「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」

greenz people ロゴ

「人も自然として在る未来」へ。自然栽培で育まれたお茶の無限の可能性を、社会になじませていく「健一自然農園」 #求人あり

INFORMATION:グリーンズ求人での募集期間は終了しました。

あなたの暮らしにお茶の風景はありますか? 約1200年前、空海や最澄といった遣唐使がお茶の種を持ち帰ったところから、日本のお茶の歴史は始まったといわれています。以来、少しずつ日本人の暮らしになじむように根付いてきたお茶が、この数十年で急激に紙パックやペットボトルなどに入れられ、広く流通するようになりました。

それはある意味で、お茶を飲むことが手軽になり、身近になったとも言えるかもしれません。でも、私たちがスーパーやコンビニで手に入れているお茶は、どうやらお茶がもつ可能性の、ほんのわずかな一部が表現された姿であり、「その手軽さが私たちをお茶の本質から遠ざけてしまっている」という側面もあるようです。

今回、お茶がもつ無限の可能性について語ってくれたのは、若干19歳で、耕作放棄されていた茶畑を借りて就農し、もうすぐ18年になる「健一自然農園」を経営する伊川健一さん。

その活動は自然栽培のお茶農家だけに留まらず、お茶と環境、観光、福祉、医療、教育、国際交流など、さまざまな分野と掛け合わせながら、人が「自然として在る未来」に向かうためのビジョンを、実践とともに世の中に提案し続けています。

そして今回、「健一自然農園」は、土台となるお茶づくりを通して、ともに未来に向けて歩んでくれる仲間を探しています。求人情報もあるので、ぜひ最後まで読んでみてください。

伊川健一(いかわけんいち)
1981年、奈良県大和郡山市生まれ。健一自然農園代表。自然茶師。奈良県北東部の大和高原を中心に、農薬・肥料を一切使用しない自然栽培のお茶づくりを通して、人と自然が調和した世界の実現を目指し活動中。奈良県山添村「かすががーでん」講師。農事組合法人春日茶園監査。

「健一自然農園」について

茶畑からの風景。向こうに見える平地が奈良盆地です。

「健一自然農園」は、奈良盆地の東側にある山の上、「大和高原」にあります。都祁(つげ)・山添(やまぞえ)・ 田原(たわら)・室生(むろう)という地域で暮らすお年寄りの方々から農園を受け継ぎ、現在約12haほどの土地に約30の茶畑を経営。その数は年々増え続けています。

主事業はもちろん「自然茶生産業」です。15名の従業員(研修生とアルバイトを含む)と協力しながら、農薬や肥料を一切使わずに、土地の力と人の手によって育てる「自然栽培」でお茶を生産し、加工・販売まで行っています。

外から何も持ち込まれていない自然な茶畑の土は、冬でもフカフカでほんのり温かい

煎茶をはじめとする緑茶、ウーロン茶、紅茶、ハーブや酒粕などを使ったブレンド茶など約40種の商品を手がけ、セレクトショップ「URBAN RESERCH DOORS」や自然食品店など、全国200以上の店舗で販売。レストランや大型病院のカフェなどへのお茶の卸しや、アメリカなど海外への輸出も行っています。

また、奈良県山添村にある農業体験施設「かすががーでん」を拠点に、お茶摘みから釜炒り茶づくりまでを体験できるツアーの受け入れ(年間300〜400人)や、無印良品など全国各所でお茶会を開くなど、人々が五感を使ってお茶を楽しめる機会づくりにも精力的に取り組んでいます。

お茶が世界に表現するおもしろさ

健一さんの話を聞いていると、お茶のおもしろさに底は見えず、健一さん自身も「僕もまだ2割くらいしか見えていない」と笑います。彼が言う2割のそのまた一部になりますが、そのおもしろさをいくつか抜粋しながら、ここでなんとか表現してみたいと思います。

1.多様な感性を表現してくれる

あまりお茶になじみがない人たちが思い浮かべるお茶の代表格は、おそらく緑茶でしょう。そのほか、烏龍茶、紅茶、プーアル茶やブレンド茶などもイメージできるかもしれません。しかし、お茶がそれぞれどんな茶葉で、いつの時期に収穫されていて、どんな風につくられているのか、知る人はあまりいないのではないでしょうか。

お茶は実に多様性に溢れた作物で、一つの茶葉から数え切れないほどの種類の味や香りを表現することができます。それは、お茶の味や香りを形成する要素が実に複雑だからです。

