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お金を稼ぐために働かない勇気を持て! サティシュ・クマールが考える、ローカル経済を実現するために必要なこと

「経済」という言葉を辞書で調べてみると、「人間の生活に必要な財貨・サービスを生産・分配・消費する活動。また、それらを通じて形成される社会関係」と書かれています(大辞泉より)。

昨今、この「経済」の仕組みの中での自分や周りの働き方、消費のあり方などに、少し違和感を感じている人は少なくないかもしれません。そして、だからこそ漠然と「どういう暮らし方がしあわせにつながるのだろう」、「そもそもしあわせって何だろう」と考えてしまうこともあるのではないのでしょうか。

私たちのそんなもやもやした疑問に、Satish Kumar(サティシュ・クマール、以下サティシュ)は、一筋の光をくれるかもしれません。

サティシュは25歳の時、核兵器反対運動でバートランド・ラッセルが逮捕されるニュースを知り、友人と当時4つの核保有国の首都(モスクワ、ロンドン、パリ、ワシントンDC)に、核廃絶のメッセージを届ける平和巡礼を決意。無一文、徒歩でインドからアメリカまでの約13,000キロの道を2年半かけて歩いたことは、各国の首脳たちに“平和のお茶を届けた”エピソードとして知られています。

その後、経済学者で『スモール・イズ・ビューティフル』の著者、E.F.シューマッハーの呼びかけに応じてイギリスに移住してからも、環境、平和、科学、スピリチュアリティーの融合を提言する雑誌『リサージェンス』の編集主幹に、またシューマッハーの教えに基づき「シューマッハー・カレッジ」を開講するなど、環境・平和運動を通じて、私たちの暮らしに新たな道筋を提示し続けてくれています。

昨年、11月11日・12日に開催された「しあわせの経済 世界フォーラム」のためにサティシュが来日。そこでサティシュは私たちに何を語ってくれたのでしょうか。基調講演の様子を、ご本人のお言葉でお届けします。

サティシュ・クマール
インド生まれ、9歳でジャイナ教の修行者となり、18歳で還俗。マハトマ・ガンディーの非暴力と自立の思想に共鳴し、2年半かけて核大国の首脳に核兵器の放棄を説く1万4千キロの平和巡礼を行う。1973年に英国定住。40年にわたってエコロジー&スピリチュアル雑誌「リサージェンス(再生)」の編集長を務める。また『スモール・イズ・ビューティフル』の著者として知られる経済学者E・F・シューマッハー、とガンディー、タゴールらの思想を引き継ぐ大学院大学「シューマッハー・カレッジ」を創設。世界中で講演を行い、Soil(土)Soul(心)Society(社会)の3Sの大切さを伝えている。

しあわせって何だろう?

今回のフォーラムのタイトルでもある「しあわせ」という言葉から話を始めましょう。
「しあわせ」の根源は、満足、これで十分だという思いです。そして、「しあわせ」であるためには3つの条件があります。

一つ目、“過去“のことを、くよくよしないこと。
過去はもう過ぎ去っています。できることなら、忘れなさい。多くの人が、「自分の子ども時代が悪い」、「自分が通った学校が悪い」など、たびたび過去を責めてしまう。そのことによって不幸せになっているのです。

二つ目、“未来“を信頼すること。
なんの心配もいりません。大いなる宇宙が、いろんな局面であなたを支えてくれます。家賃のことなんか心配しなくていい。「じゃあ誰が私の家賃を払ってくれるの?」と言われたら、サティシュ・クマールが払ってくれると言えばいいのです(笑)!

三つ目、“現在”をお祝いすること。
あなたの周りを見回してみてください。この宇宙が、この世界が、どれだけの贈り物 (ギフト) を、あなたにすでに与えているか。わたしたち一人一人が持つ「想像力と創造性」をお祝いしましょう。

そして、「2本の手」があることをお祝いしましょう。

「2本の手」があれば、家も建てられる。また種を蒔き、自分の食べ物を育てることもできる。最近の私たちは、たった2本の指をスマートフォンに使ってばかりで、この「2本の手」さえ十分に使っていないのではないでしょうか。

現代の学校教育では、「2本の手」を使わないことばかりを教えているようにも感じます。大学を卒業した優秀な若者が、食べ物を育てる、料理をする、家を建てること、などつくることを何一つ知らないで巣立っていくからです。

