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大子町にカフェ文化を花咲かせたい。東京で活躍していた音楽クリエイター櫻山啓三郎さんがカフェを開き、地域おこしに取り組んで感じた「地方で起業する魅力」とは。

みなさんは、起業するならどんな地域を選びたいですか?
「地方で起業」といっても、先駆けて取り組みを始めた地域から、おもしろそうなことが始まり出した地域まで、全国にはさまざまな場所があります。

茨城県北部にある大子町は、東京まで3時間と日帰りも可能な立地でありながら、地方で起業する場所としては“未開拓地”。これから地域で起業する人を応援しようとしている町なのです(詳しくは第一回目の連載へ)。

今年7月、そんな大子町にカフェ兼ゲストハウス「咲くカフェ」がオープンしました。

運営を手掛ける櫻山啓三郎さんは、大子町生まれの杉並育ち。DJ活動や作曲など音楽クリエイターとして仕事をしながら、東京で生活していましたが、2010年、音楽の活動拠点を大子町に移すと、地域おこしの団体「Green Green Project」を立ち上げ、FMだいごで「LEMSの里山彩りMusic!!」を担当、そして「咲くカフェ」をオープンさせるなど、地域に根ざした幅広い活動を展開しています。

田舎は何もないというけど、ここは豊かな自然が目の前にあって、町の人との関わりも身近だから、毎日感動したり、ワクワクできる。一日一日が充実していますよ。

と話す櫻山さんに、地方の魅力や起業の経緯をお聞きしました。

櫻山啓三郎(さくらやま・けいざぶろう)
カフェ兼ゲストハウス「咲くカフェ」オーナー。LEMSという名義で、音楽・デザインなどのフリークリエイターとして活動。国内外含め、インディーからメジャーへの音源提供のほか、ソロとしてもリリースを重ねる。

この土地だからできる里山の古民家カフェ兼ゲストハウス

青空の広がるゆったりとした住宅街に、さりげなく立てられている、咲くカフェの看板。その奥には、林に囲まれた一軒の古民家が佇んでいます。

一枚ずつ手で敷き詰めていったというレンガの通り道

駐車スペースからお店の扉の前まで続くレンガの道の横には、ハーブの自家菜園やもみじなどの樹木が立ち並び、もぐらが掘ったであろう形跡も。周りの雑木林からは蝉や鳥の鳴き声が聞こえてきて、里山の雰囲気をぐっと近くに感じられます。

営業時間は時計で表示。

カフェの中に入ると、木の素材感を感じられる居心地のいい空間が広がっていました。北欧テイストの店内を見回していると、視界に飛び込んできたのは囲炉裏。

両親が住んでいた築40年の家をリノベーションしました。囲炉裏は父が住んでいた時につくったものをそのまま残しています。

囲炉裏のあるスペース。梁や壁も残しています。

自家菜園の野菜や大子米、奥久慈シャモなど地元の食材を使って料理されるランチは、ボリュームも満点でした。

「奥久慈シャモのグリーンカレーset」は、奥久慈シャモでダシを取った大子版タイカレー。

「大子米塩むすび」。飾りのもみじはお店の庭から取ってきたもの。テイクアウトをして近くを散歩するのもいいですね。

カフェを抜けて奥へ進むと、二部屋のゲストハウスがあります。布団とテーブルがシンプルに置かれた部屋は静かで、旅の疲れを癒すには十分の環境です。

洗面所とトイレは共用、朝食はカフェで取ることができます。

国内の方はもちろん、海外からの旅行者にも好評で、オーストラリアやカナダ、フランス、中国などいろいろな国から泊まりに来てもらっているそうです。

東京の音楽クリエイターが大子町を目指したわけ

櫻山さんは東京で音楽クリエイターとして仕事をし、不自由のない生活をしていました。では、大子に戻ろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?

20年間東京で暮らして、ワクワクしたり、感動できる毎日を過ごしたいと考えるようになりました。それができるのが田舎だと思ったんです。

東京では、仕事の打ち合わせで外出し、自宅へ帰ってきたら作曲、時々友だちと会うために出掛けるという、景色の変わることのない日常の繰り返しだったそう。毎日の生活に疑問を感じていていました。

広い世の中を見た時に、自分が狭いところにいるような気がしていました。そんな時に離婚して、まだ幼稚園児の子どもを育てながら仕事をすることになって。

音楽の仕事は、データがあればどこでもやりとりができるし、東京でなくてもいい。ちょうど実家も空いていて。それなら、生まれ育った大好きな大子で、心に思い描く生活を手に入れたいと思ったんです。