その要素とは、茶木の種類(やぶきた・べにほまれなど)、収穫する時期(春夏秋冬)、その日の気候(晴れ・曇り・雨)、使用部位(新芽・茎・根)、土地の状態(肥料の使用有無や土地にそもそも備わっている性質)、加工の方法(蒸す・焙じる)、発酵の度合い(摘み取ってからの時間の長短)、水の成分、お湯の温度、ブレンド具合、農薬の使用・不使用など…。

きっとその条件はまだありますが、要するに、こういった諸条件が組み合わさって、お茶の味と香りが決まるため、その組み合わせは無限といっていいほどに多彩なのです。

例えば、一番茶(春の新芽を収穫)と二番茶(夏の新芽を収穫)のあいだの時期に収穫される番茶でも、春にとれた番茶と秋にとれた番茶では、おもしろいくらいに味も香りも異なります。

健一さん お茶は今の世の中では、番茶よりも一番茶や二番茶の方が価値が高いとされていますし、その影響もあって、冬は茶農家にとって閑散期になっています。

でも、お茶って本当は一年中恵みを受け取れるんです。時期で体に作用するはたらきも異なります。頭の先から足の先まで、花も種も根っこも、全部が人を楽しませてくれるし、健やかにさせてくれる。そして、製茶という作業によってどこまでも華やかになっていきます。作り手の感性によって世界をつくれる作物なんです。

2.環境をよりよくしていける

環境省は、「開発と環境保全の両方をうまく実現させていく」という目的で、「環境アセスメント(環境影響評価)」をつくり、道路整備や住宅開発など、さまざまな開発事業によって行き過ぎた大気・水質・土壌汚染がなされないよう規制しています。

しかし、農業に関する事業はこの対象外となっているといいます。

健一さん どれだけ農薬を撒こうが、肥料を撒こうが、それを調べるシステムがないということです。実際に慣行農法のお茶は凄まじい量の農薬と肥料を使うので、それが地下水を通って河川を汚染して海に流れて、自然界の生き物の命を奪ったり、生きにくくしたりする原因のひとつになっているはずです。

今、慣行農法でお茶をつくっている農家さんを否定するつもりなんてまったくありません。みなさん一生懸命お茶をつくっているだけなので。

でも、そうした茶園が一つずつ自然栽培のお茶づくりにシフトできる雛形を、経済的な面も含めて示せたら、その影響はものすごく大きいしおもしろいなと思っています。自然は汚染されたらずっとそのままなのではなくて、命を増やし物事をきれいにするように循環しているので、自然栽培に切り替わっていけば、環境もどんどん回復していきますよ。

また、「健一自然農園」では、製茶に必要な熱を生み出す熱源の一部を化石燃料から、大量に植えられて放置されている杉や檜、村を美しく保つために伐採された道沿いの落葉樹の間伐材といった、いわゆる木質バイオマスに切り替えています。

健一さん まだ化石燃料から完全に脱却できているわけではありませんが、少しずつそちらの方向に動いて行っています。今は一晩でタンクローリー1台分、だいたい2000リッターくらいの重油を燃やしているんですが、それがバイオマスになったらめちゃくちゃいいと思うんですよね。

でも、間違えないでほしいのは、どこでも木を使えばいいと言っているわけじゃないということです。大和高原の山はもっともっと間伐しないと健全な状態にならないので、木を使うのはいいことだと判断したわけです。

理想的なのは、100年、200年先を考えて、伐りながらつくりたい森の設計図を描くこと。そのために木質バイオマスは有効で、かつそれを広めたいと思った時に大事になる「どのくらい伐るのが山にとって健全なのか」を示した客観的なデータを、健一さんは立命館大学の環境システム学科とつくり始めているといいます。

健一さん お茶で薪のキャッシュポイントがつくれたら、林業を元気にする呼び水にもなると思うんです。そう考えた時に、完全オフグリッドの茶工場ができたらものすごく分かりやすいですよね(笑)。

3.茶園は何者も拒まない

「健一自然農園」のスタッフの皆さん

一般的に、茶畑は周囲が見渡せる自然環境の豊かな場所にあります。そこで行われる茶園管理や製茶作業は、農業の大半がそうであるように、地味で大変な作業を毎日繰り返すという、修行のような行いです。

