「10年ほど前に『チェンジメーカー』という言葉が広がりましたが、本日登壇された方は『ソーシャルデザイナー』という言葉がしっくりくる方々でしたね」。
全てのプレゼンターの発表を終えて、「一般財団法人CSOネットワーク」事務局長・理事の黒田かをりさんが言いました。
社会に構造的な変革を起こす”チェンジメーカー”は、すごくかっこいいけれど、どこか特別な存在だったり、カリスマだったり、なんだか自分とは遠い存在に思えてしまう。私はメディアに出ているあの人みたいにキラキラと輝く選ばれし人ではないし、これからもなれそうにないな……。
社会貢献に関心があって、greenz.jpを読んでいただいている方なら、きっと一度は”チェンジメーカー”になる自分を夢見たことがあるのではないでしょうか。
私は「ソーシャルデザインフォーラム2017(以下、SDフォーラム)」に参加する前、プレゼンターはどんな人たちかなと楽しみな反面、今の自分からは遠い存在かもしれないと、どこか心の中で思っていました。
だけど、「SDフォーラム」でプレゼンターの話を聞くうちに、「私も何かできるかも!」と少しずつ勇気が湧いてきたのです。
きっとそれは、登壇されたソーシャルデザイナーのみなさんが、良い意味で普通だったから。目の前の誰かの「困った」を解決するために、とても尊い活動をしているけれど、かっこ悪い姿も隠さずに見せてくれる。
自分の目の前で、自分の住む街で起こった課題に対して、しっかり地に足をつけて取り組むソーシャルデザイナーたちの姿勢に、気付けば私は心から共感し、活動に巻き込まれたくなっていました。
2013年春にスタートした、大阪ガスとgreenz.jpのパートナー企画「マイプロSHOWCASE関西編」は今年で5年目を迎え、これまでに関西で活躍する100組以上のソーシャルデザイナーをご紹介してきました。また、マイ大阪ガスのポイントを使ってソーシャルデザイナーに寄付を募るサービス「Social Design+」を通じて、そのうち約30組に約1000万円の寄付を大阪ガスグループ”小さな灯”運動から渡してきました。
ここからは大阪ガスグループの社員のみなさん、そしてソーシャルデザイナーとして活動するプレゼンターの方々と過ごした、約3時間のSDフォーラムの様子をお届けします。
大切な人たちの未来のために
支え合える関係性をつくろう
SDフォーラムは前後半の二部制で行われ、一部では大阪ガス社員による社会貢献活動、そしてソーシャルデザインの取り組み事例が発表されました。
まずは、大阪ガス副社長の松坂英孝さんのあいさつからスタート! 少子高齢化、電力自由化など刻々と変化する社会情勢の中、大阪ガスとしてどのようなあり方をめざすべきか? フォーラムの中で共に考えていきたいというメッセージが伝えられました。
松坂さん これからの時代、お客さまから選ばれ続ける企業になるために、地域社会への貢献がますます重要になってくるのではないでしょうか。大阪ガスとしても社会課題に対して行政、NPO、企業、市民のみなさんと一緒に取り組んで参りたいと思います。
そして、「地域社会のために自分ができることをぜひ考えてほしい」という松坂さんからの投げかけの後に登場したのは、大阪ガス近畿圏部のソーシャルデザインチームで働く、谷島雄一郎さんです。谷島さんは大阪ガスの社員でありながら、「ダカラコソクリエイト」という団体を立ち上げ、がん経験を新しい価値に変えて社会に活かす活動をしています。
活動のきっかけは、2015年に発覚した自身のがん。谷島さんは突如として、バリバリ働いて家族や社会を”支える”側から、がん患者として”支えられる”側になってしまいます。自分の価値を見失い、絶望の淵にあった谷島さんの目に飛び込んできたのが、当時3歳だった娘さんが撮影した一枚の写真でした。
谷島さん 足元に咲いている小さな花の写真。これは地面から90㎝の視界を持つ娘だからこそ見えた景色でした。その時に気付いたんです。
がんになった私だからこそ、見える景色がある。この経験を、誰かを幸せにする力に変えられるんじゃないだろうか。
がんになっても”らしく”生きられる社会をつくりたいと、谷島さんは離れて暮らす家族がコミュニケーションできる遠隔操作の絵本プログラムや、がん経験者が嬉しかった・支えられた言葉を集めたLINEスタンプを製作。「楽しさ」と「ワクワク」をキーワードに、がん患者と社会の距離を縮めようと積極的に取り組んでしています。
谷島さん がん患者から社会に対して価値を提供し、社会もがん患者に価値を提供することで、する・されるの一方的な関係から、パートナーとして双方向の関係性がつくれるのではないかと考えています。
