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パーマカルチャー、それは私たちの生きる世界を変えるレンズ。 ポートランドの実践的リーダー マット・ビボウさんが語る“子どもとパーマカルチャー”(前編)

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社会全体で子どもの育ちを見守る文化を育むために。「世界と日本、子どものとなりで」は、子どもを中心とした社会づくりに取り組む方々の声を聞く連載企画。greenz people(グリーンズ会員)からの寄付により展開しています。

パーマカルチャー」。最近メディアでも耳にするようになったこの言葉を、みなさんはどのように捉えていますか?

持続可能な農法のこと?
地球環境問題の解決方法のひとつ?

どちらも正解です。でも、これらはパーマカルチャーのひとつの側面でしかありません。

私が知る限り、パーマカルチャーとは、生き方のお話であり、ある意味この世の中を見るための哲学とも言えるもの。私の友人たちからは、「パーマカルチャーと出会う前と後では、世界がまるっきり違って見える」なんて言葉も聞こえてくるほど、パワフルなエネルギーを持つ概念なのです。私たちが自分たちの手で“ほしい未来”をつくっていくためのヒントが、ぎゅっとつまったデザイン手法であるとも言えるでしょう。

2016年9月、そんなパーマカルチャーの本質を伝え、東京に着地させたいという思いを抱いた有志のみなさんにより、2日間に渡るイベント「アーバンパーマカルチャー・ギャザリング with マット・ビボウ」が東京・渋谷にて開催されました。

“農法ではないパーマカルチャーの話をしよう”という呼びかけに集まった子どもたちと大人たちの数、合計約150人。ポートランドから来日したマット・ビボウさんを中心に、日本からも多彩なゲストが大集結してパーマカルチャーについて語り合い、未来への想いを共有しました。

その会場で起こったこと、始まったことは、とても言葉では表現しきれません。でも、少しでも現場の空気を読者のみなさんと共有すべく、これから3回に渡ってイベントレポートをお届けしたいと思います。今日はその第1回目、「こどもとパーマカルチャー」をテーマに開催されたDAY1前半、マット・ビボウさんによるプレゼンテーションの様子をご紹介します。

さあ一緒に、パーマカルチャーの世界へ足を踏み入れてみましょう。

マット・ビボウ
ポートランドのアーバンパーマカルチャー最先端を走り続ける実践的リーダーであり、パーマカルチャー教育者であり、ファーマーでもある。ポートランドのアーバンファーム「Jean’s Farm」を仲間とともに管理・運営するとともに、シュタイナー教育をベースにしたアウトドア学校「Mother Earth School」を運営。また、パーマカルチャー教育者を育成する「IPEC(Institute of Permaculture Education for Children)」のCEOや大学のパーマカルチャーコースの講師も務める。行政と市民活動をつなぎパワフルに機能するNPO「シティリペア」のコアメンバーとしても12年に渡り活躍中。2児の父。

みんなでつくる“ギャザリング”というかたち

青空から降り注ぐ日差しにまだ晩夏の匂いを感じる週末の午後、渋谷駅から徒歩5分の距離に静かに佇むオーガニック&自然派カジュアルレストラン「デイライトキッチン」では、何やらいそいそと、でもそのときを楽しむように、これからはじまるイベントの準備が進められていました。

テラスには、小さなファーマーズマーケットが登場。

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「鎌倉こどもハチミツプロジェクト」のブースの看板ボーイは、小学生の男の子が務めていました。

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小さい子から大きい子まで、約10名の子どもたちも参加者の一員。イベント開始前から、小池アミイゴさんの「誰でも絵が描けるワークショップ」に夢中です。

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おや? 参加者に紛れて、これから登壇するおふたりの姿を見つけました。登壇者と参加者の間に境界のない、全員参加の“ギャザリング”にふさわしいリラックスムードのなか、イベントはゆるやかにスタートしました。

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主催者挨拶をする佐藤有美さん(左)と藤井麗美さん(左から2番目)。この日のチケットは、告知開始から1週間ほどでソールドアウト。主催者のふたりも、「子どもとパーマカルチャー」というテーマにこれほど多くの関心が寄せられたことに驚きと喜びが抑えきれない様子です

現状維持から再生可能へ。
“デザインの科学”、そして“レンズ”としてのパーマカルチャー

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マットさん お招きいただきありがとうございます。今日は子どもたちの様子を見ながら話せることがとても嬉しくて。

子どもの立てる音は、命の音であり、未来の音だと思います。だから私たちのやっていることのなかに彼らが当然のように存在していることは大事だし、私もそれを望んでいます。

