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エネルギーとどう関わればいいのかわからない? 薩摩川内市の高校生たちが、その悩みを解決するべくつくったのはボードゲーム「SMART CAPPERS」!

エネルギーのまち・鹿児島県薩摩川内市にある「薩摩川内市スマートハウス(以下、スマートハウス)」は、エネルギーを無駄なく活用する暮らしを体験できるモデルハウス。

一見すると普通のおしゃれなおうちに見えますが、24種もの最新のエネルギー技術を導入しているモデルハウスで、市民に無料開放しながら“未来の暮らし”にまつわる多種多様なイベントを開催しています。ここに子どもから大人まで、老若男女が集うシーンは、さながら近未来公民館のようでもあります。

薩摩川内市が運営するスマートハウスで企画・運営面でのサポートをしているのは、UDS株式会社のコーディネーター・塚原諒さん

2014年のオープン以来、東京からスマートハウスへ着任し、【エネルギー・暮らし・まちづくり】をテーマとして「食×農業」「子育て×働き方」「まち×観光」など、さまざまな切り口で対話プログラムを企画・開催してきました。

エネルギーのまちで生まれ育ち、未来を生きる高校生だからこそつくれるもの

2016年9月、塚原さんの呼びかけで発足したのが、地元の高校生が「エネルギー×未来のまち」をコンセプトにイチからボードゲームをつくるという【ボードゲーム部】。

原子力発電所をはじめ、火力発電所や風力発電所、水力発電所、太陽光発電所など、多くの発電所を有しているエネルギーのまち・薩摩川内市の高校生たちが、自分たちが生まれ育った町の未来を考えてひとつのボードゲームを完成させる企画です。

薩摩川内市はエネルギーのまちであり、2011年の福島の原発事故以降、エネルギー問題について市民の関心が高まっています。一方で、現在はエネルギーが安定供給されることが当たり前になり、関心を寄せにくいのではという難しさも。

塚原さんは言います。

塚原さん 高校生との対話プログラムを企画するにあたって、未来のまちのことやエネルギーのことを話し合うだけではおもしろくないし、広がりがないというのが課題だったんですね。

それをどう発信していくか、もっと関心をもつ層を増やしたいと考えたとき、ゲームというわかりやすいカタチにして幅広い世代に向けて広めていけたら、と思ったんです。それを、これからの未来を生きる高校生にぜひつくって欲しいな、と。


「こちらに来てからあまり高校生とは交流がなかったのですが、今回は若いエネルギーを持った高校生たちとつくりたかった」と語る塚原さん

ぼくらのまちの理想と課題、解決策。「未来をつくる」アイデアを共有する

部員募集から始まったボードゲーム部は、月に1度、スマートハウスに集まって、完成に向けて走り出しました。

最初の3カ月は「共通言語づくり」を集中して行いました。まずは現状を知るために市役所の方に市が掲げるまちづくりビジョンについてお話いただいたり、みんなで参考文献を読んだり、文脈を知る・共有することからスタートして。そこから理想と課題を書き出して、それらを実現したり解決したりする「未来をつくるアイデア」を考えました。

初めてのことに苦戦しながらも、高校生らしいおもしろい意見が飛び交ったのはよかったですね。その様子を見ていると、高校生にも「自分たちが暮らす町のエネルギーをなんとかしないといけない」という問題意識があることもわかりました。


まちの理想や課題、解決策を色分けしたふせんに書き出して模造紙に貼り、みんなのアイデアを可視化した

未来のまちづくりをテーマにしたボードゲーム。勝ち負けを競い合うのではなく仲間と協力してアイデアを出し合い、対話をしながら遊べるゲームにする(いわゆる「共同(コーポラティブ)ゲーム」)、というのは高校生たちから自然と出てきたアイデアだとか。そして長い話し合いの末、ゲームづくりが本格始動すると、ようやく彼らに笑顔が出てきました。そ

こからもゲームシステムの検討やストーリー作成、キャラクターデザインなど、それそれが役割を分担。仕上げの一部をプロのデザイナーに依頼するための仕様書も高校生が作成しました。試作版が完成すると繰り返しテストプレイを行い、改善点や問題点を洗い出して修正します。部員のひとりは「初めて産みの苦しみを味わいました」と笑います。

