“インターネットと「なにか」をつなぐ。”をコンセプトに、企画立案、デザイン、開発、コンサルテーションを行っている少数精鋭チームの「nD.inc(以下、nD)」。
彼らの仕事は、地域特化型クラウドファンディング「FAAVO」、オンラインで気軽にギフトが贈れる「giftee」から、大塚製薬の人気商品「オロナイン」のウェブサイト開発まで多岐に渡り、僕らgreenz.jpもサイト構築の部分でお世話になっています。
「nD」代表の中原寛法さんは品川に、社員の宮本涼輔さんは千葉県に在住。直接顔を合わせて仕事をするのは、この取材当時では週に1日(現在は月に1日)だけのリモートワーク(*)で仕事を進めているのだとか。
(*)リモートワーク:オンラインツールを用いて、場所や時間にとらわれず働くライフスタイル
実は、グリーンズも週に2日オフィスに集まる以外は、基本的にリモートワークで動いています。地方〜全世界にいるフリーランサーとコミュニケーションをするために使用しているのは、主にメール、チャット、ビデオ会議などのリモートツール。
しかし、これらを使う中で、たまに感情的なコミュニケーションをしてしまったり、誰がいつまでに何の仕事をするべきか分からなくなってしまうことも。円滑なコミュニケーションで、確実に仕事をするためにはどうしたらいいのだろう・・・
そんなモヤモヤを抱えていたときに見つけたのが、宮本さんのブログ記事。メールやチャットを使わずに、TODO単位で物事を考えてリモートワークをしているという内容に、目から鱗でした。
そこで今回は「nD」の中原さんと宮本さんが、日頃どのようにリモートワークを進めているのか、最適なコミュニケーション環境を生み出すにはどうしたらいいのか、を聞いてみます!
こちらの記事は、2016年3月に公開したインタビューの完全版です。
コウタ よろしくお願いします! 今日(取材日)は2016年1月20日なんですが、なんとおふたりが実際に会うのは、2016年で初めてだと聞いて・・・
中原さん そうなんですよ(笑)
コウタ それって、本当にリモートワークで仕事がきちんとこなせている証拠ですよね。
まずお聞きしたいんですが、そもそもなぜ、「nD」はリモートワークを取り入れ始めたんですか?
中原さん 僕は大学院を卒業してから、ずっとフリーランスで仕事をしてきたんです。その最初から、ずっとリモートで。元々、毎日同じ人と会うのがめんどくさかったりして、これまでも事務所やシェアオフィスを借りたことが無いんです。
コウタ それは、すごいな・・・でも、最近でこそ色々なツールがあるけれど、数年前だとせいぜいSkypeとかチャットぐらいですよね?
中原さん そうですね。それに僕の経験が浅かったこともあり、あまり上手くいかない時期はありましたよ。
コウタ たとえば、どんなことに苦労しましたか?
中原さん 宮本くんが入る前に、とても仕事ができるインターンがいて、彼が入社したいって言ってくれたんですね。でも、その後にメールが来て、「やっぱり辞めたい」と。理由を聞いたら、「nDはリモートワークだから、毎日会えないのが心細い」ということでした。
コウタ リモートワークとかフリーランス的な仕事の進め方って、向き不向きがありますからね。
中原さん その経験から、リモートワークをするには必然性が大事という学びがありました。そこで「リモートに向いていて、かつそれを面白いと思える人を探そう」って考えてたら、飛んで火にいる夏の虫みたいなのが・・・
宮本さん 僕でした(笑) 僕は、まずアルバイトとして「nD」に入って。初日からリモートワークでしたね。当時はSkypeでやりとりをして、中原さんから指示された仕事をこなしてました。
中原さん それで、あるときに「大学を卒業して、来年はどうするの?」って聞いたんですよ。そしたら、なんか「海の横に住んで、サーフィンする」とか言ってて(笑) 普通、大学4年生の人に聞く質問の答えとしては間違ってるじゃないですか!
コウタ (笑)
中原さん でも、その瞬間に「あっ、こういう人のほうがいい!」っていう直感があったんです。というのは、たまたま家の本棚に『社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論』があって。この人を雇えば、もうサーフィン行ってるから・・・
コウタ パタゴニアと同じことが実現する(笑)
中原さん で、やばいと思って・・・(笑) それで、ウチに入りませんかって。
コウタ では、実際に現在「nD」がどのようなメソッドでリモートワークを進めているのか教えてください。
宮本さん 「nD」では、タスク単位でのコミュニケーションができるツールを選んで使っています。今は、「asana」というタスク管理ツールと、「Slack」というチャットツールがメインですね。
中原さん 「nD」に入ってきた当時の宮本くんは、まだウェブプログラミングに必要な知識が充分ではなかったので、細かく箇条書きにして仕事の内容を伝えないといけなかったんです。
そこで、作業の流れとか、所要時間、難易度をリストし始めました。それを徐々にやっていくなかで、今の「asana」に行き着いたんです。
コウタ なるほど。ちなみに、「asana」に決めた理由は何なんですか?
