世界中で支援活動を行う認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」が、“広島県の山の中”で国内問題に奮闘中。代表理事兼統括責任者・大西健丞さんが語る、誰もが公益を担う社会とは?

たくさんの人やモノやコトであふれる東京。東京への一極集中による弊害が叫ばれても、政府の中央省庁や大企業の本社が東京から動く気配は、なかなかないようです。それはNPOやNGOでも同じ。特に国際的に活動するNPOやNGOは、利便性の高い東京に本部を置いている団体がほとんどでしょう。

そんな中で、日本を含む世界中で緊急支援や開発援助をおこなっている認定NPO「ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)」は、2013年に本部を東京から広島県神石高原町へ移転しました。そこには、代表理事兼統括責任者である大西健丞さんの考えがありました。

「広島県の山の中」と自ら笑い飛ばす地方へ、本部を移した理由は? 日本各地に広がるPWJの新たな活動と成果、そこで活用されているコミュニティ・オーガナイジングについて聞きました。

大西健丞(おおにし・けんすけ)
1967年大阪生まれ。上智大学卒業後、英国ブラッドフォード大学大学院で開発、国際政治、安全保障について学ぶ。その後NGOに所属し、イラクで避難民の支援に従事。1996年にピースウィンズ・ジャパンを設立し、2008年に代表理事に就任。国内での災害支援プラットフォームであるシビックフォース、アジア太平洋地域での災害に備え、各国のNGO、企業、政府が組織の壁を越えて連携し、効率的な支援を目指す組織アジアパシフィックアライアンスの設立に携わるなど、幅広い活動を続けている。著書に『NGO、常在戦場』、『世界が、それを許さない』がある。

なぜ本部を広島に?

PWJが東京から広島県神石高原町へ本部を移転したのは、今から5年前。本部を移転した理由のひとつは大規模災害へ備えるためでした。東日本大震災の際、東京・港区にあった本部事務所は大きく揺れ、通信も一時途絶えました。今後、首都直下の巨大地震などが起こった場合、全部東京に機能を集中していたら、自分たちも被災してしまうため、緊急援助の団体として、事務所は分散しておくことでリスクを回避できると考えたそうです。

広島県神石高原町にあるPWJ本部

また、大規模災害時のリスク分散のみならず、新しい事業分野へのチャレンジも本部を移転した理由のひとつと大西さんは語ります。東日本大震災以後、東北の復興にかかわる中で地方における過疎や高齢化などの国内問題にももっと目を向けるべきだという思いが強くなりました。そこで広島県において特に「消滅可能性」が高いとされる過疎地である神石高原町に本部を移すことで新たな事業分野にチャレンジすることも、移転の理由として挙げています。

季節の移り変わりを愛でる暮らし

本部を移転することで、スタッフ一人ひとりの暮らしも大きく変わったと大西さんは言います。大西さんご自身も「豊かな自然の中で暮らしたかった」という希望があり、ボーダーコリーと保護犬、計6匹を、広い私道で散歩させ、朝日を拝み、きれいな夕焼けを眺める暮らしを送っています。

2週間ごとに季節が変わっていくのがわかりますよね。秋の落ち葉の上や、朝から暑い夏の陽射しの中や、春に小さな花が咲いている様子で、変化に気づくんです。

神石高原町の豊かな自然を満喫できる、体験型テーマパーク「神石高原ティアガルテン」

豊かな自然に囲まれた生活を送る一方で、日本の地方にありがちな排他的な人間関係が生み出す独特の文化を目の当たりにもしました。

田舎の人間関係は、いまだに稲作を基盤としたところが大きく、外部からの干渉を基本的に嫌がる傾向があります。だから、東京から引っ越してくると少し大変だなと感じるところもあります。

大西さんもその関係が強固であることはひしひしと感じているので、近所の家々が集まる集会には必ず出席し、どんな会議よりも優先しているといいます。

しかし、環境が変化したことで得られることも多かったと大西さんは語っています。大西さん含め、東京から神石高原町へ環境を移した職員一人ひとりの視点の変化にもつながったそうです。

広島で、犬の殺処分ゼロに取り組む「ピース・ワンコ・ジャパン」のスタッフの皆さん

これまでも、職員が海外に行くことで視点が変わることはあったはずなんですけど、ひとつと思いがちな日本国内で視点を変えることで複眼になり、新しいアイデアが出てくることはありますよね。

若い頃から、世界中を渡り歩いてきた大西さんでさえ、地方で暮らすことで日本もひとつでないという実感があるといいます。

まず、田舎では新聞やテレビで目にするニュースが違うんですよね。地元の小学校で何があったとか、イノシシがおじいちゃんを襲ったとか、そういうニュースが流れています。東京の視点とも、世界の視点とも違うわけです。

