NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』ゆかりの土地として、静岡県の浜松市・浜名湖地域が全国から注目を集めました。
浜松市と言えば、マスコットキャラクターの「出世大名家康くん」がゆるキャラグランプリで優勝争いを繰り広げ、B級グルメ分野では「餃子」が宇都宮市と日本一の消費量を競うなど、地方都市を盛り上げる企画において以前から目立つイメージを持った自治体です。
またその様な話題性のある企画だけではなく、自然や文化、経済の面でも革新的な取り組みを進めています。
例えば、「ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)創造都市ネットワーク」における音楽分野への加盟をアジアの都市として初めて実現(平成26年12月)。
また市町村としては全国で初めて森林資源活用による産業振興で都市の強靭化と地方創生を目指す「グリーンレジリエンス連携・協力協定」を民間企業と締結(平成28年10月)。
また更には、「シェア」の概念を導入して持続可能な自治体の運営を目指す“シェアリングシティ”の構想を秋田県湯沢市、千葉県千葉市、佐賀県多久市、長崎県島原市の4市と共に日本で初めて宣言(平成28年11月)する等、イノベーティブな取り組みを次々と仕掛けています。
こうした革新的な取り組みを先導し、首長として自ら積極的に、浜松市の魅力を営業する鈴木康友・浜松市長(以下、鈴木康友市長)にお話をうかがいました。
松下幸之助翁の教え、“素志貫徹の事”
パナソニックの創業者である松下幸之助翁が未来のリーダーを育成するために私財を投じて立ち上げた「松下政経塾」の第一期生である鈴木康友市長はこう語ります。
「成功の要諦は、成功するまで続けるところ“素志貫徹”にある」と松下幸之助翁より教わり、自分が還暦になる今に至って、その言葉の奥の深さを実感しています。
初志を貫徹する過程はイバラの路でも、それすらも「やらまいか」と楽しめることが大切、自分がこれまでに出逢ってきた成功者の多くが「素志貫徹」を実践していたと語る鈴木康友市長、自らのフロンティア・スピリット(開拓者精神)の原点には、松下幸之助翁からの教えがあると強調されます。
『素志貫徹の事』を含めた松下政経塾の『五誓』に、松下幸之助翁から教わるリーダーシップ論が集約されているといいます。
日本には、海外と比べて社会を牽引するリーダーが少ないのではないかと懸念する声や、リーダー人材の育成に問題があるのではないかと言う不安の声を聞くことがありますが。鈴木康友市長はリーダーの必要がさわがれるずっと前からリーダーシップについて学び、リーダーになることを志し、実践してきた稀有な存在といえるかもしれません。
座右の銘である、“至誠通天”
至誠通天とは、「誠を尽くせば、願いは天に通じる」といった意味の言葉。鈴木康友市長は、家庭教育で父親からこの言葉を教わり、政治家を志す中で、その意味を実感してきたと振り返ります。
松下幸之助翁は“運”を大切にする方で、私は特に人との出逢いに“運”の大切さを実感しています。そして、その“運”には、一所懸命に努力してこそ巡り逢えるものだと私は感じています。
現在の政治塾の様な環境が一般的でなかった1979年の当時、「松下政経塾”の登場は大変なイノベーションであったと考えられます。第一期生として、先行き不透明な環境にもかかわらず、人生を賭けて飛び込みには相当な勇気と覚悟が必要であったと推察されます。
鈴木康友市長は、幼少期より将来は外交官や政治家になることを公言し、その夢を叶えるために考え行動してきた自分だからこそ、松下政経塾に“次代への兆し”を感じたのだとお話されます。
その当時から経営者として圧倒的な存在であった松下幸之助翁ですが、鈴木康友市長は今になってそのお考えや教えに強く共感することが増えたといいます。
また松下政治塾でのご縁が巡り巡って、チャンスや人との出逢いに恵まれたことで、浜松市で現在起きているコラボレーションやイノベーティブな取り組みが実現されているといいます。
Volatility(変動性)とUncertainty(不確実性)とComplexity(複雑性)、そしてAmbiguity(曖昧性)の頭文字を繋ぎ合わせた造語の「VUCA」という言葉で表現されるように、先行きが解らない現代を不安視する文脈がありますが、そんな現代だからこそ、“至誠通天”という言葉を心に留めておくことが必要なのかもしれません。
「やらまいか精神」を再び盛り上げ“浜松バレー構想”実現を目指す
現在、浜松市では「浜松バレー構想」を立上げ、ベンチャービジネスを起しやすい環境創りに取り組んでいます。鈴木康友市長は「浜松バレー構想」の発案者として、自ら積極的に旗振り役を担い、構想の実現のために市内外を奔走しています。
平成29年の5月に「日本一の起業家応援都市」宣言を行いました。浜松市民のベースには「やらまいか精神」という進取の気性があると言われています。
近年、開業率が全国平均を下回るなど残念な状況にもありますので、私は、新しい企業が次々と生まれてくる米国のシリコンバレーの様な土壌を創るために産学官金の各機関の連携を強化し「やらまいか精神」を再び盛り上げ、浜松市をオール浜松で“創業のメッカ”にしたいと考えています。
県庁所在地でもなく大都市もない浜松市が、街のにぎわいを維持するには産業を起して雇用を生み出すことが最も重要であると鈴木康友市長は語ります。
鈴木康友市長ご自身も、松下政経塾を卒業後に事業を立上げ、会社を経営していた時期があり、事業を起こすことの大変さについて身を持って経験しています。現在の日本政策金融公庫の前身にあたる国民生活金融公庫へ事業計画書を何度も書き直して提出し、やっとの思いで一千万円の融資取り付けたこともあると、ご自身のエピソードを振り返られます。
だからこそ、ベンチャービジネスを起しやすい環境創り、そのエコシステム(生態系)の創造が重要であると考えられ、「浜松バレー構想」を実現するべく、人・モノ・金・情報が集まるコミュニティ創りを地道に進めています。
米国のシリコンバレーの様な街創りを目指す地方自治体は数あれど、鈴木康友市長の様に明確なリーダーシップの基に目標に向かって活動を続ける地域は少ないのではないでしょうか。鈴木康友市長は、市民の幸福に貢献した国内的・国際的な市長を称える「世界市長賞(World Mayor)」に2016年に東アジアで唯一ノミネートされました。
鈴木康友市長のリーダーシップの下、今後浜松市はどのような発展を遂げるのか。浜松市の未来に期待したい。
(Text: 秋間建人)