お茶碗1杯分、約136グラム。
これは日本人ひとりあたりが1日に出す、まだ食べられるのに捨てている食べ物、いわゆる「食品ロス」の量。その量は、年間で換算すると約632万トン、世界では年間約13億トンにものぼります。
この膨大な量の食品ロスを生んでいる背景の一つが、形や色が悪くて捨てられてしまう野菜や果物たち。でも、もし、それらがハイセンスで美味しいメニューに生まれ変わったとしたら?
今回は、そんな夢のような話を実現させた、ポップアップ・レストラン「wastED」をご紹介します。
はじまりは、2015年のニューヨーク。食品ロスへ関心が高いシェフらが集まり、農家から売りものにならない食材を集めました。集められたのは、野菜だけでなく牛や豚などの肉の切れ端まで。そんな食材たちがどのように”変身”していったのでしょうか? 実際にお店で提供されたメニューを見ていきましょう!
古くなってしまったライ麦パン、いくつかの切れ端を合わせたチェダーチーズ、廃棄予定のニンジンとアカカブからつくったパテ。この3つを合わせれば、美味しそうなハンバーガー。
細かな野菜の切れ端は、ピクルスにして食べちゃいます!
これは、ズッキーニの葉を調理してつくられた、古典的なローマのパスタ料理。一般的には果実を採ったあとに捨てられてしまうものも、「wastED」では大切な野菜のひとつ。
どれも色鮮やかな料理として完成されているので、一見、原料が廃棄予定だったと気づくことはできない料理ばかり!
“環境のため”という問題意識ではなく、“行ってみたい!” “食べてみたい!”という好奇心によってお客さんの心を動かした「wastED」。農家もシェフもお客さんも、誰もが心地よく社会問題へアプローチできることが話題になり、レストランは予想を超えた大反響ぶりだそう。
実際、開店から約2週間で、270キロのふぞろいな野菜、70キロのケール(青汁などに使われる、キャベツの原種とされる野菜)の茎、110リットルの牛脂、215キロの軟骨、160キロの果肉、400キロのごみを飼料とした豚肉を活用したメニューを提供することができました。
さらに、2017年2月から4月にイギリスに進出。ロンドン中心街の人気デパート、「セルフリッジズ」の屋上に出店するとだけあって、イギリス社会に大きなインパクトを与えそうです。
「wastED」の発起人Dan Barberさん(以下、ダンさん)、オバマ前大統領に食事を提供したこともあるほどの一流シェフ。
料理の腕前に加えて「食と農」に関する意識も高く、ニューヨーク郊外で食農一体型レストラン「Blue Hill」を経営しています。
ニューヨークに引き続き、ロンドンで「wastED」プロジェクトを実施した背景と想いを、ダンさんはこう語ります。
私は、「食糧廃棄物」の定義自体を問い直したいと考えています。私たちが、これまで「ごみ」と考えていたものは、実はそうではなく、食卓を美しく彩る主役の食材にだってなり得るのです。
今や、世界トップクラスのレストランで求められるのは、高級なロブスターやキャビアやフォアグラといった食材ではありません。食材の裏にある背景、歴史から紡ぎだされる物語があってこそ、お皿の上の食事を心から楽しむことができます。
ふぞろいの野菜などを、美しい料理によみがえらせることによって、「ごみ」の定義から問い直した「wastED」の取り組み。
私たちも、「そもそも、ごみって何だろう?」と、立ち止まって考えてみれば、意外な発見があるかもしれませんね。
[via psfk, 政府広報オンライン, FAO, wastED, EATER, Bloomberg, LONDON THE INSIDE, LuxeEpicure, Gothamist, theupcoming.co.uk]
(Text: 松尾茜)