今、特にネット上では、賛成と反対といったように意見がはっきりと2つに分断されがちです。SNSで手に入れる情報はアルゴリズムによってコントロールされ、自分が与する意見しか目にしないことも多くあります。その結果、世の中はそういうものだと思ってしまう人もたくさん現れていると、大西さんは言います。

いろいろな意見があって、正義も不正義も、場合によってひっくり返るということを理解するには、視点を変えるのがいいですよね。

問題を抱える地方とNPOの関係

以前から気になっていたことながら、東京から広島へ生活の拠点を移したことで、地方では、過疎や高齢化といった問題が身近な問題であると大西さんは実感しました。

東京にいると高齢化を実感することは少ないですけど、地方では葬儀も頻繫にあるんですよね。一緒に協力して活動していた相手が突然亡くなったこともありました。72歳だったんですけど、急死だったので驚きましたね。高齢化って、こういうことなんだなと思いました。

このように、地方にはさまざまな問題がありますが、だからこそ苦境に立っている自治体は、PWJのような新しい存在と手を組もうとする風潮も生まれてきているそうです。とはいえ、PWJは広島で初の認定NPO法人。一方、東京には、9,000以上もの認定NPO法人があります。NPOという存在ひとつを比較しても、東京と地方ではそれだけ認識の違いがあるのです。

地方ではNPOを目にする機会が少ないので、「NPOって何?」といった状態になるんですよね。それで役所の人たちに、「5時からNPO」として、NPOを経験してもらうようにしたんです。

そうすることで、行政の場で解決するのが難しい問題に対しても、民間でありながら公益を担えることをNPOでの活動を通して経験すれば、NPOの可能性が実感できると考えたそうです。

また、自治体と組むことは、NPOにとってもメリットがあります。それは、自治体が持つ、「正当性」によるもの。

NPOに欠けているのは、正当性なんですね。どうしてそんな事業をやっているのか、なぜ公益を担うことができるのか、と言われがちです。それが自治体と共に組むことで正当性が生まれ、ふるさと納税の仕組みを使うなどファンドレイジングがやりやすくなるわけです。

現在PWJでは、ふるさと納税を使って、さまざまな取り組みにチャレンジしています。

たとえば、2013年より広島で展開している「ピース・ワンコ・ジャパン」事業。この事業は殺処分される犬を保護し、新しい飼い主へと譲渡を行う事業で、殺処分数が全国ワーストだった広島県で2013年より殺処分ゼロを実現しています。

「ピース・ワンコ・ジャパン」の活動によっていのちを救われた犬たち

このプロジェクトはもともと、殺処分候補の犬の中から救助犬を育てようという考えから、大西さんが殺処分場へ足を運んだことがきっかけでした。そこで、小さなガス室で年間8千頭以上もの犬を殺しているという現実に、殺処分予定の犬の保護を決断。

現在、日本では、1年間に70から80万頭の犬猫がペットショップで買われています。その一方、殺処分されるのは約5万6千頭。犬や猫を飼いたい人の10組に1組が保護された犬や猫を引き取って飼うようにすれば、殺処分ゼロは達成されるそうです。

2014年以降、ふるさと納税を活用しながら計4億円以上もの資金を集め、広島では700日以上、犬の殺処分ゼロを達成しています。大西さんは、将来に向けて、その仕組みを広島県から全国に広げようとしています。

また、佐賀県佐賀市では、「ピースクラフツSAGA」として、伝統工芸を守り伝える活動もおこなっています。

ピースクラフツSAGAのホームページでは、伝統工芸の品々やそのつくり手を紹介している

ふるさと納税の返礼品を有田焼の皿や器といった伝統工芸の品々にすることで資金を集められるうえ、伝統工芸を広め、その需要を拡大できるのです。また、2月からは伝統工芸を使った商品開発にも取り組み、秋には新商品の販売を始める予定です。

日本に民主主義を根づかせるために

日本の地方という新たなフィールドで、さまざまな活動を押し進める大西さん。国際的な活動からの大転換のように思えますが、どれも順調に活動が進んでいるようです。そこで大西さんが取り入れているのが、コミュニティ・オーガナイジングの手法だと言います。

コミュニティ・オーガナイジングとは、ハーバード大学ケネディスクールで公共政策や社会学の教鞭をとっているマーシャル・ガンツ博士が提唱した市民の力で社会を変えていく方法であり、考え方です。ガンツ博士はアメリカ大統領選では選挙参謀として参加し、コミュニティ・オーガナイジングの手法を用いて、アメリカ初の黒人大統領誕生にも寄与しました。

