「家って、そもそも何のためにあるんだろう」
雨風をしのいだり、暑さや寒さから身を守るため? 心惹かれるのは、機能や利便性だけではないはずです。そこには、「もっと自分らしく暮らすにはどうしたらいいか」という思いがあってもいいのではないでしょうか。
いま社会では、「お金を払って誰かにやってもらうのではなく自らやってみる」といったDIY(Do It Yourself)精神で、自分の考えやあり方を実現していく人が増えています。自分一人ではなく、誰かと一緒につくる楽しさに気づいたという人も。
住まいも「選ぶだけでなく自分の手でつくりたい」と思ったとき、手を動かしてみる楽しさから出発していけたら、なんだかワクワクしてきませんか?
今回は「共につくる」ことをテーマに、住む人が参加することで楽しめる家づくりをしてきた、「中田製作所」 の中田裕一さん、理恵さんご夫妻にお話を伺いました。二人の活動背景は、これからの生き方や関係性をあたためるヒントになるかもしれません。
それには、「エコハウスに興味がある」「自分の家をDIYしたい!」など、自分の暮らしをつくる試みをしてみたい方にとっても、手を動かす前に知っておきたくなる二人ならではの心がけがありました。
栃木県出身、施工会社を経て2010年に「中田製作所」を設立。主な活動に、2011年から5名の建築設計仲間とスタートした、デザインから工事の全てを自分たちの手で行う「Handihouse Project」がある。現在は、逗子の住まい「ヤマノネハウス」を拠点に、様々なアイデアを実践する日々を送り、住まい手と一緒に住まいづくりを行なっている
神奈川県出身、組織設計事務所勤務を経て2013年から中田製作所、Handihouse Projectに参画。自分たちの結婚式を自らの手で建てた場所で行うため、海の家SeasideLivingをつくる。その後も毎年夏になると海の家を立ち上げ運営中。グリーンズの学校「エコハウスDIYクラス」の講師を務める。住みたい暮らしに近づきやすくなるサポートを行うなど、エコハウスの提案を実施中
住まいは誰のためにある?
中田製作所は、普段は建築の設計施工をしています。二人が仕事だけでなく毎日の暮らしからDIYを実践することになったのは、建築業界で会社員として働いていた裕一さんがサラリーマンを辞めたときのことでした。
2010年10月、住まいを誰かと一緒につくることになったのは、理恵さんの祖母から譲り受けた築45年の公団分譲団地の一室。その当時、時間があるからとセルフリノベーションをはじめてみました。
押し入れや襖を取り払い、古い畳をはがし、押し入れを壊す。壁や天井の塗装や、フローリングを1枚1枚丁寧に貼るなど、施工業者にお願いするのではなく、全て自分たちでやってみました。このときの体験から、自分でつくることは楽しい!と心から思ったそう。週末になると、理恵さんや友人たちも一緒になって手を動かしました。
裕一さん 「つくる」という過程は絶対にあるんだから、お客さんがそこに参加できないのはもったいないです。ハウスメーカーや、既にできている住宅を購入することもできる。でも、自分でつくりたい、考えたいと思ったことができると楽しみが増えます。
裕一さんと理恵さんは、自分で手をかけて居場所をつくることの楽しさを通じて、「もっと快適に、もっと自分らしく住まえる家」が目標になりました。
以来、完成された家に住むだけでなく、一緒につくろうと呼びかけてきました。家がつくられていく過程を通じていろいろなことを考えてもらう。そういう機会をつくるために続けてきたのが、住む人・関わる人が家づくりに参加するDIYでした。
2011年から参画した、”妄想から打ち上げまで”を合言葉に住まいをDIYする「Handihouse Project(ハンディハウスプロジェクト)」もその一つ。家づくりの全てを住む人と一緒にやってみよう!と活動を重ねてきました。
さらに2013年6月には、理恵さんの「海辺で結婚式を挙げたい!」という願いから、逗子海岸に海の家を建て、挙式後は「SeasideLiving(シーサイドリビング)」として営んでもいます。実は中田夫妻以外、全員素人で手づくりしました。2017年に5年目の夏を終え、この海の家を営むことも今では暮らしの一部です。
