自分の手で、部屋や家具をつくってみたい。そんなことを思ったことはありませんか?
とはいえ「やってみたい!」と思っても、例えば工具もほとんど使ったことがない初心者だったら、ひとりではとても実現できる気がしないですよね。
でももし手伝ってくれる先生や仲間がいたら、その夢はぐっと実現に近づきそうです。
そんな「家」を住まい手自身が主体となってつくるために、サポートを続けているのが、「つみき設計施工社」。2010年の会社設立以来、職人と設計者、そして住まい手の3者が「ともにつくる」家づくりを提案し、その価値を広めるため、DIYワークショップも多数開催しています。
6年前にgreenz.jpでその取り組みを紹介すると、活動は多くの読者の共感を呼び、2012年の読者が選ぶ人気記事の1位にも選ばれました。
その後グリーンズとも、「エコハウスDIY」クラスの講師を務めていただいたり、オフィスのリノベーションをワークショップ形式で開催していただいたりと、ご縁が続いています。
そんな「つみき設計施工社」がこの春、本を出版しました。タイトルは『ともにつくるDIYワークショップ リノベーション空間と8つのメソッド』。つみき設計施工社のDIYメソッドや場づくりのノウハウが詰まった1冊です。
前回のインタビューから6年。暮らしを自らの手でつくるDIY(Do It Yourself)ワークショップは全国で開催され、「DIY」という言葉も随分と身近なものになってきたように感じます。そんな状況の中で、つみき設計施工社にはどのような変化があり、何を大切に歩んできたのでしょうか。
グリーンズの「エコハウスDIY」クラスの中で、つみき設計施工社のワークショップの一部を体験したことのある筆者が、「ともにつくる」の現在地と本のこと、そしてこれからついて、つみき設計施工社の河野直さん・桃子さんにお話を伺いました。
「ともにつくる」価値の広がり
つみき設計施工社が設立したのは2010年のこと。それからの8年間で、300回のDIYワークショップを開催してきました。家族や地域の人、そして建築家や職人さんと一緒に家やお店をつくると、その場所がより大切で、かけがえのないものになる。そんな「ともにつくる喜び」を伝えてきたのです。
greenz.jpが取材をしたのは設立から2年後の2012年のこと。それからの6年で感じている大きな変化のひとつは、「ともにつくる」の価値の広がり。はじめの頃は個人の住宅や店舗を中心に手掛けていましたが、2015年頃からは企業や大学など団体と一緒につくることも増えてきたといいます。
例えば、2016年には住宅メーカーPOLUSと協力して、建て壊して分譲販売を行う予定だった大規模分譲住宅の営業所を、地域住民と一緒にコミュニティカフェへとリノベーション。また、千葉大学では、建築を学ぶ学生たちが普段接点のない道具や素材に触れながら、研究室をリノベーションするプロジェクトも手掛けたのだとか。
桃子さん 初期の頃は「ともにつくる」というやり方で自分の空間を自分でもつくってみたいという人たちと一緒にやってきました。
その後だんだんと、「ともにつくる」プロセスの結果出てくる価値、つまり「場所と人」「人と人」のつながりを一緒に生み出したいと思ってくれる人たちが増えてきて。そうした価値が社会的な価値へと変化してきたように感じています。
そうした変化が始まった2015年からの3年間は、特に濃密なプロジェクトが多かったと話します。
中でも特に思い出深い、と話してくれたのは、「南房総エコリノベワークショップ」。2016年から年に1度開催している断熱DIYワークショップで、毎年1泊2日のワークショップを2回、計4日間かけて古民家を断熱します。1回に参加する人数は30名程度。日数も参加者数も多いため、緻密な計画が必要でした。
直さん 断熱ワークショップは、最後あったかくならないと意味がない。断熱の工法を講師の竹内昌義さんと相談しながら、4日間のゴールがみんなの「あったかくなった!」で終われるように、何度も計画を練り直しました。
まず、本来プロが行う工程を、一般の方でも参加できる「つくり方」に落とし込みます。4日間で出入りする数十名の参加者がすべての作業を体験し、最大限の学びを持って帰ってもらえるようプログラムを設計しました。
その結果、スタッフと参加者が一丸となった4日間のプログラムは大成功。当初凍えるほど寒かった部屋は、ほぼ人の熱だけでぽかぽかと暖かくなったそう。全員でつくり上げた「あったかさ」に感動しながら、ワークショップを締めくくりました。
