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一杯の珈琲から見つめなおす「いつもの世界」。「SLOW COFFEE」小澤陽祐さんが、水のまち・郡上八幡で「水出しコーヒープロジェクト」を始めた理由。

みなさんは、1杯のコーヒーを構成するコーヒー豆と水はどこから来たものなのか、考えたことはありますか?

コーヒー豆は南米やアフリカから輸入されて、焙煎されミルで挽かれてお湯を注がれます。では、水はどこから? 空からふる雨、あるいは山の水を集めて流れる川……その来し方に思いをめぐらせると、カップのなかに大きな自然を感じられるかもしれません。

「水がなかったら、コーヒーも飲めないし、そもそも生きていくことができない」。

フェアトレードで輸出された、オーガニックなコーヒー豆だけを自社焙煎し販売する「有限会社スロー(以下、スロー社)」代表の小澤陽祐さんは、2011年3月11日に発生した東日本大震災の直後に、水源地で放射能が検出されて水道水が飲めなくなる事態を経験。ふだん、蛇口をひねれば出るのが“あたりまえ”だと思っていた水が、いかに“ありがたい”ものだったのかを思い知りました。

昨年夏、小澤さんは岐阜・郡上市に移住。おいしい湧き水が豊富な郡上で水出しコーヒーをつくりながら、身近な水との関係性に興味を持ってもらおうというプロジェクトに着手しました。現在、その実現のためにクラウドファンディングにも挑戦しています。

この「水出しコーヒープロジェクト」について詳しいお話を聞きたくて、小澤さんをたずねて郡上八幡まで行ってきました。

小澤陽祐(おざわ・ようすけ)
有限会社スロー代表。ナマケモノ倶楽部共同代表。1976年千葉県松戸市生。
1999年よりスロームーブメントに関わり、2000年スロー社を設立。【オーガニック】【フェアトレード】のコーヒー豆のみを【自社焙煎】することに特化しているコーヒーブランド。2009年、スローコーヒー八柱店をオープン。2016年からは焙煎機の電力を100%太陽光発電の電気に切替え【ソーラー焙煎】を開始。現在、松戸と郡上の2拠点生活を営む。

震災直後に「水のありがたさ」を痛感した

前回、greenz.jpでスロー社を取材したのは「ソーラー焙煎プロジェクト」が実現したとき。

「ソーラー焙煎プロジェクト」は、2011年3月11日に発生した東日本大震災を機に「原発に頼らないで焙煎をしたい」というスロー社の思いから始まったもの。クラウドファンディングで目標金額を上回る120万円以上の応援を集め、太陽の光が生み出したエネルギーによる焙煎を実現しました。

また、震災後はまだ幼い子どもたちが育つ環境を考えるなかで、奥さんの実家のある郡上市への移住を決意。スロー社内での話し合いや調整を経て、現在は千葉と郡上市の2拠点生活をしています。

移住の準備を進めているとき、ちょうど郡上市八幡町(以下、郡上八幡)ではサテライトオフィス/テレワーク型起業支援をする“基地”、「HUB GUJO」の立ち上げも進んでいました。「HUB GUJO」は、東海地域で初めて総務省予算「ふるさとテレワーク推進事業」の交付を受けた施設。HUB GUJOの代表・赤塚良成さんに誘われ、小澤さんもスロー社として入居しました。

「HUB GUJO」の明るく広々とした共有空間。まったく異業種の5社が入居しています

川に面してテラスもあります。こっちも広い!

「水出しコーヒープロジェクト」のアイデアは、今年2月25〜26日に「HUB GUJO」のお披露目を兼ねて開かれたアイデアソン「HACK GUJO」で生まれました。実は、このプロジェクトの背景には、小澤さん自身の「郡上の水」に対するちょっと特別な思いがあります。

震災後に水道水が飲めなくなったとき、近所のスーパーでペットボトルの水の奪い合いが起きました。そんななか、郡上の親戚がおいしい湧き水を大きなタンクに汲んで送ってくれて。「ああ、これで助かった」という、そのときの気持ちをいつか表現したいと思っていたんです。

スロー社には、水につけておくだけでおいしいアイスコーヒーができる、「水出しコーヒーパック」という商品があります。おいしいコーヒーとおいしい水をかけあわせれば、最高においしいコーヒーができるはず。コーヒーを通して郡上の水のおいしさにも興味を持ってもらえるしくみをつくれないだろうか? と、小澤さんは考えはじめました。

「HACK GUJO」から生まれた「水出しコーヒープロジェクト」

「HACK GUJO」では、「郡上発の水出しコーヒー」というテーマに6名のメンバーが参加。郡上八幡のまちの湧き水スポットをめぐり、湧き水を汲んでコーヒーを仕込みつつアイデアを出し合いました。

実際にやってみると「まち歩きをしながら水を汲む」のが楽しかったんですよ。同じまちのなかでも、湧き水スポットによって水の味も違っていることに気づいて、「まち歩きをしながらコーヒーをつくるのはどうだろう?」などと、アイデアも自然に出てきました。

