3月20日(月)、春分の日らしい快晴の中、まだ残る積雪に陽の光がキラキラ輝く北海道札幌市で、みんなでエネルギーを考えるイベント「green power drinks Sapporo」が開催されました。
会場の「MEET.」は、併設するオフグリッドカフェ「PHYSICAL」を4月にリニューアルオープン予定のクリエイティブ・サロン。2015年にグリーンズと共催で太陽光発電の電気を使った映画上映会を行ったこともある、エネルギーと縁の深い空間です。
この日のテーマは、「無駄を減らし、足るを知る『自分らしい自給的暮らし方』事情 実践者3人に聞いてみる」でした。ゲストスピーカー3組とも、暮らしを自給的に営んでいます。はてさて、3組は何をどんなふうに自給しているのでしょう? 3組の話には、随所に人生をワクワク過すヒントが隠れていました。
衣食住を自給する個性豊かなゲストたち
ワクワクする人生へのヒント
①楽しいことを続ける
札幌市西区小別沢で「やぎや」を営む永田温子さんが、今いちばんハマっているのはメイプルシロップづくり。自宅の小屋から徒歩1分圏の木に穴を開けて、したたる樹液をペットボトルで採取。それを4分の1の量になるまでぐつぐつ煮詰めればメイプルシロップのできあがりです。リコッタチーズに生クリームと合わせたら、もう絶品なのだとか。
他にもパンやソーセージ、鶏の卵、野菜などをつくり、家族で食べたり、やぎやの料理に使ったりしています。そんな温子さんは、約40年前に今のように暮らしを自給する人生をスタートしました。
温子さんは、卒業後に第1次オイルショックを経験。トイレットペーパーをはじめ、まちからあらゆる商品がなくなりました。
そんな心もとない暮らしにショックを受けた温子さんは、同じ気持ちを感じた人たちとつながり、茨城県石岡市で消費者自身が有機農業を実践する消費者自給農場をはじめます。1年間、未経験ながら豚の世話をして農場に関わり、自分に合った生き方を見つけました。
以来、農場で出会った男性と結婚し、小別沢へ。小屋の改修、畑の開墾にはじまり、幼稚園に空きがなければ自分でお子さんのために幼児教室をつくりながら、さまざまなことを自給して暮らしています。温子さんはそんな人生を「決して、何か消費者運動のようなことをしていたわけじゃないんです」と振り返ります。
温子さん ただ、「こうしたら面白いよね。やろう!」という周囲の人たちからの申し出に答えてきたんです。それに応えていると新しい楽しみが生まれてくるから、誘いはくるもの拒まずでここまできました。
これからも温子さんは小別沢でのつながりを大切に、楽しく暮らしていきます。そんな小別沢で、同じく自分の仲間と畑をシェアしているのが2組目のゲストスピーカー・青山夫妻です。
ワクワクする人生へのヒント
②気持ちを大切にして営む
3.11を経て、“自分たちが暮らす中であたりまえのように手にして来たエネルギー、食べ物、身につけるものなど、構造や出自が見えないまま使ってきたり、お金で買うだけで解決していたことに段々違和感を感じて”自分たちの食べ物ぐらいつくれるようになりたいと、小別沢でシェア畑をはじめた青山夫妻。
もともと東京で暮らしていた二人は、札幌移住を境にして、仕事と暮らしを分けない営みに本腰を入れてシフトしました。
札幌は二人の故郷です。震災に出産が重なり、落ち着いた生活を求めてUターンしました。マンション暮らしをはじめたものの、創作的なことができない空間に違和感を持ち、近所で何をしてもいいと言ってもらえた一軒のボロ屋に引っ越します。改修工事から自分たちの手でつくった空間は、今、1階を店舗兼展示室、2階を住まいとして活用中です。
1階の「shop & gallery “MANUFACTURE & WORK”」では、drop aroundとして青山夫妻がつくった商品を並べています。特徴は作業服にはじまり、領収書、請求書など、仕事の道具をつくって販売しているということ。
自分たちのデザインが消費を助長するものになっていないか。そんな疑問にまっすぐ向き合った結果、二人は二人自身が、本当に必要にかられた道具的なプロダクトをつくることにいきつきました。
そんな青山夫妻はグラフィックやプロダクトのデザイン業務も営んでいます。米農家のようなつくり手のデザイン面を担う仕事も多いのだとか。二人のお店のように「MANUFACTURE & WORK(つくる・はたらく)」をテーマにした営みです。
吏枝さん このテーマは、できないことや嫌なことを取捨選択していって、最後に残ったものでした。そんな二人の気持ちを投票するように、私たち自身が「これは価値がある」と思えた仕事をしています。
これからも一つ屋根の下から各地のつくり手に広まるように活動していく青山夫妻とはまた異なり、一軒家を舞台にしてワクワクするエネルギーDIYライフをおくるのが3組目のゲストスピーカー・佐藤夫妻です。
