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モデルハウスは子育てママの“挑戦の場”。羽村の日替わりカフェ「杜」を訪問しました

子育てしながら、得意なことを活かして収入を得る。そんな“ママ起業”が、女性の働き方の選択肢として注目を集めています。読者の皆さんの中にも、「私も挑戦したい」と思っている方がいるかもしれませんね。

でも、自分で稼いで食べていくというのは大変なもの。「設備投資を回収する前に続けられなくなってしまった」ということがないよう、ある程度見込みを立ててから始めたほうが良さそうです。

東京都青梅市の住宅メーカー「健幸工房シムラ」は、モデルハウスをイベントスペース・日替わりカフェとして開放することで、子育て中のお母さんたちに挑戦の場を提供しています。モデルハウスといえば、住宅メーカーや建設会社が自社の住宅の魅力を紹介するためのもの。なぜ健幸工房シムラは、モデルハウスに別の役割を付与したのでしょうか? 

その答えを知るために、羽村市にあるモデルハウス「杜」を訪問しました。

1階は日替わりカフェ、2階は木のおもちゃ広場とどんぐり文庫

青梅市と羽村市の市境にあたるJR青梅線小作駅東口を出て、線路沿いの道を歩くこと30秒。長さの違う木材でしつらえたバルコニーとカラフルなボルダリングウォールが印象的な建物が現れました。大きな遊具のような、遊び心溢れる外観です。

扉を開けると、大きな窓から光が差し込む明るい空間が広がっていました。床や柱、家具には天然木を使っていて、優しい雰囲気を醸し出しています。出迎えてくれた健幸工房シムラ代表取締役の志村將成さんに、さっそく中を案内していただきました。

志村將成さん

志村さん 一階は、曜日ごとに店主が変わる「杜Cafe」として営業しています。店主を務めるのは、子育て中、または子育てを終えた世代の女性たちです。今日の担当は酵素玄米おにぎりと手づくりのお惣菜が評判の「てとてと」さんですね。

滋味深い「てとてと」のランチ

階段を登って2階に上がると、木のおもちゃがたくさん置いてあり、子どもたちが楽しそうに遊んでいました。ロフトは百冊以上の本が並ぶ「どんぐり文庫」。天井が低く、秘密基地にいるような気分です。子どもの目線で見たら、さぞかしわくわくすることでしょう。

木のおもちゃ広場

どんぐり文庫

志村さん 親子で一緒に2階で遊んだあと、お腹がすいたら1階のカフェでランチ。
お子様メニューもありますし、子連れでのんびり一日を過ごされる方も多いですね。

ウッドデッキには大きなハンモックが掛けられていました。ここでお昼寝するのも気持ち良さそう!

モデルハウスで長い時間を過ごしてもらうには?

一通り「杜」を案内してもらったあと、カフェでお話を伺いました。まずはシムラがどんな会社なのか、教えてもらいましょう。

志村さん シムラは昭和54年に父が設立した会社です。父の時代は主に建売住宅を販売していましたが、10年前に私が代表となってから、「健幸住宅」と銘打った自然素材の注文住宅をつくるようになりました。

健幸住宅の施工例

きっかけは、電磁波過敏症を患う主婦から「体に優しい家をつくってほしい」と相談を受けたこと。その方はIHクッキングヒーターによって重い症状が出てしまい、1年前に購入したばかりのマンションを手放さざるを得なくなってしまったといいます。

志村さん 同じようなケースは今後も増えるだろうと思いました。家は決して安い買い物ではありません。何十年というローンを組んで家を購入し、住みはじめたら喘息やアレルギーを発症してしまった、なんて目も当てられないでしょう。そこで、人の体にも地球にも優しい自然素材の家をつくることにしたんです。

石油製品に頼らず、天然の木や土を使い、太陽や風の力を活かした家。暖房には薪ストーブやペレットストーブを推奨しています。訪問した日もペレットストーブのおかげで広いモデルハウス全体がじんわりと温まっていて、足先や指先が冷えることはありませんでした。

志村さん 体を温めるのはとても大事なことなんだな、と実感しています。はっきりした因果関係はわかりませんが、お客様から「子どもの鼻水が止まった」という声を聞きますし、うちの妻は花粉症が治ったんですよ。

この健幸住宅の良さを多くの人に知ってもらいたい。たくさんの人にモデルハウスに足を運んでもらい、なるべく長く過ごしてもらうにはどうしたらいいだろう? そう考える中で思いついたのが、モデルハウスをイベント会場・カフェスペースとして活用することだったといいます。

志村さん ほかのモデルハウスではよくヒーローショーを開いたり着ぐるみがバルーンを配ったりしています。ああいったイベントはかなりの費用がかかりますし、本当に家の魅力を知ってもらう効果があるのか疑問です。そこにお金と労力をかけるよりも、地域の人が何度も足を運びたくなる、長居したくなる場所をつくろうと考えました。