宮本さん 一番はタスクの追加が簡単にできるということですね。他のツールは、「追加」っていうボタンを押さないといけない。それがめんどくさくて。「asana」は改行するだけで、勝手に箇条書きのタスクに区別してくれる。その感じがよくて。
中原さん だから、僕がクライアントとのミーティングに行って、そのときにとった箇条書きのメモを、そのまま「asana」のタスクとして登録してるんです。
コウタ つまり、コピペするだけで、タスクにできてしまうと。議事録やメモも、asanaに合わせた思考になっていきそうですね。
中原さん そうです。議事録って、文章的に書く方も多いと思いますが、箇条書きでタスクとしてメモするようにする。文章を箇条書きに変えて、整理してタスクにして・・・という手間を省いています。無駄なステップはなくしたほうがいいんです。
宮本さん このようにチームとしてのコミュニケーションがタスク目線になると、無駄な会話でお互いの集中力を削いだり、ストレスの原因をつくることを防げるようになりますよ。
中原さん あと共同でタスクを認識できる強みもあります。僕らのような小さいチームだと、属人的になりがち。
たとえば誰か一人風邪をひいたときに、その人でなきゃ進められない仕事だと止まってしまう。でも「asana」で管理していれば、他の人にアサインされているタスクを、暇な人が代理担当することもできます。
だから、万一僕が死んでも、あるいは記憶喪失になっても、思い出せる状態をつくる。それが「asana」でのゴールです。
コウタ 一方「Slack」というチャットも使っているそうですが?
中原さん でも、あまり使っていませんね。今日とか、まだ「おはようございます」くらいしか言ってない・・・
宮本さん 僕は、中原さんにオーストラリアに行きたいなどの相談したいことさえも、「asana」に入れるようにしています。
なぜならチャットだと、同じ時間で一緒に会話しないといけないじゃないですか。重要度が低いことならば、別にわざわざ相手の時間を取る必要もないので。だから、「話す時間をつくりましょう」というタスクとして登録し、ミーティングで話します。
そして定例のミーティングも、「asana」を見ながら進めるので、メールや紙でアジェンダをつくることもありません。中原さんへ送るEメールって、年に1通あるかなあ・・・
中原さん 僕が宮本くんから受け取るEメールは、年賀状だけですね(笑)
コウタ マジですか・・・(笑)
中原さん それ以前は、僕が宮本くんにスカイプやチャットで「これ、今すぐやっといて」「こっちの優先度上げて」といった指示をしていたんですが、それって宮本くんを振り回しちゃうんですよね。
コウタ ああ・・・僕も、ついアシスタントにそういうコミュニケーションをしがちかも。
中原さん それではお互いに疲弊するだけだし、良くないなと気づいて。
宮本さん そこで最近では、僕らは自社製のアプリで「サーフィン行ってます」とか「ミーティング中です」とか、ステータスを共有するようにしてて。
中原さん 相手が集中しなきゃいけないタスクにとりかかっていたり、ごはんを食べているときに、返事がかえってくるはずがない。そんなときに、返事がないからとチャットでメッセージをし続けても、感情的なコミュニケーションとストレスを増やすだけなんですよ。
コウタ たしかに送る方も「なんで返ってこないんだ!」と苛立つし、受け取った方も困惑してしまったり。
中原さん 感情と頼みたいことは、きちんと切り分けたほうがいい。特にメールだと、文章でいろいろなことを書くので、複数のニュアンスに取れてしまうこともある。
僕はそれ、あまり良くない気がしてて。淡々とタスクとして開示して、もう少し早くやってもらえるといいとか、こうしてほしいとか。そういう伝え方のほうが良いと思うんですよ。
コウタ 直接顔を合わせる機会が少ないと、そこで感じたズレが大きなことになってしまいがちですもんね。
コウタ ところで、「nD」のリモートでの仕事の進め方はわかりましたが、ここで僕が感じたのは「実際にふたりで直接会って話す時間は必要ないのだろうか?」ということで。
今年に入って初めて会うのが、今日という話でしたし。
中原さん いつもは毎週火曜日の朝7時頃に品川に集合(取材当時)して、その日は一緒に仕事をするようにしています。朝食・昼食を一緒に食べて話をする時間を過ごしますね。
コウタ やはり、そこは大事なんですね。
コウタ いろいろなリモートの在り方をトライ&エラーしてきたおふたりが、リモートワークを進める上で「ここが重要だよ」と感じているポイント。そしてこれからリモートツールを導入しようとしている人々に対してアドバイスはありますか?