自分らしく過ごせる家へ
二人がたどり着いたのは、プロとして「ただつくる」のではなく、住む人や建物に関わる人に愛着を持ってもらえるつくり方。
その後も、神奈川県逗子市の自宅をエコハウスDIYの実験の場として断熱するなど、暮らしも働きも自分でつくり続けてきました。そんな二人がいま、大切にしていることは何か聞いてみたい! と思います。
ここで、少しみなさんに思い出してもらいたいのですが、お布団に入ってほどよい熱が伝わっていると、ぬくぬくとあたたかいですよね。そう、あの感じです。断熱とは、お布団に包まれたときの隙間がない状態をイメージしてみてください。
裕一さん 家を買うときは意識してないけれど、住み始めてから気づくことって多いですよね。隙間風もその一つ。僕らも古い家がこれほどまでに寒いとは思わなかったんですよ(笑)
理恵さん 中古の家には寒さがセットでくっついてくる。それと同時に、元の形があるからDIYに入りやすい魅力もあります。壁を塗ったり床を貼ったり。だから、せっかく自分達で手をかけて直すのなら、少しでもあたたかくしたいですよね。
中田夫妻も中古の家(現・ヤマノネハウス)に住みはじめた初冬。その寒さに驚き、自分たちの家で断熱を実験することに決め、その場所に合った方法を考えました。
たとえば、窓側の冷気を緩和する方法の一つとしてオススメなのが断熱障子。障子紙を両面に貼る「太鼓張り」にして、中に空気層をつくります。すると空気の流動を抑えられて、なるべく室内に冷気が来ないようにできる方法です。
裕一さん 空気が動かない状態をつくってあげると、断熱効果が高まります。ポリカーボネートという、中空になっている素材をはめ込んで「太鼓張り」にするのもオススメです。断熱障子は、古民家だけでなく普通のお家でも取り入れやすく施工にかかる材料も安いんですよ。
理恵さん 一つ解決策を見つけると、他の人にシェアできます。それは、寸法など日本の家の基本的な規格がしっかり整っているから。日本の家はみんなでシェアすることに向いているって面白いですよね。あとは、畳の下に気密シートを敷くのも、一番簡単な隙間を塞ぐ方法です。モヘアテープで扉の隙間を埋めるのもむずかしくありません。
住まいを環境から考える
裕一さんは当初、家をあたたかくするだけなら全く興味がないと思っていたそう。そんな思いを一気に変えたのは、断熱DIYを実践してきた理恵さんの存在でした。そもそも、どんなきっかけで断熱をするようになったのでしょう?
理恵さん 2011年3月11日に東日本大震災が起こりました。わたしが設計事務所で働いていた当時、被災者の方々は初めての冬を仮設住宅で迎えて、twitterに「寒くてやばい」という声を多数あげていたんです。そのとき、建築屋さんとして何かできることは無いかなって。
とはいえ、仮設住宅には何年住むかわかりません。被災者の家計も大変な時に、一時的な防寒対策で莫大なお金を使うというのは現実的ではないと考えた理恵さん。住む人が簡単に自分たちで直せる断熱方法を考えよう!と始めたのが「仮設住宅ソクセキ断熱/納涼プロジェクト」でした。
理恵さん 同じ会社にいた若手の仲間たちでチームを組み、建築、都市計画、環境、設備の専門家と一緒に考えました。プレハブ住宅は素材が鉄板なので、壁が全て冷たいんですよ。だから、少しでも軽減するためにコルクシートを貼る。それだけで表面温度が7度ぐらい変わりました。
実測した実際の効果と一緒に、実用的な仮設住宅環境改善のアイデアを、フリーペーパーにして夏10編と冬10編を発行し紹介しました。
この経験がきっかけになり、理恵さんは熱環境から考えて即席で簡単かつローコストに自分たちで直すことに興味を持ちました。そこから、永住的に住む家を自分たちの手でつくることに取り組みながら、中古住宅にも絶対に防寒対策が必要になると思っていったそう。
裕一さん ただし、エコハウスが一番! という訳では無くて、そこは選ぶ人のバランスを尊重します。いろんな価値観を大事にしたいから。それを、自分なりに今の暮らしにフィットさせていくほうが楽しいですよね。