ワクワクする人生へのヒント
③お日様に感謝して暮らす
神奈川県横浜市のマイホームは、電線をつながず、電力会社の電気を買わない一軒家。佐藤夫妻は、いわゆる“オフグリッド”生活をしていて、自宅は1.9kWのソーラーパネルと27kWhの鉛バッテリーで電気をまかなっています。
また、2016年10月からは太陽熱温水器を取り入れて、キッチンやお風呂に使うお湯も太陽光でつくるようになりました。電気に続き、ガスのオフグリッドにも挑戦中です。
そんな佐藤夫妻が最近ハマっているのは、ソーラークッカー! ガラス製の真空管に食材を詰めて、太陽光を集めれば、煮るなり焼くなり自由自在の調理器具です。サツマイモを入れたらホクホクの焼き芋に変わり、塩で味付けした野菜を詰めれば美味しいスープがつくれます。保温性が高いので、昼に調理した料理を夜食べてもアツアツなのだとか。
明かりにはじまり、温もりや旨みまで、佐藤夫妻は太陽と一緒に楽しく暮らしを営んでいます。そんな生活について快活におしゃべりする佐藤夫妻は、東日本大震災と原発事故をきっかけに、今のエネルギーを自給する暮らしにシフトしました。
今まで何気なく使っていた電気が誰かの犠牲のもとに成り立っていた。そう感じると、電気を使うのが苦しくてしかたなかったのだそうです。そんな二人だからこそ、オフグリッド生活に変えて一番実感したことは、電気を使う楽しさでした。
千佳さん ただそこにある光がエネルギーに変わる。毎日、ありがとうございますと感謝して使っています。晴れた日に、「今日は何に使おうかな?」って考えるのがとても楽しい暮らしです。電気を使うこと自体は悪いことじゃないんだと気づくことができました。
今では、晴れた日は“お日様長者”、雨の日は“お日様貧乏”と、天候のなりゆきも面白がれるほどに。佐藤夫妻はエネルギーとともにある暮らしに喜びを感じています。
そんな衣食住を自給する3名のゲストスピーカーがそろい、イベントではクロストークを行いました。誰がうながすこともなく、会場全体が拍手で包まれたワンシーンを振り返ります。
会場が一体になったトークとQ&A
上田さん MEET.では今、自然栽培の野菜を使ったヴィーガン料理を出そうと準備しています。でも、こういう食材に注目が集まるのは、札幌特有ですかね。東京や千葉でも、食材への関心は高まっていますか?
菜央 ぼくは専門家じゃないから、感覚的な話ですけど、グリーンズの事務所がある原宿では、最近、ビーガン料理を出すお店が増えています。どこも満員です。海外に目を移せば、ロンドンやサンフランシスコのようなビーガン料理が市民権を得ている都市もありますよ。
また、欧米は小麦中心の食生活が影響して、グルテンアレルギーの人も多いです。だから、グルテンフリーの食材を買うことができるスーパーマーケットもたくさんあります。
菜央 自然栽培の野菜を使うこと自体がどれだけ広まっているのかまでは知りませんが、ぼくは流行るんじゃないかなと思っています。どうでしょう、みんなで流行らせませんか? 上田さんのように、新しく何かをはじめる人と一緒にみんなが暮らしをつくって行くことは大事です。
大企業のサービスを買うお金で、ここでなら志のある人が広める自然栽培の野菜が食べられる。こういう起業をする人がいたら、周りが全面的に応援して、オルタナティブな経済圏をつくっていくことがとっても重要だと思います。
ワクワクする人生へのヒント
⑤暮らしの基礎は自分でつくる
温子さん えっとね、一つだけ話を付け加えてもいいでしょうか。確かに、ビーガンや食べられないものがある人はいますし、これからはいろんな食べ方が広まることは必要です。でも、私自身の食で言えば、鶏を飼っていて、ヤギもいます。だからビーガンではありません。
それは、古い世代なのかもしれませんが、私が“循環すること”に意味を見出しているからです。鶏がしたうんちやヤギが垂らしたよだれは畑に戻しているんです。
温子さん 今は時代が過渡期に来ています。だからいろんな実験ができます。でも100年後にどうなっているかはわからない混沌がありますよね。それは、ビーガン料理だからといって、無農薬野菜ではないことがあったり・・・。なので、個人がどういう暮らしのスタイルを望んでいて、どんなスタイルで生きていきたいのか選択することが大切です。
自分の暮らしの基礎をどこに置くのか。それを考えて、支柱にしておかないと、「ビーガン!」と聞こえたらビーガンに、「マクロビ!」と聞こえたらマクロビに走るような、風見鶏みたいなことになってしまいます。
上田さん そうですよね。ぼくもお肉を食べたくなりますもん(笑)
温子さん ぜひ、いいお肉を食べてくださいね(笑)
ワクワクする人生へのヒント
⑥いろんなコミュニティとつながる
上田さん それでは、観覧席のみなさまからの質問もお聞きします。どなたか聞いてみたいことはありますか?
