greenz people限定『生きる、を耕す本』が完成!今入会すると「いかしあうデザインカード」もプレゼント!→

greenz people ロゴ

「人生の居場所さがしに相乗りして!」 ママがプロボノをする「ママボノ」で気づいた、素の自分がやりたかったこと

連載「プロボノのはじめかた」第3回のテーマは、育休中・離職中の女性がプロボノの経験をする、その名も「ママボノ」です。

プロボノは、社会人が自らのスキルを活かして社会課題に取り組むボランティア。そして、特にこの「ママボノ」は、彼女らが仕事復帰に向けたウォーミングアップをも行えるというプログラムで、認定NPO法人サービスグラントが2013年からはじめた新しいプロボノのスタイルです。

今回は、育休中にこの「ママボノ」を体験して、「自分の人生が変わった」という鈴木いづみさんのインタビューをお届けします。

かくいう私も、育休中。フリーランスですので、仕事復帰のタイミングは自分で決められるというものの、1人目を出産して仕事再開を考えはじめた矢先に2人目を妊娠。今秋に出産をひかえています。仕事から遠ざかって2年が経過し、今後0歳と2歳の子育てをしながらの働くイメージがつかめず、モヤモヤを抱えている真っ最中。

久々に味わうインタビュー前の緊張感のなか、「ママボノ」に参加した女性のある言葉がよぎります。

ママボノは、普段よりもっと広い目で“母”であることを考えさせる場。

鈴木さんのインタビューを通じて、自分のモヤモヤのなかでなぜか私が惹きつけられた、これらの真意も探ってみたいと思います。

2ヶ月の赤ちゃん抱えて自己研鑽

鈴木さんが働くNTTデータシステム技術株式会社では、もともと研修の一環としてプロボノを取り入れてきました。普段同じ業界以外の人との関わりが少ないSE社員に、異業種交流を通じて視野を広げてもらうためにスタートしたそう。

人事部門でその研修に関わっていた鈴木さんは、プロボノに興味があったものの、1人目の育児中で時短の身のうえ、平日の夜や休日参加の多いそれにはトライできずにいました。

しかし2人目の育休に入る際、サービスグラントの「ママボノ」を知り、“平日昼間に子連れで参加可能、かつ期間限定”という条件も後押しして、2016年秋、満を持して挑戦することに。

鈴木いづみさん。2004年NTTデータシステム技術株式会社に入社、採用・人材育成業務担当。2014年より自社やグループ間のダイバーシティ推進にも取り組む。4歳と1歳の男の子の母親

一番大きかったのは、育休中の仲間がほしいということ。1人目の子を通じての保育園のママ友はいたけれど、2人目の子を通じての、それも違う地域のママ友がほしかったんです。

また自分の仕事のやり方が世の中に通用するのかどうか。他の業界の人がやると全然違うやり方になると思うので、この機会にその新しい視点も得たいと思いました。

実際、「ママボノ」では、「今の私が社会の役にたてるのだろうか」と不安を抱えながら参加をする女性も多くいるそうです。

そのうえで、2、3ヶ月の赤ちゃんを抱えラッシュにまみれて表参道(サービスグラントの所在地)に行ってまで、視野を広めたいという衝動も持っている。そんなアクティブな面も持った、自己研鑽の意欲が高い女性が多いですね。

対話のワークショップを広げるには

さて、鈴木さんが支援したのは「働く女性の全国センター」という団体です。女性の社会的地位向上を目指し、無料ホットラインサービス「働く女性のホットライン」を開設。2007年から3000件以上の電話相談を受けてきました。さらに最近では、女性が安心して対話ができる「かもすワークショップ」の運営にも注力しています。

しかしその「かもすワークショップ」に手ごたえを感じているものの、それを発展させるために何をしたらいいかを模索していたというのが、団体の現状でした。

今回は、この団体の「対話のワークショップを発展させるための課題整理」が「ママボノ」のミッションでした。

働く女性の全国センター。育児中の鈴木さんは団体の拠点が自宅から近かったため、この団体を候補にあげました

最長6ヶ月の長期プログラムもある一般的なプロボノと比べて、「ママボノ」は約2ヶ月と短期(今回は2016年10月~12月初旬まで)。また支援先のNPOは、女性・子育て・福祉系分野などが多く、子育て中の女性の視点が活かせるのも特徴です。

