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合言葉はみんなでつくろう! 親戚も友人も恩師も誰もが仲間になるハレの日。TEAMクラプトン山口晶・みどり夫妻が提案するDIYウエディングの幸福感!

結婚式への思いは、人それぞれにいろいろとあることでしょう。あなたの場合はどうですか?式を挙げたい憧れの場所はありますか? 呼びたい人はどんな人たちですか?

一方で、結婚式はしなくてもいいという人も増え、式そのものへのこだわりがなくなる傾向もあります。そのように多様化するなかで、ホテルや結婚式場を使わずにアウトドアや手作りでつくりあげる結婚式を選ぶ人も増えています。今回ご紹介するのは「みんなでつくる」ことを大切にした「DIYウエディング」。手作り感200%な式の様子を神戸から!

「DIYウエディング」を行ったのは、山口晶さん・みどりさん夫妻。お二人が式にふさわしいと選んだ会場は、みなさんの住む街にもあるあの場所。そう、公園です。

2017年11月4日に、街の中心である三宮にも港にも近い場所に位置する「みなとの森公園」を会場にして結婚式がとり行われました。この公園は、「神戸のまちが震災の復興から発展へと前進する姿を木々の生長とともに見つめていく」場所としてつくられ、利用する市民が自ら公園清掃をするなど、市民と公園のありようが、お二人の描く「みんなでつくる」というイメージと重なったのかもしれません。

公共の場である公園を、プライベートな結婚式に利用することについては、行政に相談しながら進められ、今回は「公共施設の可能性を探る社会実験」として、神戸市との協働のもと開催。式には、総勢200名近い方々が会場設営&撤収も含めて参列しました。

街の中心からほど近い「みなとの森公園」。会場の完成は果たしてどんなものに。

新郎新婦の山口晶さん、みどりさん

山口晶(やまぐち・あきら)
1988年生まれ おとめ座
小学校卒業と同時に単独で渡英し、マンチェスター大学にて建築を学ぶ。
手塚建築研究所にてインターン中に地震が起き、進学をやめ東北へ。そこで、コミュニティ系の魅力にはまる。
studio-Lインターンを経て、高断熱高気密住宅の松尾設計室にて3年間修業。
実務設計中にディテール図面を書きすぎ、造る欲動にかられ週末の活動としてTEAMクラプトンが勃発。現在はクラプトン一筋となり施主巻き込み型の設計施工を行う。
山口みどり(やまぐち・みどり)

1985年生まれ しし座
高校卒業後、1年間アメリカで建築を学び、帰国後に京都の専門学校にてインテリアを学ぶ。住宅設計事務所で働きながら、studio-Lでまちづくりやコミュニティづくり、NPO活動などのプロジェクトに携わる。その後、北摂地域のフリーペーパーを作成する会社での営業を経て、市役所の嘱託職員として地域の人と一緒につくる新規公園造成事業に携わりながら、クラプトンの仕事を兼業している。
現在は0歳児の育児に奮闘しながら、クラプトンのプロジェクトのみを緩やかに行う。

本気の「みんなでつくる」から生まれる、「ごちゃ混ぜ」という価値

 
二人がこだわった「みんなでつくる」DIYウエディングが、どれくらいDIYだったかというと、晶さんの母と姉妹がスウィーツチームを担当していたり、叔父一家が会場作りに参戦していたり、といった具合でした。招待したゲストも10年ぶりに連絡した学生時代の友人や、幼い頃のご近所のご夫婦、二人の幼い頃を知る人から成人してからの恩師らに至るまで、一切分け隔てなくウエディング会場の制作チームに振り分けられ、ともに会場準備に駆けずり回っていました。

初めましてのみんなで、それぞれができることを持ち寄ります。

当日は、作業時間がスタートする頃に雨が降り始めたり、海に近い立地のため風が強かったりと、作業は当初から予定通りとはなりませんでした。たまたま同じ作業班に居合わせた招待ゲストは、アウトドアの作業に慣れていない人が多く、戸惑いやハプニングにも見舞われながらも、2時間後には予定通りに作業を終えた喜びを共有していたのです。

想像してみてください。「両家の親・親族は花束贈呈」、「恩師や上司が乾杯の挨拶」、「友人にはスピーチや余興」のように、それぞれの「役割」が与えられる結婚式という場で、役割の垣根を越え、純粋に新郎新婦のために協働し、喜びを分かち合えることを。

いつの間にか、寒さも忘れ必死で設営。

ただ、みんなでつくる結婚式のスタイルは、「新しい」発想ではありません。かつて、村や集落では当たり前に行われていたことです。家が挙式の会場となり、地域の人たちが総動員で場を作り上げていました。まさに、DIYの原点といえるでしょう。みんなでつくるDIYウエディングの「新しさ」とは、役割の垣根を超えた協働によってつながる新たな縁、といえるかもしれません。
 
また、公園は、街の誰もが訪れ利用できる余白の場でありながらも、公共性ゆえにプライベートなことの持ち込みの場ではないというのが、これまでの公園利用だったかもしれません。

DIYウエディングという社会実験を通じて得られたことは、単なる式場としての活用だけでなく、参加者やその場に居合わせた公園利用者にも新たな公園利用の可能性を提案できたということです。使用料を払ったり、広場を使ったりする以外のことで、もっと多様な公園との接点が生まれれば、「街への関心にもつながっていくのではないか」とみどりさんは言います。

完成を思い描きながら作業がどんどん進められていきます。

DIYの原点は受発注を超えた「巻き込み型」の対等な関係

二人の生き方、働き方のベースとなっている「みんなでつくる」には、一体どんな意味が込められているのでしょうか。二人とこの結婚式の総監督を担当した白石雄大さん、アートディレクター兼MCを担当した野崎将太さんも共同経営者となって、設計・施工・デザインを手がける「TEAMクラプトン」(以下、クラプトン)の取り組みからその意味を紐解いてみます。