続いて登壇したのは、「一般財団法人CSOネットワーク」事務局長・理事の黒田かをりさんです。黒田さんは、2015年9月に国連総会にて採択された「我々の世界を変革する : 可能な開発のための2030アジェンダ」と、その指針となる持続可能な開発目標(SDGs)に触れ、大阪ガスの事業と照らし合わせながら、世界的な社会貢献の動きが共有されました。
がん患者当事者として活動する谷島さんの話から、いっきに世界規模の話へ。その飛躍に少し戸惑いながら話を聞いていると、意外にも共通のキーワードが浮かび上がってきました。
黒田さん 21世紀に入り、地球1個分という限りある資源を改めて自覚し、その中でさまざまな活動を行おう、という考え方が主流になってきています。これからは支える・支えられるの関係ではなく、民間企業、行政などがセクターを超えて社会課題に取り組まなくてはならない時代です。
する・されるの関係から、双方向の関係性へ。規模の大小を問わず、さまざまな課題に取り組んでいく上で大切なあり方ではないだろうかと感じました。
黒田さん 三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)という言葉にあるように、日本の企業のDNAには社会貢献が組み込まれています。これからは、そこに「未来よし」を加えた四方よしにすることで、持続可能な未来をつくれるのではないでしょうか。大切な人たちが生きる未来のために何ができるのか、ぜひ考えてみてください。
力強い黒田さんの言葉を受け、私は小さな我が子の未来を思いました。きっと、会場にいた方々も私と同じように、大切な誰かの未来に思いを馳せた瞬間だったのではないかと思います。
世界規模の社会課題も、自分の足元から。その実感を持てたところで、第一部は終了。休憩を挟んで第二部では、関西で活躍するソーシャルデザイナーたちによるプレゼンテーションに移ります。
関西で活躍する
ソーシャルデザイナーたちの原点
一人目の登壇者は、「GIVE&GIFT」代表の中川悠さんです。中川さんは、2012年に「NPO法人チュラキューブ」を立ち上げ、さまざまな社会課題解決に向けて取り組んできました。「食品廃棄×冷凍ロールケーキ」「高齢者×お墓参り代行」など新しい発想で、障がい者の仕事づくりに奔走。2014年、都心型モデルの就労継続支援B型事業所「GIVE&GIFT」を設立し、大阪のオフィス街・淀屋橋で、ランチカフェを運営しています。
「GIVE&GIFT」のランチには、障がい者と管理栄養士と一緒につくるおいしくて健康的な料理が並びます。店頭には障がい者さんが立っていないのと、淀屋橋の街並みに馴染んだオシャレな外観も手伝って、お店を訪れる98%の人が障がい者施設と知らずに入ってくるのだとか!
「郊外でつくったものを郊外で売ろうとするのは難しい。都心でつくったものを都心で提供することができれば、障がい者の工賃を上げられるのではないか?」という中川さんの仮説から生まれた「GIVE&GIFT」。オープンから3年経った今では、全国平均の倍ほどの工賃を支払えるまでになったそうです。
「障がい者さんが頑張っているから食べに来てください」というアピールではなく、忠実なマーケティングのもと、オフィス街の飲食店として求められることを提供する。ランチに選ばれたのがたまたま障がい者施設だったというアプローチは、お客さんと働く障がい者双方にとってフェアなあり方だと感じます。
中川さん 働く障がい者さんも、仕事内容を聞いてワクワクしないと集まりません。都心のお店の方がより自分たちがつくった料理を食べてもらえているところを見られるので、やりがいにつながりますよね。
多くの障がい者施設が消費現場と離れた郊外にある中、都心をフィールドにして生産と消費を同じ場所で行い、身近なものを掛け合わせて、今までにない手法で課題解決に取り組む中川さん。そのプレゼンテーションは、実直なリサーチとアイデアの組み合わせ次第で、誰しもがソーシャルデザイナーとして活躍する道はあるのだと教えてくれます。
続いて登壇したのは、「NPO法人子どもデザイン教室」代表の和田隆博さんです。和田さんは、親と暮らせない子どもたちに幼少期から長期的に伴走することで自立心を育てる「子どもデザイン教室」、子どもたちとつくったキャラクターを企業に販売し、自立資金を備えていく「子どもデザイン基金」、そして養育里親として子どもたちと寝食を共にする「子どもサポートホーム」の3つ活動に取り組んでいます。
和田さん 41歳の時に糖尿病を患い、人生を振り返りました。過去40年は仕事、仕事で生きてきたんだから、これからの40年は人のために生きてみようと思ったんです。
