私たちはハイカーです。
道具を通して、より深くハイキングを知りたい。
私たちがハイキングを通じて感じた、
本当に必要な道具を形にしていく。私たちはハイキング文化の発展と共に
成長していく山道具のメイカーです。
これは、山道具を製造・販売している「山と道」の言葉です。本当に必要だと感じた道具を、自分たちの納得するまでつくり続ける。真っ直ぐなものづくりへの姿勢に共感する人は多く、「山と道」の商品はなかなか手に入らないほど。
ハイキング好きが高じて夫婦ふたりからはじまった会社は少しずつ規模が大きくなり、新たに「コミュニケーションマネージャー」の役割を担うスタッフを募集することになりました。いったいどんな仕事なのか、これまでの軌跡をたどりながらご紹介します。
本当に必要だと思う道具を形にする
「山と道」を立ち上げた夏目彰さんは、国内外の山を登ってきたハイカー。ときには1週間、1ヶ月間かけて山を歩くことも。そんな夏目さんがハイキングに魅了されたのは、2006年のことでした。
夏目さん 旅行で訪れた沖縄の西表島で、キャンプをしたのがすごく楽しくて。それまで海に行くことが多かったのですが、次は山に行ってみようと思って尾瀬に行ったら、ものすごく景色がきれいだったんです。日本にこんな美しい場所があったんだって感動しました。
その後も毎週のように山へ行くようになり、長期間にわたるハイキングにも挑戦しはじめます。
夏目さん 前は東京の会社に勤めていたのですが、会社員だと長期間の休みが取りにくいですよね。自分で山道具をつくりたいと思うようになったこともあり、退職して、妻と会社を立ち上げることにしました。
こうして2011年、「山と道」は夫婦ふたりでスタートしました。
奥様の由美子さんは、それまで舞台やコンサートなどで衣装をつくる仕事をしていたそう。
由美子さん バックパックなどの山道具をつくったことはなかったので、最初はとまどいました。つくっては山に行って実際に使ってみて、またつくり直して…という試作を繰り返して、最初のバックパックができるまで2年かかりました。
夏目さん 僕たちは服もつくっているんですけど、すべて「道具」だと思っています。洋服はシーズンごとに変わってもいいけど、道具は変わったら困りますよね。だから納得できるまでつくり続けて、完成するのに1年とか2年かかります。
試行錯誤を重ねてつくり上げた製品は、友人に薦めるうちにハイキング愛好家たちに広まり、また口コミで広がり、徐々に注文が増えていきました。
生産を増やすために各地の工場を訪れ、現在は国内にある5箇所ほどの工場と契約していますが、それでも生産は追いついていない状態。ハイカーの間では「入手困難な商品」として行列ができているとか。
必要最低限のものだけで工夫して豊かに生きる
2016年には鎌倉市内に工房と事務所を兼ねたファクトリーをオープン。スタッフも増え、現在は縫製スタッフやダブルワークで関わる人など10人ほどに。
販売はオンラインショップが中心で、毎週土曜日のみファクトリーを予約制で開いています。
夏目さん 中国やベトナムなど海外の工場で作れば大量生産できるかもしれませんが、何かあってもすぐに現地へ行けないし、会社を大きくしたいわけではないので、今は国内の工場でつくっています。
世の中には適当につくられたものもありますが、僕たちは本当に必要なものをつくりたいし、それを求めている人に届けたいと思っています。
こうしたものづくりには、ソローの精神が生きているようです。
夏目さん ヘンリー・ソローの『森の生活』っていう本があるんですけど、3年くらい肌身離さず持ち歩いていた時期がありました。19世紀のアメリカにも住宅ローンがあって、働いても自由になれない社会から抜け出したソローが、森のなかで2年ほど自給自足の生活をしたという話です。
森では小屋を建てて住むのですが、それにかかった費用は低所得者の家賃1年分ほどで済んだり、食べ物も彼はベジタリアンだったから野菜を育ててまかなったりして、その結果、たくさん働かなくても自由な時間を得られたそうです。この考え方は、ULハイキングにすごく似ているなと思いました。
ULとは「ウルトラライト」の略で、超軽量の山歩きのこと。もともと登山は重い荷物をたくさん背負って行くのが主流でしたが、ULハイキングでは必要最低限のものだけを持って荷物を軽く小さくし、体への負担を減らすことで、自然を楽しむ余裕を持てるようになりました。
ULハイキングを実践していた夏目さんにとって、ソローの考えは共感するところが多かったようです。
