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ごみも積もれば、国になる!? 太平洋のプラスチックごみの島を国連認定の国として申請するプロジェクト「Trash Isles」

2018年10月25日に公開した記事を再編集してお届けします!

レジ袋や飲み物のプラカップ、おにぎりやパンの袋など、ふだん街を歩いていると、たくさんのプラスチックゴミが目に入ってきます。

街で捨てられたごみも、雨や風に流され、川や水路に入り込むと、海まで流れてしまいます。チリも積もれば山になるということわざがありますが、街でポイ捨てされたプラスチックの破片など(=マイクロプラスチック)が、今や太平洋で島国のような大きさになり、どんどん増え続けています。

ごみの中でもプラスチックは自然界で分解されにくいため、海の生態系に悪影響を与え続けるとともに、それがやがて私たち人間の食糧の安全や健康にまで被害を及ぼす可能性が懸念されています。

海ごみに関して2016年に世界経済フォーラム(ダボス会議)で発表されたレポートは大きな衝撃を持って受け止められました。その内容は、「毎年800万トン以上のプラスチックごみが海に流出しており、このまま行けば2050年の海は、魚よりプラスチックの方が多くなる」というもの。プラスチックごみは、私たちがふだん目にすることがない海で、とてつもない量になっているのです。

海ごみを見ずに過ごしている街の人たちに、どうすれば問題の大きさを知ってもらえるだろう。ごみの発生源となっているさまざまな国に、どうすれば対策を取ってもらえるだろう。そんな大きな課題を解決するために、環境NPO「Plastic Oceans」は、それまで誰もが考えつかなかったようなアイデアを実行しました。

それは、太平洋に浮かぶプラスチックごみの島を「Trash Isles(ごみ諸島)」という国として、国連に申請するというもの。

国として国連に認定されれば、今まで深刻な海ごみの問題を見逃していた国々も、放っておくことはできなくなりますよね。

Plastic Oceansは、Trash Islesの国家申請に向け、国旗や通貨、そしてパスポートを準備。さらに国として認定されるために重要な要素となる「国民」を広く募集しました。

海ごみの島を国家にし、国連加盟を申請するというチャレンジングな宣言は大きな注目を集め、ロイター、CNN、FOXニュース、ナショナルジオグラフィックといった、世界的なメディアがこぞって報道。

元アメリカ副大統領のアル・ゴア、イギリスの著名な学者であるデイビッド・アッテンボロー、俳優のジェフ・ゴールドブラムにジェラルド・バトラー、そしてミュージシャンのファレル・ウィリアムスといった著名人が次々と国民として登録。中でも俳優のジュディ・デンチは、「Trash Islesの女王になるわ!」と公表するほど。

その結果、申請キャンペーンが始まって数週間でグアムやキリバスといった、実際に太平洋にある島国を超える20万人が国民として登録。アピールの動画は5億人を超える人たちに届くまでに。

実際に国連に認定され、地図上に記録されるまでにはまだまだハードルがありますが、多くの人たちの記憶の中にある地図には、太平洋に大きな海ごみの島国が残ることになったのは間違いありません。

このキャンペーンについて、海の環境問題に取り組むNPO「OWS」の理事、池上喜代壱さんからコメントをいただきました。

この海洋プラスチック汚染ですが、実は世界で最初の科学論文の発表は1972年にさかのぼる、意外に歴史のある問題です。

それが2000年代の前半には、プラスチックの破片(=マイクロプラスチック)が海洋環境中に残留しているわずかな有害化学物質質(PCBなど)を吸着して濃縮することが分かって、人間への健康被害が懸念されるようになり、2010年代以降は世界の70か国に近い国々で、レジ袋などの使い捨てプラスチックへの規制や、化粧品などに含まれるスクラブ剤としての「マイクロプラスチックビーズ」の使用規制などが広がりました。

2015年にドイツで開催された「G7エルマウサミット」でも、海洋プラスチック汚染が気候変動や生物多様性の損失に並ぶ重要な地球環境問題であることが確認され、その後、海外では、国レベルの規制だけでなく、民間企業が率先してプラスチック使用の削減に向けて取り組むケースも増えています。

しかし残念なことに、日本では長い間、世界で進むこうした動きが伝わりませんでした。

特に2011年の東日本大震災以降は、地球環境問題への国民の関心は急速に薄れましたし、海ごみ問題に関しても、南西諸島や日本海側の海岸に流れ着く近隣諸国のごみの問題ばかりが大きく報道されましたので、どこかで「自分たちは直接の原因ではない」という意識が働いたのかもしれません。

