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面倒くさいことにこそ、未来を切り開くヒントがある。greenz.jp 副編集長のコラム「僕がレコードで音楽を聴く理由」

退社前の瞑想。
自宅に帰って浴びるシャワー。
帰り道の居酒屋でのビール。
きっと誰にも、仕事で入れたスイッチを切るためのメソッドがあると思う。

僕が最近、仕事モードをオフにするため実践しているのは、レコードで音楽を聴くことだ。

レコードで音楽を聴くのが良い理由、それは第一に、液晶を持つデバイスを使わないで済むこと。

今や僕らの生活は、あまりにもディスプレイとマイクロチップを備え持った機械に”占領”されている。音楽を聴くのも、恋人とチャット通話を楽しむのも、映画を観るのも、買い物をするのも、そして仕事をするのも、すべて1台のコンピューターで済んでしまう。それは便利で素晴らしいことだけれど、

なんだか常にノコギリとカナヅチを持っているような生活になっちゃいますよね。

とは、「グリーンズの学校」アシスタント・佐藤大智くんの言葉。

せめて僕が命を捧げられるほど好きなことを、コンピューターから切り離せないか。そう思ったときに浮かび上がってきたのが、レコードで音楽を聴くという選択肢だった。その選択をしてから、僕はこれまでになく音楽を聴くことが楽しくなり、それに集中できるようになった。

しかし、レコードで音楽を聴くことの良さは、コンピューターを媒介しないでいいというのではなく、その”面倒くささ”にある。

良い音で大好きな曲をレコードで聴くためには、まず良いレコードプレーヤーと、その曲を収録したレコードを探し求めなければいけない。そしてそれをアンプやスピーカーにつなげなければいけない。懲り始めたら、再生に使う針・カートリッジを選んだり、その針にどれだけの圧力をかけるかということも考え始める。安定して針が音溝を捉えるために、スタビライザーと呼ばれる重しを買う方も多い。

結構悩んで決めた、現在使っているレコード針。

そんな”面倒くさい”プロセスを経た先に待つ、極上の快楽。圧縮されたデジタル音源より、遥かに各音域の解像度は高く、そして奥行きを感じさせるハイファイ感。そして視線の先にあるのはコンピューターの画面ではなく、レコードの解説書やジャケット。うーん、音楽好きとしてはたまらない瞬間だ! 

そんなたまらない瞬間を記憶すると、お酒の力を借りなくとも、仕事モードからオフにできるので、実に健康的であると気づく。コンピューターの電源を落とし、レコードに針を落とした瞬間から、一気にオフモードだ。

「つい自宅に帰っても仕事をしてしまう」
「リモートワークなので、上手くオンオフの切り替えができない」
という方は、ぜひ試してみることをおすすめする。

レコードを求めて店に足を運ぶのも、配信にはない、楽しみのひとつ。この写真は、前回のコラムで少し触れた、留学生の頃にサンフランシスコで通っていたレコード店にて。

ところで。

こうしてレコードを生活に取り入れたら、僕は「面倒くさいことをしてこそ、美しさと豊かさにありつける」という気づきに行き着いた。

音楽再生で言えば、iTunesやKKBOXやSpotifyなど素晴らしく便利なサービスが多く発表され、僕も愛用している。でもそういう便利なものを使うことによって生まれた時間に入り込んでくるのは、山のようなコンテンツと繰り返される消費誘導ばかり。僕には、それが”美しく豊かな未来”への道筋とは思えない。

ボタンを押すだけで温まるヒーターを用いた電気的生活よりも、薪を割ってストーブで温める生活のほうが豊かだ。コンビニで買ったおにぎりで5分で済ませる食事を否定するつもりはないが、手間をかけてつくった食事をゆっくり味わうほうが美しいのも明らかだろう。

美しく豊かな未来をつくりたい。そんなときに多くの人びとは、「ではもっと便利な世の中をテクノロジーで実現しよう」と思ってしまいがちだ。それも大事だが、僕らはあえて面倒なことに時間を使うのも必要ではないか。

職業柄「僕らでもできるソーシャルデザインは何ですか?」と若い人びとに質問される。今日時点で僕が回答をするのなら、

あるひとつのことをしたいとき、便利なサービスや店舗に甘えるのでなく、手間をかけて面倒な方法を選択してみることから始めてみると良いよ。

と回答するだろう。

自分の部屋を見回してみて、「最近、これは便利なものに頼りすぎていたなあ」と思うモノ・コトが見つかったら、少し面倒でも、手間と時間をかけて週末楽しんでみよう。美しく豊かな未来をつくるヒントは、手間がかかる面倒なことに眠っているから。