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水道代はタダ、調理は野外、コンテナでテント泊!? 北海道の「パーマカルチャー研究所」三栗祐己さん一家の“遊暮働学”な生き方を潜入取材してきました。

札幌市南区の山中にパーマカルチャー生活の拠点をつくりました

北海道札幌市内中心部から車で40分。「パーマカルチャー研究所」を運営するgreenz people三栗祐己(みつくり・ゆうき)さんの拠点は、コンビニもあるような国道から分岐する狭くガタガタの道を10分ほど進み、さらにカーナビシステムが案内を終了するような分け入った山の中にあります。

車で到着したわたしを、ニコニコ笑顔で出迎えてくれたのが三栗さん一家。祐己さんと妻の沙恵さん、そして二人の子どもたちです。

三栗祐己(みつくり・ゆうき)
パーマカルチャー研究所代表。住まいを手作りし、少ないエネルギーで楽しい生活を自ら実践、その暮らしを発信している。北海道大学工学部出身、専門は電力・エネルギー。エネルギー問題を自分の研究で解決しようと東京電力へ就職したが矛盾を感じ数年で退職。故郷へ戻り北大大学院を経て函館高専の教員生活を始める頃、タイでノンストレスでシンプルなパーマカルチャー的暮らしを目の当たりにし、自らも実践者となるべくライフスタイルを一変させた。 

パーマカルチャーとは、その語源(permanent+agriculture)のとおり、人類が土、水、空気といった自然の中にあるパターンや成り立ちから学び、再生可能なかたちで証明されてきた方法論のこと。もともとは農法のひとつとして生まれた概念ですが、現在は自分たちの生き方や考え方を指し示すようなかたちにまで進化しています。

greenz.jpでも、今までにパーマカルチャーに関する記事を数多くお届けしてきました。例えばこんな記事。

パーマカルチャー、それは私たちの生きる世界を変えるレンズ。 ポートランドの実践的リーダー マット・ビボウさんが語る“子どもとパーマカルチャー”(前編)

このパーマカルチャーの考え方に共鳴した三栗さんは、自分たちの暮らしをパーマカルチャー的生活の実験場として定義し「パーマカルチャー研究所」と名付け、多くの人に伝えていくために自身のブログなどで情報発信を続けています。

パーマカルチャーの3つの倫理と12の原則(タイのパーマカルチャービレッジ「サハイナン」に掲示されているもの 詳しい解説はこちらから)


「パーマカルチャー研究所」があるのは、大家で70歳代の通称「五郎さん」 (テレビドラマ『北の国から』の黒板五郎から命名)が開墾した土地。「エコ村」とも呼ばれる自給自足の暮らしに憧れる人たちが集まるエリアの一部を借りて拠点としています。三栗さん一家の自宅は古いコンテナ2個をつなげたスペースで、2018年の8月にそれまで暮らしていたアパートを完全に引き払い、こちらへ引っ越してきました。

パーマカルチャー研究所は札幌中心部から車で40分の山を切り開いた場所にあります


その生活はなかなかワイルド。現在も毎日少しずつ家と生活を改造しながら自給自足に近い暮らしを切り盛りしています。少しその中身をご紹介していきましょう。

自給自足仲間とともにつくる豊かなパーマカルチャー生活

「まだ水道が家の中までは来てなくって!」と笑顔で説明する三栗さん。コンテナの前まで引かれている水道は、近くの山の伏流水(浅い地層から湧き出る地下水のこと。水質が良好で安定していることが多い)を利用しています。つまり水道代はタダ!

電気は五郎さんの配電盤から分電、メーターがついているので、その分を支払っています。つい先日まではその電気もなく夜はLEDの懐中電灯ひとつで過ごしていたので、「地震で停電してもうちではそんなに困ったことはありませんでした」と話します。

コンテナを利用した洗濯部屋。洗濯機は全自動ですが「水はまだ手動です」と笑いながら解説中


小さな別のコンテナを利用してつくった洗濯部屋は、アパート暮らしで使用していた洗濯機を持ち込み、給排水は自分で管を買ってきて整備。パーマカルチャーの理念から、洗剤は使わず水洗いのみ、排水はそのまま流して畑用の水として活かしています。

大根やほうれん草、キャベツなど種類も豊富な畑の野菜たち


家の前は畑。ビニールハウスもあります。採れた野菜を冬の間も、近くに作った室(冷蔵庫がわりの天然の保存庫)に保存することで、1年間ほとんど野菜を買う必要はない。大家の五郎さんは長年そのような暮らしを営んでいるそうです。三栗さん一家も、五郎さんから教わりながら、野菜を買わない暮らしにチャレンジしています。

ビニールハウス内ではトマトやナス、唐辛子などを育てていました

採れたてピカピカの野菜がうらやましい!