直さん 僕にとって、とても大きなきっかけをもらったワークショップでしたね。ワークショップ当日の人の動きや表情を思い浮かべながら、事前に目的を定め、計画立てて開催する大切さを、身に染みて感じました。
楽しいだけで終わらせない。学びのあるワークショップ
そうした試行錯誤を繰り返して積み上げてきた3年間があったからこそ、今回の本で書けたこともたくさんあるそう。
出版された本『ともにつくる DIYワークショップ』には、これまで手掛けてきたリノベーション空間と依頼主のエピソード、DIYワークショップの計画段階から事前の準備、当日の進め方など場づくりの方法から、壁塗りや床貼りなどの作業の手順まで、たっぷりと紹介されています。
本を読み進めると、端々につみき設計施工社が大切にしていることがにじみ出ているように感じました。開始時間に遅れてしまった参加者が心地よくチームに加わることを考慮した「途中参加者が入る余地を」という項目があったり、子どもも参加できるよう体に優しいおすすめの塗料や仕上げの材料が紹介されていたり。
また作業スタートまでの事前準備に多くのページ数が割かれ、実にきめ細やかに設計されていることがわかります。気をつけるポイントや配慮するべきことが要所要所に記載されていて、「知らなかった!」や「なるほど、こうしたらうまくいくのか!」と驚かされることばかり。
つみき設計施工社では、どんなことを大切にワークショップを組み立てているのでしょうか。
直さん ワークショップに参加してもらうからには、楽しいだけでは終わらせたくなくて、必ず何か新しい学びを持ち帰ってほしいと思っています。
ワークショップをきっかけにDIYを始める方も多いと思うんですね。DIYを仕事にする人も出てきているくらいです。きっかけになるからこそ、正しいきっかけをつくりたくて。遅くてもいいから、きちんと道具が使える。短い時間の中でも、ものづくりの下地となる基礎技術を知ることができたら、その人が良いスタートを切る後押しになるんじゃないかなと信じているんです。
「良いきっかけをつくる」。そのためにもうひとつ大切にしているのは安全であること。だからこそ、短いワークショップの中でも、かつ何回も参加している人が居たとしても、道具の安全講習を必ず行うと言います。
学びのある場にする、道具の安全講習をする、一見するとそれは当たり前のように聞こえますが、作業の進捗や楽しさの部分に目が行くと、ついつい疎かになってしまいがちな部分でもあります。つみき設計施工社がそこを「必ず行う」と断言しているのは、その日限りのことではなく参加者のその次のステップまで考えているからなのです。
誰のために、何のために? を、共有する
事前準備とともにページが割かれているのが、当日作業開始前に行う「チェックイン」。自己紹介に続いて、ワークショップ概要の説明があります。その中でポイントとして強調されているのが「誰のために、何のために? を共有」すること。
ここにも「ともにつくる」ことに対して、つみき設計施工社が大事にしている価値観が現れているように感じます。そう伝えると、「そう、そこなんです!」と直さんは身を乗り出しました。
直さん つくることは楽しいんですよ。みんなでやるともっと楽しいんです。
でも今、DIYムーブメントの中で「つくって、ハイ終わり、つくったものは大して使いません」という状況がたくさん起きていて。それはさみしいですよね。結局つくったとしても楽しいだけでつくっていたら、それは即興的な欲求を満たす、消費行為をしているのと変わらないです。
そこには自身の体験もあると続けます。
直さん 実際に僕もいろんなところでワークショップをさせていただくのですが、つくった後、しばらくすると使われなくなってしまうケースが多かったのです。悲しいですよね。それじゃゴミをつくってるのと変わりないです。楽しいからって。自分自身の反省を含め、それじゃだめだって思うんです。
桃子さん 私たち自身も、つくりかたを覚えて楽しかった頃、ゴミのようなものをたくさんつくってきました。結局先のことを考えないでつくったものはゴミになってしまうんです。
そうしてゴミにしないためには、「誰のために、何のために? を共有する」ことが何よりも大切。依頼主がいるのならば、ワークショップの最初にその人に、どういう暮らしをここでしようとしているのか、話してもらうようにしているそうです。そうすることで、参加者やスタッフ含め、その場に偶然集まった人たちの気持ちが一つになる感動的な瞬間があるのだとか。
桃子さん 「誰がどう使うんだろう、何のために使われるんだろう、どういう生活のシーンで役立つんだろう」。そうしたことをつくる人みんなで共有することによって、その場にいる人が同じ方向を向いて作業をスタートすることができます。それは、利用者がつくったものをそのあと大事にしていくことにもつながっていくんですよね。
