目の前にいる人を幸せにすることに集中すれば、いい未来につながる。福岡・津屋崎へ移住した「non-standard world」高崎夫妻の話

人、物、情報。都会にはたくさんのものが行き交っています。洪水のような流れのなか、自分を見失わないように踏ん張りつづけ、ふと鏡を見ると険しい表情に……。東京や大阪など都心部で働いたことのある人は、きっとそんな経験があるのではないでしょうか。

今回「福岡移住カタログ」でお話を伺ったのは、2014年の3月に東京から福岡の津屋崎に移住した高崎健司さん・大浦麻衣さんご夫妻です。健司さんは東京で創業したウェブサイトの制作会社「non-standard world株式会社」の業務をリモートでこなし、麻衣さんはオンラインショップ「よりそう。」を運営しています。

ふたりが移住した津屋崎は、福岡市と北九州地のちょうど中間にある人口6万2000人ほどの都市・福津市の、とても小さなまちです。津屋崎に移住しようと考えたきっかけや、現在の仕事や暮らしについて伺いました。そこには、かつての自分たちに手紙を送るような思いがありました。

「non-standard world」と「よりそう。」とは

健司さんがCEOを勤める「non-standard world株式会社」は、企業規模やジャンルを問わず、さまざまなウェブサイトの制作を手がける会社です。アートディレクターを務める佐藤昭太さんと健司さんは大学時代からの友人。2009年にアートユニット「non-standard world」として活動を展開し、多数のウェブサイトを制作してきました。

2011年、より良いものづくりを目指して法人化をし、現在のスタイルになりました。「デザインとエンジニアリングで、心満たされる時間をともに作る」をコンセプトに掲げ、ショコラティエ・スポーツブランド・美術館の展覧会などといった幅広いジャンルのサイトをつくり続けています。

「non-standard world株式会社」のサイトより

麻衣さんが店長を務める「よりそう。」は、「心が柔らかくなる小さな時間」をテーマにしたオンラインショップです。「non-standard world株式会社」の事業のひとつとして、麻衣さんを中心に2016年から運営しています。

「よりそう。」ではオリジナル記事を連載し、商品や企画のことだけでなく、つくり手についても丁寧に紹介しています。オンラインでは伝えきれないリアルな場だからこそ味わえる体験を届けたいという思いから、2017年11月から完全予約制のビュッフェ形式のランチ「よりそう。食堂」もスタート。2018年6月までの期間限定で行っています。

「よりそう。」のサイトより

ワークライフハーモニーを意識した暮らしを実現

そんなふたりが津屋崎を知ったのは、麻衣さんが“自分探し”をしていた2009年頃のことでした。

麻衣さん とある記事で見つけた「ローカルアントレプレナースクール」という地域おこしプロジェクト主催のワークショップに参加するために、縁もゆかりもなかった津屋崎を訪れました。このときに参加していた女性と友達になり、1年に1・2回、繰り返し訪れるようになったのです。徐々に友人が増えていき、「ここにいると、自分がありたい姿でいられる」と感じた私は、「子育てをするなら、このまちがいい」と考えるようになりました。

自然に触れながら子育てができる環境に、ご夫婦は心惹かれたそうです

移住の最終的な決め手になったのは、福津市主催の「津屋崎子育て体験の旅」に家族で参加したこと。海、山、そして人の温かさに触れられる環境で子育てができると、ふたりは確信したといいます。

現在、健司さんも麻衣さんも、リモートでそれぞれの仕事を行なっています。健司さんの場合、東京在住の社員が客先に出向き、打ち合わせをしてきた内容に沿って、エンジニアとしてウェブ制作を中心とした業務を行なっています。

健司さん 東京で暮らしていた頃からリモートワークでしたし、ありがたいことに会社も毎年成長しています。東京での基盤を固めてからの移住でしたし、これまでの実績を見てホームページから新規の問い合わせがあるなど、営業活動をしなくても自然に成長を続けることができています。

移住を言い訳に事業がしぼんでいくのは嫌でしたし、ここでの暮らしを続けていくためにも、成長し続けていることはうれしいですね。移住しても成長し続けるロールモデルになろうと思って、日々頑張っています。

一方、麻衣さんは、上のお子さんが幼稚園に、下のお子さんが保育園に通っている間の数時間を軸に、早朝や寝かしつけた後の時間も活用して仕事をしています。

麻衣さん 夫とは同じ屋根の下で仕事をしていますが、仕事をするスペースは違います。相談ごとがあるときは、直接話すこともありますが、Slack(ビジネス向けチャットアプリケーション)を使うことも。10年近く仕事も暮らしも一緒にしていますので、自然と今のカタチになってきた感じですね。

保育園や幼稚園の送り迎えは健司さんの役割。子どもさんたちのお友達からは「○○くんのパパ」と呼ばれることも多いとか。

健司さん 私たちはワークライフバランスではなく、ワークライフハーモニーを意識した暮らしをしています。ここからここまでがワーク、ここからここまでがライフと分けるのではなく、1日の中にワークとライフが自然に調和できる働き方がいいと思っています。今は、それが割とできているなって感じるんですよね。