「杜」ではカフェ営業のほかに、ハンモックづくり体験や食育講座、ヨガ教室などのイベントも開いています。特筆すべきは、無料の託児サービスがついていること。志村さん自身の子育ての経験から、「お母さんたちに気兼ねなく楽しんでもらうためには託児が必要だ」と考えたそう。

「杜」に通う内にママ友が増えたという人も多く、お母さんたちの息抜きの場、自分の時間を楽しむ場として親しまれているようです。

お母さんたちが夢の第一歩を踏み出す場所として

お話を伺う中で驚いたのが、シムラのモデルハウスでは、イベントの主催者やカフェのオーナーから賃料や水道光熱費を徴収していないということ。通常、「杜」のような広さのレンタルスペースを借りると、1時間数千円はかかります。なぜ無償で場所を貸しているのでしょうか。

志村さん 質の高いものを提供していくため、ですね。内容が良くなければお客さんは来ません。いま、「杜」でカフェやイベントを開いてくださっている方々の腕は確かです。でも、みなさん主婦なので家の仕事もあるし、起業は初めてという方も多い。家賃や光熱費が負担になって続けられなくなってしまっては困る。「損して得とれ」の精神で運営しています。

この条件なら、挑戦するハードルはぐっと下がりそうです。「ママ起業」を志す女性にとって、良い練習の場になるのではないでしょうか。

第2・4木曜日に「Kitchen nyt」を開く小澤由夏さんも、「杜」で夢の第一歩を踏み出した方です。

志村さん 実は彼女は元々、お客さんだったんですよ。うちで、健幸住宅を建ててくれたんです。

小澤さん 素敵な家ができたので、おうちカフェを開きたいと考えるようになったんです。志村さんに話したら、「まずは杜でやってみませんか」と言ってもらえて。その後、スタッフも募集していると聞いて応募し、採用していただきました。

健幸工房シムラのお客さんでもあり、日替わりカフェ店主でもあり、スタッフでもある小澤さん。働く中で印象的だったエピソードとして、こんなお話を教えてくれました。

小澤さん 買い物をしに入ったお店の店員さんに名刺を渡したら、「シムラの方なんですね」と驚かれたんです。うちで開いた押し花教室に参加したのをきっかけに、ご自身も講師になられたそうで、「夢を実現できました。ずっとお礼を言いたかったから、お会いできて嬉しいです」と言ってくださいました。

それがすごく嬉しくて、めげそうなときは思い出しています。働く上での原動力ですね。たくさんの人の夢を叶える場所、夢の発信地として、「杜」を育てていきたいと思っています。私もここで夢を叶えさせてもらったひとりだから。

訪問したのは12月だったので、「杜」の女性スタッフが手づくりしたクリスマス飾りが店内を彩っていました。スタッフもそれぞれ得意なことを活かし、楽しく働いているそう

2017年からは、「チャレンジ 5th Tuesday」という新しい試みもスタートします。これは、年に数回ある第5火曜日に、ワンデイカフェを開きたい人を募るというもの。「カフェに挑戦したいけど、毎月は無理」「まずは1日だけ挑戦したい」という方の背中を押すための仕掛けです。

小澤さん スキルはあるけど子育て中で自由に動けない人、自信を持てずにいる人ってたくさんいると思うんです。そういう方に、チャレンジの場を提供できると嬉しいですね。

お母さんを元気にすることが、回り回って自社の利益につながる

地域の女性たちにさまざまな価値を提供している「杜」ですが、健幸工房シムラにもちゃんと利益をもたらしています。現在、シムラで家を建てる人の8割がカフェやイベントを経由しているそう。

数時間過ごしたときの体の温まり具合、子どもが帰りたがらない様子、建物の経年変化。何度も通ううちに自然と家の良さを知ってもらえるので、営業マンは説明が楽なのだとか。

よくお母さんと「杜」に来ているという女の子が木登りを披露してくれました

志村さん 最初は先代からも反対されましたし、始めてから1年は何の効果もなくて肩身の狭い思いをしました。でも、1年ほどして成約につながり、それからはコンスタントにご注文いただけるようになりました。

自分たちのコンセプトを表す活動を地道に続けていくと、共感してくれる人が現れるものだと思います。

志村さん 家はぱっと営業してぱっと売れるものではありません。まち全体の経済にも左右されるし、お母さんたちの価値観や考え方にも左右されます。だから、いいものに触れる体験や、自分のやりたいことに挑戦する機会を提供したい。お母さんたちを元気にすることが、回り回って私たちの仕事に返ってくる。そう信じています。

今後の展望として、モデルハウスを子ども食堂や小規模託児所として活用することも考えているという志村さん。モデルハウスはさまざまな可能性を持っているのですね。

自社が持っている資源を地域社会とシェアして利益を生み出していく。そんな会社が増えたら、地域はもっと面白くなりそうです。

(撮影:星野耕史)

特集「マイプロSHOWCASE 東京・西多摩編」は「西多摩の未来を考える!」をテーマに、西多摩を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介し、西多摩での新たなイノベーションのヒントを探る羽村市・青梅市との共同企画です。