中原さん いい意味で、お互いを意識しないほうがいいと思うんです。周りの会社の人に、「宮本くんはホントに働いてるのか」って聞かれるんですが、そこは「信頼」するようにしています。
あと、インターン、アルバイトの人には時給で給与を払っていますが、タイムカードもなければ、リモートワークだし。それだと、いくらでも不正できるじゃないかというんですね。
コウタ たしかに。
中原さん でも、不正があるかを考え始めたほうが、僕はロスが大きいと思うんですよ。
もちろん大きい会社で、それを放っておくのはリスクが大きいけど、小さい会社だとそんなに、不正って起きないじゃないですか。コミュニティが大きいと不正が起きやすいし、亀裂が広がると思うんですけど、うちは小さい会社なので。
コウタ たしかに、相手を信頼するのが大事だし、信頼できる相手を見つけ出すことですよね。
それに、誰かを管理するという思考が、そもそも不信を前提にしているのかもしれません。一方、宮本さんが感じる重要なポイントは?
宮本さん 仕組みをアップデートし続けることですかね。
たとえば、nDでは今インターンと一緒に仕事を進めているんですが、「稼働した日の作業リストを報告してください」とお願いしていて。でも、たまに、上がってこない日とかあるんですよ。
宮本さん ああ、それはちょっと部下に対してイライラしてしまう瞬間かも。
宮本くん でも、それはインターンのせいじゃなくて、仕組みが良くないと考えるんです。実際に、「自分がインターンの立場だったら、これはめんどくさいかも」とか「どのようにすれば負担なく簡単に報告できるだろうか」と相手の立場で考えます。
また、ふたりでのやりとりと3人以上のでは全然違ってくるし、だからこそ色々と仕組みを実験しています。
コウタ 話を聞いていると、一つのリモートワークの仕組みが完成しているように聞いていましたが、常に「もっといい方法はないか?」とアップデートし続けることが大事なんですね。
宮本さん あとは、ツールよりもマインドセットを大事にすること。
コウタ といいますと?
宮本さん たとえば何か思いついたときに、気軽に報告や相談ができる仕組み自体をつくるのも大事ですが、そういうマインドをつくることのほうが大事なんですよね。
中原さん あと、感情とタスクを切り分けるマインドセットもね。
仕事をすすめることは、ストレスを発散することでも、相手に怒りをぶつけることでもなくて、いいものをつくって成功させることじゃないですか。
だから、そのために最適な仕組みをつくる。そして、ゴールを共有して共通認識を生み出す。
コウタ なるほど。
中原さん 仕組みづくりでは、参加する人々のコミュニケーション能力を高く想定せず、そして相手との信頼関係をベースに、そのチームに合った方法を探ることが大事だと思います。
コウタ それぞれのチームのメンバーや仕事によって、
方法は違ってくるのでしょうね。
僕は「どのツールが一番いいんだろう?」と頭でっかちになってしまっていたんですが、一番大事なのはマインドセットと信頼関係。そしてゴールを共有すること、という大きな学びがありました。今後の編集部のチームビルディングや、greenz peopleのオンラインコミュニティ運営に活かしたいですね。
今日は、ありがとうございました。
このインタビューをしたのは、2016年1月下旬。それから1年以上が経った今、greenz.jp編集部は「asana」と「Slack」をメインツールにして、原稿の進捗管理をしたり、伝言をしています。それ以前はLINEとFacebook Messengerばかりでしたが、遥かにコミュニケーションの解像度が上がった実感があります。
一方で、これらのツールを導入すれば、社内コミュニケーションが改善される、というほど簡単な話でもありません。
僕らの仕事にとって「asana」と「Slack」は相性がよかったのですが、どの職場にも向いているかというと、そうではないと言わざるをえない‥‥と思っています。「じゃあ、社内コミュニケーションを改善したいとき、どうすればいいのだろう?」とお悩みの方に向けて、6月10日(土)にはnDによる「チームが信頼でつながる働き方」クラスを開講予定!! 非常におすすめです。
その参加が難しいという場合は、日々追われるタスクをこなしていくときに、ひとつひとつの意味、これは本当に会社や社会の前進において重要なのか、と疑問を持つことが重要かもしれません。そして、ビジネスパートナーへの尊敬と感謝を忘れず、マインドフルに接すること。そこから始めてみてはいかがでしょうか?
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