山での過ごし方に合わせたものづくり
日本の山に合わせたものづくりも意識しているそう。
夏目さん 山用のバックパックはアメリカのメーカーのものが多いのですが、アメリカの山は手を使わずに長く歩くことが多くて、バックパックもウエストベルトがしっかりしていて腰に荷重して背負うタイプが一般的です。
でも日本の山は、岩があったり両手を使って上ったりすることや、足を大きく上げ下げすることも多く、腰が動かせるほうがいい。そこで僕たちは、腰荷重中心ではなく、日本の山でも快適に動けるバックパックをつくりました。
そのひとつ、「mini」というバックパックは上半身に無理なく荷量が分散する設計になっていて、腰が自由になるのでアップダウンの多い山でも気持ちよく歩けるのだそう。
また、5つのポケットがついたショートパンツも、夏目さんのアイデアから誕生しました。
夏目さん 今は山にも必ずスマートフォン持っていきますが、バッグに入れるとすぐ取り出せないし、ポケットだと歩きにくかったり、後ろに入れると座ったときに踏んでしまったりしてしまう。そこで真横からすこし後ろの位置にスマホ専用のポケットをつけました。
これなら歩きやすいし、座ったときに踏むこともない。反対側には登山地図などを入れられる大型ポケットもつけました。
素材も追求し、軽くて速乾性があり、撥水性、通気性、耐久性にも優れたパーテックスを使用。機能的なこのパンツはハイキングだけでなく、さまざまなシーンで役に立ちそうです。
山も生活も、必要最低限のものだけで過ごしてみると
ULハイキングに魅せられた人は多く、豊嶋秀樹さんもその一人。豊嶋さんは大阪のクリエイティブ集団「graf」の立ち上げメンバーでもあり、現在は福岡県を拠点に、フリーランスで展示会の企画や空間構成、ワークショップなど幅広く活動しています。
豊嶋さん 初めて夏目くんとハイキングに行ったとき、僕は大きい荷物だったのに夏目くんはすごく小さいバッグで驚きました。雪山だったんですけど、テントも自分の動き方次第で小さくてもいいんだ、とか発見がたくさんありました。
少ない道具だけで生活できたという経験が、暮らし方や働き方、移住にもつながっていったと言います。
豊嶋さん 東京に住んでいたときは家賃が15万円とかだったけど、福岡に引っ越したら70平米ほどの家が400万円くらいで売られていて。家賃だけでなく、ほかにもコストがあまりかからなくなったので、たとえば東京では1ヶ月生活するのに50万円必要だとしたら福岡では15万円あれば足りる、みたいになって。
そうすると、そんなに仕事しなくても大丈夫かなって思えたり、空いた時間で山に行ったりとか、必要なものだけで生きていくとより豊かになっていくのを実感しています。
山、日常生活、コミュニティをつなぐプロジェクト
夏目さんも同感だと頷きます。
夏目さん 1週間とか1ヶ月くらい山に行っていると、山にいるときのほうが日常になってくるんですね。山では必要最低限のもので済むから、家に帰ると普段の生活でもそんなにモノは必要ないと思うようになりました。
ULハイクは、山だけでなく生活そのものを洗練させ、より自由に軽やかに動けるようにする可能性がある。そして、山をより楽しくするのは、人と人とのつながりも大切。そんな思いから、「山と道」は山(Hike)、日常生活(Life)、コミュニティをつなぐプロジェクト「HLC(Hike Life Community)」を昨年立ち上げました。
第一歩として、夏目さんたちは各地のハイカーに会うべく全国23ヶ所をまわり、トークイベントや「山と道」のポップアップショップなどを開催。豊嶋さんもプロジェクトのディレクターとして参加しました。
豊嶋さん 全国各地にハイカーのコミュニティがあって、今度は横のつながりをつくっていきたい。そのためには、外部にいる僕ではなく「山と道」の中から関わってくれる人が必要だと感じました。
このプロジェクトだけを担当するのではなく、「山と道」全体のことにも携わりながらコミュニティを育てていってほしい。 そんな思いから、「コミュニケーションマネージャー」を募集することになりました。
夏目さん 「HLC」を来年から本格始動していくにあたり、新たに「コミュニケーションマネージャー」という役職を設けることにしました。
今まではそれぞれのスタッフがお客様の対応をしてきましたが、日々の仕事の中で取りこぼしてしまうこともありました。これから「山と道」のお客様や支えてくれる人たちとの関係性をよりよく築いていくためには、そのコミュニティを育てていく人が必要だと感じたからです。