もともと長年グラフィックデザイナーとして活躍していた和田さん。「デザインのための方法論は、生活や仕事など、あらゆる場面で役立つのに、なぜ子どもたちにその方法を教えないんだろう?」と考え、デザイン教室の立ち上げを決意します。
しかし、そのアイデアを意気揚々と親友に話したところ、こんな答えが返ってきたそうです。
和田さん 「お金持ちの子が、よりお金持ちになる方法を教えてどうするの? 世の中にはお金持ちになりたくてもなれない子がいる。考え直したら?」と。
親友のこの一言がきっかけで、たまたま自宅の近くにあった児童養護施設に和田さんは行くようになります。親のさまざまな事情で親と暮らせない子どもたちと関わる中で、和田さんはデザイン思考の必要性を確信していきました。
和田さん 小さい頃から自分の人生を設計できる「自分デザイナー」を育てれば、子どもたちが社会で直面する困難に立ち向かう有効な手段になるのではと考えています。
そして最後のプレゼンテーションをしたのが、「泉北レモンの街ストーリー」代表の苅谷由佳さんです。苅谷さんは、2015年より泉北をレモンの街にするため、個人のお宅の庭、幼稚園、学校、団地の敷地などにレモンの苗木を植樹してもらう活動をしています。
苅谷さん 泉北には特産品がない、お土産にするものがない、町を象徴するものがない。泉北の駅に降り立った時に、町を感じられるものがあったらいいなとずっと思っていました。
そんなある日、ふと苅谷さんの目に留まったのがレモンでした。
苅谷さん 自宅に35年前に植えられたレモンの木があり、2本で毎年300個以上の実がつくんです。地元の人に話を聞くと、泉北地域は瀬戸内式気候だから柑橘類が育ちやすいんだよって。
レモンは泉北の特産品になりうる可能性を十分に持っている。そう確信した苅谷さんは、泉北ニュータウンをレモンの香る街にしようと、レモンの植樹、レモンを使った特産品づくり、そして毎年3月に泉北レモンフェスタを開催するなど、少しずつ活動を広げています。
活動を初めて約2年。「泉北レモンプレート」は2017年9月現在、もともと泉北の自宅の庭に植えられていたレモン40本に加えて、新たに植えられた320本のレモンに付与されています。
レモンの育て方やレシピをSNSで共有したり、イベントを企画したり。レモンを通じたさまざまな活動から、泉北ニュータウンに住む人々のコミュニケーションは活発になり、コミュニティの再生も進みつつあります。
「自分が住む街に特産品がほしい」という個人的な思いから始まった苅谷さんの活動が、多くの人を巻き込み、オールドタウン化の進んでいた泉北ニュータウンが、再び生産の場に変化している。泉北に住んでいる苅谷さんだからこそできる地に足のついた活動に、尊敬の念を抱きつつ、「自分にもできるかも」と思わせてくれる事例でした。
社会貢献の種は、自分の足元にある
こうして約3時間に渡るSDフォーラムは、あっという間に終了しました。
半径3mにある課題を解決しようと一歩を踏み出す姿。
企業、行政、市民のみなさんと対等に、双方向にやりとりしながら活動する姿。目の前にある課題を「大変なんです。助けてください!」とアピールするのではなく、知的に、オシャレな形で発信し、共感を得ながら多くの人を巻き込んでいく姿。
悩みながらもチャレンジを続ける等身大のソーシャルデザイナーの姿を見て、私はたくさんの勇気をもらいました。
SDフォーラムを通して語られたのは、「今のままの自分にも社会課題解決のためにできることはある」そして「まずは一歩を踏み出そう」というメッセージです。もしこの記事を読んで、「私も何かやってみよう!」と思っていただけたなら、ぜひ今日からその一歩を踏み出してみませんか?
最後にプレゼンテーションをされた方々が応援してほしいと願っていることをまとめました。社会貢献の種は自分の足元にあります。気になったプロジェクトがあれば、各サイトをチェックしてくださいね。
・ダカラコソクリエイト 谷島雄一郎さん
https://www.dakarakosocreate.com/nyasukeandpajiro
・GIVE&GIFT 中川悠さん
http://give-and-gift.jp/
・NPO法人子どもデザイン教室 和田隆博さん
http://www.c0d0e.com/kodokyara-shop
・泉北レモンの街ストーリー 苅谷由佳さん
http://lemon-organic.net/join/
上記のサイトから直接気になる活動を応援するほか、ぜひ大阪ガスをお使いの方は、会員サイト『マイ大阪ガス』のポイントで、「Social Design+」に登場する関西のNPOを応援してくださいね。
https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-2/pc/social/