上田さん あっ! では、質問をお願いします。
来場者 みなさんの話を聞いていたら、自由になっていくライフスタイルを形にしているように感じました。私は人間関係にも無駄なエネルギーが生まれているように思うのですが、みなさんのような自由な生活をつくっていくと、例えば夫婦関係の循環も整っていくものでしょうか?
菜央 なるほど、面白い質問ですね。
上田さん では青山夫妻からお答えいただけますか?
吏枝さん うちはあまりにケンカが多いので、1階と2階で職場をわけることがあります(笑) だから、外部とちゃんと関わっていくことを大事にしています。デザインの仕事では有人離島の冊子をつくったり、わざわざ道外に出ていって展示会を開いたりして、風を入れています。
吏枝さん そんなふうに各地で小さなコミュニティと交流することは好きです。でも、その中にずっといればいいとも思っていません。いろんな価値観が知りたいですし、多様性がポツポツとたくさんあることのほうが豊かだとも思っています。
剛士さん ぼくは家で仕事をしているので、娘から「父ちゃんは、なんで仕事に行かないの?」とよく言われます(笑) でも、それは仕事と暮らしを一致させているメリットだと思います。家族でいる時間を長く持てるようになりました。
吏枝さん 子供とすごく仲良くできています。娘は、私たちの良いところも悪いところもすべて見ているので、親の生きる姿全部から学んでいます。そんなダイナミックな子育てができているのも面白い部分ですよ。
ワクワクする人生へのヒント
⑦人間関係をつなぎ直す
上田さん 千佳さんはいかがですか?
千佳さん そうですね・・・よくオフグリッドの話をすると、今までつながっていたものを全部切って“孤立”してしまうようなイメージを持たれてしまいます。でもまったく逆なんです。“自立”することで、新しくつながり直すことができました。
電気でいうと、知らず知らずのうちに地球や福島などに負担を押し付けていたんですが、そういう関係をやめて、自分も相手も心地よく生きていくための良いつながりをつくり直すことができました。たった一本の電線につながなかっただけで、いろんなご縁をいただいて、今日こうしてここに呼んでいただいて、みなさんと出会えたこともその一つだと思うんです。
隆哉さん 私からは少しささいな話をしますね。オフグリッドにした場合、青山夫妻のように1階と2階にわかれて働いているとどんなことが起こるでしょう? ちょっと電気がもったいないですよね。だから同じ場所で働くようになりました(笑)
すると以前より二人で話す時間は長くなりました。深く長く語り合うこともできて、面と向かって思いを伝える機会が増えたんです。それはオフグリッドの良い面かなと思います。
上田さん この話、千佳さんははじめてきいたんじゃないですか? とっても大きな告白ですよね。
千佳さん あはは。ちょっと恥ずかしいです(笑)
菜央 夫婦の間も深まっていく、ほんとオフグリッドっていいもんですね!
「ワクワクする人生への7つのヒント」
①楽しいことを続ける
②気持ちを大切にして営む
③お日様に感謝して暮らす
④志のある仲間を応援する
⑤暮らしの基礎は自分でつくる
⑥いろんなコミュニティとつながる
⑦人間関係をつなぎ直す
※まずはひとつでも、試して学んで、自分に合わせてアレンジしてみるといいかも!