烏骨鶏の小屋もありました! 飼っているのはメスで、卵を採って食べています。烏骨鶏は毎日卵を生むわけではないので、貴重!というより、そもそも烏骨鶏の卵を食べたことがない私にとっては、そんな生活をしていることも驚きです。

息子さんが烏骨鶏のエサの面倒を見ることも

出荷できないじゃがいもをいただき、傷んでいないものを分別して食用に

これらはいずれも五郎さんのものを共同利用。その他、薪小屋や様々な工具や機械が置かれた作業場などがあり、自給自足を越えた、より生産的な暮らしができるほどの環境が整えられています。

工房を借りて作業をすることも。70代の五郎さんも家族連れの後継者ができて喜んでおられるそう

コンテナ内にあるトイレは、なんと排水槽もついた水洗です。お風呂は「給湯器と浴槽をもらってきたのでこれからパイプをつないで、数日内には使えるようにする予定」だそう。

水道の配管について解説する三栗さん

キッチンシンクはあるけれど、水道パイプの整備をしていないので、室内ではポリタンクの水で代用。調理は主に、屋外でしているそうです。
寝泊まりは、コンテナの中に張ったテントで。

テントがある室内。9月半ばですでにストーブが置かれていました

ここ札幌は、冬は極寒の地。寒くないんでしょうか? この場所で生きていけるのだろうか? なんて考えてしまいます。三栗さんに問うてみると、「寒いでしょうね」と、そんなの当たり前といった面持ちで答えてくれました。

北海道の冬の訪れは早く、11月半ばを超えると雪が降りはじめる年も。取材に訪れた9月下旬でも調理を兼ねた灯油のキッチンストーブが使われていました。雪が積もってしまうまでに、今はひとつずつ優先順位の高いことから家の環境を整えているところです。

引っ越してきて約2ヶ月。まだまだ未完成の部分がたくさん残されていますが、三栗さん一家にはまったく悲壮感のようなものがありません。むしろ外で調理するのも、キャンプみたいで楽しそう! と思えてきます。

外の水道で蒸しかぼちゃの下準備をする沙恵さん

知人が育てて大量にいただいたというかぼちゃ。圧力鍋で調理したホクホクのかぼちゃと手づくりのカカオの蒸しパンをごちそうになりながら、「幸せってなんだろう?」、「物質的な豊かさと幸せはまったく比例なんてしないんだな」と改めて感じました。

純カカオでつくった蒸しパンと蒸しカボチャ。塩だけでシンプルにいただきましたが最高に美味しかったです!

理屈ではなく直観のほうが真実を表していることもある。
福島第一原発での事故が自分の価値観を変えた

「世の中のエネルギー問題を解決したい」学生時代から三栗さんを貫く大きな使命がここにあります。大学から研究一筋。お話いただく内容もとても理路整然としています。大企業を経て、一生研究し続けるために大学院に入り直して教員を目指すという、絵に描いたようなエリート路線を走っていた三栗さん。

お話を伺っているうちに、さまざまな疑問が生まれてきました。理詰めで考えて、今のような一種アウトローな生活につながるのだろうか? 会社組織を離れてパーマカルチャーを実践して生きるライフスタイルを選んだのは何故? なにか彼を根底から揺るがすようなきっかけがあったのではないだろうか?