開口一番、子どもたちを目で追いながら語ったマットさん。そのあたたかな言葉に会場が優しく包みこまれるなか、「パーマカルチャーとは?」という問いに答えるかのようにマットさんのお話は始まりました。

greenz.jpではこれまで、パーマカルチャーについてその概念を詳しく説明するような記事は発信してきませんでしたので、少し長くなりますが、マットさんの言葉を辿りながら、パーマカルチャーについてゆっくり捉え直してみたいと思います。

まずスクリーンに映し出されたこちらの図は、読者のみなさんも目にしたことがあるのではないでしょうか。化石燃料が枯渇する未来が見えている現状の中、私たちがこれから歩む道筋を4パターンに分けて描いたものです。

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マットさんのプレゼン資料より。お父様が石油業界にお勤めだったマットさん。2000年には経済的余裕がなくなってきたことを肌身で感じて生きてきたそうです

マットさん まだまだ人類は、ここから10年、20年先の世界のあり方に幻想をいだいているところがあります。テクノロジーの進化によって人類が飛躍的に発展していくという幻想、または、今起こっている問題は解決しないけれど、どうにか現状の暮らしを維持することができると考えている。

そのための手法のひとつが原子力ですが、こうやって子どもたちが生きている姿、そしてその未来のことを考えたとき、原子力に頼るという思想は個人的にも違うと思うし、怖いと思う。みなさんも実感値を持ってそれを感じていらっしゃると思います。

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会場の外では、子どもたちの自由な発想からアートが生み出されていました

マットさん さらに、「現状維持」はそれだけで価値があると思われがちですが、パーマカルチャーでは、それでは本当の意味で貢献していると言えないと考えます。

「どうやって再生可能エネルギーを手にしていけるか?」という議論があってもいいのですが、パーマカルチャーでは、「今使っているエネルギーはそもそも必要なのかな?」と考えるのです。

しかし、「古くからの暮らしに戻ろうと言っているのではない」と、マットさんは強調します。

マットさん パーマカルチャーとは、その語源(permanent+agriculture)のとおり、古くから人類が自然の中にあるパターンや成り立ちから学び、再生可能というかたちで証明されてきた方法、そして、私たちが近代に入って学んでいる土、水、空気などに対する知識を生かして適切な方法を見つけていこうよ、ということなんです。

もともとは農法から始まったパーマカルチャーですが、30〜40年という年月のなかで、自分たちの生き方や考え方として、農業ではない“パーマネントなカルチャー”をも指し示すようなかたちにまで進化しています。

さらにマットさんは、パーマカルチャーのことを「デザインの科学」と表現します。従来の科学と違って、倫理を取り入れ、ものを“理解する”、“つくる”ではなく、“改善する”、“復元する”ことにフォーカスしているところに、その独自性を見出します。

マットさん パーマカルチャーが“モノ”として存在すると思われることもありますが、僕は、モノを見る上での“レンズ”だと思っています。非常に優秀なレンズなんですね。これを通してモノをすごく精緻に細かく見ることもできるし、逆にものすごく大きく捉えることもできる。

どんなものを見るときにもパーマカルチャーというレンズは使えるし、レンズを通して見ることによって自分たちの生態のなかに備わっている知恵を理解し、それを駆使していくこともできるんです。

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3つの倫理(3 ethics)と12の原則(12 principles)

パーマカルチャーとは「レンズ」である。そのレンズを覗いて見るために、続いては、土台となる3つの倫理(3 ethics)、そして12の原則(12 principles)についてのお話です。映し出されたのは、こちらのイラスト。

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マットさんのプレゼン資料より。「permacultureprinciples.com」より無料ダウンロード可能

マットさん ひとつは、「地球を大切にする(earth care)」ということ。2つめは、「人を大切にする(people care)」ということ。例えば、農業で土壌を汚染し生態系を壊すようなものを使うことは、地球にも人体にも良くない。それは、「状況を変えないといけない」というサインになるわけです。

3つ目は、「平等に分け合う(fair share)」こと。生きていく中で蓄積していく資源は、抱え込むのではなく分け合う、集約ではなく分配していくことが大事だと考えます。

一見、当たり前のように思えるこれらの倫理ですが、人類がこれまで長い歴史の中で、自然に対して修復し得ない負荷をかけてしまったことは事実です。世界が流動化していくなかで、それが地球全体という規模で起こっている。私たちは今、地球の歴史上初めての事態に直面しているのです。

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続いて登場したのは、この3つの倫理(3 ethics)を土台とした、パーマカルチャーの12の原則(12 principles)を表すイラストです。

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マットさんのプレゼン資料より。「permacultureprinciples.com」より無料ダウンロード可能