しかし、そういった作業を得意とする人たちがいます。それが、今の社会では障がいと呼ばれる個性をもった人々、そして地域で暮らすおじいさんやおばあさんです。

「健一自然農園」は、奈良県奈良市に拠点を構える「社会福祉法人ぷろぼの」と連携。現在4名の利用者さんが、加工の一部を担ってくれています。里山で昔ながらの暮らしをしてきたおじいさんやおばあさんは、茶園の草刈りなどで大活躍。おしゃべりしながら、若者よりも圧倒的な速さで草を刈り取っていきます。

障害があろうがなかろうが、誰が来てもきっと「気持ちがいい」と思う風景が広がっています

健一さん 障がいのある人たちの中に、お茶の作業が向いている人たちは結構いると思います。もちろん大変なこともたくさんありますけど、彼らは持続力があって、根気が素晴らしい。そして繰り返すうちに確実に作業が上達していくんです。健常といわれる僕たちよりも数段上手になることもあります。

遠隔ですが、冬に収穫する自然茶をつくり始めた岐阜の「社会福祉法人いぶきの福祉会」さんでも同じことが起きていて、これはきっと普遍性があることだと思っています。

さらに「茶園は何者も拒まないんです」と健一さんは続けます。

健一さん お茶って言っても木なんで、田んぼや野菜の畑と違って、茶園の通路なんかに寝転んでも大丈夫だし、遊べるし、かくれんぼもできたりする。茶園は自然の中の公園のようで、福祉ともとても相性がいいと思います。興味のある施設の方はぜひ一度ご連絡ください(笑)。

4.健やかな心体に寄与してくれる

お茶はもともと中国から「薬のような効果がある植物」として持ち込まれ、現代では科学的にカテキンによる風邪予防や虫歯予防、テアニンによるリラックス効果など、心と体にさまざまな作用が期待できることがわかっています。健一さんは、そういった力を数値化したり、編集したりすることで、人々が自分の体調にあったお茶を選べるようにするための取り組みも進めています。

健一さん お茶には、メンタルにもフィジカルにも作用して、不調をチューニングしていける力があると思っていて、そこをいろんな専門家の方々と体系化していこうとしています。

薬膳の専門家であるオオニシ恭子先生が、人の体調を7つに分類していて、どの状態ならどんな食事をすると体にいいか理論化されているんですが、そこにお茶の成分が持つ効能を当てはめることで、「体が冷えている人は温まるお茶を」「熱が余っている人は体を冷やすお茶を」という具合に、自分の体調を知ってその上でお茶を選ぶということがしやすくなると思うんです。

風邪をひいたらすぐに薬を飲むのではなくて、まず体温を上げるようなお茶をいつもより濃いめに淹れて、免疫を上げていく。そうすることで、身体は風邪をきちんと浄化できるんです。

その他、健一さんは「一般社団法人グローバルカウンセリングジャパン」に所属する臨床心理士と一緒に、マインドフルネスと自然茶を掛け合わせることで作業効率向上を助ける、企業向けプログラムをテストしたり、「日本ホリスティック医学協会」所属の医師と一緒に、お茶がもつ血糖値を下げる効果のエビデンスを抽出しようと取り組んでいます。

5.世界とつなげてくれる

中国発祥と言われるお茶ですが、世界中の国々に、お茶を飲む文化が存在しています。その飲み方は実に千差万別。「だからこそ世界とつながれる」と健一さんは話します。

健一さん 世界中にいろんな産地があって、いろんな民族がお茶をつくって飲んでます。でも、それはお茶という同じ一つの植物の話なんです。だとすると、僕たちが自然栽培でのお茶づくりを体系化できれば、それはきっと世界中に共有できますよね。例えば「これを飲めば体が温まるよ」という効能をデータ化できたら、他の地域でも活用できるわけです。

逆に外国のお茶のよさを僕たちが取り入れることもできます。彼らがつくるお茶には、僕たちには出せない香りやコクがあるわけです。それを取り入れて和えることで、よりおいしいお茶ができるかもしれません。

世界はひとつながりですから、「人が自然として在る未来」は、世界とつながって取り組んでいかないと実現していきません。そして、お茶だからこそ、世界の文化とつながっていけると思っています。