大西さんがコミュニティ・オーガナイジングに出会ったのは、約5年前。コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンが主催したワークショップに参加したことがきっかけでした。ワークショップには大西さんのほか、病児保育などを手掛けるNPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さん、貧困問題に取り組む社会活動家の湯浅誠さんなど、そうそうたる顔ぶれが参加したそうです。

コミュニティ・オーガナイジングのワークショップに参加する大西さん。右は、マーシャル・ガンツ博士

もともとセミナーなどが苦手だったという大西さん。「どうせ世の中のまやかしのひとつだろうと思いながら足を運んだんですが、“このまやかしは使える”と思った」と笑います。

それどころか、日本人に民主主義は難しいのではないかと諦めかけていたところ、コミュニティ・オーガナイジングと出会うことで、わずかな可能性を感じ始めているとさえ言います。

大西さんが、日本に民主主義が根づかないのではと考えたのは、個人主義が発達した西洋のように、日本では“個”が重視されることが少ないと考えているからです。

民主主義は、個の熟成度が一定以上ないと成り立たないんですよね。コミュニティ・オーガナイジングは、個という意識や感覚を持たせるのに有効だと思いますね。そうすれば、個人に公益を担う自覚も生まれるだろうし、民主主義も根づくと思うんですよ。

コミュニティ・オーガナイジングはアメリカで誕生したので、手法を修正する必要はありますが、アジアでもアフリカでも使えると思います。特に、これから自分たちのコミュニティをどうしたいかと思っている若い人たちには向いてますよね。

コミュニティ・オーガナイジングのワークショップを受けて、大西さんが大事だと感じたのは、「共感を持ち合うこと」。コミュニティ・オーガナイジングでは、ストーリーテリングが重要な要素のひとつです。なぜ自分が行動を起こしたのか、自身のストーリーを語ることが、共感を呼び(Story of Self)、さらに共有する価値観や経験といった私たちのストーリーを語ることが、仲間を増やしていくのです(Story of Us)。

このようなコミュニティ・オーガナイジングの手法が、「コミュニティの醸成そのものに有効」だと大西さんは感じたといいます。それは、ひいては民主主義の定着へとつながると考えたようです。民主主義が定着するには、一人ひとりが社会の構成員であると自覚することが必要です。その自覚は、それぞれが公益を担う責任につながるはずです。

人間は、自分のことすら忘れてしまうので、他人のことになればもっと忘れてしまうんです。それぞれがどういう想いでここに集まっているのか、取り組んでいるのか、そういう原点を確認することはチーム全員に必要ですよね。

大西さんも、さっそく全職員が参加する全体会議で自分のストーリーを話しことでその手法を実践しているそうです。もともとあまり自身のことを語らないタイプだっただけに、職員の方にとっても新鮮だったようです。

さらには、今飼っている6匹の犬に対しても、コミュニティ・オーガナイジングに近い手法を試しているといいます。もちろん言語は使えないので、大げさに身振り手振りを使っての試みになるそうですが、群れの動物である犬に対して、コミュニティ・オーガナイジングを応用したドッグトレーニングが開発できるのでは、とさえ口にしました。

大西さんがコミュニティ・オーガナイジングを高く評価するのは、「最後に結論を押し付けることなく、自分で考えろと突き放すところがよかった」から。そして、現在おこなっている日本国内のさまざまな活動において、コミュニティ・オーガナイジングが役立っているのを実感しているからかもしれません。

日本が抱える問題を解決して、新しい未来をつくるには

もともと世界各地で起こる紛争や自然災害のために、PWJを設立した大西さんですが、今は国内のさまざまな問題にも向き合っています。大西さんのような広い視野を持った人が、日本の地方が抱える問題に目を向けるとき、新しい解決策が生まれてくるのでしょう。 それを成功に導くのは、一人ひとりが公益を担うという、自覚のはずです。

今、国内の問題に取り組んでいる人も、海外で問題に取り組んでいる人も、都会に住む人も田舎で暮らす人も、幅広い視野を持ち、多くの人とつながることで、自らの可能性を大きく育てていけるかもしれません。それぞれの暮らしや人生を充実させていきながら、社会の一員であるという自覚とともにその責任を果たしていくことが、よりよい社会、そして未来へとつながっていくのでしょう。

大西さんとコミュニティ・オーガナイジング・ジャパン、フェローの笠井さん

5月からグリーンズの学校で、コミュニティ・オーガナイジングのクラスが始まります。コミュニティの力を引き出し、ほしい未来をつくるムーブメントをつくりたい方、ぜひご参加ください。