ボトルのデザインは「HUB GUJO」に入居するデザイン会社に依頼。ちなみに、この方は「HACK GUJO」のチームメンバーのひとり、豊田由弦さん

当初は、郡上で販売されている水のペットボトルと、スロー社の「水出しコーヒーパック」をセットで販売することを想定していましたが、まち歩き体験を経て、「湧き水で水出しコーヒーを仕込む」という楽しさを提供する方法を模索。500mlの専用ボトルと500ml分の「水出しコーヒーパック」、湧き水を汲めるポイントを記した「水汲みパック」をセットにした「水出しコーヒーキット」を開発することにしました。

「水出しコーヒーキット」は、郡上八幡の旅館や飲食店、まちなかの観光施設などで販売してもらい、郡上を訪れた人がお気に入りの湧き水で水出しコーヒーを仕込めるようにする予定。プロジェクトの実現のために、現在はクラウドファンディングにも挑戦しています。

郡上の名水をめぐり、水出しコーヒーを仕込む

たしかに「水をめぐるまち歩き」ってなんだか面白そう! せっかくですから、私も郡上八幡のまちを案内していただきながら、水出しコーヒーをつくることにしました。

郡上八幡は、周囲を山に囲まれた長良川水系にあるまち。市街地の真ん中に吉田川が横断しており、まちの西側で長良川に合流します。長良川水系の水源地から郡上八幡までは、ほとんどが豊かな山林ですので、今もまちには良質できれいな水が流れてきます。

長良川の支流、吉田川。初夏には鮎を釣る人がたくさんいます

小駄良川、水が青かったです

まちの面積の9割は山林であり、雨が降ると地下に浸透して伏流水となり、湧き水や井戸の水源を満たします。また、郡上八幡の水道水の水源は、吉田川左岸にある石灰岩層でろ過されたおいしい天然水。郡上八幡は、水量だけではなく、水質の良さ、水源の多様さの面においても恵まれた、奇跡のような“水のまち”なのです。(※参考「水のめぐみを活かす知恵」発行:郡上市、編集:NPO法人郡上八幡水の学校)

小澤さんが最初に案内してくれたのは名水百選の1号に指定された「宗祇水」。郡上の人たちは、こうした湧き水を生活用水として共有するためのしくみをつくり、共通のルールを守ってきました。

1985年に名水百選1号に指定された宗祇水

宗祇水の味をたしかめる小澤さんと、HACK GUJOのチームメンバー山田卓哉さん

代表的な水利用施設のひとつが「水舟(みずぶね)」。2〜3段に分かれた水槽をつくり、上段を飲用水、中段はすすぎの水、下段は洗い水と段ごとに使い分けて、水質を保ちながら皆で水を大切に使います。そして、水を使うだけでなく、守るところまでを皆で共有。水舟はもちろん、水源地や排水路の清掃や修理などは、使う人たちが手分けして行っているのです。

宗祇水のそばにある看板。水舟のしくみを解説しています

井戸水をつかい、木の水舟を再現したもの。ここで野菜を冷やしたりすることもあるそう

この日は、4カ所の湧き水スポットを探訪。水をテーマにしたまち歩きですから、話題の中心はやっぱり水をめぐるまちの地理や歴史に傾きます。湧き水スポットで、水源地の関係をひも解きながら“利き水”をするうちに、郡上八幡の水への興味もこんこんと湧いてきました。

神棚のある湧き水も。今も大切に守る人がいることを強く感じます

私は「やなか水のこみち」のちょっとやわらかい味が気に入り、ここで水出しコーヒーを仕込みました

地元の人のなかには、これらの湧き水のことを上水でも下水でもない“真ん中の水”と呼ぶ人もいるそうです。

「水出しコーヒープロジェクト」は、「真ん中の水」を今のかたちで活用するアイデアです。ある地元の方は、「真ん中の水は使わないと守れない」と言ってくれました。その言葉が、このプロジェクトの原動力になっています。

体験してみてわかったのは、「水出しコーヒーを仕込む」という目的を持つだけで、まちの見え方が全然違ってくるということ。まちのあちこちでおいしい湧き水を口にすることで、郡上八幡への愛着心まで芽生えさせてしまいました。

スロー社がコーヒーを通して表現したいこと

水出しコーヒーは、抽出に約10時間を要します。ボトルを持って歩けば、その振動で抽出時間は早まりますが、それでも飲み頃までは数時間以上がかかります。私が、郡上八幡で仕込んだ水出しコーヒーを飲んだのは京都の自宅に帰ってからのこと。コーヒーを味わって過ごすひとときのなかで、郡上八幡のまちや小澤さんが話してくれたことにもう一度思いを巡らせていました。