メンバーは7人。SE2名・研修等の商品開発・企画制作・WEBプロデューサー・ITコンサルタント・人事と、異業種・異職種。全員が育休中、0歳児を抱えながらの活動です。

鈴木さんは“リーダー”としてこのプロジェクトを率いることに。ちなみに他のメンバーの役割分担はそのチームに委ねられていました。

団体へのヒアリング(左)とキックオフミーティング(右)

チームのアイスブレイクもつかの間、慌ただしくプロジェクトがスタート。まず団体へのヒアリングを行いました。

最初の段階では、団体が対話の重要性を伝えたい熱いビジョンを抱いているものの、それには曖昧な部分も見受けられました。まずチームとしては、そのビジョンに対する整理が必要だと判断。たとえばワークショップの開催頻度や普及地域の範囲、ワークショップを広めた先のゴール、理想としている運営体制などについて、細かいすり合わせをしていきました。

このヒアリングをもとにして、ゴールである「10年後のワークショップのありたい姿」を設定。それに対し、「ワークショップの進行役育成」と認知度向上のための「ホームページの情報整理」をメイン課題に据えました。キックオフミィーティングで団体にその了承を得た後、課題ごとにサブチームをつくり分析へ。

ワークショップの参加者にその後の進行役になってもらいたいという、団体の強い希望を聞いていました。実際にそのワークショップを体験させてもらったりもして、どうやったら参加者が進行役に興味を持ち、自分から手を挙げてくれるのか、その仕組みづくりに一番頭をひねりましたね。

分析の最中も、団体と食い違いが生じないように鈴木さんが定期的に報告をしながら、その後の1ヶ月ほどで集中的に策を練っていきました。

“プレイングマネジャーをしない自分”に
チャレンジ

「メンバーの子どもの名前すら知らないくらい、仕事に集中していました」という週一のミーティング。制限時間は小学生のお子さんの帰宅前まで、午前中2時間・一本勝負!

やる気のあるメンバーのおかげでプロジェクトはうまく進んでいきましたが、一方で、リーダーを担う鈴木さんのなかでは“自分の役割に対する葛藤”があったと言います。

今までの仕事では、実作業もどっぷりする“プレイングマネジャー”。仕事を人に任せることが苦手でした。

どちらかというと慎重な性格で、 “指示”をしても細かいところが気になってしまっていたのだとか。このプロジェクトの最中も、「資料づくりを自分でやってしまうか、誰かにお願いするか」躊躇してしまうことがあったそう。

会社だと年次や経験を聞けばだいたいのスキルがわかり、仕事を振る人のあたりがつけられるのですが、出会ったばかりの今回のチームでは、みんなの能力や活動への意欲、家庭状況なども分からない。また任せることで自分の完成イメージと違うものができてしまうリスクも感じました。

しかし、ここでは“プレイングマネジャーをしない自分”に鈴木さんはこだわります。資料作成の目的はしっかり伝え、やり方については本人の自由に委ねるような任せ方を試してみると、イメージよりも数段よいものが完成。“任せて仕事を進めていく”という新鮮な手ごたえを得るとともに、自分の力を過信していたことにも気づきました。

今までと違う役割への挑戦は、会社だと失敗を恐れてなかなかできないんですけど、ここだとなぜかチャレンジしやすい気がしましたね。

そのほか、ミーティングを欠席したメンバーに対しては、個別にランチに誘ってママトークありの情報共有をはかるなど、自分なりにチームのコミュニケーションが滞らない工夫も。

さまざまな背景を持つメンバーが集まるプロボノは、暗黙のルールや単なる指示が通用しづらいチームをまとめるという、ハードルの高い体験もできる希少な場。プロボノでの試行錯誤の数々が、復職後、リーダーシップをとっていくうえでの大きなヒントにもなったそうです。

支援先に向けてこれまでの活動での成果物をプレゼン

そして迎えた「働く女性の全国センター」への成果提案。

ワークショップの進行役に興味を持つ説明の仕方、メリットの理解のさせ方、トライアルでそれをやってもらう仕組みを盛り込んだ緻密な提案は、パワーポイントで40枚にものぼる大作に!

