こんにちは、諸岡若葉です。主に地方での暮らしや仕事、ものづくりなどをテーマにライターをしています。今回はようびの工房におじゃまし、「自分でつくるヒノキの椅子」をつくってきました。
わたしたちの日常において、椅子はその営みに欠かせない大事な一部です。家族で囲む食卓。コーヒーを片手に本を開く、一人の時間。子供達が、宿題やお絵かきをしたり、今日楽しかったことを話して聞かせてくれる時。私たちは、安心して使い慣れた椅子に身を預けます。
岡山県西粟倉村に社屋を構えるようびは、その“椅子”をつくることから始まり、現在では家具の制作の他に建築や、共につくることを通したコミュニケーションの実験など、総体的にものづくりに取り組む会社です。家具の作り手としては、これまで建築には用いられてきたものの家具づくりには向かないと言われてきたヒノキを使って家具を作る、ヒノキ家具のパイオニアとして注目されています。
2016年1月、火事によって工房を全焼するという困難に立ち向かった彼らの姿は、ツギテプロジェクトという形で多くの共感を呼び、行動を巻き起こしました。不屈の精神を持ちながら、彼らが作るのは色白で繊細なヒノキの家具。ものづくりへのこだわりが細部にまで現れるようびの家具は、全国様々な場所や家庭で、日用品として使われ、愛され続けています。
旅する買い物シリーズでは、椅子を販売するとは言っても、通常のネットショッピングのように購入ボタンを押して商品が玄関に届けられるのを待つのではありません。
商品を購入すると、岡山県西粟倉村にあるようびの工房で12月に開催される、自分の椅子をつくるワークショップに参加することができます。つまり、今回販売するのは椅子単体ではなく、「自分の椅子をつくる体験」です。買って届くのを待つのでなく、自ら椅子をつくりに、工房へ足を運びます。
ようびのものづくりを象徴する、“クレーチェア”。
今回つくることができるのは、「クレーチェア」。ヒノキのシャープな直線が美しく、見た目も軽やかな椅子です。
さらに特徴的なのは、ペーパーコードという紙を素材とするコードで編まれた座面。シンプルで美しい張りですが、座るとお尻の形に沿って少しコードが変形し、包まれるような感覚です。今回は、この座面を編むという作業を体験することができます。
企画担当者である、ようびスタッフの山口さんが、ようびにとってのクレーチェアについてお話を聞かせてくださいました。
山口さん クレーチェアは、火事で全焼してしまった旧工房が始まった時に、ようびのものづくりを象徴する家具として、最初に作った椅子です。その初期のクレーチェアをリデザインしたものが今のクレーチェア。火事後、工房の再建と同時に発表しました。
軽さや肌触りの良さなど、ヒノキのいいところを凝縮した椅子なので、ようびがつくるヒノキの家具を象徴するような椅子ということで、今回の体験でつくる家具に選ばせてもらいました。
座面だけでなく、椅子自体にもビスや釘を使っていません。座面に使っているペーパーコードも原材料は木なので、100%木でできた椅子です。つまり、椅子丸ごと自然に還っていく素材でできています。森から生まれ、森に還っていくという点でも、ようびのものづくりを象徴していますね。
木が生まれ育った森を眺めながら、自分の椅子をつくる。
職人さんたちがものづくりに打ち込む工房に足を踏み入れると、木のいい香りが充満していました。ガラス張りの工房から見えるのは、周囲の山や田んぼの四季折々の風景。
都市部でもパーツがあれば「つくる」ことはできますが、その素材が生まれた森や自然を実感しながらものづくりができるのは、わざわざ足を運んでこそ得られる価値です。
山口さん 目の前に広がっている風景がそのまんま素材になっているというのは、なかなか経験できないと思います。
どこでどのようにその素材が生まれたのかを知り、それを素材として使わせていただいていることを体感したら、山や森にに還元していくものづくりも、ただ頭で理解するだけでなく感情移入ができます。
大きく深呼吸をし、さっそく椅子作りに取り掛かります。山口さんに習いながら椅子を作業台に固定し、まず1週目の編み方と基本的なポイントを教えてもらいました。
山口さん あとは、ひたすらこれを繰り返すだけです。
お子さんも親御さんと二人三脚で取り組める、とてもシンプルな作業です。この単純な編み方だけであの立体的な座面が出来上がるなんて…半信半疑で進めること数週め。確かに、編み上がった部分が美しい編み目に仕上がってきました。
山口さん 編み上がりが封筒のような綺麗な直線を描くのが特徴で、「Envelope Weaving(封筒張り)」などと呼ばれています。昔から使われてきた伝統的な編み方です。コードを継ぎ足す時の結び方は「もやい結び」と言って、これも昔から使われて来た“おばあちゃんの知恵”のようなもの。