そう問うと、三栗さんはこう答えてくれました。

原発事故です。福島第一原発の事故が、自分の価値観が大きく揺らいだ最初の大きなきっかけになりました。

2011年3月当時、三栗さんはまだ東京電力で働いていましたが、その勤務形態や内容が自分には合わず、北海道に戻って研究生活をしたいと感じていた時期だったそうです。原発事故があったことで、より明確に自分のあり方や考え方を理解するようになりました。

それまで、三栗さんはどんな事象も理論的に説明できることが何よりも大事だと考えていたと言います。

東電に勤めていましたから、原発反対運動があるのも当然知っていました。でも、「事故なんてあるわけない。(主に反対をしていた女性たちは)感情に任せて根拠もなくああだこうだ言うなんて、正直バカなんじゃないか」とすら思ってたんです。

でも違いました。彼らのほうが正解だったんです。理論ではなく直感に従って「何かが危ない」と指摘していた彼らのほうが、よほど世の中をわかっている。そう思ったときに、自分の中に女性的な要素、つまり、感情や直観を信じることをもっと取り入れようと思うようになりました。

自分で持っていた理知的な要素に加え、常識を疑って目に見えないものも含め、ものごとを包括的な視野で捉え、自分の内側から沸き起こる直感や情動を信じる要素を加えることで、ものごとへの向き合い方を変えた三栗さん。すると、当時悩まされていた心の問題も自然と改善に向かっていきました。

笑顔で施設内を案内する三栗さん

タイのパーマカルチャー農場で出会った
エネルギー問題を解決する仕組み

そして出会ったのがパーマカルチャー。札幌に戻り、大学院で学んだ後のぽっかり空いた期間を利用して、平和環境活動家・丹羽順子さんが紹介してくれたパーマカルチャーファームに夫婦と息子の3人で訪れたことがきっかけでした。

タイ・ラオス国境の山岳地帯にあるパーマカルチャーファーム「サハイナン」で暮らした3ヶ月間には、エネルギーを使わない不便さよりも、エネルギーを使わないからこそのスローで豊かな生活がありました。自分たちで木や竹を切って家をつくるなど、何でも自らの手で組み立てる生活。必要最小限のエネルギーで便利ではないけれど、愛と豊かさに満ち溢れた持続可能性な暮らしをつくる村のあり方を目の当たりにして、その生活に衝撃を受けたといいます。

「この暮らしは、自分が一生の課題にしようとしていた地球環境を犠牲にしている経済とエネルギーの問題を完全に解決している!」と人生最大の衝撃を受けました。彼らは、暮らしを自分でつくっている。消費者ではなく生産者なんです。自分たちの暮らしを自分で主体的につくると、自然とエネルギー問題も解決していくのだと気づきました。

日常の”困った”をどれだけ消費ではなく、生産でまかなっていけるか? 例えば、車のバッテリーが上がったら業者を呼ばずに自分で対処するなど、できるだけ他者やお金に依存しない、自立的な暮らしの比率を高めていくことが、最終的に地球環境やエネルギー問題の解決に大きく貢献すると三栗さんは考えています。

完全な自立的暮らしとして、タイのパーマカルチャーファームやうちもだいぶ究極的にやっていますが、みんなにこうしろという話ではなくて、少しずつ自立的暮らしの割合を増やしていきましょうよ、と呼びかけています。たとえ今がアパート暮らしだとしても、そこから何ができるか? 例えば味噌を自分でつくってみるとか、そういうところから考えることがとても大事だと思っています。

とうもろこしや梅干しなどの瓶詰めも手作りで

三栗さん一家の今の暮らしも、最初は小さな一歩からはじまっていました。
タイから帰国後の2015年7月、まだアパート暮らしだった三栗さんはひとつの行動に出ます。それは研究所の立ち上げと看板づくり。そう書くと法人を立ち上げたり大きな看板を発注するようなイメージがありますが、実際はとても小さな行動でした。

研究所には研究員が必要です。僕はドクターで所長、所員は家族3人。名乗ってしまうのも勇気だけ、場所も何もいらない。でも設立を象徴するものをつくりたかったので、その辺にあったダンボールで看板をつくりました。

設立を決めたその場で、沙恵さんが油性マジックで書いてつくったのが研究所の看板です。

ダンボール紙に手書きでつくった看板

研究所設立とともに名刺も作成。この名刺を配って人脈づくりを企てていましたが、その効果はあっという間に発揮されます。なんと名刺配布3人目で研究に必要な土地を紹介してくれる人との出会いがありました。アパート暮らしをしながらその土地で水の取得を目指して井戸づくりに2年ほど費やし、その後「五郎さん」に出逢い、念願の現在の研究所と生活スタイルにたどり着いたのでした。

家族一体でのパーマカルチャー暮らしの秘訣は
家族会議と議事録!?

