2018年1月26日に厚生労働省が発表した外国人雇用についての届出状況によると、2017年10月末時点、日本国内で働いている外国人は約128万人となり、届出義務化以来、過去最高を更新しています。外国人労働者の数は、特に2012年から急激に増加しており、この5年間で約60万人増加しています。
厚生労働省の理解では、外国人労働者の増加要因として「政府が推進している高度外国人材や留学生の受け入れが進んでいることや、技能実習制度の活用が進んでいることが背景にある」としており、実際、就労目的での在留が認められる「専門的・技術的分野」の高度人材は約24万人にも達しています。
スズキやヤマハなど大手製造業企業の本社が存在する静岡県浜松市では、数十年も前から多くの外国人労働者が在住し、地域に根を下ろした生活をしています。そんな在住外国人と共に、浜松市が推進する多文化共生の街づくりに積極的に取り組む、「一般社団法人グローバル人財サポート浜松」の堀永乃代表理事にお話をうかがいました。
ただただ健やかに、優しくありたいという想いからの始動
2011年に設立されたグローバル人財サポート浜松の事業の一つに「外国人介護人材育成」事業があります。外国人を介護人材へと育成する、その事業ビジョンをいだき始めた当時、堀氏は介護に関しては全くの素人だったと振り返ります。
地域経済の成長を下支えし、一緒に地域を盛り上げてきた外国人労働者の方々が、単なる調整弁のように扱われ、国や企業の勝手な都合で使い捨てられる光景を目の当たりにした時、本当に辛く悲しくなり、それと同時にやるせない憤りを覚えました。
そして、彼ら彼女らが日本の社会に認められ必要とされるにはどうすれば良いのか、という問題に徹底的に向き合うことへの覚悟を決めました。
その当時、公益財団法人浜松国際交流協会の一職員として外国人支援事業に携わっていた堀氏は、仕事での問題に向き合うと同時に、家庭では祖母への介護にかかる問題で悩みを抱えていたといいます。そんな中、介護されることに辛さや申し訳なさを抱える祖母が、自傷行為を図ろうとしていた場面に直面してしまいます。
そして、そんな祖母の姿から、逆に「介護を受ける人たちにとって何が本当に必要なのか?」という問題を提起された、と当時のエピソードとして胸の内を明かします。
そんな実体験を経て堀氏は、介護疲れの家族と、その家族に対して申し訳なさを抱える要介護者、その「両者へ目を向けた介護」の人材育成がこれからの日本には必要になるのではないか、という気づきを得ます。そして、介護という仕事の将来性・必要性を強く確信し、介護人材の育成をするべく奮起し、事業を立ち上げます。
堀氏は「外国人介護人材育成」事業の立ち上げに試行錯誤する過程で、現場ですぐにも働きたいと考えている外国人に必要な日本語教育と、一般的な日本語教育とは異なるものだと気づき、日本での介護資格の取得が外国人にも取り組みやすくなるように独自のテキストを開発します。
今ではそのテキストが公立高校の介護福祉コースで使用されるまで広がっており、日本人にもわかりやすいと好評を得ています。
そのような気づきや失敗など数多の経験を積み重ねた堀氏のもとには、現在、外国人材の受け入れについて多くの相談が寄せられるようになっていきます。中央省庁で議論されている外国人技能実習生(介護)にかかる制度改正の問題に対しても、堀氏のノウハウが求められ、たびたび行政職員と意見を交わしたり、介護事業者向けのセミナーで講演をしたりしているそうです。
堀氏の取り組みにより浜松市を中心とした地域では、それまで不安定な雇用形態にいた在住外国人が介護業界に活路を見出し、その後、施設の利用者からも高い評価を得るような活躍をするに至っています。静岡県の調査では、海外からのEPA(経済連携協定)で受け入れた外国人介護職員を含め、200人超の外国人介護職員が既に県内の施設で受け入れられています。
堀氏によると、浜松市のような一部の地域では現在、在住外国人の高齢者も増えている背景から、介護施設では多言語での介護サービスの提供が求められてきているといいます。
在住外国人の高齢化が進むにつれ、国籍や人種に関係なく、誰もが健やかで優しくいられるような共生社会の構築に向けた、私たち日本人の意識啓発がますます重要になってきています。
高齢社会は日本の問題だけではない
アジア全体の高齢者比率の推移は、日本の約40年前の水準に近く、2010年代に高齢化社会(高齢者が7%に達する社会)を迎え、2030年代には高齢社会(同比率が14%に達する社会)に到達するという統計データから堀氏は冷静に次のように話します。
日本のホスピタリティを学んだ介護人材となれば、将来的に、働ける舞台は日本に限らずアジア全体に広がる可能性があると思っています。
また国内の介護現場においても今後、アジアの裕福層が訪日する目的の一つとして、いわゆるメディカルツーリズムや医療ツーリズムと呼ばれる滞在型観光が増加するのではないかという説もあります。
そうなれば、外国人介護人材が、日本に「ロングステイ」する外国人への介護サービスを提供することだって考えられます。
国内においても海外においても、外国人介護人材の重要性はますます高まるのではないかと、私は考えています。
最新の調査では、アジア全体の65歳以上の人口が、2017年に3億6500万人だったのに対し、2027年には5億2000万人にまで増加することを予測するデータも発信されています。
堀氏の考えは、願望や期待ではなく間違いなく起こる未来の現象の一つであると、データから納得できるものではないでしょうか。
未来志向で臨み根気強く活動する
現在を基軸に未来を予測・フォーキャストして活動する考え方に対して、未来を基軸にあるべき姿から逆算して現在のアクション決める考え方をバックキャスティングあるいはバックキャスト思考と表現されます。
堀氏は実直に日本の未来を捉え、描いた未来のビジョンから現在取るべき活動を冷静に考え、活動しています。
そんな堀氏は、本業のメインの活動とは別に、社会貢献活動を行う大学生のコミュニティ形成にも積極的に携わり、彼ら彼女らの活動を支援しています。
本当に社会のことを想い、熱意を持って動ける人材を育てるにはできるだけ若いのころからアクションをさせてあげないとダメ! 次世代のため、子供達の未来のために、教育について真剣に考えています。
堀氏の活動は、外国人介護人材を育成に留まることなく、未来を担う子供達を育む活動にまで至っています。
堀氏のこれらの活動の根底には、人は地域の財産であるという考えがあり、自分にも隣人にも健やかに暮らせる優しい社会をつくるという理念からすれば、一本の線でつながっているのです。
(Text: 秋間建人)