私はイギリスのハートランドで「スモールスクール」という中学校、トットネスで「シューマッハー・カレッジ」という大学をつくりました。シューマッハー・カレッジでは、キッチンこそが教室であると学生に伝えています。シェイクスピア、ガイア理論、ディープエコロジーを学ぶ前に、まずは料理です。

サティシュがシューマッハー・カレッジのキッチンで料理をしている様子

私は、「Head(頭)・Heart(心)・Hands (手)」を学びの軸としていて、これを教育の3つのHと呼んでいます。

3Hは、まず「Hands (手)」からはじまります。そして、私たちは「手」があることは奇跡であると気づかないといけません。平凡なものを究極的に素晴らしいものに、つくり変えることができるのだから。ローカル経済は、本を書くことでも、人の話を座って聞いているだけは始まりません。「手」を使うことで、その一歩先へ進んでいくのです。

そして日本では、4番目のHを付け加えたい。「Hara (腹)」です。どうやら日本では、魂が腹に宿っているそうですね。「腹」、つまり、あなたの「魂」を大事にして、使うことを学んでください。

ローカル経済は、太陽エネルギーの活用から始まる

「日本は、資源に乏しい国だ」と長い間教えられてきたのではないでしょうか。それは単なる神話で、大きな嘘だと言いたい。

日本のみなさんには「太陽」が照らないのですか? これだけ太陽が、私たちに降り注ぎ、多くのエネルギーを与えてくれているのに、然るべき方法で受け取り、活用してこなかっただけではないでしょうか。

石油を得るために、サウジアラビアへ行く必要はありません。オーストラリアから、ウランや石炭を輸入しなくたっていい。石炭、石油、ウランはすべて闇のエネルギーなのです。

闇のエネルギーは、何千メートルも地中深くの地下世界からやってくる、いわば地獄の世界からとってきたエネルギーです。闇のエネルギーを使うことで、汚染、地球温暖化、気候変動、廃棄物など、地球上に数々の深刻な環境問題を引き起こしています。

日本にも、宇宙からのエネルギー、つまり太陽のエネルギーが豊富にあるのです。
ローカル経済には、太陽からのエネルギーを活用すること。自分のすぐ頭の上にある太陽からはじめることです。

また、日本のみなさんは「海」を持っているのではないのですか?

海にも、大量のエネルギーと、豊富な食べ物があります。しかし、貴重な私たちの宝物である海を、グルーバル経済によって、プラスチックゴミで埋め尽くそうとしています。今では、魚よりも多くのプラスチックゴミが海にあるといいます。これは、グローバル経済が引き起こした結果です。このプラスチックを魚介類が食べ、その魚を私たちが食べている。つまり、私たちは非直接的にプラスチックを食べているのです。

日本は豊かな海に囲まれた国です。海の豊富な資源を活用する日常を見つけていかないといけません。

さらに、日本には美しく豊かな「大地」があります。そして、大地から生まれる「米」。私は、世界の中でも日本の米ほど好きなものはありません。大国の圧力によって輸入品に頼るのではなく、日本の素晴らしい大地や、米とともに生きる暮らしを諦めてはいけません。

お金を稼ぐために働かないこと

では、ローカル経済は、どこからはじめたらいいのでしょうか?

まず、働き過ぎてはいけません。少し怠けることです。多くの人が週に5日働いていますよね。なかには週に6日、7日だったり、一日10時間以上も働いていたりする人もいることでしょう。もしローカル経済を実現したいと思うなら、週5〜6日勤務から週3日にしてみましょう。お金のためにそんなに働かない勇気を持ちましょう。

そして働いていた時間の代わりに、新しいスキルを学びましょう。陶芸、大工仕事、ガーデニング、料理、何でもいい。私たちはどんな年齢であっても、美しいスキルを学ぶことができるのです。スマートフォンを使うよりも、自分の「手」を使って美しいスキルを学び始めることを、今自分に決意しましょう。

グローバル経済は、私たちを消費者に仕立て上げました。そして、誰もが想像し、披露できたアートは、一部のエリートや大きなギャラリー、コンサートホールによって取り上げられてしまいました。

しかし、私たちは「手」を使う時、同時に私たちの「想像力と創造性」も使うことができます。想像力と創造性を発揮することによって、私たちはアーティストになるのです。アーティストというのは特別な人ではありません。全ての人が、すでにアーティストなのです。想像力や創造性を求めて、スーパーやデパートに行く必要なんてありません。一人一人に等しく、想像力や創造性は与えられているのです。