それが2018年の6月に、スターバックスやマクドナルドなどの大手チェーンがプラスチックストローを廃止するというニュースが流れてようやく、日本でも多くの人がこうした問題の存在を知るようになりました。しかしSNSなどを見ていても、まだまだ、自分自身に身近な問題として理解できない人も多いように感じます。

実は日本人は一人当たりでは世界で2番目にたくさんの「使い捨てプラスチック」を使用しており(国連が2018年の6月に発表した報告書によれば年間一人当たり32kg)、北太平洋に現存しているプラスチックごみの排出国としても米国や中国と1位、2位を争っているという調査データも発表されている(鹿児島大学の研究やオランダーのオーシャンクリーンアップ基金の研究など)のですが、それをまるで他人事のように考えているのだとしたら、大変困ったことだと言わざるを得ません。

確かに、日本の国内ではほとんどのプラごみは適切に処理され、海に流れ出たりするものはごくわずかです。しかし国連の推計に基づけば、国内で使用されている使い捨てプラスチック容器のたった0.5%でも環境中に漏出すれば、年間では日本全体で2万トンを超えるプラごみが街や川に捨てられることになります。

それらは下水や河川を経由して、やがて海に流れ出ることになりますが、プラスチックは砕けて小さくなることがあっても何百年もの間(場合によっては何千年もの間)、消えてなくなることはありません。そんなプラスチックのごみが毎年2万トンずつも海に流出し続けているとしたら…。

一人一人のわずかな漏出が、何十年、何百年の間に蓄積して大きな問題を引き起こしてしまう。CO2の排出による気候変動と同じく、これは私たち人類が今までに経験したことのない、新しいタイプの環境問題なのです。

一方、「Trash Isles」のキャンペーンに多くの賛同が集まり、また国際的な広告賞でグランプリを受賞するほどの高い評価を得たのは、海外の生活者の多くが、この海洋プラスチック汚染の問題を真剣に考えている証拠の一つと言えると思います。

「Trash Isles」のキャンペーンの直接の効果とは言えないでしょうけれども、すでにフランスでは2020年1月に使い捨てプラスチック食器の使用禁止が始まりましたし、2022年の1月からは、約30品目の果物や野菜のプラスチック包装も禁止となりました。

イギリスも同じ。2020年10月にプラスチック製のストローやマドラー、綿棒が禁止され、2022年4月にはプラスチック包装税も導入されています。アメリカでもサンフランシスコ市では2014年に公有地でのペットボトル販売禁止の条例が可決されたほか、スターバックスの本拠地であるシアトルでは、2018年の7月から、プラスチックのストローや食器などの使用が禁止になりました。

英仏などヨーロッパの人々は、もともとから我々日本人よりも使い捨てプラスチックの使用量が少ないのに、それをさらに減らして海を守ろうとしているのです。『The Trash Isles』のキャンペーンはこうした動きをますます加速させ、世界の人々の生活を「脱プラスチック」の方向へと導くことでしょう。

残念ながら日本では、こうしたキャンペーンが幅広い支持を集めるまでにはまだ少し時間がかかるとは思いますが、四方を海に囲まれ、豊かな海の恵みを受け取ってきた日本の我々であればこそ、こうした動きに取り残されてはいけないはずです。

さてそれでは私たちは、実際にはどんなことに気を付ければ良いのでしょうか?

特に難しいことはありません。使い捨てレジ袋のような、使わずに済むプラスチック製品は使わない。使い捨て食器類なども、なるべく使用しない。やむを得ず発生させたプラスチックごみは、しっかりと管理して確実に処理させる。道端や街中に落ちているごみを見逃さずに回収してきちんと処理する…。

海岸に漂着するごみの大半は海辺で捨てられたものではなく、もともとは海から遠い内陸部で発生したものであることが確かめられていますから、海のごみを減らすための取り組みも、日々の街中の暮らし方の改善から始めることが有効です。

そしていつか陸から海に流れ出すプラスチックのごみが本当に「ゼロ」になったら…。今度はTrash Islesという不名誉な国家の、消滅に向けたプロセスが始まることになるのでしょう。それはいつとも分かりませんが、できれば一日でも早く、その日が訪れることを願いたいものです。

いまや私たちの生活に欠かせない素材となっているプラスチック。ポイ捨てをしないのはもちろん、その付き合い方も変えていかないといけないですね。プラスチックの島で、海が埋め尽くされる前に…。

(翻訳協力: やなぎさわまどか)
(2022年再編集: 丸原孝紀、池上喜代壱)