理恵さん 家の中で、暑いところと寒いところがあると、あらゆる負担が大きくなると思います。体にとっても負担になるし、エネルギーを使いすぎる部屋も出てきます。断熱は、そこを整えてなるべく均衡にしてあげる。家の環境を整えることで、家中の温度差が生まれにくくなり、夏でも冬でも、住まいで安心して暮らしていけるんですよ。
実は、寒いところから暖かいところへ移動すると、血圧に急激な変化が起きます。2016年の消費者庁の公表資料によると、2015年に入浴中に亡くなった方の数は、4,804人にものぼりました。2004年と比較して、11年間で約1.7倍に増えている計算になります。
このうち、約9割が65歳以上の高齢者だと言われています。年間の事故数全体の約5割が、12月から2月に多く発生している傾向にあることから、冬場の入浴について注意喚起がされていました。(厚生労働省の人口動態統計による家庭浴槽での溺死者の推移・消費者庁の発表より)
冷暖房機を使えば、一時的に家を快適にすることはできます。しかし、それは根本的な改善にならないと理恵さんは言います。だから二人は「家の健やかな直し方」を伝え続けてきました。
そして、断熱はエネルギーに頼りすぎず家と長く一緒に暮らせる選択肢の一つ。わたしは二人にお話を伺って、住まいがわたしたちの体や、自然環境、エネルギーなどにもつながっていることがわかっていきました。
みんなが素敵な暮らし
実のところ、大切なのは断熱だけじゃありません。解体、断熱、仕上げ。この3つは1セットです。だから、実際に体験して、理解することが大切なんだとか。
裕一さん 自分でどこまでできるのか、どこからお願いするのかという判断を、今後は住む人がしていけるんだと思います。自分の暮らしに合わせて住まいを変えていけるような力を、みんなが身につけていくと、みんなが素敵な暮らし方をしていける。その方法の一つとして、断熱を考えてみてほしいですね。
これまでの経験を一人でも多くの人に伝えたいと話す裕一さん。二人は、夏すずしく冬あたたかい家をみんなでつくろう! と、greenz.jpで開講中のグリーンズの学校「エコハウスDIYクラス」の講師も務めています。
理恵さん 壁を解体したり、つくったり、床を張り替えるというのは、一緒に体験してからじゃないと中々ハードルが下がらないと感じています。きっとみんなでやれば、重い腰もあがる。グリーンズの学校「エコハウスDIYクラス」の参加者のみなさんの感想からも、そのことを感じています。
でも、一番大事なのは、「仲間ができること」。世代もバラバラな中で同じような興味を持つ仲間とのつながりが生まれていくワークショップで体験すると、自分でもワークショップをしてみたくなります。実際に、みんなでDIYをする人が増えていきました。中には、人生観が変わったという人も。
理恵さん そんな様子を見ていて、断熱は「暖熱」なんじゃないかって思うようになりました。みんなでDIYをする。寒い部屋で集まって鍋をするのもいい。わたしたちにとっては赤ちゃんと一緒にいる暮らしは暖熱だなぁ。温かさには、体感温度もあって、熱に対する考え方が変わっていきました。
取材を通して中田さんは、「いまの暮らしからはじめていけます」と語りかけてくれました。それは、賃貸でも持ち家であっても。その思いが、自分らしくちょっと何かを加えてみたい人へ届きますように。
住まいは、わたしたちが身につける衣服のように簡単に脱ぎ着ができませんが、少しの工夫でもっと気持ちよく過ごせるはず。それは、自分を取りまく環境に対して敏感に生きることなのかもしれません。一人ひとりの考えが、エネルギーの使い方や消費の仕方とつながっているように。
自分の手で暮らしをつくりたいと思ったとき、これからどう生きるのかを出発点に考えてみると、きっと新しい住まいとのつきあい方が見つかるはずです。
(撮影: 服部希代野)
– INFORMATION –
第7期募集中! 中田理恵さんのほか、みかんぐみ・竹内昌義さん、つみき設計施工社・河野直さんなど多彩な講師&ファシリテーター陣と、一緒にエコハウスの知識やつくりかたなどを学びます。初心者にも楽しい内容です。
「エコハウスDIYクラス」 の詳細はこちら! https://peatix.com/event/331295/