1. 観察し、そこから関わる
2. エネルギーを獲得し、蓄える
3. 収穫を得る
4. 自己調整とフィードバック
5. 再生可能な資源やサービスに価値を見出し、利用する
6. ゴミや無駄を出さない
7. パターンから詳細へとデザインする
8. 分離より統合
9. ゆっくり、小さな解決が一番
10. 多様性を利用し、尊ぶ
11. 境界を活用し、隣接に価値を見出す
12. 変化には、クリエイティブに対応する

それぞれについての細かな説明はこの記事では避けますが(気になる方は、書籍などで調べてみてくださいね)、これらの原則は、農法だけではなく教育にも取り入れられるもの。マットさんは、子どもと関わるなかでの生かし方について随時触れながら説明してくれました。

たとえば【4. 自己調整とフィードバック】は、失敗から学ぶということを、大人自らの姿勢の中で子どもたちに伝えていくこと。
【6. ゴミや無駄を出さない】は、「自然界はどうやってゴミが出ないことを実現しているだろう?」と子どもたちに問いかけていくこと。
【8. 分離より統合】については、教室を年齢ごとに分けるのではなく、一緒に学ぶことによって、お互いに学びが深まるということ。

マットさん これらの原則を大事に、いかに人生のあらゆる場面で活用していくか、ということが問われています。都市開発も、教育システムも、経済の構成も、はたまた自分自身のあり方も、そのひとつになり得るのです。

パーマカルチャー教育を通して、子どもたちの導き手となるために

さて、このパーマカルチャーというレンズを通して社会を見つめながら、主に教育というフィールドで活動してきたマットさん。ここからは、マットさんが手がけてきた多様な実践のお話へと進みます。まずはマットさんが関わっているNPO「シティ・リペア」の中で手がけている学校のサポートについて。

マットさん シティ・リペアでは、資金面が足りない学校がいかに自分たちのやりたいことをやるか、というところのサポートをしています。

たとえば、「どうして教室はすべて屋内なんだろう?」「一番活用されていない場所はどこだろう?」という問いを持ち、ボランティアを募ってアウトドアの教室をつくりました。すると、学校でも一番人気の場所として仕上がりました。

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ポートランドの公立の学校につくられたアウトドアの教室

「ただこのアプローチも、まだ構造物をつくることに囚われているんですよね」と、マットさんは続けます。その囚われから自由になってつくられたのが、先日こちらの記事でも紹介したアウトドアスクール「Mother Earth School」。自然をフィールドに学ぶ学校です。

マットさん 「自然こそがクラスルーム」というコンセプトで運営していて、学校のあらゆる側面で子どもが関わるということをしてきました。

たとえば、お米を炊くときに火をつけること、絵画に使う筆も自分たちでつくるし、食べ物もつながりをきちんと認識することができるように、ハチやヤギを飼い、ミルクを絞ることも学びます。

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Mother Earth Schoolで学ぶ子どもたちの様子。マットさんのプレゼン資料より

マットさん 驚くことに、子どもたちの多くはミルクがどこから来るかも知らないんですね。

「地球を救おう」と高らかに叫ばれるようになって久しいですが、自分たちが口にするものがどこから来るのかわからないのに、どうしてそれができよう、という大きな問いが私たちのなかにあります。

ですので、そういったところから、きちんと目に見えるかたちで取り組んでいます。このような学びは、子どもが幼ければ幼いほどいいと思っているんです。

マットさんは、子どもに限らず、今の世の中を生きるものとして、自分たちの五感をフルにつかってつながりあう機会が大事だと語ります。そして子どもたちの導き手になるために、教師たちにもパーマカルチャーのデザインを教えています。そこにあるのは、「答えを教える」のではなく、「問いを投げかけ、ともに学んでいく」という姿勢。

マットさん 教師に限らず、みんな誰もがいろいろなことを学ぶ生徒なんだ、ということが前提にあれば、毎日の暮らしで様々なアイデアを実践していくなかで、パーマカルチャーの3つの原則に叶った行動をする人間になれるのではないかと思います。

今、みなさんが自分たちのコミュニティに対して何かやりたくて仕方ないハングリーな状態になっていることを祈っています。ありがとうございました。

感謝の気持ちとともに、約1時間に渡るプレゼンテーションを締めくくりました。

(イベントレポートここまで)

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「パーマカルチャーとは何か?」
「子どもとの関わりのなかで活かすには?」

この問いに、深く、優しく、愛をもって語ってくれたマット・ビボウさん。あたたかな余韻を残して、イベントは、本間フィル・キャッシュマンさん、小野寺愛さんによる、日本で既に始まっている実践のお話へと続きます。

明日公開の後編を、どうぞお楽しみに!

(撮影: 服部希代野)

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