大子で暮らしていると、一日一日、風景や自然の色も変わるし、その日の天気でさまざまな表情を見せる自然をすごく身近に肌で感じることができるんです。見るもの、出会うもの一つ一つに感動しますし、この感覚は東京にいた20年間では得られなかったものですね。

4月下旬は新緑で、大子の町全体が黄緑色に色づく一番好きな季節。本当に綺麗なんですよ。

意外にも、地域おこしには移住してきてから興味を持ったと言います。

ここでは人との出会いや、町との関わりが身近に感じられます。町が小さいからこそ、町全体のことや、ここに住む人たちのことも考えるようになって、地域おこしへと興味が向いたんです。

音楽クリエイターと地域おこしの起業家

櫻山さんは大子町へ移住後、どうやって地域に溶け込み、地域おこしをするようになったのでしょうか。

商工会青年部や地域おこしの団体、子ども会など、関われるところには一通り関わらせてもらいましたね。積極的に自分から話しかけると、嫌な顔をする人はいないので、少しずつ顔を知ってもらいました。

こうして地域の人たちと交流しながら、町の活性化に積極的に取り組みたいと「Green Green Project」を立ち上げます。

町に住み始めて、大子にはもっと可能性があるのに、活かしきれていないなと感じることがあって、この状況を変えたいと思ったんです。大子の魅力や可能性を引き出せるようなプロジェクトに、共感してくれる仲間と一緒に取り組んでいます。

商工会といった地域の団体と連携することも多いんです。私たちが発想やデザインを提案したり、逆に手伝ってもらうこともありますし。地域を盛り上げるプロジェクトを一緒につくることもあります。

地域おこしを通して信頼関係を築きながら、声を掛けてもらって始めたのが、FMだいごのラジオ番組「LEMSの里山彩りMusic!!」。「咲くカフェ」の2Fで収録しているのだとか。

FMだいごの運営母体「NPO法人 まちの研究室」の局長から、お誘いを受けたのがきっかけです。もともとラジオをやってみたいと思っていたものあったので、ぜひ!と。

音楽の制作現場を公開して曲をつくってしまう企画は好評でした。

また、地元のお土産ものを製造販売する会社「さくら工房」と「咲くカフェ」がコラボしたオンラインショップ「森のクレソン」の企画・開発・販売も手掛けます。

奥久慈茶、とちおとめ、かぼちゃ、クレソンといった大子町の素材を活かした生チョコは、今では銀座にある県のサテライトショップ「茨城マルシェ」や通販カタログ「Felissimo(フェリシモ)」で取り扱われるなど、大子町の代表的な商品として知られるようになっています。

コーヒーに添えてあるのは、大子産かぼちゃの生チョコ。プレート皿はリノベーションで出た廃材に手を加えたのだそう。

地域おこしを軸に新しいことを次々と始めてきた櫻山さんですが、活動する上での秘訣は何なのでしょうか。

やっぱり何か活動をするにしても、実績をきちんとつくって認めてもらえるように努力しています。例えば、チラシのデザインをしたら評判が良くて、自分のことを知ってもらうきっかけになったり。デザインを気に入ってくれた方から新しい依頼を受けたこともありますし、次に繋がりますよね。

大子町にカフェ文化が花咲くように

2011年、「Green Green Project」の一つとして、櫻山さんは「咲くカフェ」の前身となる、「咲くカフェプロジェクト」を立ち上げます。

大子町にカフェ文化が“花咲く”ようにという思いを込めています。それぞれのお店がこだわりや付加価値を盛り込み、売っている商品だけではなくて、それ以外の空間やアイテム、さらにそこで過ごす時間も価値のある商品として提供する文化を大子なりの形で広めていきたいと思っています。こうした価値観や運営手法は、カフェ以外の個人商店でも取り入れることができるはずです。

都会にはない立地や食などここにしかない魅力と、都会で人気のお洒落な店に負けないようなメニューや空間、音楽、デザインなどが合わさった時に、この町を代表する最強のお店ができるんじゃないかと思うんです。地元の人はもちろん、町の外からもたくさんの人にこの町に訪れてもらいたいですね。

こうした思いを抱きながら櫻山さんは、2012年、地域の活性化のために、「宮田邸」という築150年の古民家を活用した、古民家イタリアンレストランの期間限定のオープンにスタッフの一人として関わった後、「宮田邸 咲くカフェ」として続けていきたいと手を挙げました。