ローカル経済は、私たちをアーティストに、詩人に、そしてつくり手にします。「私は消費者ではない、アーティストだ、詩人だ、つくり手なんだ」と宣言しましょう。

自分のため、家族や友人のために、何かをつくること

そしてスキルを学ぶ時間ができたら、まず自分のために何かつくりましょう。次に、あなたの家族や友人のためにつくりましょう。自分や周囲の人のため以上につくることができたら、売ってみてはどうでしょう? 私たちは、知り合いの人がつくった服を着るとき、知り合いの人がつくったお皿や椅子を使う時、人とのつながりを感じ、そのつながりを取り戻せるのではないのでしょうか。

これは、インド独立の父である、マハトマ・ガンディーの偉大なメッセージです。
ガンディーが、インド独立に向けた一生の戦いを始めた時に、唱えたことは「スワデシ」でした。「スワデシ」とは、ヒンディー語で「場所に基づく経済」という意味です。

ガンディーは、60歳の時に糸紡ぎを学び始めました。「糸車をまわして、インド独立が実現できるとでも思っているの?」と周りは飽きれました。ガンディーは、「実現できます。試してみなさい」と答えたそう。そのガンディーの考えを信じて、何百万もの人が糸紡ぎを始めました。すると、これまで輸入していたイギリス製の洋服が売れなくなったのです。イギリスに頼らず自立しようとする、ほんの小さな一人一人の行動が、インド独立につながっていくのです。

マハトマ・ガンディーが糸紡ぎをする有名な写真

ローカル経済への道は、首相や大統領、大企業が示してくれるわけではありません。ここにいる一人一人が、これから生まれるローカル経済のリーダーです。どう世界を変えられるかを悩む前に、まず自分の暮らしを変えましょう。消費者ではなく、アーティストになるのです。

自分自身はもちろん、大地も、同じ社会に生きる人も愛すること

しあわせ経済世界フォーラムの中心メンバーで、ナマケモノ倶楽部の辻信一さんが通訳をされました

今回、私は、日本のアート、クラフトや食を守るために来日しました。

私はこの大地を、大地から生まれる食べ物、そしてアートを愛している。
つくることは喜びです。さらに地元でつくられた食べ物を食べる、手でつくられた、もしくは愛する人がつくった服を着るのは喜びです。自分自身はもちろん、この大地や同じ社会に生きる人を愛することができなくては、ローカル経済なんてありえません。

反対に、グローバル経済の根源には、「強欲さと恐れ」があります。ローカル経済の根源は、「愛と共感」。アートへの愛、私たちの想像性への愛から始まります。私は、みなさんと「愛と共感」の運動を始めたい。

残念ながら、世界をよりよくしようとしている経済学者、環境学者、活動家の中には、恐怖にかられている運動をしている人もいます。私は、恐れに基づくような活動はしたくない。

私の活動は、「愛」が原点です。

英語の全ての文の中で、最も美しいと思う文は、「I love you(あなたを愛している)」です。今の世界は、人と人とのつながりが分断されてしまっている。私たちは、日本人、アメリカ人、インド人など、どこの国の人である前に、人間なのです。
だから言いましょう。

I love you!
I love you!
I love you!

(基調講演の内容はここまで)

講演でサティシュは、温かく、力強い言葉で私たちに語り続けてくれました。サティシュの言葉の数々の中で、何かみなさんの心に刺さることがあったのではないでしょうか。

グローバル経済は「強欲と恐れ」を根源とすると語られましたが、そうであれば、現在の私たちの暮らしのいろいろな場面での選択や動機が「強欲と恐れ」を起点としているということがあるかもしれません。それは少し「しあわせ」ということには遠い気がします。少しくすぐったい言葉かもしれませんが、どこかに「愛」を持っているということがやはり大事なのではないでしょうか。私たちの住んでいる土地、家族や周囲の人、私たち自身や私たち自身がつくり出す食やアートなどに対して。

そしてサティシュは「手を使った美しいスキルを学ぶこと」を決意しようというメッセージをくれました。

みなさんは、どんなスキルを学びますか?みなさんと、そしてたくさんの人が美しいスキルを学んでいく未来は、想像もつかないくらい、創造性にあふれて、わくわくする毎日になるかもしれません。

編集協力:
しあわせ経済フォーラム
ゆっくりweb

(撮影: 齋藤隆夫)