左から、山口晶さん、白石雄大さん、山口みどりさん、野崎将太さん

クラプトンの特色は、「契約書がない関係づくり」という言葉に表されています。それは決して、クライアントと馴れ合いの関係を意味しません。むしろ徹底した「対等な関係」による生涯の付き合いをも見据えた仲間という関係性を目指したものです。

例えば、こんな感じです。クラプトンでは、材料相談にも応じながら、どこにいくらという予算配分を提案しますが、細かな設計図を作成することに時間をかけません。その代わり、クライアントと意思疎通できるスケッチを作成します。制作作業に必要な人手は、クライアントにも集めてもらいます。もちろん、集まった人たちのほとんどが大工作業の素人。メンバーが、工具の使い方を指導しながら作業を進めるというスタイルです。

徹底したクライアントとの関係作りは、その場に応じた作業スタイルからも見受けられます。

限られた予算のなかでも実現させたいという希望と自分たちでできる部分は手を入れたい、というクライアントの思いから生まれたのが「宿題方式」。完成予定までの日数を逆算し、週末に取りかかるべき作業のために、「ここまでをやっておいてね!」と託すという、まさに宿題。クライアントに宿題を出すとは驚きです。このことからもクラプトンがつくる対等な関係性がうかがえます。

ゲストハウス萬家(MAYA)の作業風景。塗り方の指導を受けて、一枚一枚の板の側面を丁寧に塗っていきます。

萬家(MAYA)を訪れたゲストの、忘れがたい旅の思い出の一つに。

また、神戸市灘区のゲストハウス「萬家(MAYA)」の案件では、近所・知人・地域の方々を総動員した作業となったため、お店の看板ともなる1F共用スペースには、当初予定にはなかった「人手があるからこそできるデザイン」のスパイラルシートを提案。これは、制作している段階からたくさんの人が集ってくるオーナーと地域との関わりの広さや、ゲストハウスという場の今後をイメージして出来上がったデザイン案でした。

こうしてオープン前からファンを増やしたゲストハウス「萬家(MAYA)」のオープニングパーティは大変にぎわったそうです。

クラプトンでは、一つとして同じ制作工程はありません。その場をどのように人が関わる場にしていきたいか、というクライアントの思いや本気度によって作業の人手が変わってくるからです。クラプトンの現場が大切にする「みんなでつくる」ことの魅力は、対等な関係性に根ざしたお互いの本気によって、想像を超えた成果が生まれる瞬間がある、ということなのかもしれません。

言葉で伝えきれないなら、一緒に体験しよう!

クラプトンで育てた「みんなでつくる」価値。でも結婚式の参加費を払いながら、さらに会場設営にも参加を提案するDIYウエディングに、どれほどのゲストが共感してもらえるのか、お二人にも不安がなかったわけではありません。

一般的に、結婚式といえば、親戚も集い、双方の親の意向もあるなど、自分たちの思いだけでは形にできない、と考えると思います。親戚関係と友人関係を分けて別の日取りで行う妥協案を考えるのは、もしかしたら親と子の双方に無理のない一番の方法なのかもしれません。

みなさんは、お二人のご両親は、きっとご理解のある方に違いない、と思うかもしれません。ところが、話を伺ってみると、晶さんのご両親は当初は猛反対だったそうです。みどりさんのご両親も反対こそしないものの、みんなでつくるウエディングの意図が理解できない様子だったそうです。

言葉で伝わりにくい価値だからこそ、その場にあるもので、その場を生かして、その場にいる人たちと実際に体験してもらうことで「みんなでつくる楽しみや、生み出して出来上がった驚きと喜びを共有したい」というのが、不安にも勝る二人の強い思いでした。

なんと、新婦登場はお父様の後ろに乗って自転車で!!

すっかり陽も落ちた会場は、街中に幻想的な空間を生み出しました。

ウエディング当日には、みどりさんのご両親が会場を楽しみ、準備や後片付けにも参加する姿を見て、新郎新婦ともに、「本当に一緒に参列してもらってよかった」と嬉しい驚きを感じたそうです。参列者の方々からは、ウエディングの参列感想とは思えない、「いい経験ができた!」というものだったそうです。

さて、山口晶・みどり夫妻の「みんなでつくるDIYウエディング@公園」は、いかがだったでしょう?

「公」と「私」、「発注者」と「受注者」、「主催者」と「ゲスト」など、当たり前だと思い込んでいる線引きや役割の枠組みを取り払ってみることで、これまでになかった成果や価値が生まれる「場」が結婚式に限らず、他にもたくさんあるのではないでしょうか。

成人式や卒業式、あるいはもっと小さなまちのイベントなども、「つくるところからみんなで一緒にやってみようよ!」と呼びかけてみてはいかがでしょうか。
その小さな呼びかけが、とっても大きな幸せを運んでくるかもしれません。

(Text: 森恭子)
(撮影: 片岡杏子)

森恭子(もり・きょうこ)
島根県浜田市生まれ。会社勤務を経て、神戸大学の学生ボランティア支援室スタッフに入職。現在は神戸市灘区まちづくり課の委託事業である地域活動支援コーディネーターとして活動。(3期目)大学職員時代には、「はたらくことは、生きること。」をコンセプトに学生が企業就職以外の職業選択と触れるためのトークイベント「なりわいカフェ」を企画運営。また16年4月~17年3月の1年を泉北ニュータウンの団地に転居し集会所を使ったコミュニティスペース「茶山台としょかん」を企画運営した。「green drinks 浜田」オーガナイザー。
この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、こちらをご覧ください。