このまちの人たちに恩返しをしたいという気持ちで
町内会長に就任

津屋崎で暮らし始めて3年半が過ぎました。当初は3年という期限付きでの移住を予定していた健司さんと麻衣さんですが、想像していた以上に居心地がよく、もっとここで暮らし続けたいという想いが強くなっているといいます。

地域のお祭りに参加するなど、地域との結びつきも強くなっています

健司さん ここはとてもひらかれた田舎なんですよね。価値観の多様性を受け入れる土壌があると感じます。農家の方もいれば、山にこもって制作活動をしているアーティストの方もいる。無理なく共生しているという印象です。

都会のように隣に住む人が誰だかわからないという感じでもないですし、田舎町のように勝手に家に入ってくるという近さでもありません。他の地域から移り住んでこられた方も多くて、お互いに寛容というか。人が好きで、いろんな生き方を認めてくれる土地、多様な価値観と対話のあるまちというところが、僕らはとても好きなんですよね。

実は健司さん、今年から町内会の会長として活動しています。

健司さん 会長を引き受けるとなったとき、心配して何人か電話してきてくれました。でも、住んでいて、自分たちを自然なカタチで受け入れてくれたこのまちに恩返ししたいなという気持ちになったんです。

風光明媚な津屋崎の風景に心も穏やかになります

麻衣さん こちらに越してきた頃、半年ほど車を持っていませんでした。そんなとき、近所の方がいろいろ連れていってくれたんです。そういうことを自然にしてくださることがすごくありがたかったんですよね。

移住前も移住後も、ストレスやトラブルを感じることはないというふたり。地域とつながっていったことで、歩いて3分圏内に4つのクライアントができたそうです。

健司さん 自然な流れで仕事が生まれることが気持ち良いですね。仕事をバリバリするならやっぱり東京かなと思っていたけれど、津屋崎に移って事業が成長しています。いい仕事をして、クライアントが満足してくれれば、どこに住んでもいいんだということは、新たな発見でしたね。

麻衣さん 周りから「穏やかになったね」って言われるようになりました。東京は情報が多すぎて、今の自分を否定しながらスキルアップして、キラキラ輝く自分らしさを手に入れないといけないというプレッシャーを感じていたんですよね。以前は、もっと自分がこうしたい、もっとこうなりたいという気持ちが強かったけど、今は、人の役にたつことにつながればいいなという想いがベースにあります。

やさしい心と暮らしをつくるコンテンツを発信

ふたりの想いをカタチにしているものの1つが、麻衣さんを中心に運営しているオンラインショップ「よりそう。」です。忙しくてイライラしていたり、何かに傷ついたり、心がちょっとマイナスになった時に訪れるとゼロになるような、今の自分や周りの中に優しさをみつけるきっかけを、記事や商品を通して発信するように意識がけているといいます。

最近は「よりそう。」で本の出版プロジェクトを開始。さまざまな方法できっかけを届けています

健司さん 起業して実績を積み上げてきて満たされたこともあったけれど、津屋崎にきて無償の善意で人のために働いている人がたくさんいることを知って、結局はそっちの方が満たされるということに気づきました。

まずは自分が与えて、周りから与えてもらうというサイクルをつくりたいですね。僕たちが起業して活動しているいちばんの目的は、かつて自分たちもそうだったように、東京で“強い顔”をして生きている人たちの心を穏やかにすることです。

麻衣さん 「よりそう。」というお店は、誰かにとっての心が休まる居場所でありたいと考えています。これからは、居場所づくりという意味も込めて、「よりそう。食堂」のような、リアルな場でもお客様と関われるような場づくりに挑戦していきたいと思っています。


完全予約制のランチ「よりそう。食堂」、初回の様子を収めたムービー

東京で慌ただしく暮らし、“感じる心”が鈍くなっていたというふたりは、ここ津屋崎で鳥のさえずりを聞き、すぐ近くにある海を眺めることで心が穏やかになり、自分にも人にも優しくなれたといいます。そして、どこにいても、何をしていても、目の前にいる人を幸せにすることに集中すれば、いい未来につながることに気づきました。

当初は期限付きの予定だった津屋崎での暮らし。ふたりは状況が許す限り、ここ津屋崎を拠点として人々に“よりそう”活動を続けていくと話してくれました。

何かと戦うように“強い顔”になってしまっていた東京時代の自分たちに重ね、そんな人たちの心をほぐしたいと願う、健司さんと麻衣さん。ご夫婦とお子さんたちの満たされた笑顔を見て、いちばん自分らしい場所と方法を選んで暮らすことの大切さを感じさせられました。

皆さんにとって、自分自身が心穏やかに過ごせる場所、自分らしくいられる場所はどこですか? ちょっと立ち止まって、考えてみると次の一歩が見えてくるかもしれません。

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