実は、僕たちのものづくりはこういった昔から伝わってきたものづくりの手法もたくさん取り入れているんです。
山口さんとのお話を楽しみながら編み続けていると、だんだんと汗ばんできました。人の体重を支える座面ですから、コードは力を入れて張りながら編んでいきます。編み方は単純ですが、その作業は一脚を仕上げるだけでも相当な体力を使うことが実感できます。とは言っても、張りすぎると硬い座面に仕上がってしまいます。どのくらいの張り具合がベストなのか、山口さんに質問するとこんな答えが返ってきました。
山口さん 座り心地のいい張り具合がベストです。
作業だけに集中していた視界が、一気に広がったように感じました。いい家具は、美しさと使いやすさを兼ね備えた家具であり、椅子もまた「座り心地」の良さが大事なのです。使う人を考えてつくる、ものづくりの奥深さを実感した一言でした。
使われることで、生き物として育つ椅子。
職人さんは2時間以内で仕上げるという座編みですが、体験では途中に休憩やお昼ご飯を挟みながら、時間をかけて仕上げます。
正午を知らせる村の放送が聞こえると、それを合図に職人さんたちも制作の手を止めて、工房の2階にある食堂に集合します。普段通りの、いわゆる社食に混ぜてもらうお昼ご飯です。ガラス張りの食堂からは、まるで奥行きのある壁紙のように、美しい森を見渡すことができます。そんな贅沢な空間で味わえる本日の“ようびめし”は、働いた後にはたまらない、カレーでした。食後にはツギテノミカタ(ツギテプロジェクトの参加者)からいただいたという黄色いスイカも。
“職人”というと寡黙で頑固者なご年配のイメージがありますが、ようびの職人さんたちは若い方ばかりで、現在、家具の制作部に所属する3名中2名が女性です。ご飯中も和気藹々とした雰囲気で、絶えず笑い声が響きます。これもまた職人さんたちの素顔、ものづくりの裏舞台を見ることができた贅沢な時間でした。
やっと出来上がる頃には、額に伝う汗をぬぐいながら、不思議と幸せな気持ちになりました。完成した椅子を抱きかかえると、疲れた身体にもヒノキは軽く感じられます。
途中、力が入らなくなったのか集中が途切れたのか、張り方が緩めになっていたり、手紙織の特徴である美しい編み目が少し歪んでいたり。当然ながら、職人さんの仕事と比べれば完璧とは言えません。でも、小さな緩みや歪みこそ、自分でつくった証です。自然に、家のどこに置こうかな、友達が遊びに来たら自慢したいなと、この椅子がある生活を想像してしまいます。
山口さん 今世の中にあるプロダクトの多くは、新品の時が一番いい状態で、あとは劣化していくだけです。無垢の木のいいところは、使いながらより良くなっていくところ。ヒノキは、磨けば磨くほど表面が滑らかになって、肌触りが気持ちよくなっていきます。使うほどに艶が出てきて、色も深く飴色に変わっていきます。
椅子も生き物なので、生き物として家族の一員になっていくんです。その工程の一番最初の、“生み出す”というところを体験できるのが今回の企画です。
生き物として育っていく椅子。今回の体験を通して感じた、自分でつくった椅子への愛おしさは、まさに生き物に対する感情に近いように思います。長く使っていく中で、例えば座面が緩んでしまったら、修理をお願いすることもできます。
早速、完成した椅子に座ってみると、改めて周りの森が目に入ってきました。ふと、「母なる森」であることを感じます。明日から私が使うこの椅子は、ヒノキでできていて、そのヒノキはこの森で育ちました。自分の家から工房まで足を運び、この森をみて、自分の手でつくったからこそ、私にはこの椅子から見える風景があります。自分の家での日常と、この椅子が育った森、遠いようでも椅子を通して繋がっているように思えます。森に囲まれた工房での自分の椅子づくりは、森から椅子を収穫するような体験でもありました。
この椅子を、つくってみませんか?
実際にようびの工房に足を運び、職人とともに、椅子をつくる最後の工程を一緒に作業します。ご友人、ご家族との参加も大歓迎です。今回は初回ということで、greenz.jp編集長の鈴木菜央もワークショップに参加します。ようび代表 大島 正幸さんとのミニトークライブも企画しています。
ワークショップ日時
※くわしくはグリーンズの商店ページにてご確認ください。
ワークショップ会場および集合場所
販売価格
(椅子、材料代、ワークショップ参加費、食事代を含みます。交通費、宿泊費は含みません。また、別料金となりますが工場から発送サービスあり)
申込み先
以下のリンク先より、チケットをご購入ください。
お問い合わせ
(Text:諸岡若葉)
(Photo:HIRAGI AYAKO)