提案の一部

プラスアルファで、「人手が足りていない団体がすぐに着手できるように」との配慮から、進行役募集のチラシと、ワークショップを継続的に進化させるための効果測定のアンケートも提示しました。

ちなみに後日、団体が早速そのチラシをアレンジして現場で使ってみたところ…。「6人もの参加者が進行役をやってみたいと回答してくれました。大きな成果です!」という嬉しい報告がありました。

鈴木さんたちのきめ細かい提案は、団体の立ち向かう社会課題に、確かな一歩をもたらしているようです。

団体からの感謝の言葉

自分の歯車がまわりはじめ、
時短からフルタイムへ

さて、「このママボノで一気に自分の世界が変わってしまった」と振り返る鈴木さん。一番刺激を受けたのは、“アグレッシブなメンバーたち”だと断言します。

とにもかくにも、やりたいことに“貪欲”で。このプロジェクト後に、7ヶ月の子どもを連れてセブ島留学に飛びだす強者もいましたし(笑) たとえば私が、「英会話をやりたいけど時間がねぇ…」とちょっとネガティブなことを言うと、子どもが昼寝中の30分でオンラインレッスンをやっているよ、こんな方法もあるよ、などとブワーッと情報を投げかけてくれる。

それなら私も、という勢いで、育休中の時間をいかして「育休プチMBA」といった自己研鑽的な講座から、「産後ケア教室(バランスボール等)」「スクラップブッキング」「アイシングクッキー」「お昼寝アート」といった趣味の教室まで、興味ある活動に次々参加。

今までだったら、興味はあるけどまあいいかと試さずにいたのに、一歩踏み出すとまた新しい仲間ができて、どんどん好奇心がつながっていき、まるで自分のなかの“歯車”がまわりはじめた感じでした。

1人目の育休後から“時短勤務”で働いていた鈴木さんは、メンバーのアドバイスを聞きながら自分の復職スタイルも考え直しはじめます。

保育園に子どもを迎えに行く前に、今まで通り買い物や食事づくりを済ませるとなると、時短じゃないと無理だと思っていました。でも、休日のまとめ買いや料理のつくり置きで時間を捻出し、平日1回も料理しないよ! なんて仲間も。

それを聞いて、今までと同じやり方で家事や育児をする先入観を持っていたことにも気づきました。「限界は自分でつくっている、時間は自分でつくっていくもの」なのだ、と。

やればできるかもしれない。こうして復職後、 “フルタイム勤務”へシフトする決断をしたのです。

「私の企画に相乗りしてください!」

鈴木さんの勢いづいた歯車は、復職後の仕事ぶりにも劇的な変化を与えていきます。

以前は、おもしろそうなことを思いついても、やるべきことをやってから考えよう、と思いとどまっていたのですが、「できるかどうかわからないけれど、やりたいならやってみよう」と考えるようになりました。

グループ会社間の「ダイバーシティに関する情報交換会」。成果が目に見えづらいダイバーシティというテーマに対し、グループで連携して取り組むプロジェクトですが、そこで自ら“グループ共同の復職者向けのセミナー”の開催を提案します。

今回の育休中に参加した「育休MBA講座」のなかで、ケーススタディをもとにしたディスカッションが、仕事復帰に役立った経験を持つ鈴木さん。その講座で使用したケーススタディをグループ全体で活用してみたらおもしろいだろう、と。

「私が先導するので、この企画に相乗りしてください!」くらいの勢いで、グループのみんなに提案してしまいました。来年の3月の開催に向けて、今、鋭意企画中です。

後先を考えていないわけではないけれど、何とかなるかなと。いや、自分で何とかするつもりです。ちなみに上司には、もう少し具体化した後に「やります」って報告しようかと思っています(笑)

「すごい変化ですね」との驚く私に、「できないことなんてそうそうないと思うんです」と鈴木さん。その真摯なまなざしに、「ママボノ」の経験が、彼女の仕事の“パフォーマンス”にも結びついているんだろうな、と確信がもてる気がしました。