ところで、こうした少し特殊な生活に、ご家族から戸惑いや反対の声はなかったのでしょうか? 家族全員がこの生活を受け入れ、続けられる秘訣はあるのでしょうか? 疑問に思いながら研究所内を案内していただくうちに、書斎の机上にそのヒントとなるノートを見つけました。表紙には「三栗家会議録12」と書かれています。聞くと、結婚してから毎月1回、夫婦で会議をして議事録をつけているのだそう。

会議をする夫婦も珍しいけれど議事録までつけるとは! 大事な記録ですね

過去には帰りの遅い夫へのストレスと、正しい育児をしたいと思うあまりに育児ノイローゼになりかけたこともあった沙恵さん。彼女自身もパーマカルチャーファームでの暮らしは衝撃で、共感できる学びが数多くあったようです。毎日が冒険のような今の暮らしも、意見のズレを会議で軌道修正しつつ、大いに楽しんでいる様子でした。

2人のお子さんは現在、家族がいつでも参加でき、子どもも大人も共に育っていけるモットーに共感した『札幌トモエ幼稚園』へ家族全員で通う生活を送っています。今後については「学びの環境は整えたいが、学校教育にはこだわらず、これから先も本人たちの意志に委ねたい」と自然体。親のこうした生きる姿を見続けている小さな彼らが、どんなふうに育っていくのか興味は尽きません。

二人きょうだいとても仲良し。家族全員子どもたちと過ごす時間が多いことも幸せのひとつ

「やらないベストよりやるベター」
小さくてもできることからスタートしよう。

最後に、三栗さんがこれからやっていきたいこと、上げたい狼煙は? と聞くと、「遊暮働学(ゆうぼどうがく)仲間を増やしたい」との答え。

“遊暮働学”とは、パーマカルチャー研究所が目指しているライフスタイルで、楽しく暮らし、それが仕事にも学びにもなる生き方を指す、三栗さんがつくった言葉です。

そのなかでも家づくりは遊暮働学の典型的な例。現代の一般的な家づくりが勤め先で仕事をして得たお金で家を買うのに対し、遊暮働学では、直接家をつくることが仕事です。暮らし自体が遊びでもあり、仕事でもあり、学びでもある。ただ暮らしていれば暮らしが回る、そんなライフスタイルを理想とする考え方のことを指しています。

でも、いきなり家づくりに取り掛かるのはなかなか難しい。どのようにすればその仲間入りができるのでしょうか?

プランターで野菜をつくってみるとか。そこで1年間の野菜を賄えないから無駄と捉えるのではなくて、ひとつの野菜をつくってみることで、野菜に対する感覚を変える事が大事だと思うんです。サラリーマンでもアパート暮らしでも、今すぐに一人だけでもできることは実にたくさんあります。それをひとつずつ思いつきや直観に従ってなんでもやってみることが未来を明るくしていくと思っています。

かっこよく理路整然と言葉を並べて話をするだけで何一つ手を動かさないのはよくない、小さい行動を積み重ねる人になってほしい。自分が考える「あったらいいな」の理想を少しでもいいからやってみる。「やらないベストよりやるベター」ですね、とかつての自身を顧みながら三栗さんは話してくれました。

千里の道も一歩から、とは言い古された慣用句ですが、壮大な理想を語るだけでは未来に変化はありません。土地などなくても自分ひとりだけでも今すぐパーマカルチャー的暮らしに近づく一歩を踏み出すことはできます。まずはマイバッグを持つ、いや、目の前の人に優しくすることから、遊暮働学な暮らし方をあなたも実践してみませんか?

自慢の看板とともに一家揃って記念撮影

– INFORMATION –

パーマカルチャー研究所を知ろう!

パーマカルチャー研究所のウェブサイトでは、三栗さん一家のパーマカルチャー暮らしを綴った日記やパーマカルチャーを学ぶ講座、メールマガジンやYouTubeを利用したラジオ番組まで積極的に発信しています。現在の暮らしぶりや、タイのパーマカルチャーファームでの生活が丁寧に描かれているので、パーマカルチャー生活に興味がある方は必見です。

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そんな三栗さんも参加している、ほしい未来をつくる仲間が集まるグリーンズのコミュニティ「greenz people」。月々1,000円のご寄付で参加でき、あなたの活動をグリーンズがサポートします。ご参加お待ちしています!

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