具体的には、「山と道」のビジョンを発信し、コミュニティを育てていく仕事です。業務内容はお客さんや取扱店舗の方とコミュニケーションをとったり、イベントを企画して開いたり、SNSなどを通じて情報発信をしたりと、多岐にわたります。どのようにお客さんとつながっていくのがいいかを考えて、実行していける人に来ていただけたらと思います。
また、新たに「山と道アンバサダー」という制度も始まります。
豊嶋さん 「山と道」の兄貴的な存在であるアンバサダーを探して、「山と道」を一緒に広めていただけるようにサポートするのもコミュニケーションマネージャーの仕事になります。曲をつくるとしたらアンバサダーがミュージシャン、コミュニケーションマネージャーはプロデューサーのような役割です。
最高の働き方とものづくりを。
今のお客さんとつながり、新たなお客さんへも発信し、ハイカーコミュニティを育てていく。なかなかやることが多くありそうですが、「山に関することなら休んでOK」という、「山と道」ならではの制度があるそう。
夏目さん 僕たちが山に行かなくなったらだめだな、と思っていて。どんどん休みを取って山に行ってもらえるようにしたいですね。そこで得た気づきを僕たちに共有してもらって、ものづくりに生かしていけたらいいなと思っています。
一昨年、3週間の休みを取ってアメリカのジョン・ミューア・トレイル(全長およそ340km!)に行ってきたという黒澤雄介さんにもお話を伺いました。
黒澤さん 前職ではアパレルにいたのですが、もともとハイキングが好きで、あるハイカーが集まるイベントで夏目さんとお会いしました。それから夏目さんと連絡をとるようになり、自分でも山道具ブランドを始めたこともあって勉強しようと2015年に転職しました。
入社後はお客さんからのクレームから修理の対応まで受け、工場との調整や製品管理などをおこない、昨年の「HLC」の全国ツアーにも同行したそう。
黒澤さん 僕はコミュニケーションが苦手なほうだったのですが、「山と道」に入ってからはいろいろな人たちと関わるようになって、コミュニケーションが得意になってきました。昨年のツアーでも普段会わないような人たちとたくさん出会えて、貴重な体験になりました。
最近はなかなか長期の休みが取れていないようですが、残業することはないのだとか。
黒澤さん 遅くとも19時くらいまでですね。だいたい18時すぎに帰ります。
夏目さん 僕も早ければ17時に帰ります。縫製スタッフも16時半に上がって保育園のお迎えに行ったりとか、自分でシフトを出してもらっています。
決められた時間内で働く。そこにも無駄のないULの精神が見受けられました。一方で、そのなかにも15時のおやつ休憩があったり、昼食はみんなで食べたりと、ほどよいゆとりもあるようです。
「山と道」の採用ページにはこんな文言がありました。
最高の働きかたと物作り、社会との関わりかたを模索していきましょう。楽しみを忘れないように。疲れすぎないくらいに。
ともに最高の働き方とものづくりを模索していきたい方、ぜひ「山と道」で挑戦してみませんか?
「山と道」では現在、コミュニケーションマネージャーのほか、商品開発の研究員とパタンナー、アルバイトスタッフも募集しています。詳しくは採用ページをご覧ください。
夏目さんから窓口よりお問い合わせいただいたのが8月上旬。こうしてお問い合わせから実際に記事になるのは、実はグリーンズ求人としては初めて! 選んでいただけたこと自体、とても嬉しい出来事でしたので、いつも以上に気合いを入れて取材に臨ませていただきました。
記事に登場いただいた夏目夫妻、豊嶋さん、黒澤さん。全員もれなくULハイキングと出会い、人生が変わった人たちでした。そして、心からハイクを愛し、またハイクによって社会に提供できる価値について真剣に考えている人たちでした。一つひとつの言葉に一切の淀みがないことが、今も強く印象に残っています。
目の前の仕事と、歩んでいく人生が重なっている働き方。そのシンプルなあり方に「山と道」の力強さがあるのだと思います。そんな彼らの生き方、働き方に興味がある人は、ぜひエントリーしてみてくださいね。
(写真: 秋山まどか)
「山と道」では、今回の求人に関心がある方を対象に説明会を開催します。エントリーに興味を持った方は、ぜひご参加ください。
場所:「山と道」鎌倉ファクトリー(神奈川県鎌倉市大町3-1-17)