国に広げていきたいと考えている」と、岩田さんは言います。

企業との連携も増えてきていて、大手の教育関係の企業と一緒に全国の学校向けの探究型学習の教材を共同開発したり、監修で入ったりしています。これからもっと探究型学習が広がっていくと思うので、貢献できるところはできる限りやっていきたいですね。

地方にも目を向けているという岩田さん。すでに愛知県の野外教室や岡山県にある保育園、宮城県で貧困家庭の子どもたちを支援しているNPO、徳島県の学習塾などでも「a.school」の授業をパッケージした講座が行われています。内容は「a.school」で行っているのと同じ探求学習プログラムですが、「それぞれの地域の特性やプレイヤーが持っているものをできるだけ生かしている」と言います。

地域のいろいろな領域のプレイヤーたちと組み、彼らがもともとやってきたことに「a.school」をかけ合わせてもらっているのが面白いですね。たとえば野外での遊びが好きな子が、その好奇心を勉強にも向けるようになったり。そう考えると、さまざまなタイプの学び場と連携することで、子どもたちの学びを促進しているのかもしれません。

岩田さんは、今後はそうしたパートナー先を広げていこうと意気込みます。その背景には、自身が滋賀県で育った経験がありました。

どの地域に住んでいても、子どもたちが自分の興味関心を伸ばせる場をつくりたいです。僕はたまたま10年以上も東京に住んでいますが、自分が育った場所は地元の滋賀という思いがあります。だからこそ、どの地域でやるにせよ、「一人ひとりの子どもの興味関心」という軸を持って、地方でもいろいろな学びに触れるきっかけをつくれたらと思っています。

地方にはすでに面白い学びの場や、教育関係の団体がけっこうあります。だから、校舎をどんどん増やしていくというよりは、そういうところと連携して広めていきと考えているところです。

これからは全国に向けて「a.school」の探究型学習を広めていきたい、と胸を膨らませる岩田さん。

最後に、これから探究型学習を受けた人たちが増えていくと、どんな社会になるのか聞いてみました。

精神的に豊かな人が増えると思います。外からの外圧ではなくて、自分の中にある興味関心から動いていくと、人生の満足度は高まっていくはずです。仕事でもいいし、趣味でもいいし、自分の中から出てきたものや自分の大切にしたいことをもとに生きている人が増えたらいいなと思っています。

「a.school」では現在、子ども向けの探究型学習に取り組んでいますが、その眼差しの先には子どもたちが大人になった先の社会がありました。そして、いま、私たち大人ができることは、自分の中から湧いてくる興味関心に目を向け、夢中になること。大人だって、楽しんでいいんです。生き生きとした大人が増えれば、社会はきっと、もっと面白くなるはずです。

(Photo by Kouki Otsuka)

– INFORMATION –

「a.school」の見学・体験にご興味がある方や、全国の地域で「a.school」の探究型学習をともに広げることにご興味がある団体・企業の方のお問い合わせはこちらまで。
http://aschool.co.jp