わずかな時間の違いで抽出に差が……。「そっち出てるね〜」とわいわいやるのもけっこう楽しい

スロー社では、2000年の創業以来「フェアトレードで輸入されるオーガニックな豆だけ」を自社焙煎。「おいしいコーヒー」を届けることで、「なぜオーガニックで栽培するのか」「フェアトレードが必要なのか」を変わらずに伝え続けてきました。今回の「水出しコーヒープロジェクト」もまた、スロー社がコーヒーを通して表現したい「根源的に大切なこと」が含まれています。

水って、本当に生きていくうえで根源的で必要不可欠なものですよね。でも、僕も含めて、やっぱりその大切さを忘れちゃうんですよね。

でも、忘れてはいけないことだから、なんとか常に思い出せるように、無理なく伝えたいんですよね。そのためにどうしたらいいかを考えていて。今回は「水出しコーヒープロジェクト」というかたちでの表現になったんです。

「いいっすよティモールコーヒー」「ちょっとすごいコーヒー」。「SLOW COFFEE」の商品はつい耳をそばだててしまう楽しい音楽みたいなネーミングも特徴です

今まで、小澤さんはスロー社で取り扱ってきたコーヒー豆の産地が抱える課題をつぶさに見てきました。だからこそ、本当に大切なものは本気で守らないといけない危機感も持っています。

たとえば、「ちょっとすごいコーヒー」の産地、エクアドルのインタグ地区では、森を切り拓かなくてすむようにアグロ・フォレストリーシステム(森林栽培)を採用。バナナやアボカドなどと一緒に無農薬でコーヒーを栽培してきました。

しかし、この20年来ずっとインタグを鉱山として開発しようと狙っている多国籍企業やエクアドル政府に対して、有機コーヒー生産者組合などが森を守るために力を合わせて闘っています。

一度切り拓いて鉱物で汚染されたら、森は元に戻らなくなってしまう。僕は、インタグに行ったときに「この森は地球上に残る方がいい」と思いました。すごく単純だけど、それと同じ感覚です。

郡上の山や川がこのまま残って、せめて今より悪くならないように、そんなことに僕は加わりたい。僕にできることは限られているけれど、与えられたもののなかでやれることをやりたい。

応援してくれる人がいる限り続けていきたい

「水出しコーヒープロジェクト」では、「水出しコーヒーキット」の売上の1%を「郡上の水保全基金(仮)」に。水や山の保全にもつなげていくために積み立てることも考えられています。

本当に微力だとは思いますが、まずは1%の売上を積み立てることから始めたいと思います。最初のうちは、壊れている水舟があったら補修するとか、そういうことから始めていこうと思います。

小澤さんは、郡上に生活拠点を移して、これからずっと家族と一緒にこのまちで暮らしていこうとしています。「水出しコーヒープロジェクト」は、スロー社にとって郡上の人たちと一緒に立ち上げる初めてのプロジェクト。ここから、郡上の人たちとの信頼関係をつくっていきたいという思いもあります。

郡上の人たちの根底には、スロー、ローカル、お金じゃない幸せみたいな価値観がある気がしています。林業を軸にいろんなプロダクトをつくる人もいれば、石徹白(いとしろ)で水力発電をやる人もいます。

そもそも、「山」とか「川」というだけでエコロジーだしサステナブルですよね。価値観を共有できているから、仲間に加えてもらえているのかもしれません。

インタビューのなかで、小澤さんは何度も「僕らはたくさんの人に助けられてやってきた会社だから」という言葉を口にしていました。「たくさんの人が応援してくれて、たくさんの人が関わってくれたから、自分だけのものという感覚がないんだよね」とも。

本当にたくさんの人たちが応援してくれたから続けて来ることができたという感覚もあって。周りの人たちに「頼むからやめてくれ」と言われるまで、この会社を辞めるつもりはないですし、応援する人がいる限りやっていくと思います。

今回の「水出しコーヒープロジェクト」のクラウドファンディングの呼びかけ文からも、「みんながそう望むなら応援してほしいんだよね」という、小澤さんらしさを感じます。たくさんの人に届いてほしいと思います。

コーヒーは、今やお茶と同じくらい身近な飲みもの。そして、コーヒーを飲むときは、ちょっと一息ついたり、日常から一歩外に出てひとときを過ごすことが多いのではないでしょうか。一杯の珈琲に、「いつもの世界」を見つめなおす小さなしかけがあるとしたら、それは大きな可能性があるのかもしれません。

でも、そんなに大きな話ではなくて。単純にすごく楽しいので、「水出しコーヒーをつくる」つもりで、郡上八幡(あるいは身近な湧き水)を訪ねて歩いてみませんか?きっと、水との関係が大きく変わる体験が待っていると思います。

– INFORMATION –

小澤さんもゲストとして参加する、12/8(金)開催のイベントはこちら!
green drinks Tokyo「根っこのある生きかたを、つくる。」Co-presented by 郡上カンパニー
https://greenz.jp/event/171208gdtokyo/

[sponsored by 有限会社スロー]