一回で終わらせてしまうのは、もったいない。続けていくことが大事だと思ったんです。そんな時ちょうど、やってみない? と声を掛けていただいて、カフェという形で続けていくことにしました。

夜の「宮田邸 咲くカフェ」

宮田邸に関わったたくさんの人たちの思いを受け継ぎ、年に3回、時期を限定してオープンする形で始めた「咲くカフェ 宮田邸」。「雛祭り」「ビアガーデン」「秋カフェ」「ワインの夜」など、季節に合わせてテーマ立てした営業は、次第に広まり、バスツアーが組まれるまでになります。

そして、4年間の運営を経て、「宮田邸 咲くカフェ」ではできなかった通年営業のできる店舗を構えようと、今年7月にカフェ兼ゲストハウスの「咲くカフェ」をオープンしました。

ウッドデッキは櫻山さんのDIY。

築40年の建物だからこそ、古いところは隠さず、見せる店づくりをしています。本来は大工さんが板で隠すようなところも、あえて板は張らずに見せたりと、地方にある築数十年の古い建物を使うからこそ、リアリティのある店づくりができるんです。都会でビル1Fのテナントを借りてつくるのとは違った店づくりができたと思います。

櫻山さんはご実家の建物を改装されましたが、大子町には使われていない空き家がいくつもあります。町役場に相談すると紹介してくれるので、そういった地域資源を上手に利用して起業するのもいいですね。

店内に置かれていたリノベーション前後の写真。上の写真は、櫻山さんが3才の時に同じ部屋で撮影したもの。

こうしたリアリティのある、里山の雰囲気を色濃く残した咲くカフェの雰囲気に惹かれて、大子町にやってくるお客様もいるのだとか。

宿泊するまで大子のことを知らなかったお客さまが、宿泊をきっかけに名所の袋田の滝などを観光して帰ってくれたこともありました。このお店を通して、外から多くの人を呼び込むことができたらおもしろいなと思っています。

宿泊する人には、ぜひこの近くを歩いてほしいと思っているんです。田舎だと車で観光スポットを移動しがちですが、歩いていける距離に商店街もあるので、夕飯を食べるのに美味しいお店や、ぶらぶらと歩く楽しさも提案しています。

カフェやゲストハウスの運営、つくった料理をお客様に提供することも、櫻山さんにとって初めての挑戦です。「素人料理ですけどね」と謙遜を交えながら、次のようにも話してくれました。

作曲の時に無意識に空間を描いているように、例えば味つけから盛りつけまでのデザインを思い描き、表現するという過程は料理でも同じだと思っています。

自分の中に取り込んだものを、消化して、表現するという、“インプット・アウトプット”の過程は、とても労力がいることですが、大切にしている生き方でもあるんです。

櫻山さんにとって地方で起業することは、生き方でもあるのだと思いました。

活動の先にはいつも、町の活性化を見据えたい

移住して7年。地域に根ざしたさまざまな活動をしてきた櫻山さんに、地方で起業する魅力を聞きました。

人が身近ですよね。注文やお会計の時に交わす言葉一つにしても、店員とお客さんという単なる関係ではなくて、親しみを感じますね。

こうした人や町との関わりが、一日一日を充実して生きている、ワクワクしながら生きているという実感に繋がっています。都会では得られなかったものです。ここではやることも、やりたいことも増えて、なにげに移住する前より忙しいですね。

そう言って充実した表情を浮かべる櫻山さん。人や町とのしっかりした関係を築いたからこそ、活動の先にはいつも大子町の活性化を見据えています。

大子は紅葉が綺麗な町なんです。大子の商店街の近くにも「もみじ寺」と呼ばれる紅葉で有名な永源寺というお寺があって。今、もみじに溢れる商店街を目指そうと、「咲くカフェ」でも、6本のもみじを植えました。

最後に、大子町で移住や起業を考えている人にアドバイスをお聞きすると、次のように話してくれました。

大子は人の輪に入りにくいと聞くこともありますが、自分から入っていくと、快く受け入れてくれます。地元のみなさんは様子をうかがっているので、自分からノックをすると扉を開けてくれますよ。

取材で伺った時、「咲くカフェ」店内に置かれていたイベントチラシ「奥久慈茶カフェ巡り」や「奥久慈大子まつり 食×音楽×雑貨」(開催は終了しました)から、とても楽しそうで活発な町だなという印象を受けました。

地方での起業の機会をうかがっているみなさん、一度大子町を訪れてみませんか?何か手がかりが見つかるかもしれません。

(撮影: 吉田貴洋)