完成したボードゲーム、その名も「SMART CAPPERS」。2017年の架空都市SS市を舞台に、センデ川から現れた河童のヒーロー・スマートカッパーズが慢性的なエネルギー不足に直面したまちを救います。ゲームは第1ステージ(2017〜2020年)、第2ステージ(2020〜2025年)、第3ステージ(2025〜2030年)の3つのステージで、制限年数以内に必要なエネルギーを収集。

1年につきサイコロは1回振れ、出た目の数だけ主人公・カッパーズは前に進めます。進む方向はゲーム参加者全員で話し合いながら決め、来た道を戻るのも自由。未来のエネルギーを獲得しながらゴールを目指します。

このゲームの特長は、ステージが上がるごとにクリアに必要なエネルギー量が減っていくという、目指したい「理想の未来のまちの在り方」を表現しているところです。

苦労してできあがったゲームの名前は、川内川を有するカッパのまち・薩摩川内市にちなんで「SMART CAPPERS」に。

エネルギーを選ぶ新しい「ものさし」をもつこと。これが未来への希望になる

始動から半年が経過し、ようやくお披露目の日を迎えます。当日は遊戯会も兼ねており、ゲームを人間サイズまで巨大化させ、お客さん自身がコマとなってクリアを目指す仕様に工夫しました。

お披露目会では、スマートハウスの室内・屋外を広く使ってお客さんにゲームを体験してもらった

塚原さん あいにくの雨模様だったのですが、当日は家族連れの方がたくさん遊びに来てくれました。子どもたちが純粋に楽しんでくれていたのがうれしかったですね。

高校生たちはこれから進級や進学、就職とそれぞれの道を歩んでいくんですけど「この経験を糧にして…」とは伝えていなくて。大人になっていつか「こんなこともしたな」と振り返ってくれたらいいなと思っています。

また、薩摩川内市役所・次世代エネルギー課のスマートハウス担当の下薗朋美さんは、お披露目会を終えてゲームボード部の活動を振り返り、こう話します。

下薗さん エネルギーって身近にあるのにどうかかわればいいのかよくわからない。そんな難しいテーマについて、高校生ならではの柔軟な発想力で子どもから大人まで楽しめるゲームが完成しました。

イベント当日はたくさんの方に楽しんでいただけたのがよかったですね。今後もこういったおもしろい切り口でまちの未来を考えられる取り組みが、このスマートハウスから生まれていくといいと思います。

最後に、塚原さんがスマートハウスにいると感じることがあるといいます。

塚原さん 人生は選択の連続ですが、その基準がお金しかないと難しいと思うんです。

とくにエネルギー問題は未来へと続きます。電力自由化の流れもありますし、できる・できないに関わらず、経済面以外も考えたうえでエネルギーを選択するための「ものさし」や「価値観」を持てるかどうかっていうのが大切なのかな、と。「そんな選択もいいよね!」という感覚が共有できれば、エネルギー問題も身近になるのかなと感じています。

初めて見るボードゲームに興味津々の子どもたち。お披露目会ではクリアを目指して大盛り上がり!

遊びながら自然に次世代のエネルギーについて考える、学べる時間を楽しむーー。モニター越しでのゲームが主流になった今、ボードゲームを囲んで家族や友人と団らんする、みんなで遊びを共にする、そんな昔ながらの風景があってもいいのではないでしょうか? 

エネルギーのまち・薩摩川内市の高校生たちがつくったゲームはダウンロードできますので、ぜひ遊んでみてください!

やましたよしみ
フリーランスの編集者・ライター。鹿児島県薩摩川内市在住。浜松市出身。大学卒業後、IT関連企業を経て、出版社、編集プロダクションに勤務。主に女性向けフリーペーパーや実用書、育児情報誌などを制作。2011年、東京から鹿児島へ移住。2012年よりフリーランスとして活動している。得意分野は、食と暮らし、アート。一児の母でもある。
Blog http://yamashitayoshimi.blogspot.jp

(Photo by 福留敦巳

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