夢物語のようなビジョンを現実にするプロダクト

そんな「健一自然農園」で一番の人気商品が、「三年晩茶」です。

「三年晩茶」は、3年以上育った茶の木を茎ごと刈り取り、機械で細かく刻んで薪火で焙煎し、半年ほど発酵させて、出荷前にさらに火入れをしてできあがるお茶。四季を繰り返し越えることで、茶木自体にさまざまな成分が蓄積され、香ばしく奥行きのある味になります。

茎ごと刈り取った茶木に絡みついたツタなどを外す。

チッパーという機械を使って細かく刻んでいく。

刻まれた茎。これがお茶になるんです。

茎と葉に分けてコンテナに移す。

焙煎釜に茎と葉を別々に移し、

薪火で焙じる。焙煎後、取り出して冷ました葉と茎を混ぜる。

このような刈り取りから焙煎までの作業を、一般的にはお茶の閑散期とされている真冬の時期に行います。

着目すべきは、三年以上放置された耕作放棄茶が商品になり、しかもそれが、「健一自然農園」で一番の人気商品であるということ。

つまり、この三年晩茶によって、仕事がなかった閑散期に仕事が生まれ、茶農家の収入を生み、障がいのある人やお年寄りが活躍し、山の木が使われ、耕作放棄地が管理され、美しい里山の風景が守られ、自然環境がよくなり、飲む人の心と体を温め健やかにして、しかもおいしいという、もはや一石何鳥かよくわからない出来事が同時に起きているのです。

健一さんのイメージする未来の循環を図式化したもの

そして健一さんは、この「自然栽培による三年晩茶のビジネスモデル」を活用したまちづくりを、それぞれの地域に合わせてカスタマイズしながら、岐阜県揖斐川町春日村や島根県雲南市などで、地域のみなさんと一緒に始めています。

こういった発想にも彼らしさがあります。それはつまり、常に未来志向であるということ。近視眼的に自社だけのビジネスメリットを追い求めるのではなく、みんながハッピーになるビジョンをいつもイメージし、ノウハウをシェアしていく方向で物事を考え、判断しているのです。

でも、最初から今のような考え方をしていたわけではないと健一さんは話します。

健一さん これまで、いつもみんなと仲良しこよしでやってこれたわけではありません。何人も来ては去って行きましたし、たくさん失敗もしてきました。でも、そうやって一つひとつ試して、迷いながらも進んできて、授かるようにして見つけることができた宝物、一つの雛形なんです。

ゴールはお茶をつくることじゃなくて、鳥や虫やその他の生き物たちのように、「人も自然として在れる未来」を実現すること。それってみんなでやらないと叶えられないですよね。

だからこの雛形を可視化して、オープンソースにして、ご縁をいただいた方々と広めていく横展開をしていきたいんです。

「健一自然農園」に関わる人たち

では、「健一自然農園」で働くことになった場合、どんな場所で暮らし、どんな人たちとどんな仕事をすることになるのでしょうか。まず工場長の渡辺正伸さんにお話を伺いました。

三年晩茶や紅茶をつくる茶工場。地域で使われなくなった工場を譲り受けました

工場長の渡辺さん

渡辺さんは一年の6割ほどを工場で過ごし、残りの4割は茶畑に出て茶葉の収穫や草刈りなどを行っています。工場でお茶を蒸したり焙じたりする加工作業以外にも、その他のスタッフの仕事の段取りを組んだり、いわゆるマネジメントの役割も担っています。

ひたすらにお茶を焙じ続けて色のついた手はまさに職人のもの

もともとは横浜出身という渡辺さん。大阪、丹波篠山を経由して、2013年に「健一自然農園」にたどり着きました。

渡辺さん いろいろあって前住んでいたところをあてもなく飛び出しちゃったんです。住むところもない、仕事もない、金もない状態だったので、知り合いを頼ってこの農園にたどり着いた時には、「浮浪者のおじさんが来るらしいぞ」って言われていたらしい(笑)。

そんな俺を、事情を全て聞いた上でけんちゃんは「うちに来たらいいやん」と言ってくれた。本当に涙が出るくらい嬉しかったね。恩返しができたらいいなと思ってる。

前の職場でも農業をしていたものの、お茶は全てが初めての体験。右も左も分からない状態で草刈りからのスタートでしたが、段々とお茶の不思議さや魅力に惹かれていったといいます。

渡辺さん いいお茶ができた時や、目標を達成して、みんなで打ち上げで飲んだりするのが一番嬉しいかな。逆に、もちろんしんどさもあるよ。同じ仕事を一週間続けたりとか、夏場の茶畑は日陰がないのでものすごく暑くて、脱水症状になったりすることもあるし。体力的にはかなりしんどい仕事だと思ってもらって差し支えないです。