参加者も、具体的にイメージをしてつくることができたほうがワクワクするし、誰が使うかわかることで、丁寧につくるようになるんです。
そう聞いて思い出したのは、直さんが講師のひとりとして、私は受講生として参加した「エコハウスDIY」ワークショップでのこと。会場は私が住む予定の部屋だったのですが、「福井さんが住むなら、あったかい部屋にしよう」と、一緒に参加したメンバーが当初予定されていなかった場所にまで断熱材を詰めてくれたのです。初めて工具を使う仲間たちが、限られた時間の中で、そのような思いで作業してくれたことに胸が熱くなったのを思い出しました。
直さん そうだったね、あれはいい場でした。
ワークショップに来た人の大きな目的は技術を持って帰ることもそうだけど、その後DIYを実践するときにお互い手伝い合える、そういう関係性を生み出すことも大きな価値です。だから短い時間だけどできるだけいいつながりを持って帰ってもらいたいなと思っています。
「ともにつくる」のこれから
8年間変わっていないのは、「ともにつくる」ということ。「ともにつくる喜び」という企画書を書いて設立したその日から、それは、つみき設計施工社にとって、アイデンティティであり、世界観のようなものです。
直さん ともにつくるの先には、「境のない」世界を思い描いているんです。
職業、立場、年齢など、社会が決めた「境」の様なものがだんだんと溶けていって、人々が学び合ったり、助け合ったりして暮らしをつくる世界です。もちろん、個々の得意分野や役割分担は尊重しながら。DIYワークショップは、暮らしの中で、生産者と消費者がもう一度手を結んで、同じ方向に歩み始めるための手段だと思っています。
DIYワークショップを良い文化として続けていくように、僕らはできることをやっていきたい。そのために学びがあって、安全でみんなで楽しめるワークショップを広めていきたいなと思っています。
DIYワークショップを良い文化として伝えるために、つみき設計施工社が取り組みたいことのひとつが、道具の扱い方についてきちんと学ぶワークショップ。DIYの楽しい部分に光が当たっているからこそ、楽しい時間をつくるための基礎をつくりたいと話します。
一方で、本を出版したこの先の在り方として、直さんからふとこぼれたのは、「砂のような」という言葉でした。
直さん これまである意味「頑な」に「ともにつくる」という価値に向かって進んできたんですけど、今後はもっとオープンな存在になっていきたいと思っているんです。
これまで築き上げてきたものを、ここからは広げるミッションがあるんだなと感じています。砂山がふわっとほどけて、砂が広がっていくようなイメージかな。社会の中に浸透するような存在になって、この価値観ややり方をいくらでも盗んでいってもらえるような。盗んでくれた人がそれぞれの場所で実践していって、世界が広がっていったらいいなというイメージを持っています。
その意味でこの本が出せてよかったなと思っていて。この本と一緒に旅をして、いっぱい人に会えたらいいな。誰かに伝えに行くのももちろんだし、自分たちの場をもっと会いに来てもらえるようなオープンな場にしていきたいですね。
桃子さん 私たちが行ってきたような家づくりのあり方は、今はまだ一般的ではありませんが、依頼主の方にとっても、つくる側にとっても、これまでになかった価値を生み出す可能性に満ちていると確信しています。「ともにつくる」という選択肢がいつの日か当たり前のものになればいいな、という思いを持っています。
今回出版された本のプロローグ。大学院を卒業後、有名建築設計事務所への就職を辞退したときのことがこのように書かれています。
「何のため、誰のために」。ふたりが「ともにつくる」に感じている本質は、このときから少しもぶれていません。
実践者である傍らで、オープンな存在でありたいと話すふたり。新しい8年には、どんな挑戦が待ち受けているのでしょう。「楽しい」だけで終わらない。そんなDIYワークショップの在り方が、多くの人に伝わることを祈って。
– INFORMATION –
『ともにつくるDIYワークショップ リノベーション空間と8つのメソッド』
おむすびスタンドANDONで、河野直さんの書店トークイベントを開催します! トークイベントの受付は終了しましたが、交流会の参加はまだまだ募集中。直さんとお話したい方は、ぜひ当日ANDONへどうぞ。
https://peatix.com/event/409640?lang=ja