広い目で“母”であることを考える場

そして今、鈴木さんが夢中になっていることは。

「NECワーキングマザーサロン」は、ママを集めたワークショップ。「ママボノ」の子どもが3人もいる仲間が、育休明け間もなくその責任重大な進行役に挑戦するって言いだしたので、じゃあ私もその子をサポートしなきゃ! って(笑)

外国人旅行者を自宅に招いて食事が楽しめる「NAGOMI VISIT」という活動も、海外のいろんな人が遊びにきたら子どもたちも楽しめるかな、と期待して、復職と同時に始めました。

「NECワーキングマザーサロン」

「NAGOMI VISIT」

家族との微笑ましい写真のなかに、母親としての“素の鈴木さん”を垣間見た気がして、「お母さんならではの社会への関わり方ですよね」と水を向けてみたところ…。

ここで自分の“母親像”の変化について、ゆっくり語ってくれました。

空手が趣味で、毎土曜日練習にはげむ夫を、以前は少しうらやましく思っていました。でも自分は特にやりたいこともなかったし、漠然と「子どもの世話のために家にいなくては」と感じていました。

それが“ベストの母親像”だと思い込んでいた鈴木さん。しかし、時に怒らないでいい場面でも子どもを怒ってしまったりと、“無意識にストレスを抱えた自分”にも気づきます。

ところが、「ママボノ」などのボランティアに取り組んだことによって、「家庭でも仕事でもない、自分の純粋にやりたいことをやれる‟第3の居場所”を持てて、精神的にバランスがとれるようになった」と言います。

あるとき、こんな自分に対して、ご主人がどう思っているのか尋ねてみたところ。

意外にも 「そういう場は自分にとって大切なんだよ」と、応援してくれていることがわかって。お互いにやりたいことをやれて平等な立場になった気もするし、そのせいか夫との関係もとてもよくなった気がします。それに、好きな時間を持てている分、子どもにも心をこめた接し方ができるようになったな、と。

大好きな家族とハワイ旅行へ(2017年8月)

仕事だけに専念できていた自分から、ある日“母”になった鈴木さん。

どう働いていけば満足するのか。どう振る舞えば、夫、子どもはもっと笑顔になれるのか。何をやれば自分の精神バランスが保てるのか。借りてきた情報や人の意見からではなく、育休中に自分で行動をしてみて見えてきた、“新たな母親像”。

好きなことだけをしているのではなく、外の世界に目を向けたからこそ掴み取れたものを、今の母親としての振る舞いに、しっかり反映させているのだと感じました。

そしてこれが「ママボノ」に関わった人が感じる“普段よりもっと広い目で“母”であることを考えさせる場”の意味なのだと思いました。

最終報告会でのママボノ4期生たち

育休中、離職中に多くの女性が抱えるモヤモヤ。その正体は人によってさまざまですが、なにがそんなに自分をモヤモヤさせているのか、丁寧に向き合うことはとても大切だと思います。

忘れがちなのは、“会社にとって、家庭にとってあるべき自分”という視点ではなく、“自分自身がどうありたいか”を素直にみつめること。

それも頭だけではなく、普段の会社の役職や役割などから解放された自由な身で、できれば一定期間、仮にでも“ありたい自分を試してみる”ことが、これからの働き方の大きなヒントとなるのではないでしょうか。

– INFORMATION –

東京・大阪で「ママボノ2017秋」を開催!

「ママ」と「社会」と「働く」をつなぐ復職ウォーミングアップ ”ママボノ”。
育休中や離職中の子育て女性たちが、仕事復帰に向けたウォーミングアップと同時に社会貢献活動を行える場、それが「ママボノ」です。社会的な問題の解決やニーズに応えるために活動するNPOや地域団体などを、お金ではなく、それまでの仕事の経験を活かして応援していきます。現在、東京、大阪でママボノ2017の参加者を募集中です。締切は9月25日(月)まで。実施期間は10〜12月です。
http://mamabono.org/

[sponsored by サービスグラント]