新しく入る仲間になにかアドバイスがあるか尋ねると、「なんか茶畑って気持ちよさそうだし癒されそうだから、とかそういう甘っちょろい考えだったらやめておいた方がいい」という、なかなか厳しめの答えが返ってきました。

渡辺さん こっちに来るってことは、村に入ったり、ものすごいエネルギーを使ってお茶をつくったり、大変なことも多い。お金だって、都会のようにもらえるわけじゃない。もちろん生きていくにはお金もいるけれど、お金よりも自然と同化していけるところに喜びを感じられないと辛くなると思う。

あと、人として当たり前のことができない人は難しいよね。簡単に言えば、挨拶ができるとか、人と真剣に付き合えるかとか、そういうこと。学歴なんてなくていいけど。

少しきついこと言っているけど、来てほしくないわけじゃないよ? でもキラキラしている職場じゃないってことをちゃんと言っておかないと、現実とかけ離れちゃうから。わざわざ来てくれて、なじめなくて1年くらいで帰っちゃうとかだとお互いにもったいないしね。それでもピンと来た人はもちろん歓迎です。お待ちしてます。

次にお話を伺ったのは、健一さんの妹さんで、渡辺さんの奥さまでもある渡辺めぐみさん。実家のある大和郡山市から大和高原に越してきて1年ほどが経ちます。

こちらがめぐみさん。「健一自然農園」では茶園の管理を主に担当しています。

標高は400mを超える大和高原。軒先にできていた氷柱が寒さを物語ります。

高校を卒業後、子どもたちに自然体験を届けたいと考え、保育の道へ進んだめぐみさん。4年ほど地元の保育園で保育士として働きましたが、そこでは望むような教育ができず、人間関係で悩むようになったそう。

めぐみさん 子どものことを考えたいのに、大人との関係に悩むところにエネルギーが消費されてしまって、これは無駄やなと。一方で、きっと私と同じような思いをしながら、それでも働いているお母さんたちはたくさんいるし、そのストレスがどこに向かっているかといったら、やっぱり子どもたちに向かっているんじゃないかと思うんです。

そんなお母さんたちが自然を感じやすい場所に来て、ちょっとでも癒されたりする時間を取ってもらえたらといいんじゃないかって。それで自分で農業を始めました。畑を借りて、大豆や麦なんかをつくって。

以降、めぐみさんは学童保育で作物を育てたり、自分の畑で収穫体験を行ったり、保育園に釜を持って行ってお茶もみ体験イベントを実施したりしてきました。そして結婚を機に、借りていた畑を地域にお返しして、自らも茶業の農家に移行。「健一自然農園」を手伝っていくことになったのです。

めぐみさん 新芽が芽吹いてきて茶葉が生え揃ってくる瞬間はすごく気持ちがいいです。夏は本当に暑いし、冬は本当に寒いし、農薬を撒いていない分管理は本当に大変。でも、草を刈り進めていって、振り返ったらそこがきれいになっていて、やったことの結果をすぐに実感できるのもこの仕事のおもしろさじゃないかと思います。

それと、やっぱりそこに生き物がいることが嬉しいですね。カマキリの卵がかえって、最初は目に見えないくらいの大きさだったカマキリが、時期を経て大きいカマキリになっている姿を見たりすると、そこが安全なんだって思って、安心します。

田舎に移り住んだめぐみさん。不便はありつつも、その静けさと、聞こえてくるカエルの声や鳥の声など、自然の音が心地よいと笑います。

めぐみさん アライグマがいたり、イノシシが水浴びしていたりするのはびっくりしますけど(笑)、田舎の方が断然好きだから、絶対にこっちの方がいいですね。

”村入り”はまだ完全にできているわけじゃありませんが、村の方たちは若い世代が来たと喜んでくださっていますし、村祭りに顔を出してみたり、草刈りには参加したり、柿をいただいたり、少しずつ関係を深めていっています。無理せず焦らず、なじんでいきたいです。

「健一自然農園」で働くことが決まった場合、住まいは山添村の春日という地域にある空き家に入居することになります。

山添村は古くからお茶の産地として栄えてきた村。昭和33年には、山添村の紅茶がイギリスの品評会でグランプリを受賞するほど、お茶づくりをするのに向いた環境があります。

人口は3625人(平成30年1月31日現在)、高齢化率は42.5%。小学校、中学校、高校が一つずつありますが、全国同様に少子化は進んでいます。

村内の小学生125人が通う「やまぞえ小学校」

電車は走っていませんが、名阪国道という幹線道路が通っており、大阪までも車で一時間ほど。名張や伊賀上野といった街へも車で10〜20分程度で行けるため、暮らす上での不便はほとんどありません。起伏とゆるやかな傾斜地が多い地形で、日当たりがよく、大和高原の中では比較的暖かい場所にあります。

そんな山添村での暮らしをサポートしてくれるのが、春日で生まれ育ち、現在村会議員を務める向井秀充さんです。

向井さん。後ろに見えるのが地元の氏神さん・春日神社。

向井さんは春日を「良くも悪くもつながりが強いところ」だと話します。

向井さん なんの縁もなく外から入ってくると、少しハードルが高いと感じるかもしれん。中に入ってしまえば仲間意識が出てきてええんやけど。だからそこは私が横でサポートしていけたらと思ってます。けんちゃんも村で好かれとるし、大丈夫やけどな(笑)。

空き家も向井さんと健一さんがそれぞれ把握し、紹介できる物件がいくつかあるそうです。ではこの地域に実際に住んだらどのような生活が待っているのでしょうか。

向井さん 村の行事はけっこうありますよ。まず草刈り。それと村の氏神さんの春日神社で夏と秋のお祭り。ここの春日神社は奈良の春日大社と関係するところで、能の奉納行事もあります。

春は桜の花見をしながらお弁当を広げて、カラオケやったりくじ引きやったり。垣内(集落内のさらに小さな区画)の集まりで、年に2回、お酒を飲んだり、年末年始は忘年会と新年会、正月飾りを燃やす「とんど」もある。

行事じゃないけど、青年団や消防団もあるし、地域の文化教室も元気で、民謡、手芸、お料理教室もやってる。こんな感じで、村の人たちと関係をつくっていこうと思ったら、それができる場面がたくさんあるんです。

「だけど、必ず入らなきゃいけないってわけじゃない」と向井さんは言葉を続けます。

向井さん 無理せんで、自分のペースで入っていってもらえたらええんです。大事なのは信頼関係を育てながら、来てくれる人が末長く幸せな家庭を持てること。そういう生き方をしたいと思ってくれる、自然が好きで、お年寄りも好きやっていう人が来てくれると嬉しいな。

撮影中、健一さんと春日の方たちとの会話が始まり、犬もやってきました。

水が飲めない日本がいい人なんて一人もいない

健一さんは言います。

健一さん 沢水が流れてきて、そこでコップで受けてそのまま飲みたいじゃないですか? 子どもに、どこの川でも「泳いでいいよ」と言いたいじゃないですか? どこでとった魚でも「食べていいよ」と言いたいじゃないですか?

環境ホルモンがあるからその水を飲んだらあかんなんて、そんな日本に住みたい人なんて一人もいないのに、そんな日本にしてしまう農業が行われて、百歩譲って金銭的に豊かだったらいいですけどそうじゃないし、健康で文化的な暮らしができているならいいですけど、そうじゃないわけです。だとしたらなにかおかしいですよね?

我慢しながら我慢しなきゃいけない未来を一生懸命つくっているみたいなのは、やっぱりおかしい。そして、なんかなしに生きていたらそこに加担しちゃうんですよ、今の世の中は。普通に生きていたらそっちを応援しちゃうようにできている。

だったら抗いたいし、抗おうと思ったら、川をのぼるシャケみたいに、頑張ってもがいてみないといけないわけですよね。筋力もいるし持続力もいる。きっとひとりじゃのぼれない。でも、横を見た時に別のもがいているシャケがいたら、きっと励みになるし、きっとのぼっていける(笑)。そういう話が一緒にできる人を増やしたいし、そういう話ができる人と出会いたいと思っています。

「健一自然農園」の一員になる、自然栽培のお茶を飲む、茶摘み体験に参加する、地域の茶畑を自然栽培に切り変えるなど、あなたにとっての自然な方法で、「人も自然として在る未来」をともに目指しませんか?

ここまで読んでくださった「あなた」と「健一自然農園」に、何かしらのいいご縁がありますように。

(撮影:都甲ユウタ